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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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124.幕間5

「なぁ……なぁ…………おいって!」


 突然――――

 正面から降ってくる声によって夢うつつだった意識が現実へと引き戻される。

 俺は頬杖をついて虚空を見つめていた先から声の元へと顔を上げると髪を茶色に染めた同年代の少年が一人こちらを見下ろしていた。


「どうした?風邪か?」

「ん……いや、何でもない。ちょっと寝不足なだけ」


 おそらく昨日寝るの遅かったのが原因だろう。今日が楽しみすぎて眠れず、パンフレットを読んでいたのが失敗だった。


「ふぅん……ま、風邪じゃないんならいいんだが……心配させるなよな」

「心配させてごめん。それでどうしたの?」


 ぶっきらぼうに言葉を連ねる名も知らぬ彼が腕組みをしながら顔をそらす。


「おぉそうだ。もうみんな体育館に行ったぞ。お前もいかなくていいのか?」

「えっ……あぁ!教えてくれてありがと! 急がなきゃ!!」


 周りを見るとたしかに俺達二人以外誰もいなくなっていた。初日からやらかすのはマズイ!


「おう。まだ急げば間に合うから行くぞ!」

「うんっ!ところでキミは…………?」


 走り出しそうな彼を呼び止めて問いかける。


「あん?俺か? 俺は智也。大外 智也だ。ほら、入学式から遅刻はマズイから……えっと……」

「前阪 慎也。慎也でいいよ」

「そうか。慎也、走るぞ!!」


 俺たちは誰もいなくなった廊下を走り出す。

 それが終生の友となる彼――――智也との出会いだった。




 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――




「ねぇねぇ!大外君ってどこの小学校から来たの!?」

「大外君はスマホ持ってる!?」

「大外君の誕生日っていつ!?」

「大外君――――」



 学校にも慣れて夏も近づいた放課後、教室で俺と智也が談笑して時間を潰しているその時だった。

 俺たちはいつの間にかクラスメイトやクラス外の人など、様々な女生徒に囲まれてしまい質問攻めにあってしまう。


 別に俺は質問されているわけではないのだが近くにいた関係で俺まで囲み取材の被害を被ってしまった。

 彼女たちのターゲットは俺ではなく智也。輪の中心から俺を呼ぶ声が聞こえる気がするが隙を見て俺は集団から抜け出すことに成功する。


「…………ふぅ。何アレ?智也モテすぎじゃない?」


 廊下まで脱出して一息ついたら軽く妬みの言葉が出てしまった。

 みんな新たな学校生活にも慣れたようだし、どこかで智也の噂でも流れたのだろうか。

 確かに人より顔立ちは整っているし自信に満ち溢れている。それでこんなに評価が変わるものなのか。世の中の理不尽さを呪いたくなる。


 廊下の窓を背もたれにしながら、そう知り合ってそんなに経っていない人物を呪いたくなっていると不意に目の前を荷物を抱えた少女が通っていく。


「ん……………あれ? ねぇ!ちょっと!」

「……なに?」


 俺はそんな少女が通り過ぎていった跡を見てから無意識に呼び止める。

 呼び止められた女生徒は振り向いて無機質な目をこちらにやる。

 振り返った姿は背は俺より少し小さいくらいで肩まで届く黒髪を垂らし、少し前髪が目に掛かっている少女だった。


「これ、キミの?」

「ん…………そう」


 俺は彼女が通った跡に残されたハンカチを拾い上げる。

 触った感じサラサラしていてとても高そうだ。けれど紺と黒を基調としたボーダーのハンカチはどうにもその第一印象とは乖離して見えた。


「よかった。はい」

「……ありがと。 お父さんのハンカチ。助かった」


 彼女はそれを受け取りカバンに入れていく。

 そうか、父親のか。それなら納得もいく。


「……それじゃ」

「あっうん、またね」


 そう口数の少ない言葉を残して彼女は帰宅していく。

 それにしても受け取りかたとか雰囲気とか、教育を受けているって感じだった。俺とは住む世界が違うのだろう。



「ふぅ……疲れた……あ!慎也!なんで逃げたんだよ」

「げっ!」


 彼女が見えなくなった瞬間、後ろから抗議の声が。

 しまった、俺も帰っておけばよかった……


「い……いや、みんな目的は智也だったみたいだし?決して妬ましいとか思ってないよ?」

「その言い方絶対思ってんだろ……おかげで一人で捌くの大変だったんだぞ……」


 肩を回しながら俺の隣につく智也。俺もそれを確認して一緒に昇降口へ向けて歩き出す。


「でも、モテてるんだから悪いことじゃないでしょ。俺からしたら羨ましい限りだよ」


 本当に。


「俺からしたら悪いんだよ……そういうのは、いいんだから」

「ふぅん……もう彼女がいるとか?」


 そうだったらギルティだ。会ったばかりだろうが関係ない。


「いや……別に。 それより!今日これからなんかあるか!?どこかいかねぇ!?」

「え!? 別になにもないけど……」


 あからさまに話題を変えられた。よほど話したくないことなのだろうか。


「んじゃゲーセンでもいこうぜ!いいよな?」

「いいよ。でも手持ちあんまりないから程々にね」


「こういうのは雰囲気を楽しめればいいんだよ!決定な!」


 先程までの疲れが嘘のように張り切りだした。ゲーム好きなのかな?


「それじゃあ、走ってくぞ! 競争な!!」

「え!?本気!?」


「あぁ!早くいかないと時間無くなっちまうしな!」


 彼はその言葉を合図に階段を飛び下りていく。俺も仕方ないと思いつつ、後を追って階段を駆け下りていった。




 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――




「ここは―――――」


 ゲーセンに行く途中、とある公園の前で立ち止まる。

 ここは自宅からほんの少し離れた公園……野球用のグラウンドが3面は入る広さで公園なのか怪しくなってくるものの名称は公園となっているのだから、そうなのだろう。


「懐かしいなぁ……」


 俺は競争していることも忘れて公園に足を踏み入れる。

 ほんの少し前までここで遊んでいたのだが、中学生という区切りを迎えるとそんな短期間でも懐かしいと思えてくる。


 ここでは色々と遊んだ記憶がある。野球もしたしサッカーもしたし……何より一番記憶に残っているのはとある少年とおままごとをして遊んだ記憶だ。

 最初はおままごとを提案された事に少し抵抗を覚えたが遊んでみるとこれが思いの外楽しかった。彼が随分と入れ込んで役を演じていたからだろうか。自然と俺ものめり込み、気づけば2人で笑い合っていた。


「たしかあの場所で……」


 俺はいつも彼と会い、遊んだ場所まで進んでいく。木の下のベンチ……よくあそこで遊んでいたな。

 けれど今日はいないようだ。いたら制服姿を見せたかったのに。それにどこの学校に行ったか聞きたかった。最後まで教えてくれないんだもの。



「お……お姉ちゃん!早くしないと行っちゃうよ!」


 そんな過去の想い出に浸っているとふとそんな声が俺の耳に届いてくる。

 ふと何となしにそちらに目を向けると一人の少女がぎこちなく誰かに呼びかけているようだった。その子も珍しく茶髪……流行っているのか?

 それにしても端正な顔立ちをしている。かわいい系で笑顔が光るような少女だ。外見で人を判断するのはご法度だがあんな子と一緒にいれば楽しいんだろうなと一瞬夢想してしまう。


「今行くわ」

「!!」


 茶髪の子に返された声には聞き覚えがあった。

 あの時何度も遊んだ、声変わりが来る気配もない彼の声……そんな声に似ていた気がする。

 その声の方向に俺も顔を向けるも木々に隠れて先が見えない。ついには少女までもが歩きだして木々に隠れてしまう。



「まっ―――――」

「なにしてんだ?慎也」


「! …………智也……」


 2人の後を追いかけようとして足を踏み出した瞬間――――後ろから声をかけられ、そちらを見やると智也が心配そうな顔で立っていた。


「振り返ったら見えなくってはぐれたんじゃないかって心配したぞ。どうした?」

「…………ううん、なんでもない」


 俺はチラリと先程まで茶髪の少女が立っていた場所を見て、踏み出していた足を戻してから智也と向き合う。

 よくよく考えればあの子は男だ。お姉ちゃんなんてあるはずがない。


「? ……そうか。早く行こうぜ?面白い台取られちまう」

「うん。急ごっか」


 俺は誘われるがままに彼の後ろについて走っていく。


 走った先の未来に彼だと思っていた彼女との、予期せぬ再開があることを知らないまま―――――


次回更新は2日後の5日です。


そして活動報告『4章 了』を上げておりますのでよければそちらも御覧ください。

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