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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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123.終わりの日には

「ぷっ…………くくくく…………。か、会長さん……見ましたか……?今の……」


 テレビから発せられる笑い声とともに雫が肩を震わせながら隣の翔子さんを揺すっている。


「見てる見てる。だから揺らさないで」


 そんな雫をぞんざいに扱う翔子さんは凄くめんどくさそうだ。俺でさえもう10度は同じやりとりを見たのだから仕方ない。



 時刻は午後11時。もう夜も更けてよい子は寝る時間帯だ。

 けれど俺たちはそんな事気にするかと言うように優衣佳さんの家で節度を持って騒ぎ立てている。今日は……この日だけは世の中の子どもたちも遅くまで起きている子達が多いのではないのではなかろうか。



「ほら、優愛さん。もうちょっとだけど起きていられる?」

「んん~……ちょっとむりぃ……」


 全員が元気かと思ったがそうでもなさそうだ。俺の隣に座っている優愛さんは肩を左右に揺らしながらコックリと船を漕いでいた。



「それじゃあ、時間近くなったら起こすからそれまで寝てたら?」

「ありがとぉ……除夜の鐘鳴ったら起こしてぇ……くぅ……」


 限界を超えていた彼女はその言葉を最後に俺の膝を枕にして眠りこける。寝る際に炬燵から出たのは英断だろう。

 でも優愛さん、時間的にもう鐘は鳴り始めてると思うよ……ここからは聞こえないけど。





 そう。今日という日は一年の終わり、大晦日だ。

 あの日……彼女たちと付き合うようになってから俺は翔子さんと雫、それぞれの家に挨拶に回った。

 最初こそ何を言われるかとビクビクしていたが蓋を開けてみればまさかの歓迎ムード。むしろ我が子が選ばれなかったら俺が闇討ちされているほどだったらしい。

 恐ろしすぎる……更に実行するのはマキさんだって言うから恐怖感が増すばかりだ。ドジしないかという意味で。



 そんなこんなで時が過ぎた今日このごろ。

 ダメ元で年越しのお泊り会を提案したらすんなり通ってしまったというのが今回の経緯だ。

 翔子さんや雫までも許可が下りるとは思わなかったが、信頼されているのか責任取れと言われているのかどっちなのだろう……俺からしたら後者としか思えないが……




「……優愛、寝ちゃった?」


 会話を聞いていたのか前方でテレビを見ていた翔子さんがこちらへ振り返る。彼女は……眠たそうなのかわからない。平常運転だ。

 俺も動けないしちょうどよかった。


「うん。それで悪いんだけど、毛布か何か優衣佳さんに聞いて持ってきてもらえない?」

「ん……任せて」


 そう快諾して歩いていく足取りはしっかりしたものだった。あの様子ならまだまだ大丈夫だろう。



「あっ!優愛先輩が慎さんに膝枕されてる!いいなぁ~!!」


 テレビに熱中しすぎて隣に居るはずの翔子さんがいないことに気がついた雫は辺りを見渡すと俺と目が会う。これは自分もと言い出すパターンか。


「結構限界だったみたいだったから。年越しまでには起きるって」

「ちゃんと起きてくれるといいんですけどね……ところで、私も今すっごく眠たいです!慎さん、膝枕してもらえませんか?」


 やっぱり言い出した。付き合いが長い分行動パターンが読めてきた気がする。


「さっきまでテレビ見て散々笑ってなかった?」

「えっと……それは……そう! 笑い疲れて眠くなってきたんですよ!ほら、もう眠すぎて涙が!」

「それ笑い泣きだよね!?」


 彼女は目の端についた涙を強調するもその瞳は大きく開かれているのはわかっている。まったく眠くなさそうだ。

 ちなみにテレビで流しているのは恒例のお笑い番組だ。俺がお風呂に入っている間にリモコンの奪い合いで壮絶な戦闘があったらしく最終的に雫が勝利したらしい。戻ってきたときには死屍累々となっており何があったか聞いても誰も答えてくれなかった。



「何をやってるのかしら、そこの三……二人は」

「……優衣佳さん」


 俺たちが言いあっていると毛布を手にした優衣佳さんが歩いてくる。後ろには大きなお盆を持った翔子さんも。


「毛布、言われたから一応持ってきたけど……はたして使うのかしら?」

「? どういうこと?」


「すぐに分かるわ。 それと年越しそばできたから雫さんも持ってきて貰える?」

「あ!ありがとうございます! ついでに飲み物も持ってきますね~」


 優衣佳さんの目配せで翔子さんが置いたお盆の上には立派な年越しそばが。

 一つの器に立派なエビが二尾も並んでいて豪勢にきめている。


「さて……優愛、できたわよ」


 優衣佳さんは独り言のように言葉を漏らして視線を俺の下……優愛さんの元へ。

 俺もそれにつられて目線を下にし―――――


「!!この匂い……お蕎麦だぁ!!」

「!?  ア゛グッ……!!」


 あご……!?

 俺が目線を下に移動したその時だった。

 彼女は突然目を大きく見開き、そんな声とともに迷いなく身体を起き上がらせる。しかし残念ながらすぐ上にあるのは俺の顔。

 なんとか顔面強打は避けられたものの完全回避とはいかず彼女の額と俺の顎がクリーンヒットしてしまった。


「~~~~!!!」

「あぁ!? ごめん!慎也くん! 大丈夫!?」


 床に倒れて身悶えする俺を心配してくれる優愛さん。けれど顎はなかなかきつい!


「だい……丈夫……。なんとも、ないよ。このくらい」


 多少ふらつきながらも優愛さんの助けも借りなんとか身体を起こす事に成功した。多少目が回るがこのくらいならすぐに収まるだろう。


「ごめん……ごめんね、慎也くん……。私…………わっ!」

「……優愛さん」


 俺の虚勢を見透かしているのか彼女は目に涙を浮かべながら謝ってくる。

 せっかくの祝いの場でそんな顔は見たくない。俺は今にも決壊しそうな彼女の身体を無理矢理自身の胸元へ引き寄せる。


「ほら、俺は大したことないよ。優愛さんこそ痛かったよね?大丈夫?」

「うん……。でも……慎也くんこそ…………んっ―――!」


 これ以上言わせてたまるかと、俺は開きかけたその口を無理やり自身の口で塞いでいく。最初こそ彼女に軽い抵抗が見られたもののそれもすぐ収まりされるがままになってくれた。



「……ぷはっ。 ほら、大丈夫。ねっ?」

「はっ…………うん……。大丈夫……大丈夫……」


 唇を離すと放心状態になってしまった優愛さんの姿が。しまった、やりすぎたか……

 今度はこたつ布団を枕にするように彼女を下ろすと、不意に俺の肩に手が置かれる。



「慎也君」

「優衣佳、さん。みんなも……」


 俺を呼ぶ声に恐る恐る手を置かれた方向に顔を向けるとそこには氷袋を手にした優衣佳さんと2人の姿が。


「もちろん、私たちにも情熱的なキス、してくれるのよね?」

「私たちが準備してる間に随分とアツアツじゃないですか~!」

「次は、私たちの番」



「…………さ、準備もできたし年越しそば食べようか! いやぁ、豪華で美味しそうだなぁ~!」

「「「慎也くん!!」」」


 俺たちの攻防はそばを食べ終わってからも、年が明けるまで続いていた。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「……ねぇ、2人とも」

「はい、何でしょう」


 年も越して暴れまわった反動で眠気が限界に達した俺は真っ暗な部屋の中、両脇に寄り添っている翔子さんと雫に声をかける。


「なんか……せまくない?」

「仕方ない。大勢で寝てるから」


 表情の見えない翔子さんが簡潔に答える。

 俺たちは2階に上がっても寝る場所が無いからとリビングで雑魚寝をすることになった。その際、既にダウンした優愛さんは外側として、彼女たちの厳正なる話し合いの結果、優衣佳さんも外側という結果になっていた。



「俺の見立てだと端のスペースに相当余裕あるように思えるんだけど」


 優衣佳さんに改めて用意して貰った毛布はだいぶ大きなものだ。こんなに詰めなくても十分余裕があるハズ。


「いやぁ、そんな私が敬愛する先輩方の睡眠スペースを奪うことなんて出来るわけ無いじゃないですか。というわけでもっと詰めてください」

「そう、もっと詰める」

「俺も一応先輩なんだけど……」


 そんなボヤキなど気にすることもなく中央に寄っていく雫と翔子さん。もはや俺たちの間に隙間などありはしなかった。狭い。


「あら、きついなら私のところと交換してもいいのよ?」

「優衣佳は、ギルティ」

「優衣佳先輩は年越しの瞬間キスしていたじゃないですか!ズルいですよ~!」


 そう。俺はそばを食べてからも彼女達から必死に逃げていたのだが、テレビから聞こえるカウントダウンで気を抜いたが最後。ついには優衣佳さんに捕まってしまい唇を奪われてしまった。その瞬間、テレビから年越しの合図がゲームセットの決め手となった。


「勝者の特権よ。年越しの瞬間をキスで迎え入れるのも……悪くないわね……」


 優衣佳さんが自身の頬に手を当てるのに合わせて俺の肩を掴む二人の握力が強くなる。痛い痛い。




 でも2人とも俺への好意をこんなに示してくれているんだ。俺も応えないと彼氏失格かもしれない。


「……雫」

「はい?……!!」


 俺は一度嘆息してから彼女の名を呼ぶと同時に、無防備になっているその唇を一瞬だけ奪った。そうしてその頭に手のひらを乗せる。


「……おやすみ、雫」

「ふぁい……おやすみなさい……」


 その言葉を最後に力が抜けるように眠っていく。さて、あとは……



「待ってた。 いつでもいい……」


 寝返りをうつようにして身体を回転させると翔子さんは準備万端の様子だった。

 彼女は待ち構えていたかのように目を閉じて俺の行動を待っている。そんな様子を見てふとイタズラ心が湧き上がってしまい、そのきれいな頬に手を添えた。


「翔子さん……」

「…………」


 二度目の呼びかけには答えない。それは予想していた。俺は彼女の耳元に顔を近づけて―――――


「好きだよ、翔子さん」

「っ!? ―――――んっ!!」


 俺の言葉に身体を大きく震わせたのを見計らって唇を触れさせた。

 やっぱりここしばらく俺はどうかしてるのかもしれない。こんな行動をするなんて……でも、そろそろ限界……


「それじゃ、お休みっ!!」



「…………!!   しん……や、くんっ……もっ、と……もっと!」



 俺はうつ伏せ状態なり、そのまま目を閉じる。

 そんな翔子さんの懇願を、気づかないフリをしたまま夢の世界に旅立つよう努めていった―――――


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