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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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121.2人の回答は


「…………えっと、ということは俺と遊んでない日もずっと隠し撮りしてたってこと?」


 俺はリビングのテーブルの上で数々の写真が収められたアルバムを一冊手に取り隣に座っている人物……優衣佳さん問いかける。

 彼女は隣にいながらもとてもバツが悪そうな表情をしていた。それにしては距離がすごく近いけど。


「だって……中学に上がったら会いにくくなるのはわかってたもの……好きな人をずっと見ていたいって思うのは当然じゃない?」

「撮るなら直接言ってくれればよかったのに。まさか優衣佳さんにこんな特技があったとは……」

「そ……それは、慎君がいろんな人達と遊んでて邪魔しちゃわるいかなって……」


 そういった様子で手を合わせながらモジモジしている姿に少しドキッとも来たが今は時じゃない。俺は彼女から視線を外してナンバリングの若い順から広げていく。それらはどれもこれも昔の俺が写っていた。

 一冊目なんかはピンボケしたりブレていたりと散々な写真が冊数を重ねるにつれて改善されていき、最新のものなんかは角度や見栄えが完璧なもへと変貌していた。


「軽蔑……した?」


 彼女の隠れた才能に驚愕していると恐る恐るといった様子で問いかけてくる。


「いや……」


 軽蔑することはないが隠し撮りされていたことには相当驚いた。


「優衣佳さん」

「は、はい……」


 隣にいる彼女は姿勢を正して俺に向き直る。

 俺はそんな彼女の頬に手をやり、自身の口を耳元まで近づけ……



「これからは隠し撮りなんかせず……ずっとそばで俺を見ていろよ」


「っ……! きゅぅ…………」


 そんな歯の浮くような台詞に全身の身体が抜けていく優衣佳さん。椅子から転げ落ちる寸前でなんとか受け止めて座り直させる。

 俺も色々な事があって浮かれているのだろうか。こんな事を言うだなんて思わなかった……あー顔が熱い。


「2人ともできたよ……って、お姉ちゃん?」

「ごめん、気にしないでほしいかな……」


「そう……?ところで、慎也くんはこれからどうするの?」

「……なんのこと?」


 優愛さんは淹れたてのコーヒーを机に並べながら俺の向かいに腰を下ろす。

 淹れてくれたコーヒーを口に入れると口内に心地よい苦味が広がっていく。


「私たちと……付き合ってくれるの?」

「んん゛っ!!」


 唐突に本題を投下されて思わず変な音が出ると同時にむせてしまう。危うく飲んでいたコーヒーが出てしまうところだった。


「どう、かな?」

「ケホッ…………優愛さんは本当にそれでいいの?」


「?」

「えっと、俺が複数人と……その……つ、付き合うことについて……」


 何のことか皆目検討もつかないと言った様子の優愛さんに対して俺は言いよどみながらもなんとか答える。

 結局の所そこにたどり着く。良く言えば愛が大きい、悪く言えば優柔不断なことについて承知しているのだろうか。


「私も悩んだけど……それだったら誰も不幸にならないから私は構わないよ?」

「えっ……こんなに優柔不断なのに……」


「それでも、だよ。そんなところも慎也くんの魅力だから」

「でも――――」


「も~!私が良いって言ってるからいいのっ! それに自分の事を悪く言わないで!」


 怒られた。

 そうは言ってくれたが本当にいいのだろうか。けれど彼女の意思だし……

 そんな考えが堂々巡りに陥っているとふと優衣佳さんが俺の肩に触れてくる。


「慎也君、もうその道しかないわ。もしこれで一人と付き合うことになったら選ばれなかったほうは……どうなると思う?」

「…………どうなるの?」

「あなたも、私たちのどちらか片方が不幸になる様なんて見たくないでしょう?」


 そんな冗談……かと思ったが違うようだ。2人とも真剣な様子でこちらを見つめてくる。



「…………ありがとう、嬉しい。でも、その前にまだやるべきことがあるから……」


 俺の言葉にゆっくりと笑いながら頷いてくれる二人の少女。


 それと同時に ガチャリ―――― と、玄関の扉が開く音が鳴り響く。



「私たちこそ嬉しい――――だから、呼んでおいたよ」

 

 穏やかな笑みを崩さずにリビングの扉を開ける優愛さん。

 彼女に誘導されるように入ってきたのはやるべきこと……その当事者である翔子さんと雫だった。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「どうしたんです?いきなり私たちを呼び出して」

「ん。 急いできた」


 2人は新たに淹れられたコーヒーを嗜みながらくつろいでいる。俺と同じような感じで本題を知らされずに呼ばれたのだろう。


 俺の結論を聞いたら2人は軽蔑するのだろうか。雫――――はどうにかなるとして翔子さんはわからない。グーで殴られる程度なら御の字だ。


「2人とも…………俺――――」

「まって、慎也君」


 10発くらい殴られる覚悟で口を開くと優衣佳さんに止められた。彼女は首を横に振ったあと2人に向かって口を開く。



「私たち、慎也君と付き合うことにしたわ」

「「!!」」


「私……たちって……お二人共、ですか?」

「ええ。」


 雫が震えながら問いかけるのに対して優衣佳さんはなんてこともなく答える。彼女は手に持っていたコップを震わせながらもなんとかテーブルに着地させる。


「それを言うために、私たちを呼んだので?」

「そのとおりよ。でもその上で――――」

「まって。優衣佳さん」


 そうも淡々と答える優衣佳さんを俺は手で制す。翔子さんは顔を伏せたまま、雫は目線を右往左往させながら焦点が定まっていないようだった。これはマズイ。順序が違う。


「――――ごめんなさい。私もちょっと浮足立ってるみたい。顔洗って来るわね」


 彼女は自らの言葉の重さに気がついたのか席を立ってリビングを出ていく。その後ろ姿を見送った俺は雫と向かい合った。


「雫」

「慎さぁん……」


 テーブルを回り込んで2人の目の前に立つも雫は目に涙を貯めて今にも決壊しそうだった。俺はしゃがみこんで2人の目線に合わせる。


「これから最低のことを言うけど……聞いてくれる?」

「っ…… は、はい。覚悟はできました。お願いします」


 ゆっくり深呼吸して向き合ってくれる雫。そんな彼女のためにも早々に言葉を発する。



「俺、優衣佳さんと優愛さんのことが好きだ」

「……っ! はい……」


「でも、それと同じくらい翔子さんと雫のことが大好きだ」

「……はい…………っえ?」

「慎也くん……今なんて……?」


 雫が問い返し、翔子さんも顔をあげる。やはり堂々と優柔不断宣言はまずかっただろうか。



「最低なことを言ってるのはわかってる。でも、俺にはどうしても4人を決めることができないんだ。だから……」


 行くところまで行け、というように言葉を紡ぐ。


「―――――もし、2人が許してくれるなら、これからもずっと俺と一緒に居てくれると、嬉しい」


 言った。言ってしまった。

 これで嫌われてしまうのなら仕方ない。俺が刺されるのも……受け入れよう。けれど優衣佳さんと優愛さんが傷つけられることだけは回避しなければならない。



 5分――――

 10分――――


 どれだけの時が経ったのだろう。彼女たちの答えを待ち続けていると不意に腹を殴られたんじゃないかと思うような衝撃に襲われる。


「つぅ……! 翔子、さん?」

「……不安だった……」


 下に顔を向けると翔子さんが俺の背中に手を回して腹部に顔をうずめている。

 よかった。俺が殴られる程度なら――――


「ずっと……ずっと怖かった! 私は愛想もよくもないしスタイルもよくない……あるのは勉強だけ……だから、ずっと慎也くんに受け入れて貰えるか怖かった! 好きって言ってもらえて……嬉しい……!」


 その答えは俺が考えていた拒絶のものとは大きく違っていた。


「翔子さん……それじゃあ……」

「私も、慎也くんが好き。 みんなと一緒にいたい」



 そうして聞こえるのはすすり泣く声。そんな彼女をなだめるよう髪にそって撫でていると段々と鳴き声が聞こえなくなる。

 その後ゆっくりと彼女は顔を上げ、どちらともなく顔を近づけていきそっと唇が触れ合った。


「……嬉しい……拒否されたら……私……」

「俺も、拒否されなくてよかったよ。ありがとう翔子さん」


 翔子さんはその手を前に突き出し俺はそっと受け入れる。

 ふと雫の様子が気になって正面を向くとそこに居るはずの姿が見えなくなっていた。




「ど~んっ!」

「わっ!……雫?」


 突然、背中への強い衝撃が俺を襲った。後ろからサックリ――――なんて事を考えながら顔を向けると雫が後ろから抱きついてきたようだった。翔子さんは彼女の参戦を譲るかのようにスッとその場から離れていく。



「やっぱり私の言ってた通りでしたね!」

「……なんて言ってたっけ?」


 そう彼女はいつもと変わらぬ口調で切り出してくる。


「忘れたんですか?私は何号さんでもいいって言ってたじゃないですか~!」

「えっと、言ってたような……言ってなかったような……」


 そうとぼけるものの、あの日のことはよく覚えている。あれは彼女とデートした日だった。帰り際に爆弾が投下されて動揺したことを思い出した。


「え~!私あの時すっごく勇気出したんですからね! まぁ、もし今回拒否されても終身マネージャーとして嫌って言われようがずっと一緒に居るつもりでしたけどっ!」

「雫……」

「だから……今日慎先輩のほうから言ってもらえて……うぅ……グスッ…………」



 そこまで声を出して言葉にならなくなった彼女の手をそっと左手で包み込む。


「ありがとう、雫。これからもずっと俺のマネージャーでいてくれるかな?」

「はいっ……!慎さんがイヤって言ってもずっと側にいます……! だから――――」


 瞬間、

 彼女の手は俺の頭に回され、気がついたらその涙ぐんだ瞳が俺の目の前に――――


「これから……ずっとですから! 覚悟してくださいね!!」

 

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