011.入学式の朝
入学式――――――
学校に通う者たちが新たな学び舎へと移り変わる日。
その日に抱く想いは個々によって大きく変わる。緊張・期待・高揚・哀感・憂鬱など様々だ。
高校生にもなれば4度目ともなり多少は慣れも出てくるであろうがそれでもいずれかの特別な感情は持ち合わせているはず。
そんな中、俺こと前坂慎也が抱いている感情は・・・・・・無だ。
ウチの学校は中高一貫校。更に内進生ともなれば3分の1程度は新顔も見えるが、言い換えれば3分の2は以前から知っている顔。学校自体は変わらず教室が移動するだけと、目新しいことは殆どない。せいぜい半日で終わるところが嬉しい、といったところだろうか。
そこまで思考が及んだところで一昨日友人になった川瀬姉妹のことを思い出す。
そういえばあの二人はどこのクラスに配属されるのだろうか・・・スマホからSNSを起動し『もう学校着いた?』と送信しようとしたところで――――――やめた。どうせすぐわかることだしね。
ふとテレビを見ると平日恒例定時の朝の占いコーナーをやっている。俺の運勢は・・・・・・あった。3位と微妙な数字だ。ラッキーアイテムは柄物の絆創膏。普段こういうの信じたりしないけど絆創膏はあるに越したことはない。救急箱を覗いたら家族の誰かが残していった絆創膏がおあつらえ向きにあった。ちょっと可愛すぎるけど一応持っていこう。
そうこうしている間にもう8時。始業は8時半だから30分あれば十分間に合う。
大して必要なものなど無いが癖となっている出発前の荷物確認を行う。絆創膏もきちんと入っている。その後春休みに新調した、中学の頃とボタンしか変わらない学ランに袖を通して家を出る。
しかし心なしか身体が熱い。体温計も忍ばせておくべきだったか。
通学路。特に急いでもないしパンも咥えちゃいない。十字路で事故だったり女の子とぶつかったりそんなボーイミーツガールなイベントなど一切ないまま校門をくぐる。
昇降口手前で人だかりができている。遠目だと見えないが新1年制のクラス割が掲示されているのだろう。俺も近づいて自分の名前を探しに行く。
「何やってんだ?」
人だかりに巻き込めまれようとしたところで不意に後ろから声をかけられる。
「智也か。ほら、クラスの割り当て」
智也――――大外 智也は中1で同じクラスになってからの親友だ。
太陽光で髪が脱色された茶髪のイケメン。冷静沈着だけどノリがよく、ツンデレ。中学時代は二人で色々と遊び回ったものだ。さらに別の学校に彼女もいるらしい。解せぬ。
「そんなの見なくたって俺らはわかってるだろ」
「そうだけどさ、ほら、これも一種のイベントみたいじゃない?」
智也は鼻で笑い飛ばして先に行くぞと、昇降口に歩いていってしまう・・・・・・いや、これチラチラ俺のほう見てるぞ。着いてきてほしいってことか、ツンデレめ。
ウチの学校では高校から特別クラスが追加される。正式名称は国際科。
国際科は更に2つに分かれ、英語等語学を中心とする教養コース、もう一つは理数を中心とする科学コースだ。
どちらも普通科と違うところは若干授業難度が高くなるとこ、副産物として卒業するまでクラス替えがなくなるくらいだろうか。
噂では選考基準として成績はそこそこに、授業態度や日々の素行が重視されているとのこと。
ちなみに内進生で国際コースに行くには面接一個合格すれば行ける。一貫校は先生間の情報共有が密なため、素行重視が本当ならば毎日が試験みたいなものだが。
「それにしても智也が国際科に行けるなんて」
「俺が落ちる要素なんてないだろ」
「ほら、髪色で」
「それで落ちるんだったら俺より明るい髪してるお前が受かってるわけないな」
お互い適当な軽口で教室に向かう。国際科は普通科とは反対の校舎だ。
科学コース手前で引き戸に貼り付けられたA4の紙、教養コースの名簿が目に止まり軽く目を通す。
「見た?教養科の男女比。7対1で男子5人だって」
「・・・・・・女子社会は怖いぞ。男子は団結力が強くなりそうだな」
なんとなく智也の言うことに実感が籠もっている。陰口多いとは聞くが過去にそんな経験あったのだろうか。
「ほら、俺らのクラスはこっち。男女比はほぼ半々だってよ。良かったな5人じゃなくて」
隣の教室に掲示されている科学コースの名簿を見てた目がからかうようにこちらを向く。俺も名簿を確認――――――――――しようとしたところで背中に衝撃が走る。
「いっ・・・・・・・・痛くない?」
誰かが背中に鞄を当てたのだろう。怪訝な顔をして振り向く。
「よかったぁ!また会えたね!!」
そこには制服に身を包んだ栗色の髪の少女が満面の笑みで立っていた。




