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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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116.一日の始まりと終わり


 ――――街中はそこかしこで軽快な音楽が流れている。

 アーケード内を並んでいる店はどこもかしこもと、とある日を祝うかのようにセールをやっているようで見渡す限り人で溢れていた。


 更に特筆すべきは道行く人の組み合わせだろう。

 忙しそうに歩き回るサラリーマンや親子連れはいつもと変わらないが、普段よりもカップルで仲睦まじく歩いている層がどっと増えた気がする。

 1年前の俺ならどのカップルもお互い笑い合ってアーケードを歩いているのを見て、嫉妬に狂ってこの場から逃げ出していたかもしれない。


 けれど今日の日はそんな事に意識を割く余裕は殆どない。俺は今の状況を嬉し恥ずかしな気持ちで歩いているからだ。


「どうしたの~? そんな変な顔をして?」


 俺の左隣にいる太陽に照らされてキラキラと光る亜麻色を地毛に持った少女は、少し身体を前に乗り出して覗き込むようにしてこちらを見上げてきた。


「んっ……俺、そんなに変な顔をしてた?」

「ええ。目線が定まらない上に口を動かしてて不思議な顔だったわ。一体どんな事を考えていたのでしょうね」


 俺の問いに答えたのはもう片側……右隣にいる長くサラサラな黒髪をたなびかせた少女だった。彼女はそう説明しつつ原因すら把握しているようで口に手を当ててクスクスと笑っている。


「その反応……絶対わかってるでしょ優衣佳さん」

「えっ!お姉ちゃん知ってるの!? 教えて教えてっ!!」

「優愛さんも知ろうとしなくていいからっ!」


 茶髪の少女……優愛さんが更に俺との距離を縮めてくるのを俺は手で静止させることもできずにただただされるがままでいる。その際彼女の女性的な部分がこちらに大きく触れてしまうがまったく気にした様子も見せずに俺の頬だけが紅潮してしまう。


「優愛……ちょっとひっつきすぎじゃないかしら? ちゃんと教えてあげるから戻りなさい」

「えっ……あっ……!」


 黒髪の少女……優衣佳さんに窘められた優愛さんは無自覚の行動だったのか、今の自身の状況に気づいてからは飛び退くように元の位置に戻っていく。 くっ、もう少し堪能したかった自分も居たのに……!


「えへへ。 ごめんね慎也くん、迷惑だったでしょ?」

「いや、そんなこと……」


 否定しようとしたがそこで思いとどまる。

 肯定したら彼女を傷つけることとなるし、かといって否定したら優衣佳さんから変態認定を受けてしまうだろう。あれ?詰んでない?


「優愛、慎也君は女の子2人に抱きつかれて恥ずかしがってるだけだわ」

「ちょっ……優衣佳さん!」

「デレデレしてたお返しよ」


 俺がどう返事をしようか悩んでいると優衣佳さんからのネタバレが。彼女は俺の言葉に軽く舌を出して返される。



「えっ……でもよく翔子ちゃんや雫ちゃんには抱きつかれてるよね? もしかして……私、だから?」

「……というよりこの場とこの日だからじゃないかしら? ほら、人も多いし今日は……ね?」


 優愛さんが頬を赤く染めながら聞いてくる言葉に間髪いれず優衣佳さんが否定してくる。確かに優衣佳さんの答えが合ってるけどそう言われると恥ずかしい……


「あぁ~。なるほど……でも、なんか複雑~! 慎也くんは私に抱きつかれてもなんとも思わないの~!?」

「そんなことないよ! いつも嬉しいけど今日はちょっと……」


 すれ違う人々の視線が一瞬、俺たちを捉えてる気がするからだ。確かに傍から見たら女の子2人を侍らせているように見えるかもしれないが……というかその通りなのだが毎回見られてると自覚すると恥ずかしい気持ちが強くなる。


「ふ~んだ! じゃあもっと抱きついちゃうもんね~!」

「まって! それだと周りからの視線が……!」

「ほらほら、そのへんにしときな――――あら」


 優愛さんの暴走に優衣佳さんが止めようとしてくれたがその言葉は動いていた脚と同時に止まってしまう。


「どうしたのお姉ちゃん?」

「優衣佳さん?」


 俺たちも彼女につられて見るのはその視線の先――――

 どうやらいつの間にかアーケード間にある広場にたどり着いていたようだ。

 その道端にあるのは巨大な木を模したオブジェクト。きれいな三角柱の、人工的なものではあるがそのオブジェは太陽に照らされて白く輝いているように見える。


「うわぁ……きれい……」

「たしか今日から点灯だったわね」

「そうなの!?」

「えぇ……あった。高さ15メートルのツリー、点灯は17時かららしいわ」


 優衣佳さんがスマホで検索しながら答えてくれる。そうか、今日からか……


「お姉ちゃん!」

「……仕方ないわね。見たらすぐ帰るわよ」

「やったぁ! 楽しみだねっ!今日のクリスマス!!」


 ――――そう、今日は12月の24日。クリスマス開始を数時間後に控えた俺たちは夜になる前にアーケード街をあてもなく歩きまわっていた。夜になったら俺の家で家族と、優衣佳さん優愛さんを加えた6人でパーティが予定されている。


「そうね……でも、あの2人は残念だったわね」

「仕方ないよ。二人とも家でパーティがあるんだから」


 優衣佳さんのつぶやきに俺は反応する。

 今日の翔子さんと雫はどちらも家で家族と過ごす予定だ。断ってこっちに来ると二人とも言っていたが俺が家族との時間は大事だと力説して渋々理解してくれた。


 いつも俺に付き合ってくれているのだからせめて特別な日くらいは家族一緒に居てほしい。ウチの家族が海外に行ったことでそれを強く実感した。

 俺の場合は優衣佳さんらが居たから寂しい気持ちもなかったけれど彼女達が居なかったら今頃どうなっていただろうか。想像もしたくない。


「じゃあさっ!時間まで何する!?」


 3人してツリーを見上げていたらふと優愛さんが前に立ってこちらに問いかける。


「そうね……ここらへんで時間潰せるとしたらカフェかカラオケくらいかしら?」

「それならカフェにしない!? 私歩きまわってお腹空いちゃってさ……」


 優愛さんがお腹に手を触れさせながら頭を掻く。


「お腹って……後数時間後でパーティなのよ?今お腹膨らませたら……いえ、私の失言だったわ。お腹膨らませて行ったほうがいいわね」


 優衣佳さんが優愛さんの意見に異を唱えようとしたところでその意見を翻して同意する。うん、俺もその気持ちはよく分かるよ。


「さすがに人様の家で食べる量は加減するよ~!」

「その結果深夜になってお腹すいたって来るのよね?いつものことじゃない」


「うっ! ……そ、それを防ぐためにもカフェいこ~!お~!」

「全く、仕方ないわね……」


 2人はそのまま近くのカフェまで歩き出す……こともなく数歩進んだところで揃って立ち止まりこちらへ振り返る。


「ほらっ!行こ! 慎也くん!」

「貴方が居ないと始まらないじゃない。行くわよ。慎也君」


 その2つの手はこちらに差し出される。


「……そうだね。行こうか、二人とも」


 俺は差し出されたそれぞれの手をつなぎ、腕に抱きついたのを確認してから目的のカフェまで歩き出した。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「ふぅ~。 美味しかったねぇ」

「そうね、意外とアタリだったわこの店。慎也君はどうだった?」

「俺のも美味しかったよ。また来てもいい…………ってさむ!?」


 あれから数時間。ライトアップの時間まで時間を潰した俺たちは揃って店を出る。すると店内とは打って変わって冬の寒すぎる風が俺たちを吹き抜けた。


「うぅ……ホントに寒いよぉ……お姉ちゃん、さっきの店に……」

「戻らないわよ。パーティも近いんだから早くツリー見て帰るわよ」

「だよねぇ……うぅ……」


 優愛さんが嘆くのもよく分かる。今夜の風は少々寒すぎる。路面なんかいつの間にか凍っていて滑りそうだし今夜は雪が降るのかもしれない。


「ほら、もうちょっとでツリーなんだから我慢しなさい」

「うぅぅぅ…… なんでツリー見ようって言っちゃったんだろ……こんなに寒い思いするなら ――――わぁ!!」


 店が立ち並んでいる区間を抜けて一層広くなった場所―――広場への景色が広がった時だった。

 まず目に入ってきたのは何階建てのビルという高さを誇るツリーだ。それは赤や紫、白など様々な色に移り変わりながら道行く人々を魅了している。


 さらにはその周りに植えられている木々にも電飾が施されておりオレンジ色の光が広場を明るく照らしていた。


「これは驚いたわ……凄く綺麗で……荘厳ね」

「優衣佳さんも見たことなかったの?」


 優衣佳さんも開いた口が塞がらない状態になっているようだ。今までイルミネーションを見たことがなかったのだろうか。


「えぇ……クリスマスはいつも家族といて夜外へ出る事はなかったわ。優愛も同じでしょうし、あの子と一緒になってからは特に、ね……」

「見てみて~!段々と色変わってるんだよ~! あっ!これ中に風船入ってるんだ~!」


 そんな感傷的な思いに浸っている優衣佳さんとは対称的に優愛さんはぴょんぴょん飛び跳ねながらツリーの周りを走り回っている。今まで寒いと行っていたのは何だったのか。


「優愛さん!あんまり走って滑らないようにね!」

「うん~!気をつける~! わぁ~!!」


 これの言葉にも答えつつイルミネーションを楽しむ優愛さん。偶然だったけど来てよかった。



「優衣佳さんも優愛さんみたいにはしゃいで走り回らなくていいの?」

「貴方は私に何を期待してるのかしら? ここで見てるだけで十分楽しめるわ」


 たしかに優衣佳さんがそうやってはしゃぐ様は想像できない。


「それもそうだね。 こういうイルミネーション見ながら温かいおしることか飲んだら美味しいんだろうなぁ」

「いいと思うけど……買わないわよ?これからの予定もあるんだから」


 俺の隣で腕を抱きしめながら答える優衣佳さん。顔は見えないが微笑んでいるように思える。



「ははっ……。冗談だよ。 一通り見たら帰ろうか」

「えぇ。 でも、その前に――――えいっ!」


 優衣佳さんは何か思い切ったと思ったら不意に抱きしめて俺の腕から手を離し今度はそれを胴体に回していく。


「優衣佳さん!?ここ外だよ!?」

「あら、それが何かしら? 私だってたまにはこうしたくなる日もあるわ。大人しく抱きしめられなさい」


 そう言いながら腕に回す力を強めていく優衣佳さん。彼女が力を込めるたびに俺の腕を挟んでいるアレが段々と深く沈んでいって……


「あ~!お姉ちゃんズルい~!! 私も~~!!」


 俺に抱きついている優衣佳さんを見つけた優愛さんは飛び跳ねるのを止めて今度はこちらに走って――――来ようとしたときだった。

 きっと床が凍っていたのだろう。彼女は走りだすために身体を旋回させたところで足を滑らせてその身体が後ろへと倒れていく。


「――――――っ! 優愛さん!!」



 それからはすべての動きがスローに感じた。

 俺は抱きついていた優衣佳さんを引き剥がし、力いっぱい地面を蹴って彼女の元まで足を伸ばす。

 彼女も反射的にこちらに手を伸ばしているところをなんとか掴み身体ごと俺の方向に力いっぱい引っ張る。



 ――――慣性というものはどれだけ厄介なものだろうか。

 彼女を引っ張る時に足を踏ん張ってしまえば何の問題もなく物事は解決する。けれど今日は突然の寒さで地面が凍っていた。


 そんな踏ん張りも殆ど意味をなさず、今度は俺の身体が彼女の代わりに地面へ近づいていく


「――――――――しんくん!!」


 その声はどちらのものだったのだろうか。

 俺は2人の顔を見て問題ないことを安堵しながらその右腕に全体重をかけるように落ちていった――――


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