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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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115.母の計画

「えぇぇぇ!? 会長さんの自宅ってこんなにお金持ちだったんですか!?」


 車内に雫の叫び声が響き渡る。俺も初めて来た時は驚いたし気持ちは十分わかる。

 その声をモロに受けた翔子さんは耳に手を当て苦悶の表情を浮かべていた。


「っ…………耳が」

「あっ、すみません。つい驚いてしまって」


 雫の膝上で倒れ込んでいる翔子さんはその場で固まるがしばらくした後に元の場所に戻って居ずまいを正す。


「こっちも驚いたよ。直ぐ側に居た翔子ちゃんに比べたら全然だけどね……さて、支払いも終わったし降りようか」

「すみません……それに支払いありがとうございます」

「いいのいいの。こっちがお願いした立場だし、結局の請求は翔子ちゃんのお母さんに行くわけだしね」


 そう俺たちを先導するかのようにタクシーを降りて門の前で俺たちを待ってくれるミキさん。

 俺たちも彼女についていくように開かれた扉から外へ足を踏み出した。






「ただいま」

「おじゃま……しま~す……」

「……おじゃまします」


 翔子さんが玄関の鍵を開けてから俺たちは口々に挨拶をしながら恐る恐る呼ばれた主の家へと入っていく。

 雫はさっきから内装などに目を奪われて辺りを見渡しているが俺も入って驚いた事がある。


 それは門をくぐる前と違ってミキさんに恐れが見られていることだ。

 立ちふるまいなどはいつもと同じく背筋をピンと伸ばして凛々しいものだがその実、口を開くと言葉に若干震えが見られる。チラリと見た感じ目も多少泳いでいる気がするしそれほど翔子さんの母親に何かされたのだろうか。以前会ったときには凄い柔和な人だったと記憶しているが。




「……多分ここ」


 先導が変わって翔子さんが玄関からほど近い扉の前で立ち止まる。

 その白い扉には見覚えがあった。たしか以前と同じならその先はリビングになっているはず。


 彼女が指し示すようにその扉の磨りガラスから見える光は若干暖色も含まれていて、蛍光灯が点灯していることを証明していた。だれか人が居るようだ。


「お母さんが呼んでるなら、ここに居る」

「……ありがと。ここからは私に任せてもらってもいいかな?」

「ん」

「……えっと?」


 ミキさんは思ったような返事が得られていないからか翔子さんのその淡白な返事に疑問符が浮かんでいる。

 そうか。翔子さんは口数が少ないから初対面では言っていることを察することが難しいのかもしれない。


「ミキさん、翔子さんはどうぞって言ってますよ」

「あぁ、そうなんだね。ありがと。 それじゃあ失礼して……」


 ミキさんは軽く咳払いをした後、その扉をノックした後勢いよく扉を開いて中に入っていく。


「失礼します。ご依頼どうりご息女と……件の者を連れてきました」


 俺たちもその声と同時に部屋に入り、真っ先に目を向けた正面……テーブルを挟んで俺たちと向かい合うように以前見た顔がそこにはあった。


「……ご苦労さま。ちゃんと連れてきてくれたようね。 それじゃ、もう帰ってもいいわよ」


 その見知った顔から出た言葉は、およそ以前会った時のものとは全く違うものとなっていた。

 声は1オクターブ程低くなっており口調も間延びした様子から打って変わって威圧感のあるものへと変貌していた。


 不意に、彼女と目が合ってしまいその威圧感にのまれそうになってしまう。


「いえ、私もお話を聞かせてもらって構わないでしょうか?」

「……どうして?」


 俺がどう切り出そうか悩んでいるとミキさんから質問が発せられ、彼女はその言葉に聞き返す。けれどその目線は翔子さんと俺を捉えていて彼女に一瞥たりともしていない。


「私も……ほんの少しだけではありますがあの夏祭りの日、彼と共に花火を見た友人だと思っています。ですので、力不足ではありますが個人的にも好ましく思っている彼の力になってあげたいのです」

「……ふぅん」


 一瞬、その言葉に反応して口の端が上がったとも思ったがすぐ元の表情に戻った後、彼女の目が初めてミキさんの両目を射抜く。


「この様子だと、5人みたいだから一人余ってしまうわね。貴方は立ってもらうけど、それでいい?」

「はい。 もちろんです」

「……そう。 それじゃあ、翔子ちゃんおかえりなさい。 2人も忙しいとこ悪いわね。座ってもらえるかしら」

「「はいっ!!」」


 彼女がミキさんへの目線を外したかとおもったら興味を無くしたかのように俺たちに座るよう促してくる。当然、俺と雫もその言葉に二つ返事しか道はない。

 俺たちは4人がけのテーブルに彼女に向かい合うようにして座っていく。事前にこうなることを予測していたのだろうか。テーブルには俺たち側に3つ椅子が並べられていた。




「……慎也くん」

「は、はい!」

「ひさしぶりね。春ぶりかしら?」

「そう……ですね。お元気そうで……」


 決して「お変わりないようで」なんて言えない。雰囲気が変わりすぎている。


「えぇ。 それで……貴方は?」

「はいっ! 会ちょ……翔子先輩や慎さんの後輩の水上 雫です!」


 彼女――――麗華さんに目を向けられた雫が勢いよく席を立って自己紹介をする。その声は見るからに緊張しているようだ。

 俺も気持ちはよくわかる。前回よりずっと怖い。


「そう―――今日の話は雫さんにも間接的に関係あるけど……面白くない話になるでしょう、それでも?」

「もちろんです。お二人とも大切な先輩ですから」


 雫は再度座り今度は緊張など微塵も感じられない声で返事をする。その返事に麗華さんもゆっくりとうなずいた。


「まず、本題に入る前に一つ謝らなければならないわね……そこのミキと、マキについて」


 俺たちがミキさんに顔を向けると彼女は麗華さんの隣まで歩いていき口をひらいた。


「私たちは―――麗華さんの会社の早期就業組ってやつだよ。早期就業って言葉はわかるかな?」

「い、いえ……」


 俺が首を横に降ると同時に翔子さんが近づいてきて耳に口を当てる。


「大学生だけど卒業前から働くこと。あとお母さんは会社の会長でお父さんが社長」

「!?」


 確かにいい家だなと思っていたがまさか麗華さんも偉い人だったとは……ソッチのほうが驚きだ。


「それで、第一の仕事がキミのことを調べること。夏祭りに会ったのも故意だね……花火大会は本当に偶然だったけど」


 ミキさんが申し訳無さそうに説明してくれる。つまり……あの時タオルを貸すために呼び止めたのが計画の内ということか。


「そう……それで2人に慎也くんのことを調べさせたけど、なぜだかわかる?」

「いえ……」

「慎也くんは私の娘である翔子と仲良くしてる。ここまではいいわよね?」

「は……はい」


 麗華さんの質問に簡潔に答える。


「それでどういう子か後々調べた結果。色々な女の子と仲良くしてるみたいね。そこの雫ちゃん始め」

「…………」


 ぐうの音も出ない。せめてもの答えにと俺は黙って首肯する。


「慎也くん……貴方は――――」

「お母さん」


 麗華さんが話を続けようとしたところでそれは翔子さんによって遮られる。言葉を遮った彼女はゆっくりと立ち上がるのを俺たちは黙って目で追っていた。


「翔子ちゃん、今は彼とお話中だからまた後で――――」

「お母さん」


 再度母を呼ぶ声にただならぬ気配を感じたのか麗華さんは言葉を詰まらせる。


「……どうしたの?」

「お母さん……調べさせたって何を?」

「な……なにって、交友関係とか、成績とか……」


 そんなこと調べられてたの!?でも恥ずべきことなど無いと…………信じたいなぁ……。

 俺の脳天気な考えとは裏腹に翔子さんは一歩距離を縮める。。


「成績?交友? そんな事を調べさせたの?私や本人である慎也くんに無断で」

「そ……それは……」


 翔子さんはゆっくり、ゆっくりとテーブルを回って麗華さんの隣まで移動する。当の麗華さんは段々と口調が弱くなって顔を伏せていった。


「それになに?自分の会社の新入社員を使って? 公私混同どころか私物化じゃない?それ」

「翔子さん……そのへんで……」


 段々とヒートアップしていく翔子さんを止めるため名前を呼ぶが彼女の手によって制される。あ、はい。おとなしくしています。



 しばらく無言の時が流れると麗華さんから机を叩く音が響いてくる。


「だって……だって! 親として心配なのよ!翔子ちゃんが悪い男に騙されてるんじゃないかって!!」


 麗華彼女は伏せていた顔を勢いよく上げて翔子さんと向かい合う。その目には涙が溜まっているようだ。ここまで来たら威厳もなにもない。


 その豹変にさっきまでの様子しか知らないであろう雫とミキさんは面食らっているようだ。


「悪い男?慎也くんが? それで結果はどうだったの?」

「…………女性が多い以外は問題なし。むしろみんなに優しく接していて好感が持てる」


 拗ねるようにそっぽを向きながら麗華さんは結果を答える。

 俺がミキさんの方に目を向けると彼女もその視線に気がついたのか顔を赤くしながらもウインクしてくれた。


「問題ないなら無理やり呼び出す必要もないんじゃないの? わざわざ仕事モードになったりして」

「うぅぅぅ……翔子ちゃんがイジメる~!! だって本当に翔子ちゃんを任せられるか試したかったんだもん!!うぅ……」


 最終的に折れたのか今度こそ机に完全に突っ伏して泣き出してしまった麗華さん。そうして満足したらしい翔子さんは俺の隣の椅子に再度腰を降ろした。


「慎さん……会長さんって怒ると饒舌になるんですね……」


 反対側に座っていた雫が耳打ちしてくる。


「うん……初めて知った。俺たちも怒らせないようにしないと」

「……なに?」

「「いえっ!なにも!!」」


 翔子さんの怪訝な顔に俺たちは揃って返事をする。危ない危ない……理詰めで泣くまで止めないなんて恐怖以外の何者でもない。



 とりあえずこの妙な場をどうにかしないと。

 俺は一人席を立って向かい側の椅子の隣まで移動する。



「あ……あの、麗華さん」

「ぐすっ……なぁに……?」


「あの、大切な娘さんを思う気持ちはよくわかりました。それと不安にさせてしまってすみません」

「慎也くん……」


「俺……まだどうなるかわかりませんがしっかりと考えて答えを出そうと思ってます。……それと、何があっても彼女たちを傷つけるような真似はしないので……すみません。この程度の言葉じゃ不安ですよね」


 うまく自分の心がまとまっていないからか言葉に出すのにも難儀する。けれどようやく出せた言葉も月並みな言葉になってしまった。

 俺が更に言葉を出そうと頭を回転させていると不意に俺の首に手が回されていることに気づくことができなかった。


「えっ……? うわっ!」

「いいのよ……励ましてくれたのね。 いい子ねぇ。慎也くんは……うん、私も認めちゃう!拙いながらもなんとか言葉を選んだ姿に心奪われちゃった!」


 気づけば俺は麗華さんに抱きしめられる形になってしまっていた。上から何か声が聞こえて来るが内容までは聞こえない。


「ちょ……!麗華さん!?」

「むしろ私の息子になってもいいのよ? どう?養子にならない?」


「そこまでです! 今まで黙っていましたが慎さんの危機とあらば助けます!」

「お母さん……まだ足りなかったみたい……」


 俺が嬉し恥ずかしな感触にあたふたしていると向かい側から2人のそんな声が届いてくる。


「二人とも……一応私の雇い主なんだから……程々にね?」


 ミキさんは2人に何か話しかけたようだが、俺は現状の打開に必須で接触する直前まで2人に立ち昇る真っ黒な負のオーラに気づくことができなかった。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「今日はごめん……お母さんが」


 あれからもうひと悶着あった俺たちは無事麗華さんと良好な関係を取り戻して翔子さんの家を後にしていた。

 散々翔子さんからも謝られたが再度門の前で頭を下げていた。


「ううん、親として当然の心配だろうし、あんなに大切に思われてていいなって思ったよ」

「……ありがと」


 俺の言葉に翔子さんが小さく漏らす。その顔はいつもの無表情だが赤くなっているのだろうか。時刻も夕方、夕日が俺たちを赤く染め上げていて紅潮まではわからない。


「さて、もうすぐタクシーも来るからキミたちも乗っていくといいよ」

「えっ、いや、俺たちは……」


「これらも私の財布じゃないんだし気にしなくていいよ。……だよね?」

「ん……使ってあげて」


 ミキさんが翔子さんに目配せすると彼女も頷く。ならば……と俺たちも厚意に甘えることとした。




「慎さんも大変ですね」


 4人でタクシーを待っていると隣の雫から声がかかる。


「ほんとだよ……今日はどうなるかと思った」

「もし疲れたら、私に甘えてもいいんですよ? その時はもちろんマネージャーとして活躍してみせますので」

「ありがと。でもそれは最終手段かな……」


 いろいろな意味で危なそうだから。



「おっ、もう来たみたいだね。みんな忘れ物はない?」


 タクシーが遠くに見えたところで俺たちは再度持ち物を確認する。貴重品も全部ある……問題なさそうだ。


「はい。大丈夫です」


 俺が声をあげると隣の翔子さんからも声が上がる。


「ごめん、慎也くん。一個あった」

「えっ――――」


 俺が反応したときにはもう遅かった。


 翔子さんがその一言を口にして俺が彼女の方を向いた瞬間――――ジャンプした彼女と俺の伸びる2つの影が一つになった。


「あぁぁぁ!!」

「おや……」


 俺は、その触れた箇所を手でそっと手で触れる。なんだか隣に居るはずの2人の声が遠い気がする。


「それじゃ……今日はありがと」


 彼女は逃げるように玄関の扉を開けて中に入ってしまう。

 俺はさっき唇が触れた箇所……自身の唇のすぐ横を触れたまましばらく固まってしまっていた。




パァン!!(プロットを床に叩きつける音)


次回更新は2日後の25日です

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[一言] プロットでメンコしないでくださいぃぃぃ!!!\\\\ ┏(`ω´)┓////
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