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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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114.車内での攻防

前回のあらすじ

 83話以来のマキミキ襲来


「どうしたんです? こんなところまで」


 我が学校前、タクシーで来たと見られる2人はもたれ掛かっていた塀から離れて俺たちと向かい合う。鼻や耳が赤くなっているところを見るに短くない時間寒空の下で待ってくれていたのだろう。


「なに、ちょっと用事があってね。キミと―――――翔子さんの2人に」

「……私?」


 唐突に思いもしなかった名前を出されて翔子さんが問い返す。その視線を受けたミキさんは首を縦に振って笑みを返した。


「悪いけど今理由は言えない……それでも、今日一日私たちに付き合ってくれないかな?」


 路肩に駐車されていたタクシーに乗るよう促してくるミキさん。いくら夏祭りの日に世話になったとはいえ、いきなり乗れだなんていくらなんでも……


「会って間もない人に乗れって言われて素直に従うことなんて今どきあるのかしら?」


 俺の心を優衣佳さんが代弁してくれた。彼女は俺たちをかばうように前に立ちミキさんに向かい合う。


「たしかにそれもそうだけど……少年も同じ考えかい?」

「……はい。 たしかにあの日はお世話になりましたが、俺一人ならともかく翔子さんも一緒となると……」

「ふむ……」


 俺の意見も合わさって何やら考え込むミキさん。用事というものは気になるがそれだけで簡単についていくほどバカではない。

 これで大人しく引き下がってくれると思ったら次はマキさんが前に出てくる。


「ねぇねぇ、翔子ちゃん」

「…………」


 マキさんに呼ばれた翔子さんは優衣佳さんの後ろに居る俺の更に後ろ……2人分挟んだ位置で視線だけを向ける。


「あぁん、つれないな~。 ちょっと耳貸してくれないかな?」

「なに、するの?」


 その声は固いものだった。俺の背中を握る手が強くなったことを服越しに感じ取る。


「何もしないよ~。 ただちょっと話したいことあるだけ。何かするんだったらすぐ先生が飛んでくる学校で待ち構えたりしないしね」

「む……」


 マキさんの言う通り、何かをするのならこの場は不都合が多いだろう。少し離れた場所ではテニス部が練習をしていて叫べば顧問ともども1分で到着するような距離だ。


「たしかに、そう。 それで、なに?」

「ありがとっ、うんとね……」


 翔子さんは最大限の警戒をしながら彼女に近づいていく。俺もその一挙手一投足に目を配っていたが特に不審な動きもなく翔子さんの耳元に手を当てて口を近づける。


「――――――――」


「………!!」


 ミキさんが5秒も満たない時間何かを語りかけたのだろう。翔子さんはその言葉に目を見開き数秒深呼吸をしたと思ったらタクシーに足を伸ばした。


「翔子さん!?」

「優衣佳、何が目的かわかった。 一応、2人は信頼できる」

「……何が目的なの?」

「…………今は言えない」


 その言葉を最後にタクシーの後部座席に乗り込む翔子さん。俺たちはどうすることもできずにただ4人で顔を見合わせた。


「それで……キミはどうするんだい?」

「そりゃあ、翔子さんが行くっていうのなら着いていくけど……」


 俺は残された3人の顔を順々見る。優愛さんに優衣佳さんは用事が有ると言っていたから無理だ。雫は大丈夫かもしれないがタクシー的に乗客は4人まで、おそらく無理だろう。

 不安そうな優愛さんに優衣佳さん……俺の目線が雫を通り過ぎたところで彼女は慌てたように俺の服を引っ張り始める。


「ちょっとちょっと!慎さん! どうして私も無言でスルーするんですか!」

「えっ、何か言ってほしかった?」


「そりゃそうですよ!私だってお二人についていく気満々だったんですからね!!」

 

 服を握る手に加え段々と体重を掛けていく雫。ちょっ!伸びるからそれ以上はダメ!!


「えっと……マキさん」


 俺はすがるようにマキさんへ助けを求める。これ以上はシャツが一枚駄目になってしまう!


「雫ちゃん、悪いんだけど今日の用事は―――」

「マキ」

「おっと……」


 マキさんが内容を伝えようとしたところでミキさんに遮られる。そのままミキさんは数秒逡巡した後首を縦に振った。


「いいよ。けど、人数がギリギリだからだいぶ詰めることになるけど」

「はい!ありがとうございます!」


 雫は俺から離れ、ミキさんに軽く会釈した後今度は腕を抱きしめる。助かった。

 人数ギリギリということは2人のどちらかは……。


「マキ」

「は~い! 私は2人と帰り道だけ一緒していいかな?今回の件の説明をしようと思うんだけど」

「それ、ここじゃできないんですか?」


 徹頭徹尾疑いの目を向ける優衣佳さん。その気持もわかる。翔子さんが大丈夫と言わなければ俺だって力づくで逃げていたかもしれない。


「うん……話をしたがってる本人が居ないからね……」

「つまり、お二人は慎也君と翔子さんを誰かに合わせようと?」

「あっ!!」


 口を滑らしたように口元を覆うマキさん。その後ろでミキさんがため息をついている。


「……なるほど、なんとなく予測はつきました。 慎也君」

「うん?」

「…………頑張って」

「? わ、わかった」


 優衣佳さんから謎の激励を受け取る。はて、全く状況が理解できない。


「さ、話もまとまったところで2人も乗ってもらっていいかな?」

「あっ、はい! それじゃあ二人とも、行ってきます」


「えぇ、いってらっしゃい」

「慎也くん……気をつけてね……」


 目的を理解したであろう優衣佳さんは微笑んで、対称的にまだ話についていけてないであろう優愛さんは小さく不安そうに手を振っていた。


「……ほら!乗ってください!」

「わっ! ちょっ!雫!?」


 そんな2人に後ろ髪引かれる思いでいると雫に背中を押されてそのままタクシーの後部座席に押し込まれる。

 押し込まれたことで一瞬、先に乗っていた翔子さんの膝に頭が触れてしまったが彼女は気にした様子もなくカバンを端に寄せていた。


「ご、ごめん」

「ん。平気。 むしろずっと膝に乗せてくれても構わない」


「それはさすがに乗りにくいかな……」

「二人とも何話してるんですか! 私が乗れないので早く乗ってください~!!」


 膝立ちでタクシーに乗り込んでいたせいで雫が後ろで講義している。早々に姿勢を正して彼女に手招きすると喜々として乗り込んできた。


「よし、みんな乗ったね。 それじゃあお願いします」


 助手席に乗っていたミキさんの言葉でタクシーがゆっくりと動き出す。そうしてタクシーはグングンとスピードを上げてスムーズに国道に乗って俺の知らないどこかへの道を走り出した。







「それで……二人とも、ちょっといいかな?」

「ん」

「なんですか?慎さん」


 俺の言葉に両隣の2人がそれぞれ返事をしてくれる。

 車が走り出して十数分、俺はずっと気になっていることを口にすることにしてみた。


「なんか…………狭くない?」


 そう。俺はずっと両側からの圧迫感に耐えていた。通常サイズのタクシーだから狭いのは当たり前と言ってしまえばそれまでだが、それにしてもこの圧迫感はおかしい。


「そうです?こんなものじゃないですか」

「気のせい」

「……俺には2人のドア側に10センチは余裕あるように思えるんですけど」


 明らかに2人には余裕あるようにしか見えない。それにお互いが俺にかける圧迫感がだんだん強くなっていってる気もする。


「気のせいですよ。それよりもうちょっと詰めていいですか?ちょっとこっち狭くって」

「私も、狭い」

「二人とも!? 絶対余裕あるよね!?」


 もう俺も挟まれて詰める余裕などありはしない。そこで雫はずっと抱きしめていた俺の腕から手を離してその腕を身体に回してくる。その際、彼女の豊満な胸が俺の腕を……。


「む、雫。ギルティ」

「えっ……さすがに車内でそれはないですよね……ちょっと……会長さん?」

「……ギルティ」

「うそですよねぇぇぇぇ~~!!」


 翔子さんは詰めている力を緩めたと思ったら俺の膝上をまたぐように四つん這いの状態になり、向かい側に居る雫を力づくで引っ剥がしてその身体に翔子さんの顔が飛び込んでいった。


「むぅ……何食べたらこんなに大きく……背は変わらないのに」

「んもうっ!会長さんっ!くすぐったいんですって~!!」


 雫の胸元にダイブする翔子さんとそれに抗う雫。

 俺をまたぎながらも繰り広げられる2人の攻防に、つい見ているのが恥ずかしくなって目を泳がせるとふと身体を捻らせてこちらを見ていたミキさんと目が合った。


「ミキさん、すみません。うるさくして」

「ううん。 もしかして、いつもこんな感じなのかい?」

「翔子さんが襲いかかるのはたまにですが……ノリという意味ではこんな感じですね」


 むしろ後2人いるぶん倍増するという可能性も?


「ふぅん……夏の時も思ったんだけど仲いいんだね。ついに付き合ったり?」

「いえ……そういうのはまだちょっと……俺の心が」

「心が?」


 心が……なんだろう。ふと漏れ出てしまった言葉だったが心の準備なのだろうか、心構えなのだろうか。考えてみるもどれも今の心と一致しない気がする。


「いえ、何でもないです。すみません」

「……そっか。まだ、みたいだね」

「えっ?」


 まだ?俺がその言葉に反応して顔をあげるも、彼女は話は終わりとばかりに前を向いてしまって続きを受け付けないようだった。


「――――ほら、着いたみたいだよ」


 ミキさんの言葉と同時にタクシーがゆっくりスピードを落としていって最終的には停止する。

 停まった場所は住宅街のようだった。普段来るような場所ではない。けれどこの景色には見覚えが……


「わ~……なかなかお高そうな家が並んでますねぇ。ここが目的地なんですか?目の前の家も随分立派な……」

「私の家」

「あぁなんだぁ。会長さんの家だったんですか!…………へ?」


 予想だにしてない答えだと言うように雫が思わず聞き返す。


「この人によると、目的地は私の家……そして呼んだ人は……私のお母さん、らしい」


 

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