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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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113.2学期の終わり

すみません帰宅が遅れました!!

「それが話したかったこと?」


 俺はリビングで隣に座っている父に問いかける。

 父は「まさか」と否定するように肩を上下させる。


「そんなわけないだろう。慎也、あの子達は何時に帰った?」

「えっと……20時過ぎた辺りだったかな。詳しくは覚えてないけど」


 俺の答えに父はゆっくりと頷く。


「そんな時間まで人の家の娘さんが男の家に居る理由、わからないわけじゃないよな?」

「…………うん」


 どうやら俺たちの関係性についても聞いているか、ある程度察しはついているようだ。俺も正直に肯定する。


「あの子達、今日泊まって行くつもりじゃ……いや、泊めたことあるんじゃないか?」

「えっ!?」


 ぽつりと、かつて起こった事を見てきたかのように顎に手を当てながらに口にする。

 その驚異的な予測に俺も驚きを隠せない。どこまで見抜いているのだろう。


「どうして、そう思ったの?」

「土鍋。拭いたとはいえ水分残っていたことからみんなで夕飯を食べただろうことはわかったし、母さんの下着の片付け方がおかしい。使ったことがバレバレだ。……まぁ、それに気づいたのは母さんだがな」

「…………」


 両親の的確な観察眼に言葉を失ってしまう。

 たしかに体育祭の終わり、雫の為に適当な下着を持っていった記憶がある。 母が気づいたのは着替えを持っていったときだろうか。たしかに父と母は同じタンスを使っているがまさかそんなとこまで目を配らせていたとは。


「……あぁ、大丈夫。そんなことをとやかく言うつもりはない。よっぽど道を踏み外してないみたいだし、ちゃんと条件である成績上位はキープしているようだしな」

「じゃあなんでその話を……?」


 恐る恐る俺は問いかける。

 今その事を掘り出すってことは叱る以外に理由が思いつかない。けれど父はゆっくりと、穏やかな笑みのまま俺の目を見抜く。


「どんな些細なことでも親に隠し事はできないってことだ。あともう一つ……」


 父はソファーの上で体ごと俺に向けて言葉を続ける。


「……今後何か壁にぶつかったら相談するんだぞ? おまえたちはまだ若い。間違えもするし振り返ったら後悔するようなことばかりだろう。それを……解消することはできないが、出来る限り緩和することは出来るだろうからな」


 「特に恋愛は答えがないからな」と、俺から視線を外して補足する父。けれど俺にとっては一つの懸案事項が生まれて目を離すことができない。


「それが……人の道理から外れていることだったら?」

「道理?たとえば?」


「たとえば……犯罪じゃないんだけどモラル的におかしいこととか」

「なんだそれ。よくわからないな……」


 そうテレビを見ながら苦笑する父。そしてその言葉は繋いでいく。


「でも、たとえ犯罪を犯そうが、いくら道理から外れていようが俺はお前の父親だ。その時点で何があろうと信じ続けて助け続けるってことは決まっているんだよ」


 そう笑みを浮かべながら俺の頭を乱雑に撫でていく。それと同時に玄関の扉が開く音が聞こえてきた。


「お、二人とも帰ってきたのか。それじゃあ俺は一足先に寝るから、あとはよろしく」

「あ、うん……父さん」

「うん?」


「……ありがとう」

「……おう。おやすみ」


 そう淡白な答えと共にリビングを去っていく父。けれどその頬をかく姿から恥ずかしいんだなということは俺でも容易に想像ができた。




 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――




「や~! ようやくおわったよ~!!」


 ウチの家族が帰ってきてから二日後の放課後。いつものようにフルパワーを出し切った優愛さんが号令と同時に机へ倒れ込む。

 これで2学期学校での全行事が終了した。後は今年いっぱい冬休みを謳歌するだけだ。


「そうね。後は優愛の頭の謎を解明できれば私の使命も終わりなのだけれど……」


 机に肘を立てて目を覆う優衣佳さんがそうつぶやく。

 今日は終業式と同時に期末試験が全部返ってきた日だった。きっと今回も優愛さんに負けてしまったのだろう。相変わらず天才型の優愛さんだ……


「ん。その仇は私が取ったから安心して。優衣佳」

「……そうね。 助かったわ、翔子さん」

「翔子ちゃんと比べるのは卑怯だよ~!」


 今回も見事学年1位だった翔子さんが誇らしそうに胸を張る。


「……でも、今回はまずかった。慎也くんに取られるかと」

「それ、点差見て言ってるのかな?」


 俺も翔子さんに抗議の意味を込めた視線を送る。今回は頑張ったのだが残念ながら2位という結果に終わってしまった。それも1位との点差はだいぶついた上での2位だ。


「それでも私からしたら雲の上の存在よ……はぁ……」

「優衣佳さんも順位は上がってるみたいだし、もうちょっとだから!」


 負のオーラが増した優衣佳さんが更にため息をつく。順位的にはこの中で一番下だが決して悪いわけではない。少なくとも平均はゆうに超えているし、このペースで上昇が続けば近いうちに優愛さんを打倒することも出来るだろう。


「それで、今回一番の懸念事項……雫はどうだった?」 


 俺はいつの間にか正面で机にアゴを乗せていた雫に目を向ける。もう号令後直ぐ雫が来ることに慣れてしまって気づいたら居た、という状況でも驚かない。


「はいっ!こちらをどうぞ!」


 そう言って差し出されるは一枚の紙。この紙に順位や平均が書き記されているのだ。テスト前に全員で勉強会した結果が出てもらっていないと困る。

 けれど万が一ということもあるし…………俺は恐る恐る折りたたまれた紙を広げて中身を確認する。



「えっと…………おぉ……14位。うん、これなら十分結果出てると言えるね」

「ありがとうございます!先輩方のおかげです!」

「おぉ~。おめでと~!」


 雫の結果は14位、学年上位10%以内に居るなら十二分に高いと言えるだろう。優愛さんも拍手を送っている。


「あとは優愛が人に教えられるようになれればいいのだけれどねぇ」

「おねぇちゃ~ん、それは言わない約束だよ~!」


 拍手を止めて後ろの席の優衣佳さんにすがりつく優愛さん。むしろ何故あんな考え方で答えが導き出されるか不思議でならない。


「ふふ……冗談よ。優愛もテスト頑張ったわね。今日の夕飯は優愛の好きな物にしましょうか」

「いいの!? それじゃあ……お寿司!」


「………ガリと卵だけのお寿司ならいいわよ」

「え~!? そんなのお寿司じゃないよ~!」


 上げて下げる様子に嘆く優愛さん。せめてイカとかも加えてあげて!


「ウソよウソ。お寿司ね、わかったわ」

「やったぁ!! お姉ちゃん大好き~!」


 今度は下がって上がる様子で優衣佳さんを力いっぱい抱きしめる。微笑ましい……最近女の子同士も許容し始めている自分が居る気がする。

 そんな2人の様子を眺めていると不意に背中を引っ張られた。


「うん?……翔子さん?」

「慎也くん……目つきがいやらしい」


 横には俺を見下すように冷たい目をしている翔子さんの姿が。


「嘘!?俺そんなに変な顔になってた!?」

「そうですよ~!慎さん、そういうのは全部私にぶつけてください!受け止めますから私!!」


 両手を俺の方に突き出してくる雫は放っておいて翔子さんに問いかけると彼女は首をゆっくり縦に動かす。自覚してなかった……。


「大丈夫。そんな慎也くんでも、許容するから」

「私も忘れないでくださいよ~!」


 俺が項垂れると2人の手が俺の頭に重ねられる。教室でこれは恥ずかしい……


「2人とも……教室ではちょっと……」

「え~?今更じゃないですかぁ?」

「そう。もう誰も気にしない」


 視線だけを動かして辺りを確認するも確かに誰も俺たちを見ている生徒は居ない。それはそれで慣れすぎな気もするけど……。


「ほんとだ……」

「というわけで! 大人しく撫でられていてくださ~い!」


 雫がだんだんと撫でる力を強くしていく。どこまで行くのかふと気になってあえてされるがままでしていると一人の手によってそれが遮られた。


「はいはい。2人とも始めると終わらないんだからもう十分でしょ。いい時間になったから学校を出るわよ」

「はぁ~い……」


 その声は優衣佳さんのものだった。雫も翔子さんもその言葉に従って手を引っ込めると緩みきった空気がまとまっていく。


「ありがとう優衣佳さん、助かったよ」

「いえ、今度私にも慎也くんを撫でさせてね?」


 ……どうやら俺が撫でられる未来は避けられそうにないようだ。







「そうだ。私たち、これから家の用事があるから」


 校舎を出たところで優衣佳さんが思い出したように声を発する。


「あれ?じゃあ先輩方はここでお別れですか?」


「えぇ。叔母さんがそろそろ出産で祖母の家に預けられた子を見るためにね」

「一応……戸籍上は妹ってことなんだろうけど、全然会わないから親戚の子って感じなんだよね~」


 妹だけど親戚か……離れて暮らしていると否が応でもそうなってしまうのだろうか。俺に抱きつくハズの紗也が優愛さんに抱きついたように……あっ泣きたい。


「それじゃあ、今日は私たちが慎さんを独占していいんですね!」

「……しょうがないわね」

「やったっ!」


「ねぇ、俺の用事を聞くこと忘れてない?」


 無駄だろうけれど一応異を唱えてみる。一応当事者なんだけどな……


「慎也くん……何か用事、あったの?」

「いや、ないけど……」


 後ろにいる翔子さんが聞いてくれる。

 そこで聞かれるとなにもないから恥ずかしくなってしまう、複雑な男心。


「そう……よかった―――」

「あっ!きたきた! お~いっ!!」


 俺たちが校門に差し掛かったところでそちらから声がかかる。周りには俺たち以外生徒はいない。校門の外には何者かが2人、俺たちに向かって手を振っているようだった。


「へっ……あの2人って……」

「あぁ~! まぁた慎さんを狙いに来たんです……むぎゅっ!」


 来訪者に詰め寄ろうとする雫の両肩を掴んでおとなしくさせる。

 その2人は俺にも見覚えがあった。


「やぁ少年。私たちのこと覚えてるかな?」

「久しぶりっ。あの日以来だね」


「はい。お久しぶりです。――――マキさん、ミキさん」


 その2人は夏祭りに世話になった2人の女子大生だった。


次回更新は2日後の22日です

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