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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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112.海外式の…


「――――ふぅ……疲れたぁ」


 俺は誰も居なくなったリビングでソファーにダイブして寝転がる。


「もう、風邪なんてどこか行っちゃったな……」


 そうつぶやくも誰の耳に届くことはない。この部屋には今俺一人だ。


 父が帰ってからは事はトントン拍子に進んだ。

 どうにも父は紗也から彼女たちのことを聞いていたようで俺たちのことを把握しており、今日のところは簡単な挨拶だけしてお開きとなった。

 今父は長旅の疲れを取るためにお風呂に入っていて母と紗也は4人を送りに行っている。そんな中手持ち無沙汰になった俺はすることもなくソファーに寝転がりながらテレビを見流す。


 それにしても今日は色々なことがあった。風邪でダウンしてたと思ったらみんなが合鍵を使っていつの間にか入って来て、鍋を囲んだ後は家族が帰ってくるとか……疲れた。もう、寝てしまいたい――――






「ぉーぃ……しんや……慎也ー」

「ん……ぁ……?」


 そのままソファーでウトウトとしていたら父の呼ぶ声によって意識が現実に引き戻される。もうちょっとで寝入るとこだったのに。


「父さん……」

「こんなところで寝てたら風邪引く……そもそも風呂入っていないだろ。明日の朝に入るか?」

「いや、今のうちに入るよ。汗流したいし」


 それにもう風邪は引いているし。


「そうか。でもちょっといいか?」

「いいけど、なに?」

「いやなに、このまま慎也に風呂入られると母さん達が帰ってきそうでな……その前に話そうと思って急いで出てきたんだぞ?」


 時計を見るとまだ父が入ってから15分しか入っていない。長風呂気味の父からしたら驚異的な早さだ。


「了解。お風呂はいつでも入れるしね」

「助かるよ……隣いいか?」

「ん」


 俺は父に促され寝転がっていたソファーを座り直し隣に腰を降ろしてくる。3人がけのソファーの両端に二人いるといった様子だ。

 父は流れるようにテレビの音量を適度なBGM代わりにとを下げてから俺の方に顔を向ける。


「なぁ……俺、そんなにお前と似てないかな?」

「……第一声がそれ?」


 何を聞くかと思えばそんなこと。


「だってな、血を分けた息子なんだからそれはそう思うだろ」

「俺にはその気持ちがわからないけど……今まで母さん似とは言われても父さんに似てるとは言われた記憶はないね」


 父は「だよなー」と目を覆う。そんなに彼女たちに言われた事を気にしているのだろうか――――




 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――




「慎也くんのお父さんって……あんまり似てない、ね?」


 それは紗也と母さんも手洗いから戻ってきてそれぞれの紹介が終わった頃に小さく漏れたつぶやきから始まった。

 優愛さんがボーッと俺と父さんを見比べていると思ったらそう言葉を発したのだ。


「ちょっと優愛!失礼でしょ!」

「……あっ! ごめんなさい!つい言葉に出てしまって!!」


 それが失言だと優衣佳さんに促され優愛さんは父に向かって頭を下げる。しかし等の父は気にした様子もなく柔和な笑みを崩さない。


「気にしないで、よく言われるから。 なぁ慎也」

「うん、俺は母さん似だしね。 優愛さんがそう思ったのは目じゃないかな?」

「う……うん……」


 俺の言葉に優愛さんは肯定する。確かに俺と父は似てなくその最たるものはこの目だ。父は垂れ目なのに対して俺はツリ目気味。他のパーツも大体は母に寄っていて親子に思われないときもしばしばあった。


「で……でも!お父様もとっても素敵だと思いますよ!」


 なんとか取り戻そうと必死にフォローする優愛さん。気にしなくてもいいのに。

 けれどそれを真に受けた人物が一人。


「おぉ……紗也、聞いたか?俺、素敵だって。 まだまだ俺も捨てたものじゃ――――あだぁ!!」


 その言葉を遮ったのは母だ。

 母はお風呂上がりに持っていたフェイスタオルを思い切り振りかぶって父の背中にフルスイング。それをモロに受けた父は痛みに耐えるためしゃがみこんでしまった。哀れ。


「えっ……えっと……大丈夫、ですか?」

「気にしなくていいのよ?優愛ちゃん。 自業自得なんだから」

「は、はい……」


 優愛さんが一瞬父に歩み寄ろうとしたがすぐに元の場所へと戻っていく。


「それにしても今日はみんなで迎えに来てくれて嬉しいわ。あ、帰り大丈夫?送って行きましょうか?」

「いえ、慎也君から今日帰ってくるとお聞きしてせめてお迎えしようと思い至りまして……」


 母のお礼に優衣佳さんが苦笑いを浮かべながら乗っかる。そりゃあさっき知っただなんて言えないだろう。


「それに送りなら翔子さんをお願いできませんか?雫さんは迎えが、私たちは家が近いので大丈夫です」

「ついでだし貴方達も送っていくわよ。 もういい時間だしね」


 時計を見るともう20時も回って外を出歩くにも怖い時間だ。俺も賛成とばかりに首を縦に振る。


「そ、それならお願いできますか?」

「はい、任されました! じゃあ早速行こうと思うのだけれど準備はいい?」


 3人が帰ってくる前に帰る準備をしていたのでそこらへんはバッチリだ。荷物も隅に纏めてある。

 彼女たちはその言葉に従ってそれぞれの荷物を持ち出した。



「もちろんです。いつでも――――」

「あ。 でも、一つ忘れてない?」


 優衣佳さんの言葉を遮ったのは紗也だ。紗也は何やら思い出したかのように言葉を紡ぐ。


「ほら、お兄ちゃんに挨拶しなきゃ。 帰りのハグとか」


「………………!?!?!?」



 紗也!?どういうこと!? 向こうに居る期間が長すぎて影響されすぎじゃない!?

 隣にいる母も思い出したかのようにうなずいているし!  狼狽えてるの俺たちしかいないじゃないか!


「……そうだ!父さんは!?」


 俺は助けを求めるため辺りを見渡す。けれど先程まで悶ていた場所に姿は見当たらない。


「パパならさっきお風呂に行ったよ?」


 いつの間に……


「ということで私から……ギュー!! 男の子へのハグはパパとお兄ちゃんだけなんだから光栄に思ってよね!」

「あ、ありがと……」


 俺はいきなり抱きついてきた紗也を思わず受け止めてその頭を撫でる。紗也も送りに行くのね。


「…………はいっ!それじゃあみんなもどうぞっ!」


 ひとしきりハグして満足したのか紗也はスッと俺の前から退いて彼女たちに譲る。けれどみんなは顔を見渡すばかりで動こうとしない。


「優愛……お先にどうぞ?」

「えっ……お姉ちゃんこそ一番は譲るよ……」


 もはや譲り合いが発生しているようだ。俺はそんなものは抜きにして早く送ってと口を開いたところで胸元にポスンと衝撃が走る。


「「あぁっ!!」」

「誰も行かないなら……一番のり」


 俺の胸元に飛び込んできたのは翔子さんだった。彼女は腕を自身の胸元に曲げて小さく丸まってこちらに視線を向ける。

 これは……腕を回せということだろうか。


「えっと……それじゃあ……」

「ん。くるしゅうない」


 よかった、間違ってはいないようだ。

 その後10秒ほど無言の時が続いたあと折りたたんでいた腕を伸ばすように俺から離れる。


「満足。次どうぞ」

「はい!それじゃあ次失礼します!」

「へ……? うぉっとっ!」


 そんな翔子さんの視線を受けたのは雫だった。彼女はその合図の直後、手を前にして俺にタックルするように俺に抱きついてきた。


「これでお別れなんて寂しいです!慎さん!」

「お別れって明日も会えるでしょ」

「あ、バレました?」


 雫は何も気にすること無く明るく振る舞う。そんな彼女に押されるように俺も会話に意識を集中させる。

 ……そうじゃないと、俺の腹部に柔らかい感触が………!!


「……よしっ!それじゃあ後はお二人ですね!」


 ひとしきり満足したのか雫も俺から退くように離れて残る2人に視線を向ける。

 2人はしばらく顔を見合わせていたが優愛さんが意を決したように一歩前に足を出した。


「……それじゃあ、いくね?慎也くん」

「ど、どうぞ……」


 彼女は俺の目の前まで足を伸ばし、上目遣いで許可を得たと同時にギュッと俺の胴体を強く抱きしめる。


「~~~~っ! ごめんね!慎也くん!」


 5秒も経っていないくらいだろうか。優愛さんは俺を力いっぱい抱きしめた後飛び退くように離れて翔子さんと雫の元へ走っていく。

 あと残るのは……


「えっと、私も、いいのかしら?」


 優衣佳さんだ。彼女は右手で左腕をこするようにモジモジしながらこちらへと問いかける。


「優衣佳さんが……良いのなら……」

「私はそんな……慎也君が迷惑じゃないなら、失礼するわね……」


 一歩ずつ小さくこちらに来るもそれは肩が触れるくらいの優しいものだった。

 そう言えば彼女と向き合ってハグするのはこれが初めてかもしれない。すこし頭を下げて見るとその耳は真っ赤になっていた。


 俺も彼女を刺激しないようそっとその肩へと手をやる。

 一瞬、優衣佳さんは触れると同時に肩を震えさせるもそれはすぐ止み俺に体を預けてくれた。


「ごめんなさい。みんなみたいに抱き心地の良い小さな体じゃなくて……」

「そんなことないよ。優衣佳さんも温かくて優しい感じがする」

「そう……?」


 しばらくそうやって肩に手を触れさせているとふと腕を動かそうとしている気配がした。もしかして俺に手を回そうとしてくれているのだろうか。俺は彼女が動くのを見守っていく。

 ゆっくりと動いたその手が俺の脇腹を通って背中に回ろうとしたところで――――



「こほんっ!」

「「!!」」


 俺たちを現実に引き戻したのは一つの咳払いだった。

 俺たちは即座に離れ、見ると母がジト目でこちらを見ている。


「さて、もういいかしら。行きましょ?」

「は……はい!!……ごめんね慎也君、それじゃ!」


 優衣佳さんも現実に戻ったようで俊敏な動きを見せて廊下に出ていく母の後を追っていく。


「お、おやすみ……」


 リビングに一人取り残された俺はポツリと小さくつぶやいた。


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