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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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111.二組目の来訪


「―――だから、ウチの合鍵を持っていたと」


 空になった土鍋を囲んで5人がテーブルに向かい合う。


 4人が知らないうちに家に居た原因は判明した。我が妹……紗也の差し金だ。

 紗也は向こうに戻った後もメッセージで彼女たちとやり取りをしていたようで思ったよりも紗也からの好感度が高かったためか、むこうで母を説き伏せてウチの合鍵を先週エアメールで届けていたそうだ。ご丁寧に「お兄ちゃんをお願いします」と一筆添えて。


「紗也もなんで俺に言う前に渡したの……」

「一応、取り決めはしたのよ? 慎也君の迷惑にならない範囲なのと4人の意見が一致した時だけって」


 うなだれている俺に優衣佳さんが申し訳無さそうに補足する。別に彼女たちに怒っているわけではない、むしろお見舞いに来てくれた上料理も作ってくれて感謝している。


「いや、怒ってないよ……むしろありがとう。正直、風邪で心細かったから嬉しい。でも問題は……」

「問題は?」


 問題は紗也だ。鍵を渡して出入り自由にするのならば一言俺にメッセージ送ってくれてもいいんじゃないかと……


「紗也……俺に何も言ってこなかった……」

「それは……」


 俺の嘆きに優衣佳さんは同情の視線を寄せてくる。そんな折、何かを思い出したように声をあげるのがここに一人。


「あぁ!」

「ヒャッ!……どうしたんですか優愛先輩。ビックリして変な声出ちゃったじゃないですか」

「ごめんごめん……慎也くん、その時のエアメールだけどね、こんなものも一緒に入ってて……」


 そう言って優愛さんがバッグから取り出したのはは一枚の小さな便箋。未開封のまま持っていてくれていたようでそこには俺の名前だけが記されている。


「優愛……なんで鍵と一緒に私に言わなかったのかしら?」

「それが……中身を見た時に落ちちゃったみたいで、拾ってバッグに入れてから忘れちゃってて……」

「はぁ……。よりにもよって大事な手紙を……」


 そんなやり取りを聞き流しつつ俺は中身を確認する。


 なになに……要約するとメッセージを送っても返ってこないから手紙にした旨、今回の鍵の件、更には…………


「慎也くん、顔青い」

「へ……? あ! 慎さんどうしたんです!?真っ青ですよ!!」


 翔子さんと雫が俺の元へ駆け寄って来てくれるも俺には対応する余裕がない。ただただその手紙を何度も読み返して内容を咀嚼する。


「慎也君、手紙見せてもらっても?」

「……はい」

「ありがと…………これは……!」


 優衣佳さんに手紙を渡すと同じように何度も見返しているようだった。

 ひとしきり内容を把握したところで彼女はみんなに向かい合う。


「あのね……落ち着いて聞いてほしいのだけれど、慎也君のご家族が帰って来るそうよ」

「それならいいことだと思うけど」


「いえ、それが……今日到着予定。それももうすぐ家に着くようなのよ……」

「…………へ?」


 楽観的に捉えていた優愛さんが一転、一気に汗が吹き出してくる。

 俺だってそうだ。もう帰ってくるにしてもこの状況をなんて説明しようか。夜遅くまで遊び呆ける為に一人暮らしを許したんじゃない!と言われる可能性だってある。


 母は楽観的だから大丈夫なものの父は穏やかで優しい…………あれ、大丈夫じゃ?


 よくよく我が家の家族の事を思い出すも、一番の難関だと思われる紗也は説明するまでも無いし軽く父に説明するだけでどうにかなる気がしてきた。

 最初は何の準備もしていないと焦ったけど、一番の実権を握っている紗也が承知なら問題ない……と思う。それなら今やるべきことは……片付けか。


「どどどどどうしよう!? なんのお土産も準備してないよ! あ!せめて今からでも挨拶を考えないと!!」

「優愛、落ち着いて」

「はうっ!?」


 人一倍焦って席を立った優愛さんは対称的に冷静な翔子さんの手によって再び椅子に座らされてしまう。


「慎也くん、私たちはどうすればいい?」

「うん……とりあえず、鍋片付けようか」


 こういう時冷静な人が居ると引っ張られて凄く助かる。俺は風邪を引いているのも忘れて家族が帰ってくるための片付けを始めた。






「…………そう言えば、2人は帰らなくていいの?」


 俺が洗い物をしている横でお皿を拭いてくれている翔子さんと雫に問いかける。


「ん。タクシーで帰ってもいいし、最悪ここに泊まっていく」

「私も連絡したら迎えに来てくれるので大丈夫ですよ~! もちろん泊まりもウェルカムです!」

「泊まるのは勘弁してほしいかなぁ」


 俺一人なら最悪なんとかなるが両親も居るとなると難しい。


「むぅ……今日は仕方ない」

「慎也く~ん! リビング終わったよ~!」


 翔子さんが諦めてくれたところでリビングから優愛さんがやってくる、どうやらそっちの片付けも終わったみたいだ。


「ありがと、俺たちも今終わったとこ。 あとは―――」



 ひとしきり片付けが終わったところで扉の鍵が開くの音を感じ取った。よかった、タイミングはバッチリだ。


「ただいま~。って、いっぱい靴あるわね」

「この靴は……お姉ちゃんたちの!」

「紗也!?せめて手を洗いなさ~い!」


 廊下のほうから話し声が聞こえたと思ったら廊下からバタバタと誰かが走って来る音がする。

 しばらくそちらを凝視していると勢いよくリビングの扉が開いて夏ぶりの紗也の姿が現れた。紗也はその速度を落とさずにソファーで待っていた優愛さんへと突撃する。


「優愛お姉ちゃん!ただいま~!」

「おかえり! 元気だった!?」

「うん!!」


 そうして咲くは百合の花。いつも帰ってきたら俺に抱きついて来てたのにその役目が優愛さんに取られて寂し……寂しくなんてない。


「ほら紗也……お兄ちゃんの前に手を洗い……あら、みんな来てるじゃない!」

「は、はい。お久しぶりです。……キャッ!」

「夏ぶりね~!元気にしてた~!?」

「お、お母様もお変わり無いようで……」


 母は4人を見るやいなや優衣佳さんをその胸に抱きしめる。優衣佳さんが動揺してるじゃないか。手洗いはどうした。



「ママ!そんなことしてないで手洗いに行くよ!」

「ぶ~……私もみんなと親交深めたいのに~」


 優愛さんとのハグが終わった紗也は母を引っ張って洗面所へ。ミイラ取りがミイラとはこのことか。


 そうして2人が廊下へと消えたと思ったら再度扉が開き別の何者かがリビングへ入ってくる。



「……やけに騒がしいと思ったら……お客さんかい?」


 その者は黒のスキニーに朱色のニット、そして紺色のチェスターコートを着こなした白髪交じりの男性だった。

 彼はリビングを見渡しながら穏やかな口調で俺に優しく問いかける。 


「あぁ……今回は帰ってきてたんだね――――」


 その半年ぶりに見る姿に懐かしさと変わりない様子で安堵し、つい頬が緩んでしまう。



「ただいま。 元気そうでなによりだよ、慎也」


「おかえり――――父さん」



 その男性……父は俺の顔を見たと同時に淡く微笑んだ。


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