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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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107.結局はいつものように……

「…………大丈夫?」

「うん……ありがと、平気だよ」


 俺は今フラフラになりながら翔子さんに支えられて歩いていた。


 あれからクレープで腹を満たしたのはよかったのだがあまりにも上機嫌な様子で翔子さんがトッピング全部乗せを頼むものだから断る事ができず、クレープメガ盛りが俺の手に渡ることとなった。

 それをなんとか完食することはできたがさすがはカロリー爆弾。一気に食べたせいからか俺の胃は悲鳴を上げていた。


「ごめん……」


 俺のために頼んでくれた翔子さんが謝ってくる。一応、彼女もある程度食べてくれたが早々にリタイアしたからだろう。申し訳無さそうな顔を向けてくる。


「ううん。俺も食べられると高く食っていたし……何より翔子さんの幸せそうな顔がすっごく可愛かったからね」

「っ!! …………~~~~~!!」

「あだっ! ごめんって!」


 翔子さんは笑っていることに自覚していなかったのか顔を真っ赤に染めて俺の肩を叩いて抗議してくる。けれどもその抗議は全く力の籠もってないものだった。


「もう……!知らないっ」

「あはは……。 さて、多少は楽になったし次はどこ行きたい?」


 少し時間を置いたら多少だが楽になっていた。 こんなことなら運動して胃も強くしていればよかったと多少後悔する。


「それじゃ……科学準備室」

「なにそれ? あそこって何か出し物やってたっけ?」

「やってない……慎也くんの体を休めるため」

「……そっか」


 なんだかんだ言って彼女の心遣いに胸が熱くなる。まだ回り足りないだろうに。


「それじゃあ、ちょっとだけ休んでまたすぐ回りに行こうか」

「ダメ。慎也くんは無理するから安静に」

「でも、それじゃあ」


 せっかく一緒に回る日が台無しになってしまう。俺が続けようとすると口元を手で制された。


「平気、物ならどうにでもなる。それに……」

「それに?」

「別に今ダメだからって次があるから」


 それは、吹っ切れたのだろうか―――

 彼女は全く気にする様子も見せず俺の肩を背負いながら科学準備室までの道を歩いていった。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「ふぅ……やっと着いたね」

「お腹、痛くない?」

「うん。適度に運動して消化したのかな?でもちょっと喉乾いちゃったよ」

「ん。 それならすぐ解決する」


 それはどういうことだろう。ここらへんには水飲み場は無いし買っても来なかった。

 けれども彼女が道を開けるように鍵の掛かっていない科学準備室の扉を開けたことでその疑問は一気に解消されることとなる。





「ん! ふぃんやふん、おふぁえり~!」

「こら優愛、食べてる途中に話さないの。 おかえりなさい、慎也君」

「やっぱりここにきたんですねっ!慎さん!」


「………なるほど」


 そのやり取りだけで殆どの疑問は解消された。

 彼女たちはここに来る前に買い込んでいたようで机にはかなりの量の食べ物や飲み物が散乱していた。

 翔子さんはこのことを知っていたのだろうか……けれどさっきのやり取りからして、少なくともいつものメンバーがまた勢揃いすることは予測していたようだ。


「ただいま? えっと、先生は?」

「さぁ?」

「さぁって……」

「私たちが来たと同時にここを頼むってどこか行ったのよ。案外文化祭を満喫してるんじゃないかしら」


 それはない……とも思ったが案外優衣佳さんの言う通りかもしれない。なんにせよゆっくり出来る場所が出来たのは僥倖(ぎょうこう)だ。


「翔子ちゃん……」

「……なに?」

「もう……いいの?」


 ずっと入り口に突っ立っていた俺の横でずっと支えてくれている翔子さんに優愛さんが声をかける。


「ん。 十分。慎也くんは私たちのものだから」


 一瞬の逡巡を見せることも無く翔子さんは穏やかに答える姿に優愛さんも息を吐く。

 翔子さん、俺は俺のものだからね?


「そっか! それじゃあいっぱい買ってきたからみんなで食べよ~! 慎也くんは何が食べたい!?」

「俺はさっきいっぱい食べたから飲み物あるかな?」


 殆どクレープでの甘いものだけど。しばらくしたら焼きそばとか食べたい。


「飲み物ね!お茶でいいかな?」

「うん、ありがと」


 優愛さんはカバンから未開封のペットボトルを俺に手渡してくる。

 よかった……これでストロー付きの紙コップを突き出された時はどう逃げようかと画策していたところだったよ。



(会長さん会長さん!)

(なに?)

(その様子だと……告白してきたんですね!)

(ん……ちゃんと伝えてきた)

(よかったです!それで、答えはやっぱり……)

((保留!))


 いつの間にか離れていた翔子さんは雫と会話していたようで突然笑い声が上がり遠巻きに見ていた俺は内心仰天する。

 2人で何を話していたのだろうか……


「慎也君」

「ん?」

「慎也君は2人きりのデート、どこ行ってきたのかしら?」


 俺も椅子に座りお茶の美味しさを堪能していると優衣佳さんから声が掛かった。デート……否定できない。


「えっと……同じ学年のケーキを売ってるカフェかな。あとはクレープの2つだけだよ」

「そう。 カフェは美味しかった?」

「美味しかったよ。そこそこ列も出来てたみたいだし人気になりそう」

「それは……複雑ね」


 それはそうだろう。カフェはだいたい客の奪い合いのパターンが多くなる。それに今回はメインの品は違えど殆どコンセプトは同じだ。完全な商売敵といっても過言ではないだろう。


「そう言えばウチのクラスの様子は見てきた?」


 とりあえず今日明日のことは他の面々に任せてるわけだし、今のウチはどうなっているのだろう。


「結構人気みたいだよ!安価で美味しいプリンって話題なってた! さすがお姉ちゃんと慎也くんが作ったプリンだね!!」


 代わりに答えたのは優愛さんだ。そっか、それはよかった。


「そうね。優愛も頑張ってたわよ」

「お姉ちゃん……!」

「立派な試食係としてね」

「それ……褒めてるの?」


 褒めてないと思う。


「えぇ、もちろん。優愛がいなかったら私たちが試食することになって体重が増加することになってたもの」

「それお姉ちゃん怒ってるやつだ~! うわ~ん!慎也く~ん!!」


 座ってる俺の腹部に腰を回してくる優愛さん。うーん……優愛さんは結構試食してたハズなのにウエストに変化が見られない……不思議だ。


「慎也君……?」

「あっ、ごめん」


 俺が優愛さんの腰回りを見ていたことを察した優衣佳さんが怪訝な目を向けてくる。


「? どうかしたの?慎也くん」

「い……いや、何でもないよ!」


「慎也君は優愛のお腹回りをじっくり見ていたわ。もしかして太ったことに気がついたのかしら?」

「優衣佳さん!」

「妹のお腹見て鼻の下伸ばしてたお返しよ」


「そ……そんなことないもん! うわ~ん!慎也くんまでイジメるよ~~!!」


 一気に俺から距離を取ったと思ったら今度は翔子さんに抱きつく優愛さん。優衣佳さんはクスクス笑ってるし……


「優衣佳さん……」

「あら、私だって嫉妬の心を持ってるのよ? あんまり乙女のお腹を見てたらダメってこと」


 前半はともかく後半はごもっともな意見だ。俺はぐうの音も出せずに黙ってお茶を口にする。


「し~んさん!」

「うぉっ! 雫?」


 突然の雫が後ろから抱きついてきてペットボトルを落としそうになる。

 しかし彼女はそんなことを気にすることもなく俺の耳元に口を近づける。


「聞きましたよ。会長さんも告白したんですってね」

「…………うん」

「それに答えを保留にしたってことも。いやぁ、慎さんは幸せものですね~」

「……ごめん」


 最初に告白した彼女からしたらきっと面白くない話だろう。俺は素直に謝罪の言葉を口にする。


「冗談ですよ~!もし会長さんを拒絶したり別の答えだったらそれこそ私が慎さんに愛想つくかもしれませんし……嘘です!私は永久専属マネージャです!!」


 雫は俺の肩にアゴを乗せ明るく応える。永久なのは置いといて、俺の回答綱渡りすぎない?


「ともかく!私は慎さんの専属マネージャーでもありますがみんなとも仲良くしたいのです!……忘れないでくださいね?」

「う……うん」


 俺の情けない返事に彼女は「はいっ!」と俺から離れて翔子さんの元へと行ってしまう。そして入れ替わりに優愛さんが……


「うわ~ん!おねえちゃ~ん! 今度は翔子ちゃんにセクハラうけたよ~!」

「はいはい。大変ねぇ」


 今度は優衣佳さんに抱きつく優愛さん。


 そんな光景を見て雫に言われた言葉を反芻する。みんなと仲良くしたい……それは同じ気持ちだ。こんな景色がいつまでも続けばいいのにと、4人が騒いでいる科学準備室の中で改めて噛み締めていった―――


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