表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/163

105.ストロベリーリキッド


「はぁ…………ウチの弟はなんでこんな可愛い子を振っちゃったのかしら」

「誰が誰の姉だって?」


 階段を降りて俺たちの前に立ちふさがった自称姉―――エレナは手を頬に当て憂う仕草を見せる。


「そんなのキミに決まってるじゃない。 弟がこんなヘタレでごめんなさいね、代わりに謝罪するわ」

「翔子さんごめん、驚かせちゃったね。 この人のことは気にしなくていいから」


 俺は翔子さんに近づこうとするエレナを押しのけ彼女の様子を伺う。しかしその目は虚空を見ているようで……



「翔子さん……?」

「あっ…… えっと、慎也くんがお世話になって、ます…………お姉さん」


 しばらく固まっていた翔子さんは我を取り戻したようでエレナに頭を下げる。

 当のエレナは押しのけたことに対して抗議している気がするがそんなものは気にしない。


「翔子さん、この人はただ自称してるだけで俺と血の繋がり無いからね」

「えっ……じゃあ、誰?」


 信じかけていたであろう翔子さんを寸前で引き止める。

 誰……なんて言おう。夏休みに会ったことは翔子さんも承知しているはずだからそう説明すればいいのだが、それだと今度はエレナの意思にそぐわないかもしれない。一応変装して学校まで来ているのだから極力正体を知られるのは避けたいだろう。となれば………


「ほら、不審者。自己紹介」


 となれば本人に丸投げするだけだ。


「誰が不審者よ」

「その年で10月半ばに半袖短パンは十分怪しいと思うけど?」

「これは寒いの我慢してキミが見つけやすいように………まぁいいわ。私は姉の――――」


「それ以外で!」

「注文が多いわねぇ……なら、これでいいかしら」


 エレナは周りに人が居ないことを確認してからサングラスと帽子を放り捨て、俺たちは太陽に照らされた金髪に一瞬目を奪われる。


「エレナよ。よろしくね、翔子ちゃん?」

「あっ………えっと………たしか………」


 エレナの立ち振舞いに声が出ないであろう翔子さん。きっとエレナのことをテレビかなにかで知っていたのだろう。



「うんうん。こういう反応を待ってたのよ。 誰かさんったら私のこと知らなかったし――――」

「泥棒猫……!」

「あれぇ!?」


  翔子さんが予想していた反応と違ったようで驚きの表情を隠せないエレナ。 泥棒猫とは………


「どういうこと!? なんでキミの周りは予想した反応しないのよ!」

「そんなの俺に聞かれても……。翔子さん、その……泥棒猫って?」


 エレナに揺さぶられるのを抑えながら恐る恐る問いかける。



「これ…………夏祭りの日と先月の土曜日、慎也くんをたぶらかした泥棒猫」

「この写真……! 誰から!?」


 翔子さんに差し出されたのはスマホの画面……そこに表示されている写真には見覚えがあった。

 写真には雫の家の前で俺とエレナが会った時の様子が映し出されていた。それも金髪をたなびかせているエレナの後ろ姿もセットで。


「み……書紀の子から」

「あの人か……」


 きっと俺が見知らぬ人と一緒に居たから撮って翔子さんに知らせたのだろう。あの場に居たとは気が付かなかった。


「送られた次の日に聞こうと思ったけど、聞きそびれてた」

「ちなみに、優衣佳さんらは……?」

「大丈夫。私しか知らない」


 一応確認した情報にひとまずホッとする。やましいことなどなかったとはいえ彼女たちに知られたら尋問に遭うだろう。特に雫。



「翔子さん……確かにあの日会ったけど偶然だし、恋愛とかそういうのは全く無いからね……?」


「ん。 平気、信じてた………でも」


 言い訳がましくなった説明に納得してくれた翔子さんは俺の腕を引っ張ってエレナとの間に立って続ける。


「泥棒猫に……慎也くんは渡さない。慎也くんは私たちのもの」

「………そう」


 そう両手を広げて宣言する。俺、守られる立場なの?

 俺たちのやり取りを黙って聞いていたエレナはその言葉を受けて同様に両手を広げ、翔子さんに近づいてくる。


「何する、気?」

「私たちのもの、ねぇ………」


 手を広けたまま魔王の如く近づいてくるエレナ。俺も後ろに居ながら翔子さんを傷つけさせまいといつでも動けるように身構える。





「だからアイドルといえども入る隙は…………ワプッ!!」

「~~~~~!! この子、本当にいい子じゃない!!」

「……へ?」


 そんなエレナの突飛な行動に変な声が出てしまった。

 彼女は目の前まで近づいて来たと思ったらその両手を翔子さんの背中に回して一気に抱きしめたようだ。


「愛しい人を体を張って守るなんて今どき珍しくいい子じゃない! それにすっごい可愛いし芸能界入っても十分やっていけるわ! 翔子ちゃんだったわよね?私たちのグループに入って一緒に頂点の道を歩まない!?」

「えっ……その……」


 いきなりの出来事に抱きしめられている翔子さんも混乱しているようだ。

 これ、傍からみたら中学生の妹が年の近い姉に会いに来たとも取れそう。翔子さんが中学生に見えるかどうかは微妙だが。



「でもそれなら他の2人の了解を得なければならないわね……でも大丈夫よ!私がなんとかするから! 取り急ぎ住まいは移動に便利な私のウチでいいかしら?あそこなら防犯も良いしきっと貴方ならすぐ近くの部屋も取れるようになるわ!!」

「わかった!わかったからとりあえず止まって!」

「わっぷ!」


 いつの間にか勝手に話の進めているエレナの頭に転がっていた帽子を思い切り押し込む。

 翔子さんも圧倒されて何も言えなくなってるじゃないか。


「翔子さん、平気?」

「ん………ありがと」


 エレナから翔子さんをなんとか引き剥がして俺の元へ。俺の体で受け止めた翔子さんは一瞬胸に顔をうずめたと思ったら直ぐに背中へ隠れてしまう。


「エレナ………」

「つい暴走してしまったわ。 翔子ちゃん、ごめんね」

「ん、大丈夫」


 そうもいいつつ俺の背中から離れようとしない翔子さん。まだ警戒しているようだ。


「それにしても、そんなに弟が愛されてるなんて姉として嬉しいわ」

「まだ続けるんだねその設定」


 エレナは帽子とサングラスを整えながら涙を拭う仕草を見せる。一瞬、愛されてるという言葉に俺の背中を掴む力が強くなったような気がした。


「当然よ、私がそう決めたんだもの。 翔子ちゃん心配しないで。貴方達から奪うつもりは毛頭無いわ」

「……そう」


 翔子さんは納得したのか少しだけ背中から体を出す。


「でも、貴方を私たちのグループに勧誘したいのは本当よ? どう、アイドル興味ない?」

「そうしたら慎也くんと会える時間が減る。 嫌」


 その言葉を受けて肩をすくめるエレナ。俺もつい顔が暑くなっていまう。


「それなら仕方ないわね……それじゃ、振られたことだし私は家に帰ろうかしら」

「なにかすることでもあったんじゃないの?」


 そのままあっさり踵を返して立ち去ろうとしたエレナをつい引き止める。



「……ちょうどオフとここの文化祭が被ったから見に来ただけよ。弟の様子も見れて目的は達したわ」

「そっか……ありがと」


「いいのよ。 それじゃ」

「エレナ……」

「モテモテね、私」


 再度エレナが帰ろうとしたが今度は翔子さんが引き止めたようだ。エレナは振り向いて翔子さんと目を合わせる。


「ありがと。告白の応援してくれて」

「………何のことかしら」

「私が慎也くんに告白する時、隠れて応援してくれてた」

「………知らないわね。幻覚じゃないの?」


 無情にも突き放そうとするエレナ。けれど横から見えるその顔は笑みを浮かべていて俺でも嘘だということがわかる。


「だから、ありがとう」

「ま、ありがたく受け取っておくわ。 それじゃあ今度こそ行くわ……二人とも、私たちのグループ『ストロベリーリキッド』をよろしくね」


 それだけを言い残して今度こそ立ち去ったようだ。 グループ名、ストロベリーリキッドっていうんだ……


「ふぅ。 最後まで嵐みたいだったね」

「でも、悪い人じゃなかった」

「そうだね……」


 俺の姉と勝手に名乗ったり不審者みたいな人だが邪気も無く悪い人じゃないのはよく分かる。ただ暴走するだけで。


「それじゃ、お店見に行こっか」

「ん」


 翔子さんは俺の腕に手を回し抱きしめるようにピッタリとくっつく。

 俺はその姿に少しだけ笑みを浮かべ人の多い露店まで歩き出した。


これより普段どおり毎日、たまに2日に一度になると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ