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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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102.夢からさめたあとは

 日曜日の午後。江嶋さんからお菓子作りを教わった翌日だ。

 俺たちは事前にやり取りして文化祭のための相談会を開くため優衣佳さん、優愛さんの家に集まっていた。けれどどういうことだろう。普段ならもっとのんびりした居心地の良い空間が今日に限っては誰も何一つ声を上げない非常に重苦しい空間となっていた。


「え~と……どうしたの?みんな」


 俺が全員に声をかけると一斉に顔を逸らされる。昨日なにかあったのか?


「………優衣佳さん?」

「……今はそっとしておいて」


 優衣佳さんは机に伏せて顔を隠す。それはいいんだけどなんで制服姿なの……今日は休日なのに。


「優愛さん?」

「えへへぇ………慎也くんったらぁ………」


 優愛さんはどこか妄想の世界にトリップ中。どうしよう………目覚めさせたくない。


「それじゃあ、翔子さん?」

「!! ………ふしゅ~~!!」


 次に翔子さんへ顔を向けるやいなや彼女は勢いよく立ち上がるとともに優愛さんの影に隠れてしまった。その上威嚇してきてるし。


「まったく、何があったかは知りませんが3人とも何やってるんですか」

「雫ぅ………」


 そんな3人に呆れた様子で雫が席を立ちこちらに近づいてくる。俺は無事だった人物がいてくれたことに感極まってしまう。


「そんなに慎さんのことを邪険に扱うのなら今日は私が慎さんとデートってことでよろしいですね?」

「「「それはダメ!!!」」」


 3人が同時に顔を上げて雫に抗議する。


「慎也君ごめんなさい。今朝ちょっと変な夢を見ちゃったみたいで……」

「それはいいんだけどさ………なんで優衣佳さんは制服姿なの?」

「えっと………その……」


 俺が当然の疑問を口にすると優衣佳さんは再度口をつぐんで顔を下げてしまった。


「お姉ちゃんね、今日金曜日って思ってたみたいだよ~!昨日土曜日だったのにねっ」

「ちょっと優愛!」


 代わりに答えてくれたのは優愛さんだった。優衣佳さんが止めようとするも時既に遅しだったようで諦めの表情を見せている。


「………優愛だって今朝慎也君の部屋で寝てたじゃない」


 しばらく優衣佳さんの様子を見ていたがこれはいつものパターンだ。逆襲が始まった。


「え!?なんで知ってるの!? お姉ちゃんよりも早く起きたのに……」

「ぬいぐるみ、置きっぱなしだったわよ。それに布団のシワも。 ダメね、私が毎日掃除してるんだから気づかないわけないでしょう?」

「あぁぁぁぁ………わすれてたぁぁ………。違うんだよ慎也くん!朝ちょっと部屋の様子見たら段々と眠くなっただけで……」

「平気平気、俺は気にしてないから」


 慌てふためいて半泣きの優愛さんを俺はなんとかなだめる。一晩居ただけで俺の部屋認定されるとは……俺は認めてないんだけど……


 なんとか優愛さんが落ち着きを取り戻したところで俺の袖に何やら引っ張られる感触が。


「ん? ………翔子さんどうしたの?」

「これ………読んで」


 服を引っ張った主……翔子さんは俺へ一枚の紙切れを見せてくる。そこには漢字と…ご丁寧にローマ字でふりがなまで振ってくれていた。


「えぇっと………小狐。 これがどうかしたの?」

「ん。  ありがと。何でもない」


 それだけを口にして満足そうに俺から距離を取る翔子さん。一体何なんだろう。


「慎さん、一ついいですか?」

「今度は雫か………なんだかみんなの様子がおかしいよね」

「まぁまぁ、なんとなく察しがつくので気にしなくていいですよ」

「え、なんでわかるの?」

「乙女の勘……でしょうか。慎さんにとって悪いことじゃないんで大丈夫ですよ」


 雫がそこまで言うのならこれ以上は触れないけど……


「わかった。それでさっき言ってた一つってなに?」

「あっとそうでした。慎さん、また学校のプールで練習したいとか思いません?具体的にはもっと寒くなってから」

「むしろ今暑いしみんなにつられて混乱しそうだから泳ぎたいよ………冬はわからないね。でも、最近運動してないし本格的な練習もやってみたいかも」


 そういえば春に水泳辞めてからロクに走り込みや筋トレすらやってこなかったな。何故か体脂肪率は減っていく一方だが。


「そうですかそうですか。なら冬、許可とって泳ぎません?もちろん私もサポートしますので」

「えらく冬にこだわるね。 古巣の方々がいない日とかがあれば泳ぎたいよ」

「そうですよねっ!それじゃあ上手く行けばまたお話しますね!」


 雫は鼻歌を歌いながら俺から離れて行き、翔子さんが持ってきたウノをやろうとする。もしかして今日集まった目的忘れてない?


「優衣佳さん」

「なにかしら、慎也君」

「今日、俺達はなんで集まったんだっけ?」

「それはもちろんみんなで遊ぶためだよ! 慎也君くんも遊ぼ~!お菓子もいっぱい買ってきたよっ!!」


 優愛さんが部屋の隅から山積みになったお菓子を持ってくる。よくこんなに買ってきたね…


「文化祭……まぁ、いっか」


 まだ時間もあるしどうにでもなるだろう。俺は優愛さんからカードの束を受け取り集まっている4人の輪に加わった。




 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――




「ねぇ慎也くん」

「ん?」


 ウノの最中、ふと翔子さんが声をかけてきた。


「一個聞きたいことが………」

「えらく前置きするね。 どうしたの?」


 翔子さんはしばらく逡巡していたが意を決したようにカードを出し、こちらに顔を向ける。


「昨日、何してた?」

「えっ……昨日…………クラスで大見得切った手前、下手なの見せられないからお菓子作りの勉強してたよ?」


 嘘は言っていない。昨日はエレナに連れ回されたがなんとなく言うべきではないという結論に達した。

 動揺して饒舌になったりしていなかっただろうか。心臓の鼓動が早くなるのを感じ取りながら次の言葉を待つ。


「あら、だから始めあんなに気合入ってたのね」


 けれど翔子さんは何も次の言葉を並べること無く優衣佳さんが会話に加わってきた。なんだろう、やましいことは何一つなかったのだがホッとする。


「慎也くん、そんなに構えなくってもお姉ちゃんがいるから大丈夫だよ~」

「貴方はもっと意欲だしなさい………なんで優愛は勉強しなくてもできるのかしら……」


 そのつぶやきには何も答えられなかった。優愛さんは天才型だからね…


「そっか………予習えらい。どこぞの雫とは大違い」

「なっ! なんで私に話振るんですかぁ!!」


 翔子さんの隣でカード片手にウンウン唸っていた雫が抗議してくる。


「だって雫……慎也くんのことを予習する前に告白してるし」


 瞬間、部屋の空気が凍ったような感覚に襲われた。俺も衝撃的すぎて手に持っていたカードを床にばらまいてしまう。


「しょ……翔子さん、なんでそれ……」

「ん、乙女のネットワーク。 正確には本人に教えてもらった」


 ネットワークどころじゃなく直通だ。その情報の出どころを見ると照れ笑いしながら頭を掻いている。


「いやぁ……昨日興奮し過ぎちゃいまして、誰かに言いたくなっちゃったんですよぉ」

「優衣佳も優愛も知ってる」

「えっ!?」


 優衣佳さんは表情を崩すこと無く、優愛さんは苦笑いを浮かべながらこちらに顔を向けていた。この4人に隠し事というものは存在しないのだろうか。


「当然、慎也君がなんて答えたかも聞いてるわよ。私たちみんなが好きだなんて大胆なこと言ってくれるじゃない」

「好きのニュアンスが違う! いや、違ってないけど……とにかく、今はまだ何も答えられないから!!」


 俺は床に散らばったカードを回収する。もはや殆どの中身が公開されてしまっていて敗北は濃厚だろう。

 恥ずかしさから全員の顔を見ないようカードを回収していると俺の背中に何者かの体重がかかってきた。


「これは……?」

「私です」

「雫?」


 頭の上から降ってくる声で雫だと判断する。彼女は俺の肩を掴んだと思ったらおんぶされるように背中へ寄りかかってきた。


「別に気にしなくてもいいんですよ。答えはわかってましたし、私が調子に乗ってやったことですから。それとも、恥ずかしいんですか~?」

「!?」


 心の中を言い当てられたような気がして、首を曲げて彼女の顔を伺うとあの日と同じ、イタズラを考えている表情がそこにはあった。


「図星ですねぇ~!なんだか嬉しいです、私が慎さんを動かせてるような気がして。 あ、でも恥ずかしくてイジメるのは止めてくださいね!本気で辛くなるんで!!」


 もちろんそんな事はしないが……。

 そんな彼女への返事として俺は右手を見えない頭にやり頭を撫でることにした。


「ぁ……まぁ、撫でてくれたことで一安心としましょう。多少乱雑なのは気になりますが」


 見えない上に変な体勢なんだから仕方ない。


「む~~………え~いっ!」

「おわっ!?」


 俺が雫の頭を撫でていると不意に唸り声を上げていた優愛さんがこちらに走ってきて横から俺たちを押してきた。

 それに対応出来なかった俺は雫もろとも横に倒れ込んでしまう。元々しゃがんでたから被害はないが。


「雫ちゃんお泊りもして撫でてもらってズルい! 慎也くん、私も撫でて~!!」

「あっ、うん。 それじゃあこっちに……」

「わ~いっ!」


 優愛さんは起き上がった俺の肩にピッタリとくっつくように座り、撫でられるのを待っている。

 俺は雫が問題なさそうに翔子さんのところへいくのを見送ってその頭を撫で始めた。


「えへへへへ………」

「ごめんね慎也君。昨日もその話題を出した後は優愛、幼児退行しちゃったのよ」

「そ……そうなんだ……」

「5分もすれば元に戻るわ。もうゲームどころじゃ無くなったし、優愛が戻ってきたら本題に入りましょうか」


 それから俺は優愛さんが元に戻るまで30分以上その頭をなで続けるのであった。


すみません。お仕事のフォローが重なってきて一週間ほど2日に1話投稿になりそうです。

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