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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第4章

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100.ほんの少しだけ、寄り道を ~前編~

祝! 100話!!


『ほんの少しだけ、寄り道を ~前編~』



 閉め切られたカーテンの隙間から太陽の光が漏れ出し、小鳥のさえずりがまだ静かな街に彩りを加える頃―――


 とある家の一室で、ジュージューとフライパンの上の食材が香ばしい香りを出し始めたところで私はクッキングヒーターの電源をオフにする。


「………よしっ、今日はこんなものね」


 これにて全工程が終了した。

 私は出来上がったものをお皿の上に移してからテーブルの上に並べられた料理を確認する。

 ご飯にお味噌汁、サラダに加えさっき作った目玉焼きとウインナー………。うん、抜かりは無さそう。


「えっと……洗濯もしたし朝ごはんも作ったし、あとは………ふぁふ……」


 ついついアクビを漏らしてしまった。今日は少し睡眠不足かもしれない。少しだけ涙が出てしまった目を擦りながら冷蔵庫に貼られているカレンダーを確認する。

 今日は金曜日、ゴミ捨ての日だ。出してもらうのは任せるとして、回収は今のうちにやってしまおう。



 そう次の予定が決まった私は大きめのゴミ袋を取り出してそれぞれの部屋にあるゴミ箱から袋ごと取り出して持ってきたゴミ袋に放り込んでいく。

 それにしても、今日はよく冷える日だ。いくら冬とは言えここまで寒いとリビングから出るのが億劫になってしまう。



 リビング……キッチン……洗面所……トイレ……。寒さに耐えながら一階の主要なところのゴミを回収していったところで階段を登っていく。2階は全ての扉が閉められているがどの部屋も物音一つしない。きっとまだ夢の世界にいるのだろう。

 そうアタリをつけて私の部屋から順々にゴミを回収していく。どの部屋も真っ暗だ。少し回収するのに手間取ってしまう。


 そうしてゴミを回収していくと最後の部屋………あの人の部屋にたどり着いた。

 部屋に入る前に一応……一応扉に耳を当てて中の様子を伺ってみる。結果は………反応なし。



 ホッとしたような、少し寂しい気持ちを抱えながらも私は、ゴミがいっぱいになって持ち上げるのがやっとになった袋をそのへんの廊下に置いて起こさないようそぉっと扉を開く。

 一瞬、廊下から届く光のせいで起こしてしまうかもと思ったが仰向きのまま身動きひとつとっていない。私はホッとして部屋に置かれているゴミ箱から袋ごと回収した。



 そうして任務完了。 と最後の工程である新しい袋をゴミ箱に取り付ける作業に入る。――――――瞬間、無機質な電子音とともに部屋がいきなり明るくなった。


「きゃっ………!」


 突然の出来事に私の口から声が漏れ出てしまった。

 私を驚かした原因………部屋の電気を付けた犯人は検討がついている。私がその方向、ベッドを睨みつけるとそこに眠っているはずだった人物がライトのリモコンを手にしてこちらに微笑みかけていた。


「もうっ……びっくりしたわよ」

「ゴミ袋の音で起きちゃってね。どうせなら驚かしてみようって思って」


 私は腰に手をあて抗議のポーズをみせるも彼はその表情を崩すことはない。私は一つため息をついてからベッドへ座る。


「昨日遅かったのにいいの?起きちゃって」

「優衣佳だって俺と同じように遅かったでしょ?なのにこんなに早く起きてるんだ。俺も起きなきゃ」


 もう一つ、私はため息をついてから自然と口角が上がってしまう。

 もうずっとだ。ずっと彼は私1人で請け負える程度の苦労すら一緒に負ってしまおうとする。少し早く起きることですら。

 そんな彼の優しさに私の頬はどうしようも無く緩んでしまう。


「もう……そんなこと言ってお昼、寝ちゃってもしらないわよ?」

「それは大変だ。 ……それじゃ、ほんの少しでも今から寝ちゃおうか…………一緒に」

「え!? ちょっ………!」


 彼は座っていた私の肩に手をやり一緒にベッドに倒れ込んでしまう。横になった私は身体を180度回転させて彼と目線を合わせる。


「だめよ。これから朝ご飯だしゴミ捨てだってやらないといけないんだから」

「ご飯はまた温めたらいいし、ゴミ捨てだって後で俺がやっておくよ」


 そう優しい口調で私の耳に語りかけ、私を自身の胸元へ押し付けてくる。


「………この年になっても甘えん坊なんだから……仕方ないわね」


 そうも言いつつ眠かったのは事実だ。

 私は彼に包まれながらゆっくりとその瞼を閉じていった―――――――――



 ―――――――――――

 ―――――――



「!?!? ………………あれ?さっきのは………?」


 目が覚めると、そこは彼の部屋ではなく私の部屋になっていた。窓からは光が降り注ぎ、締め切った部屋越しからセミの声が聞こえてくる。


「さっきのは……夢?」


 スマホをつけて現在の日付を確認する。………9月。どう見ても寒い日とは思えない。その事実を目の当たりにしたところで一気に脱力してしまう。

 そんな………あの理想の日が夢だったなんて………。そう認めたくない事実をスマホで再度確認したところで驚愕の事実に気がつく。


 現在の時刻は9時過ぎ………しまった!寝過ごした!!

 私は大急ぎで寝間着から制服に着替えてカバンを手に階段を駆け下りていく。


「おはよ~。 おねえちゃんおなか空いたよ~!………ってなんて格好してるの?」


 リビングの扉を開けて飛び込んできたのは寝間着姿のままテーブルに寝そべっている妹……優愛の姿だった。


「優愛……貴方学校は……?」

「お姉ちゃん……制服着てるしもしかして間違えちゃった?今日は日曜日だよ?」

「えっ……今日金曜じゃ……」

「ん! ん!」


 優愛が自身のスマホをかざしてきた。

 3度目のスマホの確認でようやく現状を把握する。日曜日、今日は休みの日だった。ホッとしたような残念なような。


「大丈夫……?今日私が作ろうか?」

「いえ……目が覚めたわ。今日は何が食べたい?」

「ん~………目玉焼きとウインナー!」


 優愛が元気いっぱいに朝食のリクエストをしてくれる。

 別に今は夢だっていい。いつかは現実のものにしてみせる。

 私はそう決意して生卵をフライパンの上に落としていった。







 ◇◇◇







「慎也く~ん!まった~!?」

「ううん、全然……っておっと!」


 私は駅前広場で彼の姿を捉えて一直線に走っていく。そんな彼は私が突撃していることに気がついて両腕で受け止めてくれた。


「えへへぇ………やっと会えたねぇ~~」

「やっとって………優愛………」

「ん~~?」


 彼がそっと私の背中に腕を回してくれる感覚に嬉しくなってつい頬ずりをしてしまう。そんな私に彼から言葉が降り注ぐ。


「さっき改札出るまでずっと一緒だったじゃん。どうしたの?突然待ち合わせしたいって言い出して」

「い~のっ!家からずっと一緒なんだからこういうのもデートっぽいでしょ?」

「家でもずっとなんだけどね。 最後に目を離したのっていつだっけ………?」


 そうやって思い出そうとする様子が愛おしくってもっと抱きしめる力が強くなってしまう。そんな昔のことなんて私は忘れたよ。私は今を生きてるんだから!


「ほらっ!こんなこところでずっといたら周りの人の迷惑になっちゃうよ!早く行こ!」

「わかったわかった。行くのはいいけど決めてなかったよね? どこか行きたいとこはある?」


 そう、今日のデートは突発的だ。今朝決まった。 更に私の思いつきなものだから特に何も考えていなかった。彼にそう問われて私は彼と行きたい場所を考えてみる。


「ん~…………そうだ!海行きたい!一緒に泳ごっ?」

「一緒に泳ぐのは半年は先になるかなぁ? 今行ったら二人とも凍死しちゃう」


 そう彼は身体を縮めて身震いさせてしまう。

 今は冬。言ってみたはいいがほんの少しだけ早計だったかもしれない。


「それじゃあ……花火したい!あの筒からバー!ってでるやつ!」

「花火も夏だなぁ。 それにまだ昼にもなってないからあんまり綺麗に見えないと思うよ」

「む~!」


 あまりにも提案を却下するものだから私は一瞬だけ彼を押しのけるようにして離れる……………も、私が離れることに耐えられなくなってすぐにその腕に抱きついてしまう。


「優愛?」

「それじゃあ慎也くんが考えて!」


 ほんのちょっとだけむくれた。もう彼に丸投げしよう。


「それじゃあ……映画なんてどう? 昨日CMでやってたやつとか面白そうじゃない?」

「映画! いいよ! それじゃあ行こう行こう!!」


 彼は私の言葉に頷いて歩きだす寸前、そっと空いた手で渡しの頭をそっと撫でてくれた。

 そういうのはズルいよ………私のむくれた心が完全に氷塊されてしまう。


 そんな私の心を悟られないよう彼の歩きを邪魔しない程度にギュッと抱きついた腕に力を込める。


「優愛………」

「ん~~?」


 私でも驚くくらいの甘い声が出てしまった。こんなんじゃ私の心がバレバレだ。


「映画、楽しみだね」

「………うんっ!」


 そんな私の想いを知ってか知らずか彼が笑顔で語りかけてきてくれる。

 彼と居られるのならば海でも花火でも、映画でもどこでだっていいのだ。私は今日一日の光明に心躍らせながら映画館までの道のりを歩いていった。



 ―――――――――――

 ―――――――



「ぅえへへへへ………しんやくぅ~ん………アレ?」


 カーテンから差し込む光が目に当たって私は閉じられていた瞼を開ける。

 そこは映画館でも駅前でもなく私の部屋。一番に目に入ったのはとあるぬいぐるみだった。


「しんや……くん?」


 そのぬいぐるみ……『しんやくん』の名を呼ぶが反応は当然ない。

 夢だったのだ。その事実を直面し私はしんやくんに顔を埋めさせる。


「そんな~~!! えいがは~~!?」


 しんやくんのお腹に口を当て声が漏れないように大声で叫ぶ。

 このぬいぐるみはとある春の日、慎也くんに取ってもらったものだ。もう寝汗も沢山吸っちゃっているだろうし彼に見せることはできないだろう。


 ひとしきり叫んだところで部屋から出る。今日は日曜日、休日だ。

 しかも時刻は午前5時。いつもの休日の私からしたら破格の早さだ。


「あっ……この部屋……」


 私は階段手前のとある部屋の前で立ち止まる。

 ここは元空き部屋。夏祭りの日に彼が使ってからは彼の部屋だ。彼の了解は得てないけど。


「おじゃましま~す」


 その扉を開けて中の様子を見るも当然誰も居ない。

 あの日に比べて様々な物が部屋に置かれている。カラのタンスや姿見など……夏休みに私たちで買いに行って彼に組み立てて貰ってから随分とにぎやかになった。



 そんな様々な家具の中の一つ……ベッドの前で私は立ち止まる。たった一回、紗也ちゃんもだけれどここで彼が眠っていたんだ。

 その事実を考えるとまた叫び出したい気持ちに駆られそれを抑えるようにベッドに倒れ込んだ。

 あれから洗濯したのだからもちろん彼の匂いなど何も感じない。けれど彼が眠った、という事実だけで十分だ。私はその事実のみで彼に包み込まれてると錯覚し、2度目の眠りへと落ちていく。


「おやすみなさい……慎也くん……」


 その声は誰の耳にも届かない。けれど一緒に持ってきていたしんやくんの耳にはしっかりと届いていた。


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