ミスリルアーマーがデュラハン
あぁ、空を飛ぶって
本当に気持ちが良いな。
“ガツン”と岩場にぶつかった
衝撃で目が覚めた
居眠り飛行をしていたのか
俺危ないな
設定をして発動すれば
延々と発動し続ける
魔法って危ないな
岩山にぶつかり
草原に転がった
目の前に広がる
空の青さに息をのむ。
あちらの世界より
青色を拡散させる
物質が大気中に多いのか?
向こうの世界で、
こんなに清々しく、
ゆっくりと空を見上げた事が
あっただろうか。
こんなに広々とした空は
向こうには無かったよなぁ。
コンクリート製のビルに囲まれ、
排気ガスにくすんでたせいか、
空なんて
見上げる気にも成らなかった。
自分を苛めた人間を
自分の得意な学力で
見返すだけの為に、
勉強をする事で、
良い大学に入り、
良い会社に勤めて、
良い家庭を築く。
ただそれだけの
周囲を見返すと言う
復讐の為だけに
俺は生きていた。
あいつらを見返す事も
もう二度と出来ないのか。
あちらの世界で一生懸命
やって来た努力も無駄になったのか
◇◇◇
どれだけ仰向けで空を
見上げていたのだろうか
気が付けば空の色も変わり
綺麗な真っ赤な夕焼けが
目の前の空を染めている。
今日は、草原に
ニョキッとつきだした
先程ぶつかった岩山を
土魔法でくり貫いた穴で、
身体を休めようか。
王城から頂いた料理道具で、
煮込んだスープを
掻き込んだ後で、
物色してきた装備やら
魔石やらを見てみる。
鑑定のスキルが
アイテムの名前と詳細な説明を
空中に書き記す
《フルプレートミスリルアーマー》
《ミスリルソード》
《ミスリルシールド》
《フェンリルの魔石》…
フェンリルの魔石ねぇ、
魔力がほぼ空ッポらしいな。
魔力が一杯になったのなら
いったいどうなると
言うのだろうか
魔力操作で、
魔力を補充してみようか。
作業台が無いと、
作業がやりにくいよな
とりあえず今は
ミスリルアーマーを作業台にして
魔力を補充してみることにする。
あぁ、
あちらの世界には
俺はもう二度とは
帰れないのかぁ。
もう帰れないんだろうなぁ。
親父もお袋達とも、
弟とも妹とも、
もう二度とは会えないのか。
遺言も枕元に立つことすらも…
恐らく無理なんだろうか
どちらの方向に地球が有るのかも
どれくらい離れているのかも
全く何にも分からないし
そもそも魂って真空を
越えられるのか?
この恒星系の重力を
振り切れるのか?
辿り着くのに一体
何年かかるのか?
そもそも天体望遠鏡なんかの
観測設備すらも無いし
こことは違う
他の太陽系恒星星系の
地球を発見できる
望遠鏡を開発するのに
この星の科学発展レベルで
一体何百年かかると言うんだ?
「居て当たり前」の物が
突然訳もわからず
手も触れる事も叶わず
姿を見る事も声も聞こえない。
俺が関わりあってた
全ての物は
この世界に、
あの馬鹿王に突然奪われた
もう溜息しかでないよな。
「何でも無いような事が幸せだったと思う」
テレビで時折聴いて、
聞き流していた
メロディが頭に浮かぶ。
眼から涙が、
泣いているのか?俺は?
「ご主人様?」
無口な親父と
おしゃべりな母、
生意気な弟と
最近色気付いてきた妹。
親父が建てた一軒家、
平成では珍しい関白亭主な、
普通の家庭団らん。
もう二度とあの場所には
帰れないし
届かないのか?
「あの?ご主人様?」
なんだよ?
チッ、うっせーな?
ん?誰だよ?俺の感傷の
邪魔をするのは?
「誰だ?俺に何か用か?」
声を出してみる。
目の前で横たわっている
白銀の鎧が動き出した。
いや、魔力を注いでいたはずの
深紅の魔石が今は
ミスリルの鎧に溶け、
胸の中心部分に融合している。
鎧に付属していた
兜の眼にあたる部分に、
眼の形に光が灯っている。
「私でございます。あの、私を生み出していただき、ありがとうございます。」
「え?俺が生み出したの?」
「はい。私の身体のミスリルと魔石に魔力がそそがれて、私が出来たようにございます。」
【鑑定】
【ミスリルデュラハン】
ファっ?!
お、おう。
なんかとんでもないな。
なんか名前的に強そう
「あんたの名前は?」
「付けて頂けるのですか?」
「付けてって、名前付いてないと、おいとかお前とかあんたとかじゃあ何だか無駄に偉そうだし呼びづらいじゃないか。」
「名前が付いている魔物は、ネームドという特別な限られた魔物だけにございます。」
「あ、そうなの?で、貴方は男?女?」
「ええと、どうやら魔石もメスのもの、鎧も女性用だったようにございます」
「そうか。」
男だったら、
鎧からガイにしようかと
思ったのだが…女か。
ガイ子?無いな
適当に名前を付けた感満載だ
もっとかっこ良さそうな
名前が何か有るだろう
真面目に考えろ
フェンリルの魔石から
生まれたのか、
ではフェンかリルだな。
それも何だか適当感が
半端無い気もするが
「んー、じゃあフェンで」
「ありがとうございます‼」
その声を聞きながら、
急に意識が途切れた。
◇◇◇
穴の入り口から
眩しい朝日が差し込む。
その光で目を覚ました俺は、
頭を掻きながら穴を出る。
「おはようございます‼ご主人様」
大きな声にびくっと
なりながら反射的に
「おはようございます‼」と返した
そうだ、
このミスリルーデュラハンだっけか、
俺がフェンって名前を付けたら、
意識が無くなったんだっけか。
「ずっと、夜の間、ここいら辺りを見張っていてくれてたの?」
「はい、ご主人様」
「いや?ご主人様じゃなくって、俺の名前はヨシヒロ=タナカだ。ヨシヒロでもタナカでもいいよ?」
「ご主人様はご主人様です。」
「えー?」
「はい!」
「はぁ」
声の張りや食いぎみに
返事をしている
様子をみてみるに
フェンはどうにも
諦めそうにはないらしい
ご主人様?俺は
そんな柄じゃあ無いんだが
昨日の残りの塩味の
ごった煮スープを飲みながら、
会話をしている。
「で武器も無いのに、見張っててくれたの?」
「はい。ミスリルアーマーのこの身体が有れば、盾になれますから。」
「ありがとう。あー、そうね。んー?あ、そうだ。ミスリルシールドとミスリルソードもセットで有るから、それを使う?」
「頂けるのですか?ありがとうございます。」
「で、食べないの?飯?」
「私、デュラハンですし、食べませんよ。ご主人様の魔力で十分です。」
「あー、そうなの?ごちそうさまでした」
「はい!」
鍋ごとアイテムボックスに
放り込み、
とりあえず一息付いた。
「魔物は夜中はどうやら寄ってこなかったみたいだな。」
「はい‼」
「一応、俺にも【剣術】スキルが有るみたいだからさ、一緒に練習してみよう。俺の訓練の相手をしてもらえる?」
落ちていた
振り回しやすそうな枯木を、
2つに折り片方を渡す。
「はい‼」
「最初はゆっくりからね。俺も最近手に入れたばかりのスキルだから。フェンにもスキルが生えるかもしれないから。」
「はい‼」
休憩しながら、
午前中は剣術に集中する。
どんどんとみるみるうちに
上達するのは
非常に楽しい
夢中になってやってると
どうやらフェンにも
【剣術3】【盾術4】【回避3】
のスキルが生えたようだ