02
「ここが魔王城…!」
その言葉を発した青年。見た目は十八歳ぐらいだろうか。綺麗に見える防具は所々傷があり長いこと使っているように見える。腰には剣が鞘に仕舞い込まれており、どのようなものかは分からないがきっと上物だろう。
「いよいよですね」
青年のあとに続いた言葉。二十歳ぐらいの女性だ。一見、何も持っていないように見えるが彼女からは夥しい魔力が感じられる。動くたびに揺れる長い黒髪がよく目立つ。高身長で青年より少し低いぐらいだ。
「やっと…」
小さくつぶやいた少女。手には杖を持っており、彼女も魔力を感じられる。高い位置に結ばれた二つの束の金髪は日に照らされてキラキラと光る。周りのひとたちよりも何故か心拍数が高い。
「頑張ろう」
そういって意気込む少女。見た目の装備から見て武闘家のように見える。外套から見え隠れする筋肉が物語っている。炎にも負けなさそうな真っ赤なショーっとカットと鋭い瞳を持つ。
そんな四人がいる場所は人間にとって悪的存在で倒すべき相手。
魔王城だ。なぜ、そのような場所にいるかというと彼らが勇者一行だからだ。
四人の中で唯一の男性。彼こそが『勇者』だ。
『勇者』とは『魔王』を倒せる存在であり、人々から羨まれる。そんな人生を謳歌してきたわけではなく、この勇者は日々訓練で鍛えられてきたようだ。
魔王城を目の前にして喜びや嬉しさではなく、不安だった。
『勇者』は誰一人『魔王』を殺せなかった。いや、詳しくは殺したのかが分からないのだ。なぜなら、誰一人帰ってこなかったのだから。
もう帰れないという不安と『魔王』を倒せれるかという焦燥。
二人目、黒髪の女性。彼女は人より魔力を持っている職業の『魔導士』だ。
『魔導士』は通常の人より体内にある魔力が多いひとがなる職業だ。故に、魔法などが使える。
魔力とは空気中にある魔の力で主に魔族が使っている力。人間には害はない。むしろ、それを利用して産業や文化を発展させていった。勿論、魔力は人間の体内にもあり、通常の人にはあまりないが、高レベルの職業になると、桁違いになる。体内に魔力があればあるほど、魔力を力に変え、魔法が使える。
三人目、金髪の少女。杖を持っているということで彼女は『治癒師』だろう。
『治癒師』とは主に生命の怪我や状態異常を回復させる職業だ。元通りにするではなく治るのが早くなる職業だ。決して、そう意味ではない。『治癒師』も体内に魔力を持っていないとなれない職業なので、『魔王』なんて存在がいなければ医療室で回復をしていることだろう。
最後、赤髪のショーっとカットの少女。さっきも言ったが彼女は『武闘家』。
主に拳で戦う職業で、体内にある魔力は少ない。だが、身体能力がとても高い。彼女のレベルなら岩石真っ二つに出来るだろう。それでも、護身用にナイフは揃えているようだが。
「よし、行くぞ」
勇者の掛け声で四人は魔王城の城壁を超える。
その刹那、何処からか声が響き渡った。
『警告。これ以上入るな。これは警告だ。足を動かすのなら命がないと思え』
もちろん、周りにスピーカーなどのものはない。きっと魔法かなにかなのだろう。
無感情なその警告を無視し、勇者たちは足を進める。
すると、後ろから魔物がやってきた。体長二メートルは行きそうなウルフだ。しかも、高レベル。こんな魔物が背後から音もなく襲ってきたら勇者たちはひとたまりもな―――
「邪魔だ」
勇者がそういうと魔物は血液が出てくると同時に倒れた。流石、勇者。ここまで来るのに何度かの困難があったようで何もなかったような顔をしている。
そんな魔物の姿を見たのか他の魔物たちは陰に隠れてこそこそと勇者たちを見ていた。勿論、駆逐されましたけども。
勇者たちが魔王城の城の扉へ近づくと勝手に開いた。誰かが招き入れているのかそれとも魔力の働きなのか、それは分からないが四人はどんどん魔王城の中へ進んでいく。
最上階。
勇者たちは困惑していた。魔王城だから何かのトラップや今までにない魔物や魔人を待ち構えていたのに何事もなく最上階、つまり魔王がいる階まで行けたのだ。ずっと歩き続けて。
最上階はレッドカーペットが階段から玉座まで続いており、その玉座には誰かが座っているようだった。
遠くからでよく見えないが背丈からして女性、少女のように見える。その割に自分の頭に合わない王冠をかぶっており、少しずれている。立ったら裾が地面にこすれるだろと誰もが思う大きさの上着。王様が着てそうな赤い生地に周りはモコモコだ。
勇者たちが近づいて、さっきよりまだ見える。髪の毛の長さは肩下に揃え照れていて、左右どちらとも一束長い髪の毛があった。上着の下の服は鎧や革ではなく、黒い布を胸に巻き付けただけのものとサロペットの短パン。あとはニーハイに今にも脱げそうで走れなさそうなハイヒールだった。因みにどれも黒色に統一されている。上着を着れば温かそうだが、脱げば寒いだろう。袖もなければ腹にもないのだから。
ゆっくりと近づいてくる勇者に玉座に座る少女はこう言った。
「お前は誰だ」
声もしっかりとした少女の声で、長いこと喋っていなかったのか舌ったらずになっている。勇者はそんな少女の質問を無視し、こういった。
「お前は誰だ」
眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに言う。だって、自分が思っていた魔王城ではなかったのだから。玉座に座っている少女を見る限り、『魔王』じゃないことはわかるし、まずどうしてこうなったのかと自分の中で巡りまわっているのだ。
「私は、『魔王』だ。お前たちは、侵入者。邪魔をした。死ぬべき存在」
スラスラと口から零れていく言葉。勇者たちはその言葉を聞き逃さなかった。
「え、…『魔王』? お前が?」
「? ああ。そうだが?」
『魔王』という言葉に反応し思わず言葉に出る。そして、少女、もとい魔王は返事をした。いや、そんなことより勇者たちは自分たちより年下に見えるこの少女が『魔王』とは思わなかったのだろう。混乱している。
「私は質問に答えた。次はお前が答える番」
魔王は隈がある瞳で勇者たちを睨み付けた。
「お、俺は勇者だ。で、こっちが―――」
「他の奴らは聞いていない。勇者のお前に言った」
「っ…」
魔王の言葉の意味が分かったのだろう。他の三人は顔を顰めて魔王を見つめる。最低でも魔王は勇者だけに質問していたのだと、このときに分かったのだ。
「あと、もう一個」
魔王が右手の人差し指をたてて勇者に言った。
「は? 質問には答えただろ?」
「勇者は私のことを『魔王』かと確認してきた。それは疑問。そして私はそれに答えた。だから、私は二回質問する権利を持つ。異論は有るか」
魔王の正論過ぎる答えに勇者たちは手も足も出ない。これが恐れられている魔王なのかと残念なのか怒りなのかは分からないが少なくとも敵意は持っている。
「勇者、お前に問う。『魔王』についてどう思う?」
『魔王』、それは人間にとって悪的存在であり、倒さなければならない相手。
「……人間の敵だ。それ以上でも以下でもない」
「…………」
勇者の答えに安堵する三人と顔を歪める魔王。自分が勇者たちの敵だと言われたのが悔しいのかは分からないが、一回ため息を吐き、勇者たちに言った。
「つまらない」
その時の魔王の顔はこの世界で生きていくのを諦めたかのような失望した瞳で勇者たちを見つめていた。
勇者さんハーレムですよね。そうですよね。リア充ですね。爆ぜろください。