登録、そして投擲!
昨日は散々だったな。
やっと寝床確保できたと思ったら片付けさせられるし。
しかも一晩中って。
どんだけ汚ぇんだよ。
おかげで自分の掃除スキルの高さを知ることになったわ。
知りたくねぇよ。そんな隠された力。
下着とかもその辺に散らかってるしさあ。
思春期には刺激が強すぎるっての。
「おー。ずいぶん綺麗になったねー」
顔近えな。なんでそんなに近付いてくるんだよ。
無駄に美人だからドキドキすんだよ。
「一晩中掃除しましたからね」
ついで言うとあんたもずいぶん綺麗になったな。
昨日と別人じゃねえか。
女のオンオフ見せられてショックだわ。
「それで、今日から仕事なんですよね?」
「あー、それね。無し」
「え? なんすかそれ」
「今のところミアだけで足りてるし、それにまだあんたの登録してないしね」
「登録?」
「そっ。勇者登録」
あー、そか。
ここ派遣会社だもんな。
登録して派遣されるタイプってことは日払いかな。
オレ、就職活動で色んなとこ行ったおかげでそういうの詳しくなってるし。
何か・・悲しい知識だ。
ん? ちょっと待て。
「いま、勇者って言いました?」
「言ったわよ」
「勇者って勇者ですよね?」
「そうよ。勇敢なる者。略して勇者」
「魔王とか魔獣とかと戦う奴ですよね?」
「アハハッ。そんな奴もういないわよ」
ですよねー。魔王とか魔獣なんていねぇっての。
初耳だな。勇者って勇敢なる者の略だったのか。
・・はっ? えっ? 勇者?
冗談だよな?!
いや、冗談もここまでくると笑えないどころか腹立ってくるんですけど!
「いやいや!勇者て!」
「あー、あんた田舎育ちだったわね。大昔はあんたがさっき言ったみたいに魔王とか魔獣とかと戦ってる奴のことを勇者って言ってたけど、今は登録さえすれば誰でも勇者を名乗れるのよ。まぁそんな変わり者ほとんどいないけどね」
うわぁー聞きたくねぇー。
そんな大人の事情聞きたくねぇーよー。
何だよそのお手軽な感じ。
自称勇者とか最悪じゃねぇか。
「じゃあこの会社は?」
「勇者派遣会社よ。困ってる人のところに有料で勇者を派遣してるの。なかなか良い商売でしょ」
「お世話になりました。本日をもって退職させて頂きます」
「えっ? 何言ってるの? まだ仕事してないじゃない! あなたの勇者ライフはまだ始まってないわよ?!」
「そんなの始める気ありませんから」
「待って待って!お願い!待ってください!何でもするから!えっちぃことでも何でもするからぁ!だから帰らないで!私を置いていかないでぇ!」
「どんだけ必死なんすか!ってか、体使って引き止めようとするとか最低か!」
「何言ってんのよ。男って結局はそれ目的な生き物じゃない。 あんたどうせチェリーくんでしょ? うちで勇者になればお姉さんがイイことしてあげるわよ?」
「いりません。さようなら」
「あー!ウソウソ!冗談だからぁ!!謝るから行かないでぇ!!」
「ちょっ!?分かりましたから!!ズボン!ズボンから手を離して!!脱げるから!!ロイのロイくんが出ちゃうから!!」
「たっだいまー。んにゃ?お取り込み中?」
「うえーん!ミアー!ロイがっ!ロイがぁ!!」
もうなんなんだよこの会社。
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「つまり。最近すっかりいなくなった勇者を派遣する会社を立ち上げて一儲けしようと思ったけど、就職希望者が来ないうえに、魔王が大昔に倒されて魔獣もいなくなってたからそもそも依頼が来ない。で、ミアさんのバイトで何とか食いつないでいたけど、限界が近いから嘘の求人で人を集めて何とか入社させようとしたと」
「グスンッ・・・・はい」
「・・・・さようなら」
「あー!!待ってぇーー!!!」
「んー、ごめんね新人くん。ロゼも騙す気があったわけじゃないんだよ」
「いや、嘘の求人出してる時点で騙す気満々ですよね?しかも限界だってのに昨日酒飲んで潰れてましたよね?」
「それは・・・・つい?」
ダメだこの人。
やっぱり辞めよう。
「あー!!ごめんなさい!!反省してます!!もうしないからぁ!!行かないでぇ!!!」
「まぁまぁ、新人くん。もう少しロゼの話聞いてあげてよ。困ってる人のために勇者をってところは本当だからさ」
「ミアさんがそこまで言うなら話だけは聞きますけど・・」
「・・私の田舎はお年寄りばっかりだったのよ。だから農作業も年々出来る人が少くなっていって困ってたの。そんな時に勇者が何人か通りかかってね、助けてもらおうとしたの。だけど、勇者はそんなことしないって助けてくれなかったのよ」
ヒドい勇者もいたもんだな。
「それでね、あんなの勇者じゃない!本物の勇者を探すんだって街に来たの。けど、街にいたのは同じような勇者ばっかりだった。毎日お酒を呑んで偉そうにしてるだけ。それなら私がみんなに本物の勇者を届けようって思ったのよ」
「なるほど」
いい話っぽいこと言ってるけど、こいつ最初に一儲けしようと思ったって言ってたよな。
雰囲気でその辺ごまかそうとしてないか?
話が進まないからスルーするけど。
「それで会社を立ち上げて今に至ると。ミアさんは何でここに?」
「ボクはロゼの考えが面白くてかなー。それに今の勇者も好きじゃなかったし、みんなに本物の勇者を知ってもらえたらあんな奴らいなくなるかなって」
まぁ、確かに話を聞く限りじゃ今いる勇者ってのはロクな奴らじゃないな。
殴りたそうな顔をしてるのは間違い無さそうだ。
「分かりました。とりあえずは協力しますよ。けど、ダメだって思ったらすぐ辞めますから。あと、ロゼさんは二日酔いになるほど呑むの禁止。それが条件です」
「・・分かったわ」
目逸らしやがった。こいつ、守る気無いな。
「にゃはっ。んじゃ、改めてよろしくね。新人くん」
「ロイです。ちゃんと名前で呼んでくださいよ」
「じゃあロイくんだね!呼び方も決まったことだし、とっとと登録済ませてご飯にしよっか!」
「そうね。準備するわ。」
「で、登録ってどうするんですか?」
「クリスタルを使うんだよー。クリスタルに勇者って認められるとスキルが与えられるからそれを協会に申請すれば登録完了!」
「申請も魔法でここから出来るからすぐに終わるわ」
「なるほど」
神秘的なのと事務的なのが混ざってて何かややこしいな。
「ちなみにボクとロゼも勇者なんだよー」
「そうなんですか。どんなスキルもらったんですか?」
「ボクのは『速駆』って言って発動中はすごく速く走れるんだよー。これでバイトしてるんだー」
「私のは『人選』。近くで見た人の色々な情報を読み取れるのよ。見てから読み取るまで少し時間がかかるけどね」
「へぇー。スキルって響きで攻撃とかのイメージでしたけど色々あるんですね」
「そうね。だからロイがチェリーくんなのも、どんな女の子がタイプなのかもお見通しよ」
「んなっ!?」
あの時かっ!?
あの時スキル使ってオレの弱味握ってやがったのか!!
こいつ、オレが逃げないように保険かけてやがった!
泣いてたのも情報を得るまでの時間稼ぎしてやがったのか!!
チキショー!こいつ嫌いだ!
「フフッ。さっ準備出来たわよ。ここに手を置いて。」
「・・はい」
「にゃはっ!ロイくんはロゼに逆らえなくなっちゃったねー。」
このにゃは女も多分グルだな。
今度バレないようにシッポ引っ張ってやる。
「おっ、浮かんできたわね。えーっと、なになに・・」
「オレどんなスキルですか?」
「『投擲』だって。手で握れるものならどんなものでも狙ったところに確実に投げられるスキルね」
「・・何の役に?」
「ティッシュ捨てる時とか?」
「にゃははははっ!!ロイくん思春期だねー!!にゃははははっ!!にゃははははっ!!」
「ミア!そんなに笑ったら・・かわいそ・・プフッ」
よし。とりあえず辞表の準備しておこう。