大魔導師、そして魔法!
「あー、今日も疲れたー・・」
「ロイさん。お疲れ様です!」
「リオもな」
「はい!」
農家の依頼を終えオレとリオは事務所に戻るため街を歩いていた。
依頼というか雑用なんだけど・・。
「リオはいつもよく働くよな。依頼って言っても雑用ばっかりだし、嫌になったりしないのか?」
「はい!平気です!誰かの役に立てるのなら一生懸命頑張ろうって思えるので!」
「そか。リオは優しいな。オレも見習わないと」
「ロイさんも頑張ってるじゃないですか!農家の方もいつも頑張ってくれてるって感心してましたよ」
「そか。よかった」
「はい!」
ほんっとに良い子だなぁ。
何でこんな会社入っちまったんだろ・・。
今すぐにでも転職をオススメしたいくらいだ。
リオの反動が判明してから数日。
獣化してる間の世話をしていたということもあり、オレとリオはパートナーとして一緒に依頼をこなすようになっていた。
と言えば聞こえは良いけど、要するに獣化防止の見張り役と獣化した場合の世話係を押しつけられただけだ。
「あのアホ3人衆め・・面倒なことは全部オレにやらせやがって・・」
「ロイさん? どうかしましたか?」
「あー、いや。何でもないよ」
「そうですか? ならいいですけど」
獣化してる間は色々大変だけど、しないように気をつけてさえいればこの会社で唯一の癒しだからな。
押しつけられたとはいえ案外役得かも。
「ただいまー」
「ただいまですー」
「おっ。ロイくん、リオちゃん。おかえりー」
「ロイ、リオ。おかえり。ロイ、おかえりのチュー」
「しねぇよ」
「ロイのいじわる。いつもはしてくれるのに」
「にゃーお!? いつからそんな関係になってたのー? 」
「私、気付きませんでした!!」
「いつも濃厚なチューしてくれる。そのまま絡み合って・・」
「にゃははははっ!!すごいねー!!」
「あわわわわっ・・」
「やめろ!万年発情期!二人も真に受けるなっての」
見た目だけは良いんだから普通にしてりゃいいのに・・・なんでこう余計なこと言うかね。
天は二物を与えずって本当なのな。
「そーいや、社長は?」
「あー、何かねー大事なお客が来るとかで着替えに行ってるよー」
「ロゼの恋人」
「あの呑んだくれに恋人なんかいるわけねぇだろっふぉ!!」
「誰が呑んだくれだって?」
「すいません・・」
この人、完全に後頭部狙ってきたよな?
急所なんですけど。
ちょっとの軽口で命の危険に晒されるとかブラック過ぎんだろ。
あー、そういやブラックって異世界の話だからこっちじゃそういう概念は無いのか。
アホな親に余計な知識植え付けられたせいで苦労しまくりなんですけど。
もし帰ってきたら往復ビンタしてやろう。
「にしても社長。随分しっかり着飾ってますけど、そんなに大事なお客なんですか?」
「そうね。おじいちゃんの知り合いなんだけど、小さい頃に色々お世話になったからちゃんと挨拶しようと思ってね。ってか、あんた。着飾ってるって言い方ちょっと失礼じゃない? もう一発いかれたいの?」
「かっ勘弁してください」
いや、着飾ってるのは事実だろ。
あんた普段自分がどんな格好してるのか見たことあんのかっての。
「ふうむ。ワシとしてはロゼの普段の格好の方が見てみたいんじゃがのう」
「いや、見ない方がいいですよ? 変に見た目が良いだけにショックですよって、あんた誰だー!?」
いつからいたんだよ!!
ってか、どっから入ってきたんだよ!!
しかも今どき三角帽にマントって完全にヤバい人じゃないっすか!!
「うにゃ?! このおじいちゃんいつからいたの!?」
「分からない」
「いつの間にかここにいましたよ!全然気付きませんでした! ・・はっ!まさか!!泥棒さん?!」
「とっとにかく!退治しないとぉっふぉ!」
「落ち着きなさいっての」
落ち着かせるためにみぞおち殴るって。
そんなこと冷静に出来る人間この世界であんただけだよ。
「ログゼスさんも。転移魔法なんて使わずにちゃんと入り口から入ってください」
「ふぉっふぉ。驚かそうと思ってのぉ。いやぁすまんかった。ロゼ、久しぶりじゃの」
「はい。お久しぶりです」
「すっかり大人になって見違えたわい。どうじゃ? ワシの妻にならんか?」
「なりません。大体ログゼスさんにはもう奥さんいるじゃないですか。それも3人」
「ふぉっふぉ。綺麗な妻は何人いてもいいもんじゃよ。ちなみに先月また一人増えたから今は4人じゃ」
「ほどほどにしてくださいね」
「ふぉっふぉ」
なんだこのぶっ飛んだじいさん。
見た目も中身も色々やべぇな。
「えっと・・社長? この方は?」
「あー、紹介しとかないとね。この人はログゼスさん。おじいちゃんの冒険仲間で『高潔の大魔導師』って二つ名を持つ凄腕の魔法使いよ」
「ふぉっふぉ。」
「まぁ今はただのスケベじじいだけど」
「これ!ロゼ!きちんと紹介せんか!」
「事実は伝えとかないと。あと、うちの子達に何かしたら穴ぶち抜きますから」
「相変わらず怖いのぉ」
「どっちがですか」
展開についていけないのはわりとよくあるけど今日は特についていけねぇ。
『高潔の大魔導師』ってなんだよ。
高潔の『こ』の字も無ぇよ。
ただのじじいだろ。
しかもじじいでスケベとか最悪じゃねぇか。
「『高潔の大魔導師』・・どこかで聞いたことがあるような・・」
「リオ、知ってるのか?」
「んー、知ってる訳では無いんですけど・・聞いたことがある気はします」
「ボクもどっかで聞いたことあるんだよねー」
「思い出せない」
「オレは全く分からん」
「時の流れというのは残酷じゃのぉ・・ワシも今やただのコスプレじじいか・・」
「そんな露骨に落ち込まないでくださいよ。それに、その格好はログゼスさんが自分で選んでしてるんじゃないですか」
「第一印象が肝心なんじゃよ」
見合いでもすんのかよ。
その格好で見合いなんか行ったら通報されるわ。
「小僧。通報は言い過ぎじゃ」
「えっ? あっ・・すいません」
あれ? オレ声出てたか? そういやさっきも同じようなことあったな。
「一応言っておくけど、ログゼスさんは『心眼』っていう心を読むスキル持ってるから口に出さなくても全部バレバレよ」
「あー、なるほど。ん? スキルを持ってるってことは勇者なんですね」
この格好で勇者とかややこしいな。
「ややこしくないわい。勇者なんぞただの称号なんじゃからどんな格好をしようがワシの自由じゃ」
あっ、また読まれた。やりづれぇ。
「あー!!思い出した!!大魔導師ログゼスだよ!!グレイと一緒に魔王を倒した伝説の英雄!!」
「あっ!!思い出しました!!確か、『彼に並ぶ魔導師は今後現れない』って言われた最高の魔導師ですよ!!」
「私も知ってる」
「えっ!!それって『グレイ冒険記』に出てくるあの大魔導師ログゼス!?あっ、名前同じだ・・いやいや!!こんなじじいがあのログゼス!?嘘だろ!」
「ふぉっふぉ。ワシもまだまだ捨てたもんじゃないようじゃのおって、小僧。お主失礼過ぎじゃ」
いや、失礼も何も・・。
あの本、良いように書きすぎだろ。
孤高だの伝説だの最高だの言われてる魔導師がこんなスケベじじいとか・・・受け入れるの苦労するわ。
「お主が受け入れるのに苦労しようが事実は変わらんよ。素直に受け止めておけ」
また読まれた。スキルは本物みたいだな。
だからって信じる訳じゃないけど。
こんなじじいが伝説の大魔導師とか信じれる訳無いっての。
絶対熱狂的なファンとかそういうのだ。
じゃないと納得いかねぇ。
「小僧・・おのれぇえ・・」
うわぁー・・泣きそうな顔のじじいとか結構キツいな・・。
大魔導師が聞いて呆れるわ。
「ロイ。色々面倒だから言っておくけど正真正銘本物よ。私が保証するわ。だからあんまりひどいこと考えないの。ログゼスさんすねると長いんだから」
「まじですか・・」
「ロゼよ。きちんと言うてくれるのはありがたいんじゃが、最後のは思っても口に出しちゃいかんやつじゃ」
「あら、ごめんなさい。思うだけにしたところでどうせ読まれるんだし、いっそ口に出した方がすっきりするかと思って」
「ひどい・・あんまりじゃ・・」
「あー、ロゼがログゼスおじいちゃん泣かせたー。にゃははははっ!!」
「かわい・・くない」
「フィナさん。思っても言っちゃダメです」
「いや、思うのもダメだから」
「あんまりじゃーーー!!!もっと敬うのじゃーー!!!」
「ログゼスさん。あんまり大声出さないでくださいよ。みっともない」
「嫌じゃ嫌じゃーー!!!敬って誉め称えて崇めるのじゃーー!!!」
じじい、それもかつての英雄が駄々をこねるという前代未聞の光景に、多分本人以外の全員がこう思っただろうな。
うぜぇーーーー。
「嫌じゃ嫌じゃーー!!!」
いや、もう帰れよ。




