正体、そして怪盗! ~その2~
勇者グレイ
伝説の勇者と呼ばれ数々の武勇伝を持つ正真正銘の英雄。
グレイを主人公にした絵本や本も多くて、大人から子供まで知らない人はいないほどに有名だ。
魔王を倒すために過酷な冒険の旅に出ていたが、決戦前に成り行きで仲間になった魔法使いに魔王を倒されるという何とも残念な人でもある。
ただ、そこが逆に親近感があっていいとかで絶大な人気を誇っているんだとか。
「社長がグレイの孫か・・世の中って案外狭いものなんですね」
「まぁ、そんなもんよ」
「もう亡くなられてるんですか?」
「そうね。私が物心つく前に亡くなってたわ。だから孫って言っても本とかで知ってる程度ね。知識としてはあんた達とほとんど変わらないわよ」
「グレイってやっぱりモンスターとかと戦って死んじゃったのー?」
「興味津々」
「私も興味あります!」
「いや、そんなこと聞いていいんですか?」
「別にいいわよ。確か・・」
伝説の勇者だもんな。
やっぱ最後まで人々のために戦ってたとかそういう感じ・・
「若い女の子とハッスルしすぎて腰痛めて寝たきりになってそのままポックリってお母さんが言ってたわね」
「・・・・」
「へ・・へえー・・やっぱり伝説の勇者は違うねぇー・・」
「さすが勇者」
「何というか・・その・・元気だったんですね」
社長のポンコツなとこはそっからきてるのかもしんねぇな。
家と一緒にグレイの絵本吹き飛んでよかったわ。
こんなん聞いたあとに伝説の勇者なんて思えねぇ。
「こんな話より明日の依頼よ!狙われそうな所に目星は付けてあるから二手に別れて行動するわよ!フォーメーションは・・」
その後、大金獲得のため熱心に作戦を練るロゼリアさんをオレを含む全員が少しだけかわいそうな目で見ていた。
捕縛作戦決行当日。
オレとリオ、ミアさんとフィナに別れて狙われる可能性のある屋敷を見張ることになった。
「ワンダーが現れるのは夜だっけか。少しだけ時間があるな。リオ、腹とか大丈夫か?今ならまだ何か買いに行けるけど」
「あっ・・いえ!だ、大丈夫だす!」
だすて・・ガチガチじゃねえか。
「あんまり緊張しなくても大丈夫だって。別に戦う訳じゃないし、バカだけどめちゃめちゃ足速い猫がいるから多分すぐ捕まえれるよ」
「猫・・? あぁ、ミアさんですか」
「そう。あの人、もともと足速いのに加えて『速駆』ってスキルで更に速くなるからいくら怪盗ワンダーでもまず逃げられないと思う」
「へぇーすごいスキルですね」
「そういやリオも勇者登録はしてるんだよな?」
「え? あぁ、はい。入社した次の日に済ませました」
「どんなスキルもらったんだ?」
「えっと『超怪力』ってスキルです」
何てシンプルかつ恐ろしい響き。
もしかしてゴリゴリのマッチョになったりすんのかな。
うわぁ見たくねぇ・・。
「そ・・そっか」
「はい!重たいものとか運ぶのに便利なので結構気に入ってるんです!」
そーいや、農家の手伝い行った時にめちゃめちゃデカイ箱を1人で運んでたな。
中身入ってないから運べてるのかと思ってたけどスキルのおかげだったのか。
あんな笑顔で『超怪力』なんてスキル使われたら結構キツいな。
「使い勝手の良いスキルでよかったな。オレなんかさ・・!?」
ガラスの割れる音? 近いな。
屋敷のほうか? 誰も通ってないはずだけど。
「泥棒ー!!!怪盗ワンダーだ!!!」
「ロイさん!!」
「あぁ!!行くぞリオ!!」
屋敷の前には使用人や野次馬が集まって結構な人だかりができてた。
「ロイくん!リオちゃん!」
「ミアさん!フィナ!」
「こっちに出たみたいだね!音がしたから急いできたよ!」
「・・ミア・・速すぎ・・気持ち悪い・・!
「しょうがないじゃん!それにフィナちゃん抱えてだからあれでも結構ゆっくりにしたんだよ?」
どんだけ速かったんだよ。すげぇなこの猫。
「にしても、人なんて通らなかったのにどうやって入りやがったんだ・・それよりどこ行きやがった」
「ロイさん!!あそこです!!」
リオが指差す方向にはピッチピチの服を着て大きな袋を担いだいかにもな男が屋根の上でポーズを決めて立ってた。
何だあいつ。ただの変態じゃねえか。
「はーはっはっはっ!我が名はワンダー!怪盗ワンダー!この屋敷の宝は全て頂いた!」
「んにゃー、いかにもな感じだねー」
「気持ち悪い」
「体調がだよな? あの人がなら可哀想だから言わないであげて」
「けど、あんな高いところどうやって行けば」
んー、おっ。手頃な石発見。
「ミアさん。オレが『投擲』であいつ落とすんで捕まえてもらえますか?」
「おー、なるほど!了解!」
頭は・・やめとくか。腹くらいなら大丈夫だろ。
「せーのっ!!」
「でわ、さらばだっはぁん!!」
あ、下狙いすぎた。ごめんよ、ワンダーくん。
「ロイ。凶悪」
「ロイさん・・」
「にゃははははっ!!ロイくん!あんな豪速球投げたら・・」
「だーーもーー!!当たったもんは仕方ない!ミアさん!!逃げられる前に捕まえ・・」
「んにゃー?」
「はっ?」
わぁー。可愛い猫ちゃん。
どっから来たのかなー?
服なんか着ておしゃれさんだねー、じゃねぇ!!
「ちょっと!!ミアさん!?」
「にゃー」
猫?!いや、猫だけど!完全に猫じゃねぇか!
このタイミングで何の冗談だよ!!
はっ!これって・・
「ミア。退化」
「『退化』!? 何で!?」
『物でも人でも自分以外を速いと思ったら』だろ?!
何でいま出て・・待て。
この猫さっき豪速球って言わなかったか?
「オレぇえーー?!オレのせいぃいい!?」
いや、オレも悪いかもだけどさ!
このアホ猫!このタイミングでやらかすか?!
マジで使えねぇ!!
「とにかく追わないと!フィナ!!」
「ロイ。気持ち悪い。おんぶ」
使えねぇ!!
こいつらマジで使えねぇ!!
後輩の前なんだから頑張れよ!!
「仕方ない!リオ!オレらで行くぞ!」
「え? でもお二人は・・」
「放っとけ!多分大丈夫だから!行くぞ!」
「はっはい!」
逃がしたりしたらオレが社長に殺されるっつうの!
こんなアホ二人のせいで殺されてたまるかっ!!