正体、そして怪盗!
リオがブレイブロードに入社して1週間。
地味な依頼をこなしつつ仕事にも慣れだした頃、ポンコツ社長がオレとリオに休みをくれた。
「たまには街で買い物でもしておいで。ロイは付き添いね。あーそれから、リオ。あんたの前の職場と村長さんには話つけといたから安心しなさい」
そんな訳でオレとリオは街に来ていた。
フィナも来ようとしてたけど、何やら頼みがあるとかでロゼさんに捕まっていた。
しかし、話つけといたって・・あの人何者だよ。
「わー!ロイさん!あそこに新しいお店が出来てますよ!」
「おー、ホントだ。知らなかった」
「行きましょ!行きましょ!」
「分かった分かった」
こうやってはしゃいでると普通の女の子なんだよなー。
まぁうちの女子達はみんなそうなんだけど。
見た目のレベルは高いのにそれを打ち消すくらいの欠点があるから悲しくなる。
「にしてもリオ。ずいぶんはしゃいでるけど街に来るの久々なのか? うちに来てから1週間は来れてなかったけど、それより前から来てない感じじゃないか? 」
「そうですね。こうやってお買い物とかで街に来るのはすごく久しぶりです。前のお店にいた頃も必要最低限の用事以外は基本的に外出はしなかったので」
「何か理由があったとか?」
「えっと・・帽子で角を隠してもやっぱり『淫魔』ってバレるみたいで・・」
「あーそういうことか」
見た目はほとんど変わらないけど魔人だもんな。
物珍しそうな視線ってのもあっただろうし。
年齢的にもそういうのはツラいか。
「・・苦労してたんだな」
「え? あー、はい・・? どういう・・」
「え? いや、魔人だって変な目で見られたくなくて外に出れなかったんだろ? 」
「そんなことありませんよ? 魔人なんてこの街じゃ珍しくありませんし。場所によっては人間の方が珍しいなんてところもありますから」
「え? そうなのか? じゃあなんで・・」
「『淫魔』だって理由で男の人が寄って来るんです。よく分かりませんけど、お金あげるからって人もいました。それが嫌で外に出なかったんです」
ほんっとに、この街もダメな系だな。
もういっそ街ごと滅べよ。
誰か魔王様呼んできてもらえませんかね。
「一応、先輩から対処法は教えてもらったんですけど・・」
「へぇ。そういうのあるんだな。ちなみにどんな対処法?」
「誘いに乗るフリをして人のいないところで根こそぎ精気を吸い取るんです。先輩はそれで何人も病院送りにしたって自慢してました」
怖ぇえ!!先輩超怖ぇえ!!
そいつの自業自得なんだけどちょっとだけ同情するわ!
「私はそういうの苦手なんで・・けど、今日はロイさんがいるから安心してお買い物できます!」
なるほどね。それではしゃいでたのか。
男連れに声かける奴はさすがにいないしな。
可愛いなーちきしょうめ。
いつだかの夜のこと考えると苦手ってのは信用できないけどな。
「そか。ならよかった。他に何か買っとくもんあるか? 無いなら軽く飯でも食べるか」
「あっ、あともう1つだけ買いたいものがあるので付き合ってもらえますか? 」
「了解。じゃあ行くか」
「はいっ!そこを曲がったところなので!」
「へぇ。こんな路地裏に店なんか・・」
おぅ・・。なんだここ。
外装にどんだけ紫とピンク使ってんだよ。
見た目でここまでエロ全開だといっそ清々しいな。
それになんだこの店の名前・・。
『元気ハツラツ!エナジー・ショップ』って。
「リオ。ここか?」
「はいっ!『淫魔』御用達なんですよ」
でしょうね。
勝手なイメージで悪いけどすぐ分かったわ。
「何の店? 」
「精気ショップです!」
あー、前にそんな店があるって言ってたな。
そういうえっちぃ店じゃないのは分かったんだけどさ、この見た目はちょっと・・。
リオみたいな子が楽しそうに入ってくの見るとなんか複雑だわ。
それから買い物を終えたオレたちは事務所に戻った。
精気ショップから事務所までの間、すげぇジロジロ見られたけどリオが楽しそうだったから気にしないようにした。
~~~~~~~~
「ただいまー」
「ただいまです」
「あら、おかえり。ちょうどよかったわ」
「なんかあったんですか?」
「明日大きい依頼が入ったからその説明をするところだったんだよー」
「大仕事」
「へぇー。珍しいですね」
大仕事ね。どうせ農家の引っ越しとかだろ。
「じゃあ、説明に戻るわね。依頼内容は怪盗ワンダーの捕縛。今回は協会直々の依頼だから失敗は許されないわ」
「はい? なんすか怪盗ワンダーって」
すげぇ雑魚臭するんですけど。
「知らないのー? 最近話題なんだよ? 百発百中でお宝を盗む世紀の大泥棒!ってね」
「正体も不明」
「へぇ。すごい泥棒さんなんですね」
「報酬に加えて懸賞金も入るからね。絶対に捕まえるわよ!」
失敗できないってのは協会からの依頼だからっていうよりもそっちがメインだな。
さすが我が社の社長様だ。
怪盗ワンダー
ここ最近、突然ウィザリアに現れて金持ちからお宝を盗みまくってるらしい。
被害が大きくなって無視できなくなった協会からうちに捕縛依頼が来たそうだ。
「そんな大きな依頼、うちみたいなポンコツじゃなくてもっとちゃんとしたところに頼んだ方がいいんじゃ、ぐほぉっ!!」
「うちがなんだって?」
「すびばせん・・」
仮にも自分とこの社員に渾身のボディブローするか、普通・・。
「ブレイブロード設立以来の大仕事だね!にゃはっ!」
「うぅ・・緊張します・・」
「リオ。大丈夫。ロイがいる」
「痛てて・・そりゃどうも。けど、そんな依頼なら他の勇者にも協力してもらった方がいいんじゃないすか?」
「いないわよ?」
「はい?」
「この街に私達以外勇者なんていないわ。前にも言ったじゃない。勇者なんてほとんどいないって」
マジですか・・。
「今は勇者なんて稼げないし昔いた勇者のせいで尊敬されたりもしてないからねー。みんな辞めちゃったんだよー」
「うわぁ・・リアルっすね」
「他の街にはまだいるみたいだけどねー。そっちに依頼するってのもあったかもだけど、ロゼはこの世界じゃ有名人だからうちに依頼が来たんじゃないかなー」
「有名人? 社長が?」
「ロイ。知らないの?」
「何が?」
「まぁ自分から言うものでもないしね」
あんたが言わないのは大体大事なことだから嫌なんだよな。
「ロゼは勇者グレイの孫なんだよー」
ほらな。・・って
「はぁああ!!? グレイの孫?!この呑んだくれがっぐはぁっ!!」
「あぁ?」
「すびばせん・・」
「ロイ。涙目。かわいい」
何故そうなる・・。
「ロゼリアさん、すごい方だったんですね」
「おじいちゃんがね。別に私は何かした訳じゃないし、そういうので変に気を使われるのもあんまり好きじゃないのよ」
いや、少なくとも面接の時にそれを言ってればもう少しまともな奴が集まっただろ。