進化、そして新人! ~その2~
にしても、新人か。
あの広告に騙されて来るんだろな・・。
待遇だけ見れば魅力的な会社だし。
全部ウソだけど。
それかこの女に脅されてるとか?
もしそうならこいつ締め上げて逃がしてあげよう。
被害者はオレで最後にしないとな。
「来ないわね。そろそろ約束の時間なんだけど」
「ここ結構見つけにくいんすよ。迷ってるかもしれないんで、ちょっと外の様子見てきます」
「ええ、頼むわ」
面接の前にここのポンコツ具合を説明して他を探すように説得しないとな。
「じゃあ、いってきま・・」
ドアがガタガタいってる。
この前、直したはずなんだけど。また曲がってきてるのかな。
「あー、はいはい。今開けますからぁああ!!」
「きゃああ!!」
前にもあったなー、こんな展開。
開かなくてムキになるのは分からんでもないけど、開けるって言ってんだから少しは待てよな。
「痛ぇ・・。えっと・・大丈夫ですか?」
「あっ、はい。大丈夫です。えっと・・今日面接に来た者なんですけど・・」
女の子・・年下かな。気弱そうな感じだ。
いや、見た目だけで判断しない方がいいか。
この状況で何者か言えるんだから少なくとも根性はあるっぽいな。
「うん・・とりあえず、どいてもらえるかな?」
「え?・・あ・・あぁ!!すいません!!すいません!!」
「いや、そこまで謝らなくてもいいからさ。テンパってたんだよな? 気持ちは分かるよ」
「はい・・。失礼かもしれませんけど、この辺りの雰囲気に圧倒されまして・・怖い会社だったらどうしようって・・」
「あー分かる分かる。この辺、廃墟だらけで不気味だもんな。オレも最初来たときはすげぇ怖かったよ。ハハハッ。その辺は大丈夫だから安心してくれ。だからさ、どいてくれるかな?」
「あっ!!すいません!!すいません!!」
いや、だからどけって。
「ロイ。浮気」
「ロイくん。やるねー。にゃははははっ!!」
この猫、殴りてぇ。
「時間ギリギリだけど、まぁいいでしょ。それじゃ早速面接始めましょうか」
「あっ、はいっ!よろしくお願いします!」
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見てるだけは退屈だという理由でミアさんとフィナは買い物に出掛けた。
オレはこのポンコツ社長がやらかさないよう見張るために同席させてもらうことにした。
この小柄な子、名前はリオネル。
17歳で、ウィザリアから少し離れた小さな村で暮らしていたらしい。
他のところで働いていたけど、自分には向いてないということで仕事を探してる時にうちの広告を見つけて面接に来たんだとか。
「それで、リオネル・・リオでいいかしら。どうしてうちに来たの?」
「はい・・仕事を探してた・・というのもあるんですけど、村を出たくて住み込みで働けるようなところを探してたんです。そしたら寮完備ってあったので・・」
「いや、寮っていうかこの事務所でぐふぉ!!」
「次、喋ったら殺す」
この女・・堂々と腹殴ってきやがった。
こんなこと目の前でしたら・・ほら見ろ。
ビビって震えてるじゃねぇか。
「さてと。リオ。面接とは関係無いけど1つアドバイスしといてあげる。こういう時、帽子は取るのが常識よ」
「あっ、これはその・・えっと・・分かりました・・」
確かに面接で帽子ってのもな。
若いから仕方ないかと・・ん?・・角?
「やっぱり。あなた、魔人ね」
魔人って・・ミアさんみたいな感じか。
角はあるけど、思ってたのと大分違うな。
もっとこう・・イカツイのを想像してた。
「その目の色・・『淫魔』かしら」
「はい・・」
「『淫魔』?」
「魔人の一種よ。綺麗な赤い目が特徴なのよ。それと『誘惑』が使えるのでも有名ね」
「それってフィナのスキルと同じですよね・・。えっと・・じゃあ・・」
「エロ魔人ね」
本人目の前にしてそんなはっきり言わんでも。
「『淫魔』はその力で男を堕落させて操るのが得意なの。昔、どっかの国が滅ぼされる寸前までいったらしいわ。魔王が倒されてからはその力で独自の商売を始めたそうよ。いわゆるえっちぃお店ね。街にも『淫魔』の子がいるけど、ほとんどの子がそういうお店で働いてるわ。そもそもそれが種族としての本能みたいなものだし、天職なはずなんだけど・・」
「うぅ・・」
「じゃあこの子が働いてたってところもそういう店ってことか。年齢的にアウトでしょ」
「その辺はよく分からないわ。よかったら少し話を聞かせてもらえないかしら?」
「はい・・」
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リオの話をまとめるとこうだ。
街にいる『淫魔』はえっちぃ店以外にも色々な店を経営していて、リオは『淫魔』が経営する普通の飲食店で働いてたそうだ。
ただ、えっちぃ店で働ける年齢になるとそっちで働くのが風習みたいになっていて、リオも近々移る予定だったけど、どうしても移りたくなくて逃げ出してきたらしい。
逃げた手前、村にも帰れないので住み込みの仕事を探してたら、うちの求人を見かけて藁にもすがる思いで面接に来たんだと。
「なるほどねぇ。聞きたいんだけど、何で移りたくなかったの? あなた可愛いしそっちで働いたらかなり人気者になれたと思うけど」
たしかに可愛いけど、普通、そういうことを堂々と言うかね・・。
こいつ絶対どっかにデリカシー落としてきてるな。
「あの、私、そういうのが苦手・・なんです」
「『誘惑』が使えないってこと?」
「いえ、力は使えます。むしろ才能があるって言われてました。ただ、使いたくない・・というか、使うのが恥ずかしいんです」
「あー、そういうことね。つまりえっちぃことが苦手だから逃げ出してきたのね」
「・・はい」
「そういう子もいるもんなんすね」
「んー、かなり珍しいはずよ。彼女達は力を使うのに男性の精気を必要とするはずだし、力を使わなくても少なからず体が欲すると思うんだけど」
「力が使えるようになると精気が欲しくなるのは事実です。ただ、仕事を始められる年齢になる前に力が使えるようになるので、定期的に精気が配布されるんです」
配布て・・どうやって配るんだよ。
聞きたくないけどさ。
「でも、逃げ出してきたんならその配布は受けられないんでしょ? どうするの?」
「あまり知られてませんが、一応売っているお店があります。ただ、高価なもので・・」
「お金が必要と」
「はい・・」
「おかしくないですか?精気は仕事をしてれば得ることが出来るし、仕事が出来ない間は配布されるのに売ってるって・・」
「精気の質は私達の力にかなり影響するんです。質の高い精気を得れば力が増して稼げるようになるので、そのためにそういう精気を販売しているんです」
配ったり売ったり・・男としてはなかなかショックな事情だな。
「それで高価なのね。なるほど。事情は分かった。確かに、うちなら寮もあるし食事も世話する、給料もそれなりにいいはずよ。今のあなたにはピッタリな職場ね」
「はい!ですから是非・・」
「でも、条件があるわ。うちの条件は見た?」
「・・はい」
「なら話は早いわね。あなたは『勇敢』かしら?」
このセリフのときだけ何でこんな雰囲気出せんだよ。
いつもやれよ。
「家族も仲間も友達も・・今までの生活を全部捨ててここに来ました。だから・・私は・・『勇敢』です!」
「いいわね!気に入ったわ!採用よ!」
「ほっ本当ですか!?やったあ!!」
あーぁ、決まっちゃった。
「自己紹介しなきゃね。私はここの社長のロゼリア。ロゼでいいわ。隣の冴えないのがロイ、あなたの先輩になるわね」
「おいこら。冴えないってなんだ」
「よろしくお願いします!ロゼさん!ロイさん!」
「フフッ。よろしくね」
「・・よろしく」
大丈夫かな・・この子。
うちでやってくの結構ツラいと思うけどな。
仕事よりもこいつらの相手するのが・・。
とりあえず面倒は見てあげないと。
あと、辞表は準備させておこう。