30話:遭遇と再会の切欠【ヨルムの服を選ぼう】
「ど、どうでしょうか、ご主人様…。その、ボク、この服、似合っていますでしょうか?」
俺に似合っているかと感想を聞いてきたのは、少し前に俺が契約した第三の眷属魔獣であるヨルムだ。
今のヨルムは、俺の”擬人化”のSkillで土色で体に宝石の様な鉱物がある蛇の姿から人間の姿に変化している。
フワフワとした首元くらいの茶色のショートの髪に、彩色のどこか自信の無さが見える瞳をしているのだが、今は期待感が強く見える。
ヨルムは中性体と言う性別で、上半身が男性で下半身が女性の特徴をしている。そして今ヨルムは男物と言うか俺のシャツを着ているのみだ。あとは下着を履いてるだけ。
身長は150以下でファンよりも小さく小柄だ。だから今ヨルムが着ているシャツはサイズが合っていないのでぶかぶかである。
まあ今回はわかる通りヨルムの服の調達をしに来ているというわけだ。
例によって最初に俺たちが助けた商人親子からである。
『男でも女でも、小柄な人間のどちらが着ても違和感がない服がほしい、ですか…』
キキの”念話”Skillを結界魔法で応用し、見知った者限定で相手に通信念話を行う事が出来る様になり、欲しいものが出来たらこうしてキキを通じて連絡しているのだ。
まあ最初は俺達の事を他者に情報を洩らさない様にと、ただの監視用に用意させたのだが意外と役に立っている。
最初はまあ当然ながらある日突然、頭と言うか心にいきなり人間の声が響く様に届いたら驚くだろうな。
とりあえず俺達の仕業であると説明し、ここ1か月の間の物品の取引をやり取るようになったのだ。
ただ流石に『いきなり頭の中に声が届くのは心臓に悪いですので何とかなりませんか?…』と言われたので、キキの通話魔法を改良させて、取引の際に”念話”と遠くの映像を映し出す魔法を魔物の核である【魔心石】にキキが応用して作った『通話石』を渡した。
なので俺達から連絡がある時は通話石が光るので、応答可能であれば強く通話石を握ると声が聞こえる様になった。
そしてヨルムを”擬人化”させた後に、ヨルムの服が欲しいと連絡をしたのだ。
流石に2,3日待つ必要があるかと思ったのだが、明日で問題ないと告げられた。
そしていつもの時間に秘密の会合場所で合流する事になった。
+
次の朝。
先に待合場所に着いたのは俺達が先だった。
それは俺達が周囲の安全の確保をしているからでもあるのだがな。
商人親子が通るルート線上に盗賊やら魔物なんかが襲わない様に間引いているのだ。
あとは商人親子が俺達の事を誰かに密告し敵対者を差し向けたりしないか警戒する為でもあるのだが、この心配は現状しなくても大丈夫だと思い始めている。
『商人は信用が何より大事なのです。私達も商人の誇りを持っていますので、その誇りに掛けて相手の方を貶める様な真似は誓ってしませんよ!』
と宣言したな。
俺も彼の言葉と目が嘘を告げていないと確信した。
それ以降俺は彼のことを信頼はしていないが、信用はするようになった。
相手の悪意の言動は嫌って程体感してきたからな。
『あっ!マスターぁ、馬車が来たよ!』
魔獣モードのファンの言葉に「そうみたいだな」と答える。
商人父が馬を操り、その隣には娘―ネファと言う名前だったかな―が乗っており笑みで「やっほー」と手を振っている。
ファンもなんだか嬉しそうに『やっほー』とか返事している。
人の姿だったら娘以上に元気良く手を振って応えているだろう。
『では主殿、私は結界の維持をしつつ周囲の警戒に努めますね』
「ああ、頼む。結界周辺に異変とか、何者かが接近したら直ぐに伝えろ」
『了解です主』
俺の肩に泊まっていた魔獣モードのキキが警戒の為開いている額部分の三つ目を残し、一礼すると羽を広げパタパタと飛ぶ。
ファンもキキも魔獣の姿である。
”擬人化”のSkillは特殊な部類にあたり、人間化させてから一定時間を経過すると元の魔獣の姿に戻ってしまい、一度戻るとしばらくSkillを掛け直せない点があった。
なので普段は訓練時とか必要時のみにしている。
ちなみにヨルムは能力を使い地面に隠れている。
見ず知らずの者と面を向って会うのは緊張するし恥ずかしいらしい。
今日の目的はヨルムの服の調達。つまり今日の主役ともいえるのにな、まったく。
そして馬車が到着した。
今では平気だが、最初の頃は馬が魔物であるファンやキキの姿に怯え少々苦労した。
「いつもながら時間に正確でありますな。いやはや助かりますよ。お客によってはまったく時間を守らず遅れても平気な人もおりますからね。その点皆さんは好印象ですよ、はい」
「時間は金成。商人なら当然だろうな。まあこんな会話をするために呼んだんじゃねえし、さっそく見せてもらっていいか?」
「はい。荷台の中に多めの種類の服を用意させていますのでご覧……そう言えばですが、今回必要と言う方はどちらに?」
周囲に目を向ける商人父。
しかしそこには娘と魔獣の姿のファンと楽しそうに会話しているのと、上空を飛んでいる蝙蝠の姿をしたキキの姿しかない。
小柄で男女でも違和感のないという不思議な注文の人物用と聞いていたから、小柄だが女性らしいプロポーションをしているファンと身長高めのキキの二人ではないだろうなとも思っていたので商人父はまた別の誰かの為のかと考えていた。
「ああ。おぉい、もういいだろ出てきても。と言うか早く出てこいヨルムっ!」
俺が地面の目を向けながら喋るので、商人父も同じく地面に目を向ける。
すると、
『は、はい……ッ…』
「なっ!?、っと…」
地面から土蛇が浮き上がってきたので商人父はヨルムの目のように目を丸くし驚きの声を洩らした。
「とりあえず紹介しとく。俺の眷属で土蛇の魔獣のヨルムだ。ほら、お前も一声挨拶しとけよ。今日はお前に服選びの為に来てるんだからな」
『あ、はい…えっ、と…ボク、ヨルムです…』
「ほえ~、こちらこそ」
「さて、今の状態じゃ荷台に入れないから”擬人化”を掛けるぞ」
そう言いヨルムを対象に”擬人化”を掛ける。土蛇の姿は長く大きいので荷台に入りきるかわからないから。
その効果で土蛇の姿が光り輝き縮小していく。そして人の姿へと変わった。
そこにはシャツ一枚だけ着た少年とも少女とも見える小柄な人間の姿。
ファンもキキも綺麗だったが、目の前の子も負けず劣らずの子だと商人父は思った。
「おぉ、いつ見ても不思議な光景ですね。魔物…魔獣が人間の姿に変わるなんて、今まで見た事も聞いた事もありませんでしたからね」
「わかってると思うが…」
睨みを効かせる。
この世界ではありえない現象を持つ人間がいる、なんて噂が広まれば、無意味に注目の的になり面倒ごとが増える。
特にクズ王国の屑王に知られるのは特にだな。
無論俺達に害を齎す馬鹿共は敵意を向けた時点で敵と認識し即始末する。
けど自分から面倒事の種を蒔くつもりは今の所ない。
俺の睨みに焦った様に「解っておりますよ!?」と何度も頭を縦に振った。
少し睨みを効かせ過ぎたかな。
まあいいか。
「それじゃ中で物色するから。……これも解ってるだろうが…」
「ええ!解っておりますのでっ!たんなりと時間を掛けて選んで下さいませ。解っておりますとも、覗く真似など命を賭けてでも行おうとは思いませんです、はいっ!」
「…なら、よし。おい、ヨルム、行くぞ」
「あっ…はい、ご主人様っ!」
俺が先に荷台の中に入り、商人父の視線から逃げるように俺の背に隠れていたヨルムが遅れて入る。
入る前に”念話”で、
「”それじゃ周囲の警戒頼むぞ、キキ。ファンも楽しくお話していてもいいが警戒するのは忘れずにな”」
『了解であります、我が主』
『はぁ~い。ファン鼻が良いからお話ししてても危険だとすぐに判るから大丈夫だよぉ♪』
「そうか。まあ頼むわ」
そう告げた。




