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焦燥の世界  作者: 八鍵 嘯
第一部「ギナティア王国篇」 第一章「断戒の大森林」
7/35

第7話《屋敷の地下で》

連続投稿六日目。

前回程じゃないけど、ちょっと長いです。


感想、指摘等は大歓迎。

「……」


 絶句。

 それほどまでに美しかった。

 二メートルを超える巨大な水槽の紫がかった液体に浮かぶ一人の少女。

 透き通るような白髪。目の色は閉じているので分からないがその様相は美少女と呼ぶに相応しい様子だった。


「これは……」

「それは、今から五年くらい前にとある男が持ってきたものなの」


 茫然としていた俺はそのシェリネーラさんの言葉で我に返った。

 改めて水槽をよく見てみると、その下の方に銀色のプレートダグが付いていることが分かる。


『被検体No.4836182 〈適合率38%:失敗(フェイル)/高圧魔力負荷実験第三フェイズ突破,DCⅢ型〉』


 被検体……負荷実験…失敗……。

 意味は分からなかったが、恐らくはこの少女が何かの実験の失敗作として破棄されたのだろうということは分かった。


 聞きたいことはいっぱいあった。

 ここは何処なのか。彼女は何者なのか。彼女は何故水槽の中にいるのか。彼女以外にも同じような者がいるのか。そもそもなぜこれを俺に見せたのか。

 だが、俺が口にしたことはそんなことではなかった。


「……生きてるんですか?」

「ええ、一応はね……」


 シェリネーラさんはそれ以上のことを言うつもりはないようだ。俺も何故だか、少なくともこの場では何かを聞く気にはなれなかった。



 ◇◆◇◆◇


 それから暫くして。

 俺とシェリネーラさんは今、もと来た道を戻っていた。

 結局、あのあとは何もなかった。ただ一言、シェリネーラさんがそろそろ戻りましょうとだけ言い、部屋を出てしまったので、俺も後を追うように出てきてしまった。

 それ以降、俺もシェリネーラさんも無言だ。あの部屋のことは何一つ分かっていない。何故、シェリネーラさんは俺にあれを見せたのだろうか。


 そして歩くこと数分。道の行き止まりが見えてきた。あの黄緑色の揺らぎに入った俺が現れた場所だ。

 突如、それまで俺の前を歩いていたシェリネーラさんが足を止めて振り返った。


「……あなたに、一つお願いがあります」


 その表情は真剣そのものだった。


「まず、あの部屋について誰にも話さないでください。理由は……すいません、お話しできないんです」


 シェリネーラさんはそう言って深々と頭を下げる。


「それと、もう一つ。明日から毎日。少しの間で良いので、あの部屋へ行ってあの少女に会ってはくれませんか?」


 その声音に、なぜか俺はどこか哀れみと罪悪感にようなものを聞き取った。


「何故……と訊いてもダメ何ですよね」

「ええ。少なくとも今はまだ話せません」


 直接訊ねた訳ではないが、シェリネーラさんの口振りからして、あの少女は年単位であの場所で目を覚まさずにいるのではないかと俺は思っている。

 そんな状態のあの少女に会うことに何の意味があるのかは分からない。だが、それは恐らくシェリネーラさんが話してくれない限り分からないだろう。

 だが、何か理由があるはずである。そして俺はその結果は決して悪いものになると思えなかった。


「……分かりました。ですが、俺や友人になにかがあったらそちらを優先させて頂きますよ」

「有り難う御座います。今はそれでかまいません」


 シェリネーラさんは俺に背を向けると、目の前に来る時にも目にしたあの黄緑色の揺らぎを作り出す。それをくぐり、最初と同じ広い庭の隅でに出た俺たちは、それぞれの部屋へと戻ったのだった。


 改めて寝床に就いた俺は考えていた。

 今はそれでかまいません。

 今は。

 その言葉だけが俺の思考にとどまっていた。



 ◇◆◇◆◇


 翌日から、俺たちは早速シェリネーラさんからこの世界についての様々なことを学び始めた。この世界の一般常識、国の制度は勿論のこと、剣や魔術での基本的な戦い方も教わった。流石は元貴族と言うだけあって、国や貴族との接し方や国や種族ごとの関係性を考えたうえでの接し方なども細かく教えてくれた。


 そして何よりも驚いたのは、シェリネーラさんの戦闘に対する経験の豊富さだ。

 俺は何度もシェリネーラさんのステータス、スキルをこの真眼で見たことがある。だが、その優に100を超える量のスキルの全ては把握できていない。

 シェリネーラさんはただレベルが高いだけでなく、剣術や槍術などといった物理戦闘から火魔術や風魔術などの魔術戦闘まで、どれも達人レベルに上手いらしい。


 そんな彼女の元、俺たちがいろいろ教わり始めていつしか二か月が経っていた。

 俺たちのレベルはメキメキと上がっていき、遂には30を超えるようになった。


「さて、そろそろ貴方たちのユニークスキルの方を本格的に鍛えていこうと思います」


 シェリネーラさんの屋敷には花が咲き誇る前庭と、ただ青い芝生が広がる裏庭があり、現在は裏庭の方に集まっていた。


「タカトシ、ユニークスキルが他のスキルと違う点はなんだと思いますか?」

「その人にしか使えないこと、ですかね」


 町田が答える。

 だが、シェリネーラさんはその答えでは不満だったようだ。


「確かにそうです。では、訊き方を変えましょう。全てのユニークスキルが他のスキルよりも勝っている共通点は何だと思いますか? では、チヨリ」

「え、えっと……ユニークスキルの共通点……すいません、分かりません……」


 突然指名された女子生徒、わたり千愛ちよりを含む多くのクラスメイトたちは一様に首を捻る。そもそも質問がおかしい、と。

 確かにそうだ。ユニークスキルは先に町田が言ったように、固有のスキルである。効果が共通していないが故のユニークスキルの共通点とはどういうことなのか。


「答えは、どんな効果なのか分からない点です」


 つまり、ややこしい言い方になるが、効果が共通していないことが共通しているのだ。


「一般的なスキルは基本的に、その戦術や戦い方が既に多くの人々によって分析されているため、相手がそのスキルを隠し持っていたとしても正しい対処法さえ知っていればそれなりの対処が可能です」


 剣術を始めとする多くのスキルはこの世界の数千年の歴史の中で、相当に解析されているのだ。


「ですが、ユニークスキルは例外なく個人固有のものです。故にどのような効果があるのか、どのように対処すればいいのかは実際に見てみなければ分かりません。故にユニークスキルは初見での攻略が難しい。つまり、多くのユニークスキルは戦闘で使う場合共通して初撃に重きを置くのが得策なのです」


 シェリネーラさんは例えば……と呟き、一人の男子生徒の名前を挙げた。


「典型的なのは、ヤシロの黒竜封腕とかですね」


 鈴谷弥代。クラス随一の中二病だ。

 彼のスキル黒竜封腕は、この世界の伝説にも存在する黒竜の力を右腕で行使できるというスキルだ。黒竜の膂力や竜鱗の強靭な防御力は勿論のこと、ブレス攻撃なども再現できる。だが欠点も存在し、右手以外は全くの無力な上、もう一つのスキル弓術との相性も悪い。

 初撃をかわされると厳しい展開になりかねない。


「ですが例外もあります。例えば、トウマの武器顕現がそのいい例です。トウマ、剣を一本出してみて下さい」


 神楽が面倒くさそうに、しながらも虚空から剣を取り出す。


「見たとおり、この武器顕現はスキル自体に攻撃力があるものではありません。こういった場合、初撃で不意を撃つのは難しいです。故に、また別の使用方法でユニークスキルのメリットを活用する必要があります。その一つが、相手にスキルの効果を誤認させることです。トウマ、貴方は今どれくらいの剣を一度に出せますか?」

「五本だ」

「トウマに三人の敵が向かってきたとしましょう。その時、トウマが武器顕現を使い本当なら二本同時に出せる剣を一つしか出さなかったら、彼らは何て考えるか。まだこの時点では複数武器が出せる可能性があります。ですが、その一本しか出していない状態でずっと戦っている光景を見たら、またはトウマのスキルは剣を一本だすスキルだという噂などを聞いていたらどうでしょう。きっと彼らは無意識のうちにトウマは武器を五本も同時に出せる可能性というものを破棄するとは思いませんか?」


 シェリネーラさんが言っている戦術は、正に俺がいま行っているモノと同じだった。つまり、空間操作という本当のスキルを、転移だと誤認識させていることと同じだ。

 ちなみに、シェリネーラさんも俺の本当のユニークスキルは知らない。


「さて、そこでトウマが不意を打つ形で剣を追加すれば、これはその戦闘において優位に立てると思いませんか?」


 そう。

 予想外の状況への対処というのは、素人玄人関わらず誰であろうとも、程度に差はあれど、遅れるものだ。

 そして、それにより出来る隙は、その分自分に優位を導くだろう。


「ですが、この戦術には欠点があります。トウマ、分かりますか?」

「……いや、分かんないです」


 神楽が投げやり気味に言う。


「では、タカトシは分かりますか?」

「相手に自分のスキルの情報が漏れてしまっていた時などには、逆にやられかねない……ってことですか?」


 町田の答えは確かだ。だが、


「それもあります。ですが、それ以上に問題なのが、この戦い方は、何度も人に見せられないのです」


 シェリネーラさんの表情が僅かに締まる。


「この戦い方をする限り、必ず勝たなければなりません。なぜなら、自分のスキルの情報が相手にバレてしまっているからです」


 スキルの情報がバレてしまえば、もう二度と同じ方法は使えない。


「必ず勝ち、口封じをしなければいけないのです。確実なのは、殺すことですね」


 殺す。

 異世界に来てからこれまで、幾度となく戦い魔獣を屠ってきた。だが、今シェリネーラさんが言ったのは人と人の戦闘の話だ。

 自然とみんなの表情が堅くなる。


「まあ、今すぐの話ではありませんし、他にもやりようはありますから……」


 そんな空気の変化を機敏に捉えたシェリネーラさんがいう。

 「いずれ、出来るようになればいいんですよ」と言うシェリネーラさんに、俺を含むみんなは真剣な表情で頷いた。


 このあとも、シェリネーラさんの授業は数時間に渡って続いた。

8話更新は明日の21時。


中二病キャラの鈴谷弥代くんは、結構お気に入りキャラです。


あ、ちなみ……

誠たちのクラスは男子18人、女子20人の38人。

全員ちゃんと名前とかは決まってますよ。


ごく一部、スキルとか未定なキャラもいますが……


追加:勝手にランキングのタグを設定しました。是非クリックして下さい!

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