第6話《決断と信用》
連続投稿五日目。
この6話だけはちょっと長めです。
感想、指摘等は大歓迎。
「俺は彼女の庇護を素直に受けるべきだと思う」
俺のその言葉は、食堂に響き渡った。
「待ってくれ五大。これはそう簡単に決められる問題じゃない。シェリネーラさんが本当に信用できるかも分からないんだ」
「もし彼女に俺たちを害する意思があるなら。もしそうなら、彼女のやり口は遠回り過ぎる」
町田の言うことは確かにその通りだ。普通ならば。
だが、この状況は余りにも普通とは違った。
「彼女には俺達全員が束になって掛かっても手も足も出ないだけの力がある」
俺の言葉に全員が沈黙した。理由は分かりきっている。俺のスキルをみんな知っているからだ。
そして、その沈黙に耐えられなくなった男子の一人が恐る恐る尋ねてくる。
「お、おい。五大……お前、つまり見たんだろ……その……ステータス」
「ああ。俺のスキルで見た彼女のレベルは……4000を超えていた。言葉の通り、桁が違うんだ。そんな人がこんな回りくどいことをする可能性は極めて低いと思う」
みんなは沈黙を保っている。
彼らの顔に浮かんでいるのは驚きの表情。そして、そのうち数人に納得の表情が見えた。
どうやら俺の言いたいことが分かったようだ。
「それと同時に、俺はこの世界の中でも彼女レベルに強い人も多いとは思っていない。だからこそむしろ俺は、この期を逃さずに彼女の庇護下に入るべきだと思う」
シェリネーラさんの話を聞いている限り、この世界には少なからず多くの国家が存在しているはずだ。そのことは彼女のステータスの職業欄に元貴族と書かれていることからも分かる。貴族というのは国家という仕組みがあって初めて生まれるものだからだ。
その他にも彼女の話から分かることはいくつもある。
例えば彼女の立場、状況について。
シェリネーラさんは元貴族だ。だというのにこんな森のど真ん中に一人で住んでいる。そして同時に彼女は完全に元居た環境との交流を絶っているわけでもなさそうだ。そうでなければ俺たちを救い、俺たちが自立できるようになった時に問題が生じる。
つまり、だ。なぜシェリネーラさんがこんな場所にいるのかの理由は分からない。だが、貴族という縛られた立場から抜けだせるほどの何かしらの権力を持っているはずだ。その力は、今後俺たちがこの世界の社会に出るにおいてメリットになる可能性が高いと思う。
「……ステータスの話が本当なら、確かにその通りだわ。それと、それだけ強い人が彼女以外にもいっぱいいる訳ではないというのも納得できる。だって、少なくともこの森にいた魔獣たちはレベル1の私たちでも倒せる程度だった。そして、もうみんな分かっていることだけど、この世界のレベルはどうやら高くなるほど上がりにくくなる。つまり、この森の魔獣が極端に弱いなんてことがない限りだけど、彼女のレベルのその……4000レベル超えなんていうのはどれだけ日夜魔獣を狩り続けても到達できそうにないわ。勿論、私たちのまだ知らないレベルを簡単に上げる方法があれば別の話だけど」
又は、考えたくもないが……それだけの経験値が一回の討伐で得られるだけの強力な魔獣が跋扈している世界という可能性、か。
「それに、どちらにしろこの世界について俺たちはまだ知らなすぎる。誰かしらから情報を集めばければいけないとなると、シェリネーラさんは俺たちにとってもちょうどいい存在なのも確かだ」
あとは、ダメ押しにこれも言っておいた方がいいだろう。
「それと……言っておくと、恐らくこの会話は彼女に筒抜けだ」
そういって、俺は改めて部屋の隅に控える女性を視た。
「彼女達はシェリネーラさんと契約している精霊らしい」
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■■■ ■■■■■ ■■(中位精霊) Lv:1(0/0)
年齢:7602歳(0/1/1)
属性:水
状態:最上位契約(発動中:感覚同調)
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さっき俺が彼女が一人で住んでいると言ったときに彼女たちを含めなかった理由がこれだ。彼女たちは精霊。少なくとも、普通の人間ではないらしい。
と、丁度そのタイミングで精霊の一人が口を開いた。
『それについては私から話させて頂きます。私たちはそちらの方が仰った通り精霊、その中でも中位の水属性精霊――通称ウンディーネと呼ばれている者です』
精霊。
この世界誕生と同時に発生したそれは、一般に「自然の守人」と呼ばれている。四大属性たる火、水、土、風にそれぞれ存在し、その中でも下位、中位、上位、最上位という格が存在しているのだという。
下位の精霊は世界の至る所におり、魔法を操る。だが、彼らは実体を持たず他種族では意思疎通も難しいという。
中位精霊は実体と人並みの思考、そして強力な魔法を使える。だが、彼らは人前には滅多に姿を表さず、本当に認めた者とでないと契約を交わすことはない。
中位精霊は実体がある故に属性ごとに通称がある。それが火属性のサラマンダー、水属性のウンディーネ、土属性のノーム、風属性のシルフだという。
そして上位精霊や最上位精霊とやらは実在はしているが、一般に御伽噺の存在らしい。
追加でいうと、全属性を統合した精霊王などという者はいないらしい。質問した加藤が凹んでいた。
閑話休題。
彼女と契約している精霊たちは全員が最上位契約をしているという。そして、現在シェリネーラさんはその契約による感覚同調で、俺たちの様子を精霊の目を通して見ていたとのことらしい。俺たちが、先ほどのシェリネーラさんとの会話からどのようなことを考え、どのような結論を出すのか。
そして、これは完全に俺の憶測だが、彼女は俺たちを試している。彼女は少なからず俺たちの元居た世界――日本について知っていた。恐らく俺たちが戦場を知らない世代だということも気が付いていると考えるのが妥当だ。
『それと、シェリネーラからの伝言です。これ以降は私は貴方たちをこのようにこそこそと監視したりはしません。精霊たちも下げましょう。じっくりと話し合って、夕食の時までに結論を出すようおねがいしますね。……とのことです』
精霊はそう言い残して食堂を出た。
◇◆◇◆◇
夕食の時間。
「さて、あれから結論は出ましたか?」
「ええ」
代表して答えたのは勿論町田だ。
「シェリネーラさん。私たちを貴女の補助を希望したいと思います」
「良かった。現状の貴方方をそのままこの世界に放り出すというのは私としても心苦しいと思っていましたので」
そういって、シェリネーラさんは柔らかな笑みを浮かべた。
◇◆◇◆◇
深夜。
俺はふと物音に気が付き目が覚めた。耳を澄ますと、どうやら誰かが屋敷の庭の方でなにかしているようだと分かった。
俺は部屋の窓から外を覗く。俺の部屋は二階で、屋敷の庭が良く見えた。
「……シェリネーラさん?」
見えたのは、庭の一角で何かをやっているシェリネーラさん。
後ろ姿なので何をしているのかは分からない。
だが、気になる。先ほど信用してお世話になるという結論を出したばかりだが、彼女の行動一つで俺たちのこれからが左右されかねないというのもまた事実だ。
それにこれは彼女について知るためのチャンスでもある。そう思って、彼女を見ていると……
突然、彼女の目の前に謎の薄い黄緑色の揺らぎが現れる。
そして彼女はその揺らぎへと足を踏み入れ――消えた。
そう気が付いたと同時に俺は動いていた。
空間操作。
目標・俺、移動座標・あの揺らぎの前!
そして視界が変わった瞬間に揺らぎに飛び込んだ。
◇◆◇◆◇
俺は今更ながら早まった思った。
シェリネーラさんが躊躇わずに入っていったから大丈夫だとは思っていたが、もし彼女以外が入ろうとしたら反応するような対策が施されていたら、下手したら死んでいたかも知れない。まあ、実際はそんなことはなかったのだが。
それに、こんなこそこそと後を付けてきた俺は彼女に見つかったらなんと言ったらいいのか。そもそもここは何処なのか。
そこまで考えて、俺は改めて周囲を見回した。
薄暗いこの場所はどこかの地下なのだろう。全くの無音で、壁に広い間隔で掛けられた魔法のような灯りで照らされた道が奥へと続いていた。
「確か……マコト、でしたか」
ふと声が聞こえ、俺はバッっと振り返る。その先にいたのは勿論シェリネーラさんだ。
「夕食の時は話しませんでしたが、この度の貴方の英断に感謝申し上げます」
なぜだかは分からないが、シェリネーラさんの顔からは別段驚いたような表情も読み取れなかった。
「付いて来て下さい。見せたいモノがあります」
そう言うと、彼女はスタスタと奥へと歩き出した。俺も慌てて後を追った。
俺は彼女に問いかける。
「俺、後を付けるようなことしたんですが……」
「大丈夫ですよ、お気持ちは分かります。私の補助を受ける決断をしたとはいえ、未だ謎の多い私を少しでも知ろうとすることはなにも悪いことではありません」
暫しの沈黙。
そして今度は彼女の方から話かけてきた。
「貴方は鑑定系の上位スキル……もしくはユニークスキルを持ってますよね。故に私のことも直ぐに分かった。そのスキルで私の称号の欄の一番上を見て頂けますか?」
「え……領域の王……〈断戒の大森林の女王〉ですか?」
「ええ、それが私の現在の世間での役割……といいますか、本性と言えるでしょう」
領域の王。
王と付いているからには、相当特別な称号なのだろうか。
「この世界には、いかなる時代にも四人の領域の王がいます。彼らは自らの領域では他の追随を許さないほどの強さを誇ります。ですが、彼らは自らの領域の外では極端に弱い。故に彼らは領域に引きこもってしまう。私もその一人です。私も先代からこの称号を受け継いで以来この森を出たことはほとんどありません」
制限があるとはいえ、世界に4人しかいない最強の一人。
どうやら彼女は俺の予想のさらに上をいくほど凄い人なのかもしれない。
だが……なぜ、その話を自分にするのか。
それを尋ねようとするとほぼ同時に、彼女が言った。
「さて、着きました」
「これは……」
これまで幾つかの別れ道を通ってきたが、ようやく目的地に着いたらしい。
視線を前に向けると、そこには目の前にあるのは頑丈そうな大きな扉があった。
その扉にシェリネーラさんが触れると、重厚なそれは音もたてずにゆっくりと開いた。
その先で見た光景を、俺は生涯忘れないだろう。
そこには――
7話更新は明日の21時。
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