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焦燥の世界  作者: 八鍵 嘯
第一部「ギナティア王国篇」 第一章「断戒の大森林」
5/35

第5話《屋敷の主》

連続投稿四日目。


感想、指摘等は大歓迎。

「異世界からお越しの方々。この度は、私、シェリネーラ・フォン・ネルリューブルの屋敷へようこそ」


 その女性は、俺たちを見下ろすように二階の廊下に立っていた。

 正に中世ヨーロッパの貴族のようだった。


「私はシェリネーラ・フォン・ネルリューブルと申します。皆様のご来訪、心より歓迎致します」


 そう言ってシェリネーラは中央の巨大な階段を下り

 気づけば俺たちを案内した女性はどこかへ消えてしまっている。

 俺たちが異世界から来たことを知ってる?

 俺はすかさず目の前の女性に真眼を使った。


============

シェリネーラ・フォン・ネルリューブル Lv:4887(206,337,542/1,701,923,700)

性別:女

年齢:413歳(7190/6/11)

身長:169.92cm

体重:50.9kg

血液適正系:RYGB+(MCR:99.78%)

職業:元貴族

状態:健康(0%)


HP:600,588/600,588

MP:1,589,293/1,589,293

体力:3,533,119

筋力:2,983,152

敏捷:4,331,679

器用:4,893,667


【スキル】

大森林の頂(ユニーク)

甘美なる忘却(ユニーク)

    ・

    ・

    ・


【称号】

領域の王〈断戒の大森林の女王〉

超越者

下級神格〈忘却と慈悲の女神〉

精霊の友

    ・

    ・

    ・

============


「……ッ!?!?」


 あまりの驚愕に声が出ない。

 だが、思考は鮮明で今の状況を正確に理解していた。

 化け物。いや、神だ。

 視界に映るステータスは正に神と言えるモノだ。雲の上の存在。あまりに差があり過ぎて、どれだけ強いのかなんて全く想像もつかない。


「さて、聞きだい事は沢山あるでしょうけど、皆様お疲れでしょう。お食事をご用意しております。話はその後でゆっくり致しましょう」


 だが幸いなことに、現状彼女に俺たちを害する意思はないようだ。もしその意思があるのであれば、圧倒的なステータスで俺たちを蹂躙するのも容易だろう。



 ◇◆◇◆◇


 食堂に案内された俺たちは全員が座れる程長い長机に座り、久方振りにしっかりとした食事にありついていた。

 一応、毒などが入っていないかはスキルで調べたが、思ったとおりそのようなことはなかった。


「さて。ではまずあなた方の現状について、私が知っている限りの事をお話しましょう」


 食事が終わり、紅茶のような飲み物で一息ついたところで、シェリネーラはおもむろに話し始めた。


「そのために、まずはこの世界について語っておきましょう。この世界は約7600年前に神によって作り出された世界です。その神の名前は石野樹。あなた方と同じ地球人――それも日本人です」


 石野がその力を手に入れたのは大学生の頃だった。

 ただひたすらに自らの欲に忠実な男だった彼は、大学進学後まともに大学に通うとこもなく家に篭っていた。何をしていたのかと言えば、専らそれはゲームであった。往年の王道RPGから最新の携帯ゲームまであらゆるジャンルに手を出していた彼は、どのゲームでも常に上位集団にいた。

 彼は欲に忠実であると同時に、自身以外の力あるものの存在を強く忌避していた。故に彼は自らと他者の強さを明確に比較できない、どんなに頑張っても上位に行けない過酷な現実世界より自らの費やした時間と努力が目に見える形で成就するゲームの世界を愛していた。


 そんな石野だが、現実世界を捨てたわけではなかった。自分だって才能があれば、力があればゲームなんていう仮初の世界よりも本物の世界で上に立ちたいと思っていた。

 そんな彼が神の力を手にしたが故にできたのがこのステータス――即ち相手の力量が明確な値として見える世界だという。


「そして彼は自らよりも弱い者たちを支配することで欲望を満たしていました。ですが、神のごとき力を持つとはいえ、彼も元は人間です。この世界を創造してから千年が経った頃、彼はただ支配することに飽きてしまった。そこで彼はまだ自分が人間だったころによく遊んでいたゲームを思い出したんです」


 石野が人であったころ一番はまっていたのは所謂ストラテジーゲームであった。

 味方のユニットを操り、敵を圧倒する。石野は決して格上とは戦わず、レベル差にモノを言わせて狩りのように敵を倒していた。それを思い出したのだ。


 この世界は石野の生み出した世界。自らが生み出した格下の存在しかいない世界。

 彼は世界の一部に国を作った。自分が思うがままに操れる味方ユニットとその陣地だ。そしてその国に、他の国を圧倒出来る力を与えた。その国は徐々に勢力を拡大させていき、遂には世界最強の国へと育った。自分のユニットが敵ユニットを撃破していく様は、石野にとって正に快感だった。ここ数百年と薄れてきていた優越感が再び彼を満たした。


「そしてさらに三千年が過ぎました。彼の国の力が衰えることはなかった。いや、確かに彼のユニットは勝ち続けました。だがそれは、一国が世界を平定しているわけではなかった。彼は自らのユニットが敵を倒し尽くすと、そのユニットを捨て、新しい味方ユニットを作った。そして今度はこれまで味方だったユニットを攻撃し始めました」


 敵のいないストラテジーゲームなど楽しくとも何ともない。あと一撃で死ぬ敵を生かしておくだけのゲームなどただの作業ゲームである。

 故に彼はユニットを捨てた。リセット、初めからやり直し、である。


「そしてこの世界が生み出されてから約4000年が過ぎたある日。一人の男が現れました。それが、獅子田彰人。後に時克と呼ばれるようになる九賢者の長です」


 獅子田は俺たちと同じ異世界人、日本人だった。なぜこの世界にやって来たのかは定かではないが、自らの意思でやって来た訳ではないことは確かだという。分かっているのは彼がこの世界で現れた場所には巨大な魔法陣が描かれていたということだけだ。


 獅子田はそこでこの世界の現状を知った。不自然に嬲られるように続いている戦争。獅子田は、この世界の人々にとっては当時既に当たり前のようになってしまっていたその状況を、客観的に的確に見る術を持っていた。そう、最初は石野もそれなりにバレないように工作していた。だがそれが当たり前と認識されるようになって以降、石野はその面倒な工作も止めていた。

 獅子田には分かった。これは明らかに人為的なものだと。


「そこからの獅子田の行動は迅速でした。彼はまずこの状況を理解できる強力な仲間を欲しました。だから彼は解析に取り掛かりました。自分をこの異世界に呼び出した魔法陣の解析に」


 解析は困難を極めた。だが幸いなことに、彼には時間があった。

 そう。獅子田も今の俺たちのように、だが俺達よりも遥かに強力なユニークスキルを持っていた。それは後の彼の通り名を見ても分かる通り、時間を支配するスキルだった。


 彼は自らの体と魂の老化に関わる時間のみを停止させ、解析に没頭した。その甲斐あって遂に魔法陣の解析が完了した。

 彼は自らの解析結果を元に改良した魔法陣を八つ、彼が用意出来る限界まで描き、発動させた。


「結果は全て成功。獅子田は仲間を手に入れた。そしてそれから百年後、彼らは神殺しを実行に移し、世界は「銀落星の時代」へと突入します。そして彼らは見事神たる石野を殺めました」


 そこまで語ったシェリネーラは、長話の間にすっかり冷えてしまった紅茶を一口啜る。


「獅子田がこの世界に現れて以降、これまでに二度、同じような異世界人召喚が確認されています。そしてそれらにはどれも忽然と現れた謎の魔法陣によって成されています。そして同時に、召喚された異世界人たちは、必ず歴史に残る――言わば歴史の転換期の中心として活躍している」


 そこで俺はふと違和感を抱いた。それはまるで自分だけ見えないモノが見えてしまっているようなもどかしさを孕んでいた。

 そう、まるで――


――まるで誰かの意思によって意図的に操られているようではないか。


 そして同時に、理解した。

 彼女は、理解していないのか。この現状を。

 そして同時に、恐怖した。

 これだけ圧倒的な力を持つ者を完璧に騙すだけの力をもつ何かに。そしてそれを知ってしまった自分の状況に。

 そう、これは嘗ての英雄である獅子田すらも気づかなかった事実。

 だが、シェリネーラの話は俺の戦慄を他所に続く。


「今回のあなた方の事例は私たちにとっても想定外の自体です。現状、なぜあなた方が現れたのかを知るすべは有りません」


 俺たちはだだシェリネーラの次の言葉を促した。

 シェリネーラが澄んだ声で宣言する。


「私にはこれからあなた方に最低限の補助、そしてこの世界で生きる術を与える用意があります。そして、あなた方が望むのであれば、この度の一斉召喚の原因を突き止める鍵となりうる者への仲介もしましょう」


 一斉召喚の原因を突き止める鍵となりうる人物。その言葉に俺は思わず肩を震わせた。

 なぜなら、恐らくその人物は――


「シェリネーラさん。その提案、誠にありがたいです。手を差し伸べて頂いている身で失礼とは承知していますが、私たちにまだ貴女を信用出来ません。宜しければ何故私たちを救おうとして下さるのか教えて頂けませんか?」


 町田の質問にシェリネーラは一切嫌な顔を見せることなく答える。


「ごもっともな質問ですね。何故、ですか……。そうですね。状況はあなた方の方がずっと深刻ですが、私にも経験があるのですよ。なにをしようにも、どうすればいいのか分からない。ただひたすら薄暗い道を彷徨っていたことが。彼が手を差し伸べてくれなければ今の私はいなかった……」


 ……そうかっ!

 だから貴女は何も知らない。強者でありながら籠の中の鳥であった。

 いや、まだ推測に過ぎない。仮説に仮説を重ねただけの妄想に近い憶測。


「今の私にはあなたたちへと差し出せる手があるのに、それをしないのは私にとっては有り得ないなのですよ。まあ、流石に異世界からお越しの方々に手を差し伸べることになるとは想定外でしたが」


 確かめなければ。

 俺はこの時、一つの決意をした。


「気が付けば結構時間が経っていたようですね。声を掛ければ彼女たちがお部屋へ案内します」


 その言葉と同時に、いつの間にかシェリネーラの後ろに待機していた女性たち――俺たちを屋敷に導いたあの精霊のような姿の者たちだ――が深いお辞儀をする。


「今の話の返事は……夕食の時に聞きましょう。皆様の今後についての大事な話なので、じっくり話し合って決めて下さい」


 シェリネーラの去った食堂で俺たちは今の話について話し合いを始めた。

6話更新は明日の21時。


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