外伝No.002《出席番号33番、タカトシ・マチダ》
五分前に書きあがったばかりなので、誤字脱字があったらすいません……
10話は全部町田の視点なのでタイトルを外伝に変更しました。
この世界に来て、もう二か月が経つ。
思えば激動の二か月だった。ただ異世界に来てしまったというだけでも大事だというのに、その場所が大森林のど真ん中。あまりの異常に逆に俺を含めてみんな冷静になれたことは幸運だった。いわゆる正常性バイアスって奴だ。
だが、それも三日目の狼の襲撃で終わってしまった。あの時女子たちが負った傷は大きい。特に右足を失った雨宮さんと能登さん。どうにか魔法や魔術による応急処置が出来たから良かったが、今も日常生活すら不自由な状況にあることには変わりない。
その後はシェリネーラさんという方のお屋敷で過ごすことになった。彼女は見ず知らずの僕らにとても優しく接してくださり、僕らにこの世界での生きる術を教えてくださった。
彼女と出会っていなければ、今頃僕たちはあの森の中で路頭に迷って倒れてるか、魔物に襲われて死んでいたかもしれない。
兎も角僕らはシェリネーラさんに様々なことを教わった。その中でも特に驚いたのが、この世界の事、そして僕らの事だ。どうやら異世界人と呼ばれる存在は、この世界の歴史上に既に何人かいるのだという。そしてその全員が、僕らと同じようにユニークスキルなるものを持っていたというのだ。
そしてこの世界に来て一か月ほど経った頃に、僕らは彼女の屋敷を離れ、このギナティア王国に来た。見知らぬ文化や種族が多くある異世界の都市であったが、彼らは僕らを無下にしなかった。そこには当然シェリネーラさんからの手紙の効果も大いにあるのだろう。
でもこうやって住む場所まで貸してくださっている恩というのは、忘れてはいけない。
この王都バルスに着いたことによって、ようやく先のことを考える余裕が出来た。ここで考えるべきことは幾つかあるが、まず最初はこの世界でどうやって今後生活していくか、だ。
当然、日本に帰りたい気持ちはある。クラスメイトのみんなにだってあるだろう。でも、その方法を模索するにしてもこの世界に生活基盤がなければ、帰る前に飢えて死んでしまう。実際のところ、ギナティア王国側はクラスメイト分の衣食住程度ならずっと保障してもいいと言ってきているが、流石にそれは忍びないということで、期間は三年となったのだが……
クラスメイト全体を見渡すと、正直全員が全員すんなりと自立できるとは思えない。普段の生活という意味ではみんなだいぶ順応してきているが、なんだかんだで陰で泣いたり落ち込んでいる人は多い。
それは生活が安定してきた今だからこそ、自分たちのこの異常な状況を正しく理解できてしまったというのも大きいのだろう。
そんな中、僕はどうにかみんながしっかりとこの世界でも生きていけるようにある計画を進めていた。その内容は、僕ら全員をギナティア王国に直接雇ってもらうというもの。
幸い、僕たちには唯一無二のユニークスキルというものがある。そしてその能力はどれもレベルやステータスに関わらず有用なものが多い。そして、ギナティア王国側としてもその能力は是非とも欲しいところがあるということを、既に何度かの話し合いで確認できている。
これは既にギナティア王国にある程度認めてもらえているからこその計画だ。
しかし、ここへ来て驚きの話が降ってきた。
その話を僕が知ったのは今日の夜。夕食前にミュヘン男爵から齎された。
「なんてことを……」
神楽君たちが、第二王女を誘拐をしたというのだ。既に神楽君たちは捕まり、第二王女も全くもって無傷ではあるらしいが、それでも神楽君たちがが捕まったという事実は、少なくない衝撃を僕らに与えていた。
少なくともこれは、精神的には当然ながら、今進めている真っ最中のギナティア王国との雇用計画に大きな影響を及ぼしかねない。
「でも、この情報は広く国中に発せられることはありません。そして王国はこれを理由に君たちに対してなにか対応を変えるつもりもないです」
青ざめた顔で呟く僕に、ミュヘン男爵がそういう。だが、それでもクラスメイトが犯罪を犯したという事実は重く圧し掛かる。
それに王国としてはそうだとしても、そのことを知っている貴族の中にはいろいろ思うところのある人も多いに違いない。
「さて……暗い話はそれくらいにして、夕食にしましょう」
パンパンとミュヘン男爵が両手を叩くと、料理が運ばれてくる。夕食に出てくるものはそれほど豪華なものではないが、味は日本で食べてきた物に劣らないものばかりだ。これも昔に現れた異世界人のおかげらしい。
今日の夕食は焼き魚とスープ、それにライスだ。米についても一般に浸透しており、僕たちの故郷でよく食べられていると知っているからかよく出してくれるのだ。
これからいろいろ考えることはあるけど、この美味しい食事を食べ終わるまでの間くらいは、置いておいてもいいだろう。
◆◇◆◇◆
夕食後、僕は同じくこの屋敷に住まわせて貰っている五大君と間宮君を部屋に呼んだ。目的は当然ながら、神楽君たちの誘拐と僕の進めている計画について話をするためだ。
「そういえば、五大はあんまり驚いて無かったな……」
空中に浮かべたミカンのような果物を、念力で器用に剥きながら間宮が言う。
念力だけで果物を剥くのは結構難しいらしく、いい訓練になるらしい。ついでにそのミカンもどきは最近の彼の好物とのことで、空中にはまだ剥いていない同じものが幾つか浮かんでいる。
「確かに」
「ミュヘン男爵は言ってなかった……というか聞かされてなかったのかもだけど、神楽たちを捕まえたの俺だからな」
「えっ……それ、本当かい?」
「と言っても、実際に捕縛したのは後から来た騎士の人たちだけどな。でも、そもそも誘拐自体も同じクラスメイトだからこそ気付けたんだ。王国側も実行されるまで全く気づけなかったらしいしな」
これには驚いた。まさかそういうことだったとは。
でも、それならまだ今回のギナティア王国側の対処も分かる。助けたのもまたクラスメイトの一人であったからこそ、僕らを見捨てなかったということか。
「それって当然抵抗してきたんだろ? 神楽の武器顕現もそうだが、西川の神速とかだって厄介だってのに、よくまあ捕まえられたな」
「確かにそれは、運がよかったってもあるな。でもまぁ俺の場合は、最悪第二王女だけ助けて転移で逃げるって手も取れたからな。気持ち的にも多少の余裕もあったのが良かったのかもしれない」
その言葉に僕はハッとした。
神楽君たちは当然ながら見つけた五大君を攻撃してきたのだ。それもスキルを使って。神楽君の戦闘での力はクラスでもトップクラスだ。それに素手での戦いなら金剛力士のスキルを持つ清水君に勝てる人なんてそうそういないだろうし、目で追えないほどの西川君のスキルも脅威だ。
それを捕まえたということは当然だが、それを相手取ったということ。それも戦闘系のスキルを持たない五大君がだ。
最近は冒険者活動をしているようなので、実力はそれなりにはあるのだろうけど、実際にクラスメイトと戦うということ自体、僕からすれば抵抗は大きい。まぁ、もし僕がそういう状況になったとしても、スキルも幻惑と隠蔽しか持たない僕にはどうしようもないけど。
五大君はその時のことを思い出してか、大きなため息を吐いた。
「とはいえ、流石に今回の件は流石に堪えた。冒険者ランクもBランクに昇格できる目処も立ったから、一度この国を出るのもありかなと思ってる」
「お、推薦が得られたのか」
「ああ。今回の一件でこの国の第一王子が直々に推薦書を書いてくれたからな」
話についていけなくなってきたので聞くと、どうやら冒険者はBランクまで上がると発行されるギルドカードが国外でも通用するようになるらしい。そのBランクに昇格するためには実力だけではなく、相応の実績を証明するためのそれなりの人からの推薦も必要だったのだが、今回の一件でそれも得られたのだという。
「それで、五大君は出ていくっていうのか?」
「ああ。ここにいても何も進捗もなさそうだし、もうこういったことに巻き込まれるのも御免だからな」
僕の質問に、一瞬も迷うことなく答える五大君。
その姿に僕は明確な理由は分からないが、強い憤りを感じた。
「それは……それはどうかと思うよ。こういう時だからこそ、僕はみんなで頑張らないといけないと思う!」
そして、思わず口調も少しばかり強いモノに変化していた。普段あまり叫ばない僕の突然の大声に、二人も驚いた様子だ。
その様子に、僕も冷静になった。
「……知ってるだろうけど、今ギナティア王国と雇用計画を進めてる。それさえ上手くいけばまだその先が見えるんだ」
そう。みんな、この世界で自分たちで生きていけるようになれば、将来に希望が持てるかもしれない。
「正直、その計画は別に悪くないと思う。寧ろ、その計画が必要な奴らもいるだろうし、そのまま進めるべきだとも思う」
五大君は、僕の意見に反対しなかった。
「じゃあ――」
「でも、それだけじゃダメだ。きっと俺たちにはもっと知らないといけないことがある。それは、多分この国の中にとどまっていたら分からないことだと思うから」
でも、それじゃあ不足だと言った。
「ま、直ぐにどっかに行くことはないし、この話はこのくらいにしておこう。それに、シュニを寝かしつけないとだし……。なに、まだ考える時間はあるさ」
そういって立ち上がり、そのまま僕の部屋を出る五大の後ろ姿を、僕は茫然と見送るしかなかった。
これで三章は終了です。
四章は主人公が冒険者らしいことをして、旅に出る準備をします。(あ、旅に出た後の話は第二部です)