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焦燥の世界  作者: 八鍵 嘯
第一部「ギナティア王国篇」 第一章「断戒の大森林」
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第3話《真夜中の戦闘》

連続投稿二日目。


感想、指摘等は大歓迎。

「なんだ?!」


 建物が崩れる音に周りに寝ていた寝ていた男子たちも目を覚ました。


「女子棟の方からだ!」


 持ち前の判断力で瞬時に状況を理解した町田がその音の方へと走り出した。

 俺や他の男子生徒も後に続くように走る。

 男子棟から女子棟まではわずか十メートルほどだ。俺たちは直ぐにそこで何が起こっているのかを目の当たりにすることとなった。


「や、助けて!」

「痛い痛い痛い、止めてよっ!」

「うっ……は、はぁ、はぁ。血が……ヤダ……死にたくないっ!」

「ああっ。このっ、ヤメてよっ! クソっ、近づくな!」

「ヒィィイイッ! 死ぬ、死ぬ、死んじゃうぅぅ!」

「あっち行って! 嫌っ、ダメ、来ないで!」


 目の前の光景を、俺たちは一瞬理解できなかった。

 十数匹の狼が女子たちに襲い掛かっている。目に映るのは、逃げようとして背中に深い爪痕を受ける者。片足に噛みつく狼をがむしゃらに蹴り続ける者。食いちぎられた腕から吹き出る止まらない血を顔をぐしゃぐしゃにしながら抑え続ける者。

 その全員が、先ほどまで話し合いの場で五体満足で元気だった同じクラスの女子たちだ。

 知り合いが目の前で喰われ、殺されようとしている。その光景は正に地獄絵図だった。

 そんな中。


「男子! 突っ立ってないで手伝って、よっ!」


 一人の女子生徒が懸命に狼と戦っていた。辰宮だ。

 彼女は自身のスキル、雷魔術を巧みに使い狼たちをあしらっていた。


――バシィィイッ!!


 女子生徒の手から放たれた雷光はそのすぐ前で別な女子に襲い掛かっていた狼に当たる。だが、威力が弱かったのか狼は一瞬止まっただけで今度は彼女へと襲い掛かる。


「チッ……じゃあこれでどうよ!」


 そういって、彼女は再度狼に雷撃をくらわせた。先ほどよりも明らかに強力な一撃だ。

 バンッという音と共に狼はその体を大きく痙攣させ、彼女の前でその命を散らした。

 それを機に、俺たちは自分が今やらなければならないことを思い出す。


「おい! 武器の必要なヤツはこれを持ってけ!」


 神楽がスキルで呼び寄せたいくつもの剣や槍が中空に忽然と現れる。これこそ、神楽が捜索組にいる最も大きな理由。スキル、武器顕現だ。

 武器顕現で現れる武器の数と質はまちまちで、基本的には粗悪な武器が十本ほど現れるだけだが、それでも俺達には現状武器を手に入れる手段がこれしかない。

 これがなければ、剣術や槍術スキルを持つ奴らも全く役に立たないのだ。


「おりゃぁああ!」

「ていっ!」

「やめろぉぉおおおッ!」


 神楽自身を含む武器を構えた数人が狼に向かって武器を振り降ろす。 それによって数匹の狼が女子達への襲撃を中断した。そしてそのタイミングで魔術系のスキルを持つ者たちが一斉に狼達に向かって魔術を放つ。


「馬鹿、やめろッ!」


 俺は思わず叫んだ。

 魔術系スキルの遠距離攻撃は低いレベルの段階だと、命中精度が低く至近距離から撃つ必要がある。ましてや現在の俺たちの精神状態は酷く、まともに狙うなどということはできないだろう。

 故に。

 放たれたいくつもの魔術の砲撃は一直線に狼とその近くにいた(・・・・・・・)女子生徒・・・・へ飛んでいった。


「キャァァァァアアアアアァァアアアアア!!」


 自分に向かってくる砲撃に思わず叫ぶ女子生徒。

 俺は咄嗟に自分のスキルを使った。

 目標・江原亜紀。移動座標・俺の目の前!


――ババババババッ!!!


「グォオオオオン!!」


 狼のうめき声が辺りに響く。


「きゃああぁぁ……って、えっ?」


 俺の目の前で茫然としている女子は今は一先ず置いておき、魔法を放った奴らに向かって叫ぶ。


「ロクに狙いもつけられないんならもっと近づいて撃てよ!」

「すまん五大! 恩に着る!」


 クラスメイトたちには事前に俺のスキルが転移・・だということを知らせてある。


「……あ、ありがと」


 江原が半泣きしながら言ってきた。

 泣きながらも、一応は状況を理解できているようだ。


「江原。狼たちがどっちから来たか分かるか?」

「え……た、多分東の方だけど……」


 山の方か。

 あっちの方で確認されていた魔獣に、狼はいなかった。狼系の魔獣が唯一確認されていたのは西だったはずだ。

 そして、それらは報告が確かならこれほど大型ではない。せいぜい中型犬ほどのサイズらしい。

 ではなぜ……いや。


「今はまず、この状況をどうにかするのが先決か」


 戦況は加勢した男子たちと、冷静さを取り戻した一部の女子によってだいぶ良くなってきている。恐らく俺が今から加勢せずとも、あと数分でけりがつくだろう。


「えっと……あ。いたいた」


 なら、俺がやるべきはこれだろう。

 空間操作、目標・俺、移動座標・春風遙子前方。


「うわぁっ!?」

「遙子、怪我はなさそうだな?」

「え、うん、まぁ……」

「じゃあ……こいつらの治療を頼む」


 俺は、特に大怪我をして動けなくなっている女子数人をスキルで呼び出した。


「わ、分かった」


 そう言って遙子は自らのスキルを使い出した。

 最初に遙子が手を伸ばしたのは腕を食いちぎられた女子だった。彼女の意識は既にない。だが、そんなこととは無関係に腕の断面からは今もなおドクドクと血が溢れ続けていた。


「うっ……」


 遙子はその光景に思わず吐きそうになりながらも自身のユニークスキルを使った。

 そのスキルにより、みるみるうちに傷が塞がり、溢れ出していた血の流れが止まる。

 これが、遙子のユニークスキル、治療魔法(・・)だ。


「次は……」


 遙子は治療が終わると直ぐに次の怪我人の治療に掛かる。途中からは、治癒(・・)魔術スキルを持つ2人も手当てに加わった。

 そしてその数分後には、数匹の狼が森の奥へと逃げていった。



 ◇◆◇◆◇


 狼が一掃される頃には重傷だった者たちの治療は済んでいた。

 だが、皆の表情は一様に暗かった。

 そりゃそうだろう。何人もの女子が腕や脚を失い、その身に一生残る傷を負ったのだ。

 でも――


「あれだけのことがあったんだ、誰も死ななかったのは奇跡だ」


 声と同時に俺の肩に手が掛けられる。振り向くと、予想通り透が立っていた。だが、その表情は優れない。

 そう。一歩間違えれば死者を出していたかも知れない。この事を冷静に理解している者がこの中にどれだけいるのか。

 みんな現状を嘆いているが、そのうちのほとんどが自分や友人が深い傷を負った事に対してのモノだ。

 俺には冷静に対処すれば追い払える狼なんかよりも、みんなのこの危機管理能力の低さの方がよっぽど危険に思えた。


「なあ、誠」

「どうした?」

「町田たちに進言した方が良くないか?」


 そうか。透も気が付いたのか。それもそうか、クラス一のお人よし(・・・・)の透が気が付かないはずがない。


「……ああ、そうだな。どっちにしろ、直ぐに分かるだろうし。伝えるなら早い方がいい」


 俺たちは、他のみんなと同様に周囲を警戒しながら休憩を取っていた町田に話しかける。


「町田」

「ああ、五大君と間宮君か。お疲れさま。五大君の迅速な対応がなければ全員が助かってはいなかった。ありがとう」

「……いや、別に町田が礼をすることもないだろうが……まあ、どういたしまして」


 町田はこういう奴だ。このリーダー気質な性格は現状はとてもありがたい。何処とも知れない場所に放り出されたクラスメイトを見事にまとめ上げられるのは彼くらいだろう。

 みんながもう少しこの生活に慣れてきた時、このリーダーシップが仇とならなければいいのだが。


「で、だ。女子棟が壊されたが、朝までどうする? 夜はまだまだ長いぞ」

「そうだよね。僕もそれについては考えていた。まあ、今夜はまだいい。一夜くらいならみんなどうにかなるだろう。問題はこれ以降のことだ。この場所に拠点をまた築きなおしたとしても、あの狼たちに襲われない確証が得られない限り同じことが繰り返される可能性がある」


 そう。そして、その可能性がある限り俺たちは安心して眠ることすらできないだろう。


「そこで提案なんだが……」

「神楽たちの見つけた屋敷。あそこなら大丈夫なんじゃないか?」

「だけど……いや。それが今は最善か」

「どうしたの?」

「辰宮……」


 俺たちが話しているのを見つけて辰宮が話に混ざってきたので、現状とそれに対しての俺と透の案を話す。


「……そう、ね。現状はそれが一番でしょうね」


 協議の結果、俺たちは予定を変更。明日の早朝、全員で屋敷に向かうことになった。

4話更新は明日の21時。


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