外伝No.001《出席番号34番、コトリ・ミヤビ》
二章の最終話は
外伝ナンバー ゼロ・ゼロ・ワン!
どうぞっ!
「私は雅琴莉って名前で、実結や蛍と同じく異世界人ですー。これからお世話になりまーす」
(そう言えばこの自己紹介、意外と違和感なく言えるなぁ)
私はそう言いながら、内心でそんなどうでもいいようなことを考えていた。
でもそう思わないー? だってこれって宇宙人が、「我々ハ、○○星カラ来タ者ダ」って言うんじゃなくて「我々ハ、宇宙人ダ」って言ってるのと同じでしょー?
でも、よく考えたら当たり前かもしれない。仮に、宇宙人にそんな具体的な星の名前言われたってピンとこないと思う。
同じ様にこの世界の人に「地球の日本から来ました」って言ったって意味不明……なんだろうなー。
◆◇◆◇◆
「ようこそ、いらっしゃいましふべらっ!?」
「いや~、よく来てくれましたねぇ!」
最初この屋敷を訪れた時にそう私たちを快く受け入れてくれたのはノミュレー男爵……夫人だった。
(だ、男爵が玄関の壁にめり込んで着る気がするけど、大丈夫なのかな……)
と思ったけど、結局はその数分後には何事もなかったかのように男爵が復活してしまったので、恐らくは大丈夫だったんだろう。固そうな石造りの壁だったけど。だったけど!(ココ大事)
「さ、入って入って」
男爵壁めり込み騒動の原因たる恰幅のいい夫人に連れられて屋敷に入る。
ノミュレー男爵は王宮勤めで土地を治めてない、そこまで偉くない貴族……らしい。といっても具体的にどれくらいなのかは全く分かんないけどねー。
少なくとも、屋敷をみる限りものスッゴく裕福で偉いって感じではなさそう。
でも、ここまで来る途中に見た街とかの一般的な家よりも立派だし、ホントにそれなりの偉さの貴族なんだと思う。
「さ、今日はもうお疲れでしょ? 部屋でゆっくり休んで明日から色々楽しいことしましょう! 夕食は美味しいものを用意したわ。それに明日は色々お楽しみを準備しているわ!」
そう言う夫人の勢いに押されて、結局私たちは夕食まで部屋で休むことになった。
そして現在、私達は実結の部屋に集まっていた。
「ふぅ。疲れたわね」
「疲れた」
そう言って備え付けのベッドに体を寝転がせる実結と、その足元の方に腰掛ける蛍。私も近くにあった一人用ソファーに腰を下ろす。
「仕方ないよ。こんなファンタジーの世界の貴族とかいきなり言われてもねー」
「そうよね。てか、あの状況であれだけ色々言える町田くんとか、その後の王様との話し合いに出た辰宮さんは凄いと思うわ」
「このクラスメイトのステイ先を割り振ったのもあの二人らしい。男子は町田くん、女子は辰宮さんがやったんだって」
「蛍、それホント?」
コクリと頷く蛍。
「でもそうだよなー。王国の人が私達のクラスのグループなんて分かりっこないし」
「でも、それにしたって辰宮さんの割り振りは正確過ぎない? ウチのクラスメイトは女子のグループは比較的どこも穏便な感じだけど、多少の仲の良し悪しはあるでしょ? そのあたりの配分が凄い上手いわよね」
「特に、嶋田さん川原さん小島さんとかの辺りだよねー」
「これだからうちのクラスの女子は辰宮さんに従う」
「なんていうか、カリスマ? って感じだよねー」
「そう言えば……五大くんがなんか話し合いに参加してたらしい」
「蛍。それ本当?」
「うん」
「ふーん……」
五大くんねー。なんかこっち来てから目立つようになってきてる気がするけど、基本的に気にしなくて良さそうかなー。
「町田くんと仲がいいっぽいし、来る途中も色々話してたから、補佐的な役なんじゃない? 確か彼、どっかの文化部だか委員会だかの副部長とか副委員長だった気がするし」
「へー。初めて知ったー」
「同じく」
どっかの副部長だか副委員長ってことは、やっぱり補佐っぽそうだなぁ。
「で……これからどうするー?」
「まあ、とりあえず数日後かに騎士団とかの見学があるらしいから、それまでは王都散策じゃないかしら」
「難しいことは分からない」
夕食を食べ、就寝するために自分の部屋に戻った私はベットに潜り、色々考えていた。
異世界かー。ファンタジーかー。もう何日経つんだろ……。
だいぶ慣れてきた……と思う。
不便はあまり無い。魔法の道具……えっと確か魔導具って言うんだっけ? によって人を感知して自動で点灯する灯りとか、手を自動で水がでる蛇口とかは、なんて言うかちょっと考えてたファンタジーの世界とはイメージが違う気がするけど。トイレだって陶器じゃなかったり使い方が微妙に違ったりしたけど水洗だったし。
でも……ふと思い出すことがある。それは、これまで当たり前だった筈のこと。あの日までは何とも思わなかったこと。
怖いけど料理の上手いママ。優しいけどいつも残業ばかりなお父さん。わがままだけど可愛い妹。他のクラスや近所の友達。苦手科目だったけど面白い授業をする社会学の先生や、ちょっとキモかったけど印象に凄い残ってる数学教師の担任。普段は超優しいのに怒るとムッチャクチャ怖いバスケ部の先輩や、少し気になってはいた男子バスケ部の部長。
人だけじゃない。毎日登校していた教室。校舎の一階にある学生価格な食堂。持久走で学年九位になれたグラウンド。部活で使っていた体育館。よく実結や蛍と行って陣取ってた学校の最寄り駅の駅前のファーストフード店の二階のいつもの席。最近ひっそりハマっていたゲーセンの音ゲー。いつも必ず座っていた家の食卓。今のように寝転がって夜更かししたベッド……
「う……うぅ、っ……」
ふと涙が溢れ、ベッドに敷かれた真っ白のシーツこぼれ落ちた。
戻りたい。帰りたい。
なんでこんな事になったの?
何度も思った。でも、それに答えてくれる人はいない。
そして同時にこうも思った。まだ最悪じゃない。私には実結や蛍がいる。それに、クラスを導く辰宮さんたちがいる。
なんとも他人任せな考えだとは、私も思う。でも、もし私一人であの森の中で目が覚めていたら、と考えるとゾッとする。
あの森には魔物がいっぱいいた。こんな他人まかせな私では生きていけない。
「……そうだ。まだ大丈夫」
みんながいるかぎり。私は大丈夫。
直後、睡魔が私を襲ってきた。今日はちょっとホームシックになりすぎたらしい。泣きすぎて疲れちゃったよー。
◆◇◆◇◆
王都に着いてからの日々は平穏の一言だった。
慣れてくれば異世界も悪くない。料理は普通に美味しいし、魔導具のお陰で不便も少ない。
最近は王都の中心街であるバルス大通りをウィンドウショッピングして楽しむ日々が続いている。お金はあくまで最低限しか使わないようにはしているけど。
そんなわけで、今日もバルス大通りをブラブラと歩く。けど今日は何時もの二人に加え、更に女子が二人いる。
一人目は呉八恵さん。
あの大森林での魔物の襲撃で左手の肘から先を失ってしまってる。呉さんは同じように、あの件で深い傷を負った能登さんと雨宮さんの二人に比べて冷静で、自分が一番辛いのに周りを常に気遣ってる。なんていうか、陰で支えるクラスのお母さんみたいな人だ。
そしてもう一人は中村めいさん。
正直、相手よってだいぶ毒舌になるので、私は少し苦手ではある。とはいえ、普段は其処まで毒舌でもないので、普通に接している。
「さーって、今日はどこ回ろっかー?」
「昨日の食堂。あそこのお肉のスープ。今度こそあれ食べてみたいって琴莉言ってた」
「そうだった……! じゃあお昼はあそこで決まりと……。じゃあまたあの周辺の散策ってことで」
そこに、中村さんが尋ねる。
「実結たちって毎日この辺り歩いてんの?」
「そうよ。でも広くてまだまだ見れてない場所も多いけどね」
「それじゃあ、今日の案内役はそちらにお任せしようかな」
実結の言葉にそう答えた呉さん。どうやら二人ともあまり散策はしてないらしい。
「じゃあ、今日は私たち三人チョイスのバルス大通りオススメツアーってことで!」
このあと、それなりに散策してお昼にしようというタイミングで、偶然にも五大くんとシュニちゃんに会い、一緒にご飯をする事になるって訳。
◆◇◆◇◆
「さて、今日は今後について提案を持ってきたんだけど」
「提案?」
「そう。話を聞いて賛同してくれたらでいいから手伝って欲しいの」
私達の泊まらせて貰っているノミュレー男爵邸に辰宮さんが訪ねてきたのは、それから更に数日後の事だった。
要件は、私達クラスメイトの自立の為の計画についてらしい。
「知っての通り、この世界の人たちにとって異世界人は物語に出てくる偉人とかという印象が強いわ。そこで、この異世界人っていう私達しか持ってない価値を全面に出して自分たちでお金を稼げるようになれるんじゃないかと思ったの」
「具体的な方法は決まってるの?」
「ええ。まだ実行してみないと上手くいくかは分からないけど、支援してくれそうな商会とかはいくつか既にコンタクトをとってみているわ」
現状のギナティア王国からの援助の期間は限られてる。と言うよりも、辰宮さん達がこっちから期限を設けたらしい。
流石にずっと居候状態じゃ、ニートにもほどがあるってことなんだと思う。
「この王都で住まわせて貰える期間の間に私達は自立しないといけない。その為にも協力して欲しいわ」
今の私達には、プランがない。でも自立しないといけないとは思ってる。
そんな中で、辰宮さんはしっかりと皆のことを考えて、しっかりプランを立てて実行していた。
答えは一つしかなかった。
最後のは4章の伏線……っていうほどの伏線でないんだけど。
さて、次回はいつになるのかって?
そりゃあ教えられねぇな。
それに……俺的には年明けくらいって言いたいとこだが、前回7月には投稿するとか言って11月になった男の言うことだし、あてになんねぇだろ?
次回、「焦燥の世界」第一部第三章
「守護する者、そして事件」
お楽しみに!