第11話《王都散策 後編》
まーにあったー!
11話っ!
「あー、美味しかったー!」
お会計を済ませて店を出ると同時に雅が満足げに言うのを尻目に、俺は腹をさする。
「あんなの普通食えねぇぞ……」
実はシュツブルは肉が堅く、煮込んだりして柔らかくしないと普通の人には噛み切れないような代物だった。
ではなぜそのようなモノが売ってあるのあと言うと、獣人の中でも猫人族や虎人族などの人が注文することがあるかららしい。
そして、案の定シュニは一口目で「堅い……」とギブアップ。残りは全て俺が食べることになった。
人間の顎の力じゃどうやっても噛み切れないので、密かに空間操作のとある能力を使ってしまった。
「それじゃ、このあとはどうする?」
「いつも通り適当に回ってみればいいんじゃない?」
「それでいっか」
とまあ無難に決まったので、ひとまずバルス大通りまで戻った。
そして、ふと目をやった先にあったのは、大規模商会の魔導具屋。その広い入り口の端にいる人の男がいた。しきりに店の中を覗いては顔を逸らしており……正直言って挙動不審、不審者にしか見えない。
「あれ、鈴谷君だよね……」
「うん」
「なにあの動き……キモっ」
女子陣も直ぐに気付いた。まあ、これだけ広い通りだというのに、だいぶ目立っているから、ある意味当然とも言える。
それと中村……確かあれは不審だが、そう言うことを口に出すのはどうかと思うぞ……。
とまあ、男の正体はクラス随一の中二病患者、鈴谷弥代だった訳だ。
「……無視した方が良さそうね」
「無視一択で」
「当たり前でしょ、不審者の知り合いと思われたくないし」
痛烈な女子陣の無視決定。正直、俺もこの意見には賛成だ。
女子たちが鈴谷を見て見ぬ振りしてバルス大通りを歩き始め、俺とシュニもそれに続く……。
「あっ、五大!」
背後から声が掛かった。掛かってしまった、と言う方が正しいだろうか。
「おーい。ちょっと待てよぅ」
走る足音と掛かる声が近づく。流石にこれを無視するのは出来ない。
「お、おう。奇遇だな。こんなとこでどうした?」
「すまん五大、今から魔導具屋いかないか?」
なる程。あの店に入ろうとしてでも一人でだと入る勇気が出なくて、結果のあの挙動不審な行動だったわけだ。
だが、今俺はシュニと女子陣と動いている。
そう言えば、女子陣はどこにいるんだ? シュニは相変わらず俺の服の裾を摘まんでるが。
そう思い、チラリと視線を周囲に向けると……数メートル程離れた場所に、手を顔の前に立てて「ゴメン」と合図する呉の姿が。その後ろにはこちらを一瞥してどこかへ行こうとしている女子たちの姿もある。
どうやら俺を餌に逃げるつもりらしい。いや、まあ鈴谷もあの女子メンバーと一緒に行動はあんまりしたいとは思わないだろうから、どちらにしろ捕まるのは俺と俺について来るシュニだけなんだが。
「シュニ、鈴谷が魔導具屋に行きたいって言ってるんだが、どうだ?」
「いいよ?」
「そうか! ありがとう!」
シュニの言葉に喜ぶ鈴谷。
コイツ、異世界に来てから完全に中二病がなりを潜めていやがる。なまじ思考の中でファンタジーしまくっていたせいで、逆にそれどころじゃない心境なんだろうか。
まあ、どうでもいいが。
そして、俺たちは魔導具屋に入る。マイーラの街でも魔導具屋は寄ったが、あそこは魔導具を造る魔導技師が個人営業している店で、品物は殆どがその魔導技師が自分で造ったものだった。
だが、この店はこの王都で庶民向けに様々な商品を扱っていることで有名なコルン商会という商会の魔導具屋だった。
「うわぁ……」
鈴谷が感嘆の声を上げる。
店の中には大きな棚がずらりと並び、それぞれの棚には種類別に多種多様な魔導具が並んでいた。
ホームセンターや100均のような雰囲気と言えば分かりやすいだろうか。
「さて、鈴谷はなにが欲しくて魔導具屋に来たんだ?」
「ん? 別に欲しいものはないけど。でも、ファンタジーの世界の王都の魔導具屋だよ? 凄くない? 一度は来てみたいって思うじゃん」
「うーん。まあ、分からなくはないが……」
ぶっちゃけ、マイーラの街で魔導具屋に行ってるから、そこまで来たいとは思っていなかった。まあ、実際に入ってみると同じ魔導具屋でも結構違っていて面白いとは思ったが。
俺がそんなことを考えている間にも、「うわぁ……」とか、「あっ、これってもしかして……やっぱり!」とか、「ん? これってなんに使うんだ……?」と、はしゃぎながら魔導具屋を端から見始める鈴谷。
もう俺とシュニなんて頭にないらしい。
「さて、折角来たからチョット見て回るか」
「うん」
俺も近場の棚から見て回ることした。シュニも、俺の目の届く範囲でいろんな商品を見て回っている。
だがこうやって見ると、安いモノでは明らかに量産ものとは言え千数百ハイルほどの魔導具もある。
このくらいなら、庶民でも手の届かない代物ではない。というより、魔導具は使い捨てではないこと考えれば結構普及していると言ってもいいのではないだろうか。
「マコト、あれ」
日用品系魔導具の棚を見ていた俺の服の裾をシュニが引っ張った。
「なんだ?」
シュニの指差す方向に目を向けると其処にあったのは冒険者向けのブース。そしてそこに置かれた大きなカゴ。カゴの端にはデカデカと『セール品!! 小型魔導爆球(10個セット) 2000ハイル』と書かれている。
「魔導爆球って……多分爆弾的なヤツだよな……」
近づいて見ると、長さ30センチ程の箱が山積みなっている。一箱で10個入りのようだ。
「なんなの、それ」
「多分、敵に当てて爆発させて使うんだと思うけど……」
使い方は分からないが、このパッケージの感じ的に中に説明書は入っていそうだ。ちょっと気になるし、爆弾なら魔物相手の武器として幾つか買っておくのも良いかも知れない。
そう思い、俺は二箱手にとった。
◆◇◆◇◆
「んで、鈴谷のやつはどこに行ったんだ?」
結局、それ以外には特に欲しいものもなかったのでお会計を済ませた俺は、店に入った直後に何処かへ消えていった鈴谷の居場所を探す。
すると、鈴谷は先ほど俺たちも通った冒険者向けブースのセール品の前でワナワナと震えていた。
「おい、鈴谷。そろそろ俺とシュニは帰るが、お前はどうする?」
そう尋ねると、鈴谷はゆっくりとこちらを向き、
「ご、五大……。これって、まさか……」
「あー、爆弾的なヤツだろうな」
「ヤッパリ……!」
驚く鈴谷。
「冒険者がいることも、武器屋とかもあることは知ってたけど、まさか魔導具店にまでこんなものが売ってるなんて! ヤッパリ凄いな!」
と、そこまで興奮気味に言った鈴谷が、俺の手に持つ袋を見つける。
「何か買ったのか?」
「ああ、その魔導爆球ってやつを二箱な」
そう言って袋から出してみせると、鈴谷は更に驚いた表情になった。
今驚かせたばっかりの俺が言うのも何だが、こんなに驚いてて疲れないのか?
「な、なななんてものを買ってるんだよ君は!」
「いや、護身用的な意味でも持ってて良さそうだったし」
異世界くる前では中二病しまくって超真面目に魔法で同級生を焼き尽くそうとしていたけど、流石にこういうところは常識的なんだな。
寧ろこういうときこそ本気で敵を倒す手段は行使出来るように用意した方がいい……っていうのは言っても難しいんだろうな。こういうのは簡単に変えられるモノでもないだろうし。
「で、まだ鈴谷は見て回るのか?」
「うん。もうちょっとここにいるよ」
「じゃあ、俺たちは帰るわ」
「おう。じゃあな」
そうして俺とシュニは先に魔導具屋を出た。
その後も、適当にバルス大通りを散策した。アクセサリー店なども巡ったが、あまりシュニは食いつく様子もなかった。
◆◇◆◇◆
「はぁー……疲れた」
「お疲れだな。どうだ、王都散策は楽しめたのか?」
ミュヘン男爵邸に帰り、今日一日を思い返しつつ呟く俺に、透が声を掛ける。
俺は女子たちにシュニが連行された結果連れてかれた猫人族の食堂の話と、その後の鈴谷に連れられて入った魔導具屋の話する。
「飯屋の話はご愁傷様だな。にしても、普通の魔導具屋にそんなモノが置いてあるのか」
「ああ。一個200円と考えると、買ってみるのも悪くないと思ってな。そうだ、あれの使い方確認しとかないと。んじゃ、部屋に戻るわ」
「おう」
俺は自分にあてがわれた部屋に戻った。
そして、今日もまた一日が終わる。
そう。これは異世界に跳ばされるという非常識な体験の中、彼らに与えられた束の間の平穏だった。
30分前に書き上がった、出来立てホヤホヤですよ!
誤字脱字は多分ある。あとで直す。
てか、多分あとで修正入れるよ。でも大筋は変わらないし、変わっても他の話に影響ないからおk。