第9話《国立魔導技術研究機関》
九話目……
翌日。騎士団の見学を終えた俺達は王城から少し離れた場所にある巨大な建物に来ていた。
国立魔導技術研究機関。この国の魔導技術の最先端を行く場所である。
今は建物内の廊下を進んでいるのだが……
「あ、あの……大丈夫ですか……? 随分とダルそうといいますか、なんといいますか……」
「ぇ……あ、いえ、別にそう言うことは……」
案内は昨日に引き続きアーネリヒ子爵。彼の足取りは目に見えて重く感じられる。そして口では否定しているが、その声音には少し気だるさが混ざっている。
「気分が悪いようでしたらお休みになられた方が良いかと……」
「いえ、そういうわけではなくてですね……」
はぁ、と息を吐いたアーネリヒ子爵は言う。
「これから向かう場所国立なだけあってこの国の最先端の魔導技術を行く場所です。故にそこで働く人は皆さんとても優秀な方ばかりなのですが……。なんと言いますか……少々、ひねくれていうと言いますか、柔軟すぎる思考を持っていると言いますか……」
「ああ……」
なる程。アーネリヒ子爵はなんとかオブラートに包んで説明しようとしているが、要は変人ってことか。
天才は得てして一般人には認められないものだというし。もしかしたら、アスペルガー気味だったりするのかもしれない。地球でだって、かのアルバート・アインシュタインやフィンセント・ファン・ゴッホなどもそれだったと言う。
「さて、ここです」
着いたのは一つの扉の前。
扉に付いたプレートには、《超危険区域:許可された者以外の立ち入りを禁ずる》と書かれている。
「では、少し中の者と話を付けてくるので、少しの間ここでお待ち下さい」
そう言ってアーネリヒ子爵は扉を開ける。すると……
「ヒィィィィーーーーーーャッハァァァ!!!!」
「俺は今、魔導の深淵へと導かれている……!」
「や、やったぁぁぁぁあああっ!? ああああああ、なんてことだあああああああ!!!」
「「「…………」」」
扉の奥から聞こえてくるのは、俺たちの推測を粉々に粉砕するレベルの奇声。それを聞いてしまった俺たちは思わず呆然とする。
そして確信する。断じてかのアインシュタインなどの偉大な天才達と比較して言いような変人ではない、と。変な人と言う意味の変人だと。
「まあ、そうなりますよね……。一応言っておきますけど、絶対に私が戻るまで扉は開けないで下さい」
アーネリヒ子爵の言葉に無言でコクコクと頷くクラスメイト一同。
そしてそれから数分後。ようやく開かれた扉からアーネリヒ子爵と初老の男が現れる。
因みに、先ほどのような奇声は聞こえない。
「皆さん、お待たせしました。こちらがゲア・マトライア所長です」
「ここの所長のゲア・マトライアです。といっても私は研究はしないのですがね」
マトライア所長は一礼すると、中へどうぞと俺たちを促す。だが、皆先ほどの一幕のせいか一向に入ろうとしない。
その姿にマトライア所長は苦笑する。
「大丈夫ですよ。ここの者は皆少し……と言うのは厳しいくらいに変人ですが、それなりに話は分かってくれる人ですので。今も全員研究の手を止めて待機して貰っていますし」
どうにしろ今は入らないと仕方ないので、俺たちはソロソロと扉を抜ける。
そこにあったのは、おどろおどろしい謎の研究材料や生成物……ではなく魔物から取れる魔石という魔導具のエネルギー源。そしてなんだかよく分からない家具だか武器のような物が数点。
そしてそれらの載った幾つかの簡素な机の前に座り俺たちを見る白衣の人々。
マトライア所長が言う。
「ここの者は基本的に自分の研究にしか興味のない者どもでして……私のような、魔導技術にそこそこ理解があって事務仕事の出来るか者がいないとまともに組織として機能しないのですよ」
「マトライア所長には感謝しか無いわい。ここにいるもんは皆、元居た研究機関追い出されたところを所長に拾われてたりするようなアブれ者なのさ」
白衣の男がマトライア所長の言葉に答える。
そりゃあそうだ。あれだけ奇声を発している人があぶれないでいるには周囲の相当な配慮が必要だろう。
「でも、私は思うのです。彼らの能力はホンモノです。彼らを理解し受け入れる場所さえあれば、そこの研究機関はあのアシュレイン王国すらも凌駕する魔導技術を手にするのだと。私は、自分がその受け入れる場所を作れればという思いでここの所長をしていますよ」
そう言ってマトライア所長は柔らかな笑みを浮かべた。
「さて、私たちの話よりも魔導技術についてお話しましょうか。魔導技術はかつての魔術陣から発展した技術です。本来魔術行使の補助として使われていた魔術陣の魔力供給を人でない魔石から行うことを考えついた今は無き魔術大国ピシタ王国の商会王、マークランド・フォン・タルバン伯爵によって研究がされたのが始まりとされています」
伯爵は自身も土魔術を使える優秀な魔術師だった。そして伯爵は幼少期から貴族にしては珍しく庶民と多く触れあっていたと言われてる。そんな彼が若いころに流行していた技術、それが魔術陣だった。
魔術陣は汎用性を重視した魔術とはいえ、あくまで術者自身が用意してその本人が使うものだ。そのコンセプトを知った伯爵は汎用性の究極、誰もが使える魔術の研究を始めた。そして完成した最初の魔導具……当時は汎用魔術補助具と呼んでいたらしいが、それは魔術陣の書かれた魔石が少し硬くなるだけの簡単なものだった。だが、これこそが伯爵の生み出した、魔術陣で負担を軽減することで本来補助である筈の精霊に全ての魔術行使をさせることを可能にする技術。魔導技術の始まりだった。
「精霊の肩代わり。これは本来エルフを始めとする極少数の者にしか出来なかたため、それまでは特殊な才能が必要とされてきていたんです。実際、最初の魔導具の研究にはエルフが手伝っているという話もあります」
マークランド・フォン・タルバン伯爵はまさに今の魔導技術の祖といえるらしい。
この後も、様々な魔導具などの話をしてくれた。クラスの皆もファンタジーの世界の技術には多かれ少なかれ興味があったようで、どれも簡単な説明だが退屈することはなかった。
そしてこういう案内での定番、質疑応答の時間となる。
「そういえば、王都に来る途中でそのアシュレイン王国製のホワイトマジックパールの埋め込まれた短剣を買って、その時にマジックパールには魔術や魔法、スキルが付与できるって話を聞いたのですが、その方法って分かりませんか?」
俺は、マイーラの街であの短剣を買って以降ずっと気になっていたことを尋ねた。
あれも魔導具の一種、国の研究機関なら方法くらい分かるだろう。
「マジックパールなら、グライドさんが確か少しばかり詳しかったですよね」
「ん? あー、まあ多少はな。にしてもホワイトマジックパールとはまたレアなものを持ってるな……。マジックパールは少々特殊な魔石で魔導回路……魔術陣から発展した魔導技術の核となるモノだな。この魔導回路無しに直接魔術を付与できるものなんだ。だが、残念だが今んところ魔術系以外のスキル付与を行える技術を持っているのはアシュレイン王国の一級認定証持ちの魔導具メーカーか一部の国家公認研究機関だけだ。ここで出来るのは魔術の付与だけだ」
「そうですか……」
ということは、あの短剣に空間操作を付与するには、そのアシュレイン王国に行く必要があるのか。
まあ、幸いあの国はここの国と《ジュラの大迷宮》の間にある。行き掛けに通るのであればその時でもいいだろう。
「あそこの奴らは魔導技術至上主義の塊ばっかだからな。研究員も貴族どもも民選意識が強いんだよ。そのせいで折角の技術が普及しないんだ。技術なんて使われてなんぼのシロモンだってのによ。まあそれに嫌気がさして俺はあそこを抜けた結果、ここに辿り着いたんだけどなここは良いぜ、自分の技術が反映されるからな」
「まぁまぁ、グライドさん。元あそこの研究員として色々と言いたいことはあるんでしょうけど、今は抑えて」
マトライア所長が宥める。
「おっとすまねぇ。……それで、付与自体は簡単なんだが、マジックパール側の質によって付与できるスキルに上限があるんだよ。そのマジックパール側の上限と付与するスキルの具体的な能力ランクが分からないと付与するときに失敗しかねないんだ」
「スキルの能力ランクですか……」
「ご自身のスキルの能力ランクは分かりますか?」
スキルの能力ランク。思い当たることは多くない。
「それは超能力系の五段階のことですか?」
「そうだな。それと、ユニークではないスキルにも稀少度というのも能力ランクだ。魔法系ユニークスキルは実際に測定してみないと分かんないな……」
「そうですか」
俺の空間操作は恐らくレベルⅢ。只でさえユニークな上、上にⅣとⅤしかないことを考えるに相当良い品質でないといけない気がする。
もし付与出来ないなら他の有用なスキルを誰かに付与して貰うしかないだろう。
「そういえば、確かマジックパールの魔術以外の付与は出来なくても許容量測定は出来ますよね」
「ああ。測定だけならここの設備でできるな」
「良ければこちらでお持ちのホワイトマジックパールの許容量測定を測定致しましょうか?」
それは有り難い。ここで許容量を知っていれば、もし空間操作が付与できないとしてもアシュレイン王国に着くまでに色々と何を付与するか考えられる。
俺はその申し出を有り難く受け入れた。
追い付かれた。
明日の分書き終わってない。
11話なんて0文字。
もしもダメだったら……いや、最後まで諦めないぞ!