第8話《王宮魔導士団》
ちょっと短めだけど八話……
そもそも、魔導士とはある一定以上の技能を持つ魔術師を指す言葉で、基本的にスキルレベルが4以上、本人のレベルが20以上を指すらしい。
そんな彼らの中でも特に優秀な者を集めたギナティア王国最鋭魔導士部隊。
それが王宮魔導士団である。
「王宮魔導士団は少々特殊な部隊でして」
クロウィルクは言う。
ギナティア王国の軍編成において魔術師は貴族軍の一部隊として存在するのが基本だ。○○領軍第一魔術魔部隊、といった感じだ。
そんな中で、唯一魔術師のみで編成されている部隊なのだそう。
「かのアシュレイン王国の特別魔術連隊には及びませんが、世界でも屈指の魔術部隊です」
有史以来最も長い歴史を誇っていたという魔術大国、ピシタ王国を前身に持つアシュレイン王国は現在も他国に比べて魔術の技術が二段も三段も上を行くという。
そんなアシュレイン王国を除けば、ギナティア王国の王宮魔導士団と並ぶ魔術部隊は世界にも帝国の直属第一魔導兵団とイース教国の神聖騎士団魔術部隊くらいらしい。
「ここが王宮魔導士団の第四宿舎です」
魔導士の訓練は、基本的に個人個人のものが多い。よってほかの部隊のような訓練場のような場所を独自で持ってはいないのだという。
なので俺達が訪れたのは彼らが普段生活する寮だった。この第四宿舎は第七まである宿舎の中でつい最近改修がなされた宿舎らしく、その規模も大きく、設備も充実しているのだという。
俺たちはそんな第四宿舎にある大会議室に通された。そこには既に全員分の椅子が並べられていた。
「さて、魔導士団の見学といいましても。正直あまり見学できるような場所はないのですが……なにか見たい、知りたいようなことはありますでしょうか?」
「テイラー魔導士団長の実力が知りたいです!」
俺たちが全員椅子に座ったのを確認したクロウィルクが訊ねる。
そして、それに真っ先に答えたのは火魔術を使う江原亜紀だった。
「では、そうですね……。規模ではなく、技術的な実力の分かることをしてみましょうか」
確かに、こんな場所で大魔術を行使するわけにもいかない。
「いまから行うのは、魔術行使の正確さを見極めるためによく行われる『合わせ紋様』と呼ばれるテストです。大分難しいですが、風と回復、それと木以外ならどの属性でも出来るので、良ければ魔術を使える方は同じ様に挑戦してみて下さい」
クロウィルクはまず両手を手のひらを上にして胸の前に置いた。
「まず、魔術で片手の前に円を作ります。これが出来るのは魔術師の四割程だと言われています」
そう言って右手の上に薄い円盤状の水球を作る。
「次にもう片方の手の前に同じサイズで円をもう一つ用意します。同じサイズですよ」
魔術を使えるクラスメイトがやってみているが、みんな同じサイズを作るのに四苦八苦している。
「二つの円を重ね合わせてみて下さい。これがピッタリ合うのは、大体先ほどの四割の内の更に一割程しかいません」
クラスメイトたちのは少しはみ出たりしているのに対し、クロウィルクのモノは完全に一致している。
そんな中、ピッタリ合っているのが水魔術を使う雨宮翔子と、俺の親友であり実は火魔術使いでもある間宮透だった。
「凄いな。透」
「なんて言うか、俺の場合もう一つのスキルの念力が、そもそも物質を変形・移動させるのに特化してるスキルだからな。そっちの練習をしてたら自然にこっちも上手くなるってわけだよ」
「なる程」
もしかしたらなにかしらのスキルの補正があるのかもしれないが、それをここで言うのは野暮ってものだろう。
「そして今度は片方の円を消してに正三角形を作って下さい。でもそのサイズは三角形の頂点がピッタリ円の縁に接するようにして下さい。作ったら上手くいったか重ね合わせて確かめます」
三角形の頂点と円の縁を合わせるには、ただ綺麗な三角形を作るだけではいけない。普通に作ると目の錯覚でどうしても三角形を大きく作ってしまうのだ。しっかりと其処まで考えた上で作らなくてはいけない。
「これは先ほどの半分程の方しか一般的には出来ないとされています」
さて、と言ってクロウィルクは両手の魔術を目まぐるしい早さで変化させ始める。五芒星、正方形、円形といった平面だけでなく、三角錐や六角柱、正八面体、さらにはそれらの複合された複雑な形すらも。その光景はさながら3Dホログラム映像のようだ。
「このように、形を作って合わせていくのが、この『合わせ紋様』ですが、最終的には目視に頼らず魔術行使の感覚だけでこれを行えるようになるのがベストです」
そう。実は俺たちの目の前でデモンストレーションを行っているクロウィルクは終始目を瞑るまたは魔術を極力見ないようにして魔術行使をしていたのだった。
「因みに風魔術には『浮かび木の葉』という有名な実力を測る方法があります。要は木の葉を何枚空中で静止させられるかというものですね。ほかにも回復魔術の『焼き消し』木魔術の『枝葉分け』などといった様々なものがあります」
そこまで言うと、クロウィルク両手の魔術を消す。
「正確な魔術行使は高位の魔術師でも苦手とする者が多いです。ですが、これが出来るか出来ないかで同レベルの魔術師同士あと明らかに差がついてきます。事によっては格上にすら勝てる程に」
そもそもが魔術は低レベルでもそれなりの火力のある。当たらない強い魔術1発よりも狙いの正確な10発の魔術の方が強いと言うことだ。
なお、精密な強い魔術が最も強いことは言うまでもない。
「魔術において最も重要なことはイメージ力です。嘗ては魔術陣や詠唱などといった技術が流行った時期もあったと言いますが、最後にはどれも廃れていったこともその証拠と言えます」
「魔術陣や詠唱?」
「ええ。紋章や言霊による精霊の補助を受けて効率を上げるというものなんですが、今ではだいぶ廃れてしまっています。ああ、でも魔術陣は今の魔導技術の元となっているものなので、残っているといえますかね」
魔導具の技術の元……。
「そもそも魔導具ってどういうものなんです?」
前々から気になってはいた。魔術がスキルという人の才能に依存して存在するこの世界に於いて、人を介さず発動する魔導具というのはとても特殊なモノに見える。
「それなら、明日にでも行ってみますか? 国立魔導技術研究機関に」
◆◇◆◇◆
「お帰り」
「ただいま、シュニ」
前日の騎士団の見学はあまり楽しいものではなかったようで、今日の魔導士団の見学には付いて行かずミュヘン男爵邸でお留守番をしていたシュニに出迎えられて帰宅した俺、透、町田の三人。
そのまま洗面所で手を洗い、居間へと向かう。すると、この屋敷のメイド長さんにお先にお風呂の用意が出来ておりますよ、と言われたのでそのまま風呂に入ることになった。
そう、この世界には風呂の文化がある。一般市民まで自宅に風呂があるわけではないが、公衆浴場は普及している。
そしてここはミュヘン男爵邸。高位の貴族ではないとはいえ、そこそこの広さの風呂が完備されていた。
日本人としては満足である。
因みに、シュニが始めて風呂に入るとき、一悶着あった。風呂に入るのが始めてのシュニが俺に着いて風呂場に入ってこようとしたのだ。
結局、シュニは後でそれなりに接すれるようになっていたメイド長さんに洗って貰ったのだが、あの時はヒヤッとした。
「そういや誠はもう王都は見て回ったか?」
そして俺は今、風呂を上がり、居間で涼んでいた。そこに自室から出てきた透が言う。
「いや、してないが……」
「シュニちゃんがだいぶ暇そうにしてるぞ。基本的にお前が構ってやらないと何も動かない娘だからな」
「……どうしたの?」
自分の名前を出されてたシュニがこちらを見て首を傾げる。
確かに、ここへ来てからやっていることといったら自室でスキルの練習か今のように今後について話したり行動しているのがが殆どだ。
その間、シュニは俺の練習を見ているか部屋でぐーたらしているかだ。そりゃあ暇だろう。
「他の奴らはもうだいぶ散策をしているらしいぞ。この前も美味しい店だとか良い呉服店とかの話をしてんのを聴いたし」
透が言うように、クラスメイト……特に一部の女子たちは毎日のように王都観光を楽しんでいるらしい。
「散策かぁ……シュニ、行ってみたいか?」
「うーん……でも歩くとお腹すきそう」
「そういや誠は王国から貰った金、全く使ってないだろ。それで飯でも食えばいいんじゃないか?」
王国に滞在するに辺り王国から支給されたお金。一人当たり十万ギナティハイル。シェリネーラさんがくれた五万ハイルと合わせて日本円換算十五万円。その内、マイーラの街でシュニに一万五千ハイルの短剣とその他少し食べ物などを買ったため、残りは現在十二万七千ハイルだ。
王都の物価が分からないとは言え、観光程度には十分過ぎるだろう。
「そうだな……まあ、今度暇な時にな」
ヤバい。
ただでさえ修正後回しにしてるのに、更新が追いつかれそう……えっと、十一話を……