第6話《騎士団》
六話目ですな。
王都に来て数日経ったある日。
漸く騎士団と魔導士団の見学の予定が出来たということで、俺たちは見学をしに王城へと来ていた。
「さて、こちらがわが国最高の騎士団、王国近衛騎士団第一部隊です」
まず俺たちが向かったのは、王城内部にある騎士団の訓練所だった。尖塔がよく見える所に造られたそこでは、現在何人もの騎士が鍛錬に励んでいた。
そんな中、一際目を引く一人の男がいた。
「右足、背中、左腕! そうだ!」
男は訓練相手の部下が振り下ろした鋭い剣戟を完全に受けきる。
そんな男にアーネリヒ子爵が声を掛ける。
「ジナート団長殿」
「アーネリヒ子爵、少しお待ちまたれよ。ほら、最後に手本だ。ハァァッ!」
「ぐっ!?」
男はそのまま部下の剣を跳ね上げ、がら空きの胴に刃の潰されている模擬剣を叩きつけた。
そしてそのまま地面に倒れた部下をよそに此方へやってくる。
「よくいらっしゃいました、異世界の客人の方々。私がギナティア王国近衛騎士団長のジナート・フォン・ネルリューブルです」
ジナート・フォン・ネルリューブル。ギナティア王国最強の騎士として名高い男。
その一目見ただけで分かる圧倒的な威容は、あのシェリネーラと似ていながらもどこか違う。シェリネーラの神気のようなオーラと違い、こちらは闘気のオーラを羽織るように纏っていた。
俺は、早速真眼を使う。
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ジナート・フォン・ネルリューブル Lv:142
年齢:38歳
職業:ギナティア王国近衛騎士団団長
HP:388/388
MP:240/240
体力:602
筋力:703
敏捷:637
器用:611
【スキル】
剣術(実戦経験Lv9,ギナティア王国式剣術Lv8)
光魔術(Lv4)
【称号】
守護者
英雄の証
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強い。
確かにシェリネーラさんのような桁の違う強さはないが、レベル100を超えたら超一流、達人と呼ばれる中で142というのは正に最強と言えるだろう。
「これでも、あなた方とも関わりの深いというシェリネーラ様と同じ家系であるネルリューブル家を出自に持ちます。あの方には到底敵いませんが、部下共々それなりの強さは持っていると自負しております」
言われるまで気が付かなかった者も居たようで、「あの人と同じ家系なんだ……」などといった呟きがちらほら聞こえる。
「あの……気になったんですが、強い騎士っていうのは国境とかに配備されるんじゃないんですか?」
「ええ、まあ確かに有事の際には我々も前線へと向かいますが、現在我が国は国境の接している国とは比較的良好な関係を築けていますので、国の中心にいたほうがメリットが大きいのです」
一人のクラスメイトの質問に答えたのはジナート団長ではなくアーネリヒ子爵だった。
この国の軍の編成は、まず大きく分けて王国本軍と貴族軍がある。
貴族軍は各領地の貴族が国の援助の下で独自に配備した軍で、平時の最高指揮権はその地の領主にある。
対して、王国本軍とは王国が直接管理している軍で、第一方面隊から第六方面隊と近衛騎士団、王宮魔導士団がある。
第一から第六はそれぞれ担当の地区があり、各地の貴族軍と連携して活動を行う。
「さて、どうでしょうか。あなた方から見て我々近衛騎士団は」
「凄い! 凄いです! ここにいる全員の方が鍛え抜かれた先にしか得られない技術と経験を持っている……!」
興奮気味に応えたのは我らが出席番号一番、【聖剣】相田恭介。
俺たち3年A組の中で最も強い剣術使いだ。
「ほう、貴殿は……?」
「あ、申し遅れました! 相田恭介って言いま……い、いや、キョウスケ・アイダと言います!」
途中で友人に訂正されつつも自己紹介をする相田の姿を見たジナート団長はその目を微かに見開いた。
そして、数秒の沈黙の後にとんでもないことを言い放った。
「アイダ殿、ウチの団員と模擬戦をしてみたくありませんか?」
「えっ……?」
その申し出にそのばにいた全員が凍りついた。まあ、その驚き方は明確に三種類に分かれていたが。
一つ目は、大半のクラスメイトの単純に王国近衛騎士団の団長がそのような申し出をしてきたことに対する驚き。
二つ目は、相田の抱いているであろう、自分がこの練度の高い騎士たちと模擬戦が出来るなんて嬉しいという意味での驚き。
そして三つ目は、異世界人と騎士団の模擬戦という対戦カードの組み合わせからくる諸問題を考えての驚きだ。
確かに今後の俺たちの戦力強化などの点から見れば今回の模擬戦は悪い話ではない。だが、今回の場合はそれだけではない。
相田が勝つにしても、騎士団が勝つにしても、明確な勝ちますという力関係が生まれてしまう。それは先の衣食住の保証などという目に見えないものに比べて明確な上下の指標になりかねない。
要は、俺たちに対して揚げ足をとる口実を与えてしまう。
俺が見た限りだと、近衛騎士団の団員のレベルは大体90~100。対する現在の相田のレベルは……
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相田 恭介 Lv:36
年齢:17歳
職業:学生
HP:59/59
MP:89/89
体力:57
筋力:68
敏捷:57
器用:61
【スキル】
剣術(Lv4)
聖剣
【称号】
異世界人
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正直言って、厳しいどころの話ではない。
確かに相田はスキル聖剣によって剣での戦闘に限れば本来のレベルよりも高い実力を発揮出来る。その能力はことによれば10や20のレベル差であれば覆せる程だ。
だが、相手はレベル90超え、そして当然ながら国に使えるに相応しい普段からの厳しい訓練などによる多くの経験を持っているだろう。
そんな相手とまともに戦えるほどの補正は恐らくスキル聖剣にもない。
「それは流石に」
「是非お願いします!」
そう思い、断ろうとする俺の声は、相田の声に阻まれてしまった。
だが、厳しいのでは、という客観的判断を下したのは俺だけでは無かったようだ。
「いえ。その模擬戦、断らせていただきます」
言ったのは辰宮だった。
しかし、その断りに対してジナート団長は小さく首を傾げて言い放った。
「なんで本人でないあなたが断るのです? アイダ殿は乗り気なようなのに……」
ジナート団長の返答に唖然とする俺たちに、苦笑しつつアーネリヒ子爵が俺たちにだけ聞こえるくらいの小声で言う。
「申し訳御座いません。ジナート団長殿は戦においては天才的な方なのですけれど、どうにもこういったことは得意ではない方でして……」
ですが、とアーネリヒ子爵は続けていう。
「多分大丈夫ですよ。あの人はなんだかんだで無意識にそういういざこざを乗り越えてしまわれる人ですから。そうでなければこんな団長何てやれませんよ。それにもし、なにかあっても、あなた方の不利益にはならないよう此方でフォローしますので」
自信ありげに言うアーネリヒ子爵の言葉を今は信じるしかない、か。
ごめん。短いけど、こうしないと区切りが……