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焦燥の世界  作者: 八鍵 嘯
第一部「ギナティア王国篇」 第二章「異世界の国」
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第2話《マイーラの街》

連投二日目。

 領主の屋敷に着いた俺たちが案内されたのは、応接室……ではなく食堂だった。

 理由は勿論、人数が多すぎるからだ。


「まさか、生きているうちに異世界の方々と会えるとはね……。それもこんなに沢山の方と」


 ハッハッハと豪快に笑っている顎髭を蓄えた初老の男。彼こそ、ここ一帯を治めるガルド・フォン・モルエ子爵だ。


「突然だというのにこのようにもてなして頂き、ありがとうございます」


 例によって、町田が代表してお礼を言う。


「ハッハッハ……そんなに畏まらなくてもいい。私は確かに貴族だが所詮はこの国だけでも何十と存在する子爵の一人でしかない。場合によっては君たちの方が敬われるべきなんだからな。なにせ、この世界に現れた異世界人は、例外なくなにかしらの分野で功績を残している偉人だからな」


 偉人。何故かはわからないが、俺達を含む異世界人は例外なく後世に名を残すようなことを成し遂げている。それはシェリネーラさんからも聞いていた。

 どうやら、モルエ子爵は俺達も何かしらの偉人となることを確信し疑っていないようだ。


「マコト、食べないの?」

「……じゃあ、少しだけ貰うよ」


 俺の隣に座るシュニには、ボルエンさんが用意してくれた菓子や果物などのデザートが並んでいた。どうやら、この世界は風景こそ中世ヨーロッパっぽい(中世ヨーロッパを良く知らないので、あくまで想像だ)が、砂糖が高級品だったりなどと言うことはあまりないらしい。

 さりげなくボルエンさんに聞いたら、それもどうやら過去の異世界人のお蔭らしい。特に、食に関しては古谷寛太という1600年ほど昔に現れたという人が多くの革命をもたらしたという。


「あなた方には、恐らく数日後にはここから馬車で一週間ほどの場所にある王都へ行き、この国の国王陛下と会って戴くことになると思う。具体的な予定は王都からの折り返しの連絡が来てからだがな」


 既に王都には、各都市に設置されている通信用の魔導具によって俺たちが現れたことが伝えられているという。

 シェリネーラさん直筆の手紙によるお墨付きもあったためか、話はすんなり通ったらしい。


「それまでは、このマイーラの街を存分に堪能してくれ」

「ありがとうございます、モルエ子爵様」

「ボルエン。彼らに案内を付けてやってくれ。念の為、護衛も出来るような奴で頼む」

「畏まりました」



 ◆◇◆◇◆


 子爵との面会が終わると、俺たちはモルエ子爵のご厚意で幾つかの班に分かれてマイーラの街の散策をすることとなった。

 俺の班は、俺と町田と透の男三人。そして勿論だが、シュニも一緒だ。

 因みに、遥子は女子の友達と班を作っていた。本当なら、シュニはそっちと一緒に行動した方が良いような気もしたのだが、肝心のシュニが何故か俺から離れようよしないのだからどうしようもない。


「はぁ……」


 周囲を見渡す。もう溜め息しか出てこない。

 現在、俺たちは初めてファンタジー世界の街を見て回っていた。


「ここが、マイーラの街の大通りです。食料や服などの生活必需品の店は勿論、冒険者ギルドや武器屋、魔導具屋なども数多くあります」


 隣でいろいろと説明してくれているのは、モルエ子爵騎士団所属の騎士、グィルアーナさんだ。

 確かに、グィルアーナさんの言う通りのようだ。左右を見渡せば、街の大通りと言うだけあり多くの人々が往き来している。

 そんな中ふと町田が、通りを歩く一人の男を見て呟く。


「あれは……」


 その視線の先にいたのは、ハルバートを肩に掛けて歩く毛深い大男。ご丁寧に頭の上には立派な獣耳が付いている。


「ああ。獣人の冒険者ですね」

「あれが……」


 獣人。エルフ、ドワーフなどと並ぶファンタジー定番種族の一つだ。

 シェリネーラさんから学んだ知識の中にもあった。

 この世界にはエルフ、ドワーフ、獣人、竜人、妖精などといったさまざまな種族がある。そんな中でも、獣人は人間に次いで数が多く、そしてその種類も豊富らしい。

 因みに、目の前を歩く冒険者の獣人は虎人族という比較的ポピュラーな獣人らしい。


「一体どんな進化の仕方をしてきたんだか……」

「それを言ったところで無駄だろうな。なにせファンタジーの世界だ」


 獣人は基本的に耳や尻尾以外は人間に近い構造をしている。

 そして、驚くことにエルフやドワーフ、獣人、竜人、妖精そして人間を含む多くの種族は生殖可能なのだ。どうやら、基本的には母親の種族を受け継ぐらしい。が、原因は不明だがエルフと人間など幾つかの組み合わせでハーフのような種族も確認されているという。


 結局、透の言う通り酔狂な神が作った世界にそんなことを言っても無駄だと思い、その意味のない思考を止める。そんなことよりも今はこのファンタジー世界の街を堪能するべきだ。

 と、そんな俺は一つの看板を視界に収めた。


「魔導具の専門店か……」

「あそこの魔導具店はこの街では一番と噂されているんです。覗いてみますか?」

「ええ、……少しだけ」



 ◆◇◆◇◆


 どうやらマイーラの街一番らしい魔導具店。それは大通りの中ほどにあった。

 看板も出てはいるのだが、別段他の店に比べて売れるための工夫をしているわけではなかった。それなのに一番と噂されるということはつまり、純粋に製品が良いからなのだろうか。

 初めての異世界の店ということもあり、若干興奮しながら扉を開いた。カランカランと、軽いドアベルの音が響く。


「いらっしゃいませ!」


 入ってみると、金髪の可愛らしい女の子が出迎えてくれた。見た目的にはシュニと同じに見えるが……


「耳が少し長いな……エルフか?」

「よくご存知ですね。エルフは長寿で魔力操作に長けた種族なんですよ。人間社会では錬金術師や薬師、魔導技師なんかで活躍される方が多いんですよ」

「長寿ってことは……」


 何を考えているのか分かったのだろうか。俺の隣でグィルアーナさんが苦笑する。


「確かにエルフの寿命は数百歳と長寿ですが、それは成人後の20~30位の見た目が長いのであって、彼女くらいの見た目だと、年齢も年相応ですよ」

「私が何十歳も年取ってると思ったの? ひどーい!」


 クスクスと笑いながら否定する少女。どうやら、そんなに気にしていないようだ。良かった。

 改めて店内を見渡す。店内には俺たち以外にも数人の客がいる。その全員が、別段お金持ちというわけでもない一般市民のようだ。

 そして、棚に並ぶのは丸かったり四角かったり、形は様々だがどれも大きくても50センチもないくらい。基本的には生活に密着した製品を作っているのか、あまり大がかりな魔導具はないようだ。価格も安いもので千ハイル。高いものでも二万ハイルほどだ。


 この世界は基本的に国ごとに通貨がある。この国の通貨ハイル(正式名称:ギナティハイル)は、日本円換算で一円=一ハイル程だ。つまり、千円から二万円ほどで買える訳だ。

 因みに、現在の俺の所持金は五万ハイル。シェリネーラさんが屋敷を出る際に一人五万ハイルづつくれたのだ。

 

「マコト、これ綺麗……」


 興味深そうに棚に並ぶ商品を眺めていたシュニ指したのは、商品である短剣の柄だった。そこには大きな純白の真珠が柄に嵌まっている。


「これ、持ってみてもいいか?」

「どうぞどうぞ!」


 店員のエルフ少女に了承を貰い、俺はシュニの指す短剣を手に取る。

 それを見たグィルアーナさんが言う。


「それは、マジックパールの一種ですね」

「お、騎士さん。よく知ってるね! それはアシュレイン王国のホワイトマジックパールだよ」


 エルフ少女が少し興奮気味に説明を始める。

 マジックパールは海に面する国の中でも一部の国で数種類の貝の魔物から獲れる真珠で、魔術や魔法を馴染ませることで色々な効果が付与できる。付与した魔術や魔法は魔力を通すだけで発動が出来るので、魔導具の魔力供給源や一般市民の護身道具、武器など様々な場面で使われているという。

 マジックパールは現在、養殖によってある程度は制御できるようになってはいるが、大抵の場合最初からなにかしらの属性が軽く付与されてその属性に近い色に染まっている。赤なら火、青なら水といった具合だ。そしてその場合、その属性に合った魔術を付与することが一般的だ。

 そんな中、世界で唯一完全未付与状態のマジックパールの養殖に成功したのがアシュレイン王国であり、そのブランド名が見た目の通りホワイトマジックパールということだ。


「これって、魔法や魔術以外のスキルとかは付与できないのか?」

「えっと、確かスキルによるはずだよ。例えば、耐性スキルや鑑定スキルみたいな外部に対するスキルとか、肉体強化などの使う人に物理的に作用するスキルは付与できるんだけど、剣術とかの使う人の技術みたいな物理的でないものに作用するスキルは付与出来ないらしいよ」


 ということは、だ。この短剣のホワイトマジックパールには俺の空間操作も付与できるかもしれない。

 それに、シュニの護身用にも良さそうだ。


「へぇ……。じゃあ、これ、買おうかな。幾ら?」

「一万五千ハイルです!」


 俺は一万ハイル札二枚をエルフ少女に渡す。


「毎度あり~!」


 少々高い買い物だった気もするが、どうせ当分使う予定のない金だ。これくらいいいだろう。

 その後も、俺たちの散策は日が傾く頃まで続いた。



 ◆◇◆◇◆


 そんなこんなで、あっという間に四日が経った。

 俺たちは今、王宮から派遣された高速馬車に乗り込んでいた。


「では、ありがとうございました!」

「ハッハッハ。私としてもあなた方異世界人との交流は良き時間だった。また機会があれば会おう」


 そう言ったモルエ子爵が馬車の先頭の騎士に手を一振りし、合図する。

 その合図を見た騎士の出発の一言で、俺たちの乗る六台の高速馬車とその護衛の一団が動き出す。


 放れていくマイーラの街を眺めつつ、これからのことを考える。

 向かうはバルス。この国の王都だ。



 ◆◇◆◇◆


『それで? 彼らは無事出発したのか』

「ええ。それと、手応えとしてはかなり良いかと」

『気取られてはいないだろうな』

「大丈夫ですよ。先の連絡の通り、異世界の者とはいえ所詮は若者の集まりです。数年したらどうなるかは分かりませんが、今の段階でそこまで頭の回る者はおりません」

『そうか……』

「では、あとはお任せします。カールへイン軍務卿」

一先ず七話までは予約したが……推敲マジ間に合うのか……!?

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