表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
焦燥の世界  作者: 八鍵 嘯
第一部「ギナティア王国篇」 第二章「異世界の国」
14/35

第1話《街へ》

遅れに遅れ、投稿。

 あれから数日が経った。

 シェリネーラさんの屋敷があった〈断戒の大森林〉を抜け、俺達は西にある国、ギナティア王国へと向かっていた。

 俺達が周囲を見渡せる小高い丘の上を進んでいると、クラスメイトの一人が尋ねた。


「なあ嶋田。あとどれくらいか分かるか?」

「うーん、ちょっと待って……あ、見えた。うん。もう大分近いし、今日中にはつくと思うよ」


 クラスメイトの嶋田紀依は、千里眼のユニークスキルを持っており、物理的に遮られていなければ百キロ以上離れた場所をも見通すことができた。


 彼女曰わく、このペースで行けば昼過ぎには王国の一番近い街につくようだ。

 そんな中。


「マコト、おなか減った」

「シュニ……さっき朝飯食べただろ……」


 シェリネーラさんから託された少女、シュニが出発以降ずっと俺から離れようとしないことに、俺は困惑をとうに過ぎて疲れかえっていた。


「大分懐かれてるな、誠」

「そういえば、誠は昔から年下から好かれやすかったからねぇ~」


 透と遥子が茶化してくる。

 それと遥子はなに人の過去を勝手に晒してやがるんだ。いや、確かに否定は出来ないのだが……。


「にしても、なんでここまで離れないんだ? 誠、心当たりはないのか?」

「きっと、誠から溢れ出るお兄ちゃん力でシュニちゃんはメロメロなんだよ!」

「いや、いくら年下に好かれやすいとは言え、ここれは少し異常だろ」

「心当たりなんて……ああ、一応シュニっていう名前は俺が付けたが……」


 そう、シュニの名付け親は俺だった。

 あの戦いの後、シェリネーラさんに言われたのだ。君にあの少女の名前を考えて欲しい、と。


 悩んだ末に選んだのはシュニ。

 ドイツ語で雪という意味の単語だ。白の髪と、その儚げな姿から思いついた。

 タルナトについては、シェリネーラさんがこの世界でも不自然ではない名字を考えてくれた。


「なんでお前が名付け親なんだ?」

「いや……直接的な理由はシェリネーラさんに言われたからとしか言いようがないけど……。実は、屋敷に来て直ぐの頃に偶然見つけてね。何でか分からないけど、シェリネーラさんはなるべく俺たちに会わせたくなかったらしいから言わなかったんだが」


 まさか、あの亜空間で出会ったなんて言える筈もないので、微妙にぼかして答える。嘘は吐いていない。


「ふーん。この年まで名前無しで生きてきたのか? なんか訳ありっぽいな」

「詳しいことは知らないけど……まあ、あまり詮索しないほうがいいかもしれないね」

「そうだね……孤児とか捨て子だったとか言われても、なにも言ってあげられないしね」

「とは言え、この前の件は謎が多すぎで逆に何も聞けなかったなぁ」


 透の言う通りだ。

 何故奴がこのシュニを狙って来たのか。あの亜空間は結局なんなのか。

 聞きたいことはいろいろあったが、小田の失踪や、俺達の旅立ちなどで聞く暇も殆どなかった。


「……っ!」


 その時、俺の空間操作の索敵に何かが引っかかった。どうやら、こっちに向かって来ているようだ。

 二足歩行のこれは……五匹のゴブリンの群か。


「右の林に何かいるぞ……」


 クラスメイトのひとりが、気がついたらしい。


「……あれはゴブリンだな」

「誰が行く?」

「んじゃあ今度は俺が、サクッと殺ってくるわ」

 

 そう言って飛び出したのは辻井勝也。辻井は剣を片手にゴブリンの群れに突っ込んだ。

 そして、一閃。


「グギャッ!」


 斬撃は不意を突かれたゴブリンにクリーンヒットした。傷を負ったゴブリンが悲鳴をあげる。


「ギャギャッ!?」

「グギャッ、グギャッ!」


 他のゴブリンたちも、突然のことにただ喚くばかりだ。だがその間にも、辻井は剣を振るい続けていた。

 二撃、三撃と確実にゴブリンたちにダメージを与えていく。これで、動きが鈍くなったゴブリンたちに対して圧倒的に有利になった。

 だというのに、辻井は五匹目を斬るとサッサとこちらへと戻ってきてしまった。


「ふぅ。ヤッパリゴブリン程度じゃ準備体操にもならないな」


 辻井が言う。

 そう。既にゴブリンとの決着は着いていた。

 改めて、ゴブリンたちの方を見てみれば、丁度切り口から皮膚黒ずんでゆき、身体中が崩れていくところだった。


 辻井のもう一つのスキル、概念魔法(腐敗)。

 辻井自身が腐敗だと概念的に考えられることであれば、MPがある限り実現出来るスキルだ。

 辻井はその腐敗の概念魔法を剣に纏わせて、斬ったものを腐敗させる剣にしていたのだ。


 この概念魔法。

 数人のクラスメイトが持っている。特徴はその発現できる概念がそれぞれ違う点だ。


 実は、ユニークスキルは明確な分類が出来る。魔法系と天神系、そして超能力系。

 魔法系は魔術とは似て非なるスキルだ。概念魔法以外だと、クラスメイトでは唯一遥子が治療魔法を持っている。

 天神系は少々特殊で、半分称号のようなスキルだという。まあ、詳しくはまた今度。


 そして、超能力系。これは要は上2つ以外。その他全てだ。俺の空間操作や神楽の武器顕現などもここに入る。

 超能力系には段階がレベルⅠ~レベルⅤの五段階がある。正確にどのレベルかを知るには専用の装置や、特殊な能力、またはシェリネーラさん以上の能力を持つ者でないと分からないらしいが、大体のランクの推測をシェリネーラさんはしてくれた。


 そしてそのシェリネーラさんの推測でいくと俺の、転移・・は恐らくレベルⅡ。神楽の武器顕現は恐らくレベルⅢだという。

 そして、みんなの超能力のそれぞれのランクを聞いた感じからして恐らく空間操作はレベルⅢだ。


 それを知ったとき、俺は愕然とした。空間操作は限定的とは言え空間を直接操る能力だ。これだけのスキルだというのに、レベルⅢ。つまりは上にまだ二段階もあるのだ。

 そして、レベルⅣ以上のスキル持ちは、シェリネーラさんの推測では、このクラスには居なかった。


 シェリネーラさんは自身が出会ったことのあるレベルⅣとレベルⅤのスキル持ちについて話してくれた。


 まず、レベルⅣ。実はシェリネーラさんはこのレベルⅣのスキルを一つ持っている。だが、それはあまりに特殊過ぎるタイプらしいので、その時は、別なスキルについて話してくれた。

 そのスキルは、未来予知。使い方次第では負けようがない。実際、あのシェリネーラさんでさえ、その未来予知を持つという人とは戦いたくはないらしい。


 そして、レベルⅤ。シェリネーラさん曰わく、このレベルになると想像すら出来ないような事を起こすスキルのオンパレードらしい。

 かの九賢者は全員がこのレベルⅤを持っているらしい。正に、九賢者恐るべしだ。


「ま、相田のアレを知ってると俺のなんて邪道も邪道だからなぁ」

「王道の相田に、邪道の辻井か」


 彼らが話しているのは、クラスメイトの中で剣術が強い二人のことだ。

 辻井は先程のように、剣に概念魔法(腐敗)を付与させて戦う。故に、一撃さえ与えられればそこから相手を確実に殺すことができる邪の剣だ。

 対して、相田のスキルは剣術と――聖剣。正に全てを一閃の元に斬り捨てる聖の剣だ。詳しい、聖剣の詳細はまた今度。


「さて、今日こそはちゃんと屋根の下で寝るためにもさっさと行こうぜ!」

「おう」

「そうだな」



 ◆◇◆◇◆



 太陽が頂点を越えて少し低くなり始めた頃、俺たちはギナティア王国最東の都市、マイーラに着いた。


「なんだ? お前ら、商隊かなにか……ではなさそうだな」


 マイーラの入口の衛兵が近づいてきた俺たちを見て訝しげに言う。


「私たちは怪しい者ではありません。こちらを見れば納得して頂けると思うのですが……」


 そう言って、町田がシェリネーラさんから貰った封筒を渡す。


「……これはっ! おい、直ぐにコレを領主様の所へ持っていけ!」

「はっ!」


 その手紙の封を見た衛兵は驚き、部下の一人に封筒を手渡す。

 命令された部下も、手渡された封筒に一瞬ギョッと目を見開き硬直する。


「早くだ!」

「は、はいっ!」


 衛兵に急かされた部下は、物凄い勢いで街の奥へと消えていった。


「誠に申し訳御座いませんが、少しの間お待ち戴けないでしょうか。本当でしたら、直ぐにでも門の詰め所の応接室の方へとご案内するのですが、この人数ですと入らなくてですね……」

「いえ、別にそんなお気になさらずとも……」


 申し訳無さそうに言う衛兵に、町田が代表して応える。

 そして待つこと十数分後。


「隊長!」


 先ほど封筒を持って走り去った部下の兵が、数人の男を連れて戻ってきた。


「ここから先は手続きを含め私が引き継ぎますので、あなた方は通常業務に戻って下さい」

「了解です」


 後ろから表れた何やら貫禄のある執事風の男が、衛兵たちに命令する。

 衛兵たちはそれに従って、俺たちを見て一礼して通常業務へと戻っていく。


「初めまして、私はここの領主の屋敷で執事長をしておりますボルエンと申します。それでは、皆様をここ一帯を収める領主であるガルド・フォン・モルエ子爵の屋敷へとご案内致します」


 ボルエンさんが深々とお辞儀をする。


「では、御者は私が交代致しますよ」

「ありがとうございます」


 ボルエンさんが連れてきた部下の一人が、御者をしていた中村めいと交代する。


「マコト、おなか減った」

「ははは、では屋敷に着きましたらなにかお食事をご用意しましょうか」

「なんか、すいません」


 俺は、シュニの呟きを聞いたボルエンさんが勧めてくれた提案に恐縮する。こんなタイミングで何だが……保護者やってるな、俺。

 そんな微妙な気分のままの俺とクラスメイトは、初めて異世界の街へと入った。

六話以降推敲中。間に合うのか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ