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焦燥の世界  作者: 八鍵 嘯
第一部「ギナティア王国篇」 第一章「断戒の大森林」
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第12話《旅立ち》

連続投稿最終日。


感想、指摘等は大歓迎。

「小田がいない?」

「ああ。今朝から探しているんだが、どこにも居ないんだ」


 スツーニとの一件の翌日。

 昨日の出来事で何人ものクラスメイトが精神的に参ってしまっていたため、最低限の訓練以外は休みとなっていた。


 町田から小田がどこにもいないという話を聞いたのは、昼過ぎのことだった。


「小田君は最近、スキルのことで相当に悩んでた節があるから、陰ながら気にしていたんだけど……」


 確か、小田のスキルは並列思考と操縦だったはずだ。どうやら、戦闘の出来ないスキルだったことに色々悩んでいたらしい。

 そのことに小田と同室の町田は気がついていたという。

 そして、今日朝起きたらベッドに小田の姿はなかったのだという。


「兎に角、屋敷周辺を探してみよう」


 こうして、俺は町田と共に小田の捜索を始めたのだが……


「呉と雨宮。小田の姿見なかったか?」

「見てないわよ」

「私も知らない」


「清水に茂木か。あのさ、小田って今日見かけてない?」

「そういや見てねぇな」

「僕も見てないよ」


「芹澤に雅に富士見さ、小田って今日見かけた?」

「見てないわよ」

「わたしもー、蛍ちゃんは?」

「……見てない」


 屋敷に複数あるラウンジや、地下にある訓練場、果ては各自数人ずつあてがわれている部屋も全て調べた。

 結果は、全滅……どころか、今日小田の姿を見かけた者がそもそもいないのだ。


「おかしいな……朝から誰一人として見てないなんて……」

「……まさか外に行ったとか?」

「早朝から一人でか? それは流石にないと思うが……」


 その後も、探し続けたが努力も虚しく、夜になってしまう。


「そうですか……シュンが……」


 夕食時。食堂に集まり、食事しながら俺と町田はそのことをシェリネーラさんに話した。


「屋敷の外に一人で行って、戻ってこれなくなってるとか……」

「戦闘系じゃないスキルなのに、無理に外へ出ようとするような性格じゃないと思うんだけどな」


 他のクラスメイトもいろいろと推測を立ててはいるが、やはり屋敷にいないとなると外に出たと考えるしないようだ。

 だが、小田がそういう性格ではないということも確かだ。


「探しに行こう」


 男子の一人が言った。

 しかし、それに対してシェリネーラさんが強く叫んだ。


「いけません! 屋敷の外の捜索をするなら、明日の朝以降にしなさい」

「何故です! 俺達ならもうこのあたりの魔獣はどうにでも出来ます!」

「ダメです!」


 シェリネーラさんは有無を言わせない。


「一応、この森一帯を私の契約精霊たちに捜して貰います。今はそれで我慢しなさい」


 結局この日は一度寝て、翌朝から捜索を始めることとなった。

 しかし、屋敷の周辺の森一帯を全員で捜したが、小田が見つかることはなかった。



 ◆◇◆◇◆


「小田君……」

「小田……」


 夕方、屋敷の食堂に集まった俺たちはクラスメイトの失踪に、一様に暗い雰囲気をしていた。


 小田は教室ではあまり目立たない性格なうえ、神楽たちに虐められていた。

 恐らく、この中の結構な人数が小田と殆ど関わりがなかったと思う。だが、それでもクラスメイトが失踪したという事態は皆にとって衝撃が大きかった。


「にしても、神楽たちもちゃんと捜してたね」


 誰かが、皮肉を込めた声音で言った。

 確かに、そう思うかも知れない。何せ神楽たちは小田を虐めていた張本人だ。


 でも、よく考えれば別に不思議でも何でもない。彼らの行動は一種の示威行為であり、周りから見て感じるほどの凶悪生はなかった。彼らの虐めはあくまで精神的なもので、直接的な暴力などもなかったことを俺は知っていた。せいぜい、罵られて悪戯をされるくらいだ。


 要は、流石に虐めていた相手とはいえ、失踪と聞いて心配にならないほどの人間ではなかったということだ。


「まあまあ、一旦落ち着こうよ。ギスギスしてても小田君は見つからないんだから」


 町田がそう宥める中、ふと一人の男子が呟いた。


「なぁ、もしかしたらなんだけど……俺の能力を全開にしたら見つかるかもしれない」


 その場にいる全員がその発言の主を見た。

 彼の名は渡邉総悟。

 クラスではあまり目立たない運動部キャラと認識されていた。この世界に着てからは槍での戦闘でそこそこに活躍していたように感じる。


「みんな忘れたと思うから言うけど、俺の外理俯瞰は客観的に物事を見るスキルなんだ。例えば、魔獣の群れとの戦闘において戦いの全体を俯瞰的に見れたりするんだけど……小田は絶対、何処かには居るわけだろ? だから、全体を見れるスキルで見ればもしかしたら見つかるかもしれない」


 つまり、外理俯瞰なら俺たちが探していない、または探そうとすら思わないような場所も探せるのか。


「問題は小田がどれだけ放れているのかが分からないから、徐々に俯瞰の範囲を広げていかないといけなくて、それがどの程度限界がくるかが俺自身分かんないんだ」


 そうか。

 これまではずっと戦闘で使ってたから、数十メートルくらいの範囲でしか使ってなかったから有効範囲が分からないのか。


「でも、試す価値はあると思う」

「やってみよう。限界そうだったら止めればいいんだし」


 そして、ひとまず出来る所まででいいからやってみることになった。


「じゃあ、始めるよ」


 そう言って、渡邉はゆっくりと目を閉じ、スキルから得られる情報に集中していった。


「あれ……これは」


 開始して数秒。いきなり渡邉は声を上げる。


「見つかったのか?」

「意外に近かった?」

「いや、そうじゃない……そうじゃないんだ。でも……」


 一拍。


「あ……」


 間の抜けた声が響いた。

 そして、


「見つけた……」


 その渡邉の一言でクラスメイトが一斉に喚起し――ようとした次の瞬間。


「見つけた! あ、ああっ! ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ……」


 渡邉が叫ん……


 あれ? 誰かが叫んでいた気がする。

 何故か不自然に開いている空席を何故か一様に見つめる俺たち。

 何故だろう。誰も最初から座っていなかった筈で、俺たち全員一斉に見つめるような出来事に心当たりもない。


 いや、微かな違和感。

 辺りを見回す。先程と変わらず、沈黙するクラスメイトたち。

 小田の行方は分からないからままなのだから、仕方ないことではあるのだが。


「気のせいか……」


 今はそんな確かかすらも分からないから感覚的な違和感に構っている余裕なんてない。

 そう考えると同時に、その違和感は急速に薄れていく。


「小田……」


 小田の安否を心配している俺の頭には、もう先程の違和感など消え去っていた。



 ◆◇◆◇◆


「シュンのことは精霊たちと引き続き探し続けます。ですが、あなた方にはそろそろ外の世界に触れて貰おうかと思っています」


 これは、小田の失踪から一週間ほどが経ったある日。シェリネーラさんが言い出したことだった。


「現状のあなたたちの能力は、一概には言えませんがだいたい通常の国の騎士くらいの強さです。もう、盗賊やそこらの魔獣にやられはしないでしょう」


 その言葉に、食堂に集まるみんなの中で、一部の戦闘系のスキルを持つ者達が頷く。


「そして、ここには実戦は魔獣相手しかいません。これ以上に強くなるにはどうして外界と積極的に関わっていく必要があるのです」


 ここでこれ以上訓練してても、あまり意味がない、効率的ではないってことか。


「そして、あなた方が召喚された原因を突き止める為の鍵となりうる人物ですが……すいませんが、まだ連れて来るには時間が掛かりそうなのです。故にそれまでの間、あなた方にはとある国に行って貰います」


 この世界の国。

 シェリネーラさんから習って、俺たちはある程度この世界については詳しくなっている。

 一体どこの国なのだろうか。


「それと……彼女を紹介しないといけませんね。入って来て頂戴」


 そう言ったシェリネーラさんの声で食堂に入ってきたのは、あの白髪の少女だった。


「彼女は、シュニ・タルナト。いろいろあって私が預かっている女の子です」

「……シュニです」


 ペコリと頭を下げる。


「この子をあなた達に同行させあげて欲しいの。面倒は……マコト、あなたに任せるわ」


 そう言うことか……。

 あの時の言葉の意味を、俺は漸く理解した。


 ◆◇◆◇◆


「ごめんなさいね。彼女を押し付けるようなことになってしまって」

「いえ……」


 確かに驚いたが、シェリネーラさんには恩がある。これくらいはするべきだろう。


「実は私、あの子のことは全然知らないの……。ある日ここに来たあの人……九賢者の一人の天明殿に言われたのよ」


『いずれ、異世界より新たな異分子が現れる。その時までコレを預かっておいてくれ』


 つまり、その天明っていう奴は俺達が召喚されることを知っていた訳だ。

 場所までほぼ特定している。


「と同時に、あなた達が来たらどうするべきかも聞いていたわ。私はその通りにあなた達を鍛えた。唯一のミスは、あの時あなたにあの空間がバレたことだわ」


 シェリネーラさんはハァと溜め息を吐く。


「でも、あの人はそれすらも予測していたの」


『もし、異分子の誰かにあの空間がバレたら、その者をコレが眠る部屋まで通わせ続けるんだ。時が来るまで』


 俺はこれまで以上に、その天明なる者に会う必要性を感じた。



 ◆◇◆◇◆


 一人残った食堂で、シェリネーラは頬杖をついた。

 そして、一人呟く。


「そして天明殿は言ったのよ……」


 先程まで自分と話していた少年を思い出しながら。


『コレにはパートナーが必要だ。もしその段階であの空間を見つけ出すことが出来る者が居たのであれば――』


「『その者こそが、いずれ世界を導く者となるだろう』とね……」



 ◆◇◆◇◆


「じゃあ、元気に頑張ってください」

「「「ありがとうございます!」」」


 俺達は数日分の食料や物資を馬車に積んで、屋敷の門の前にいた。

 これから向かうのはここから西に数日歩いた場所にある街だ。

 シェリネーラさん曰わく、そこの領主にシェリネーラさんが渡してくれた手紙を見せれば、いろいろ便宜を図ってくれるだろうということだ。

 流石、元貴族。


「じゃあ、出発するよ」


 クラスメイトの中で、馬の扱いをシェリネーラさんから教わった一人の田中端輝が御者席に座り、馬車を出した。


「「「ありがとうございました!」」」

「あなた達も、がんばってね!」


 小田が欠けた俺たち36人は、この日シェリネーラさんの屋敷を後にした。

読んで頂きありがとうございます。

第一章はこれで終了です。

多分、明日か明後日には第一章登場キャラクター一覧を投稿しますので、良ければそちらもご覧下さい。


さて、まだ誠はクラスメイトと見捨ててませんね。

いや、タイトル詐欺じゃないんですよ?

見捨てるのは実はプロット段階から三章と四章ってなっていまして……

これは真面目に、何時になるんだろうか……多分秋頃?

まあ、気長に待っててください。


恐ろしい事にこの鈍足投稿予定の作品、プロットだけは四~六章編成で第一部から第十一部まで存在するというものでして……

出来れば完結目指したいのですが、恐らく数年掛かってしまうと思われます。

エタらないといいなぁ。

恐らく、エタるかどうかは読者様方の応援に掛かっております!

ですので、感想・評価の方もどうかお願いします!


とまあ、いろいろ言いましたが目下の目標は二章を早急に書き上げることですね。

現在鋭意執筆中です!


次章はたぶん早くて6月、遅くても7月には投稿したいと思っております。

そのときは、また宜しくお願いします。


では、次回投稿の時にお会いしましょう。


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