第11話《第二の○○》
連続投稿十日目。
感想、指摘等は大歓迎。
「ウグッ……!」
突如現れた光の線によって右肩を打ち抜かれたスツーニが咄嗟にその場を離れる。
そして、
――シュゥゥゥゥゥッッッ……
――シュゥゥゥゥゥッッッ……
――シュゥゥゥゥゥッッッ……
幾筋もの白い線がスツーニへ追い討ちをかける。
「ッ……グッ!」
その攻撃を巧みに避けるスツーニだが、右肩の傷のせいか幾分動きは鈍っている。
そこに、状況を有利と悟ったシェリネーラが再び蔦での拘束を仕掛ける。
「ちっ……ですがせめて、これだけは……!」
叫んだスツーニが攻撃と拘束をギリギリの所で避けつつ、もう一度少女への攻撃をしようとした直前。
「これは、まさか……っ!!」
スツーニは、少女の手前に転がるソレを見つけ驚愕する。
判断は一瞬。
後ろから迫る蔦を払いのけつつ、スツーニは言った。
「流石にこれ以上ここで〈領域の王〉とやりあうのは割に合いませんので、おいとまさせて頂きます……!」
そして、そのまま俺たちに背を向けることなく飛び去っていく。
その直前、ようやく俺の思考が状況に追いつく。そして俺は咄嗟の判断で真眼を使い、奴のステータスを覗いた。
だが……
=====
スツーニ Lv:Error(?/?)
性別:Error
年齢:Error
身長:Error
体重:Error
血液適性:Error
職業:Error
状態:Error
HP:Error/Error
MP:Error/Error
体力:Error
筋力:Error
敏捷:Error
器用:Error
▼隠しステータス(変動)
知力:Error
耐久:Error
幸運:Error
意志:Error
【スキル】
¥定g*□波にル……制△@、……Π$……
【称号】
〈天上の四男〉
============
「なっ……!」
ほぼ全ての欄が「Error」で埋め尽くされていた。
分かるのは、スツーニ自身が言っていたスツーニという名前と、〈天上の四男〉という称号のみ。
どういうことなのか。
シェリネーラさんと互角にやりあっていたのを見るに、恐らくスツーニのステータスはシェリネーラさん級、レベルで言えば4000超えだと推測できる。
だが、そしたら普通にそう数値が表示される筈だ。
そして、クラスメイトの一人が持っている隠蔽のようなスキルでは、こうはならないことを俺は知っている。
明らかに、ステータスというシステム自体からどこか外れているような表示のされ方。
では、何が原因なのか。
そもそも、この世界のステータスとはどういう法則で成り立っているのか。
ステータスやスキルが存在する世界。
なまじそういった世界観の小説やゲームを知っていたがために、気にすることのなかった疑問。
もうスツーニは肉眼では確認できない程に離れてしまったようなので、真眼での再確認はできない。
「今ここで考えても、意味ないか……ん?」
その時、転がる紫色の三十センチほどの宝珠の表面にソレを見つけたのは偶然だった。
「確か、アイツが撤退したのもコレを見た直後だったよな」
そう。スツーニはこの紫色の宝珠を見つけた直後に撤退をしていったのだ。
この領域の王たるシェリネーラさん相手に、引こうとしなかったスツーニが、だ。
一体、この宝珠の何を警戒したのだろうか。
俺は宝珠の表面に彫り込まれるように書かれている文章を読んだ。
『I’m “Tenbou’s core.” Please carry my core to “Jyura’s Labyrinth.”(私は〈テンボウ〉のコアです。私のコアを《ジュラの大迷宮》に持っていって下さい)』
「テンボウ……!」
それはなんと、白髪の少女の部屋にあったAIの核だった。
それを認識すると同時に、俺の頭に直接声が響いてきた。
(マコト、お願いです。私を被検体を連れて〈ジュラの大迷宮〉まで連れて行って下さい)
〈ジュラの大迷宮〉。
ここ、〈断戒の大森林〉と並ぶ〈領域の王〉の支配領域だと、前にシェリネーラさんから聞いたことがある。
上層の方には多くの冒険者や探索者が訪れて、現れる魔獣などを倒して生計を立てていたりするらしいが、下層になると上位の冒険者ですら怖じ気づくような強力な魔獣が跋扈しているという世界最大の地下迷宮らしい。
でも、何故テンボウがそんな場所に行きたがるのだろうか。
(理由はお答え出来ません)
尋ねてみるが、〈テンボウ〉はそう言って答えてくれそうにない。
多分、それを知るには相応の権限が必要なのだろう。
推測するに、もしかしたら〈ジュラの大迷宮〉の〈領域の王〉はシェリネーラさんよりも多くのことを知っている、もしくは関わっているのかもしれない。
どちらにしろ現状の手がかりはそれだけだ。いずれは行く必要があるだろう。
◆◇◆◇◆
「領域全体から気配がする〈領域の王〉は領域内では彼らの魔力の流れが把握できない……不覚でした」
〈断戒の大森林〉から少し離れた場所にある、人気のない林の中にスツーニの姿はあった。
「それにしても……そこに半失敗作が残っていましたか……。まあいいでしょう。あれは兄弟たちが戻ってきてから改めて回収することにしましょう」
スツーニは、今回分かったこと・失敗・そしてそれを踏まえた上で今後どうするべきかを一つ一つ確認していく。
「それと、あいつら……恐らくは異世界から来たれり新たなる変革の渦たち……現状は放置しても大丈夫そうですが……」
沈黙すること数秒。
「いや、油断は禁物ですね。一応、早めに数を減らしておくべきでしょう……」
そして、スツーニはつい先ほど判明した現状考えられる最悪の可能性を考え、眉を顰める。
「でも今は何よりも……あれは恐らく九賢者の魔導具……。恐らく大丈夫でしょうけど……現状、万が一にも九賢者にでしゃばられるのは余りにもハイリスクです」
スツーニは、あらゆる想定をした上で次なる行動を開始した。
自らの崇高な目的の為に。
◆◇◆◇◆
「はぁ……」
小田 瞬。
彼は根暗でクラスでは軽くだがイジメを受けていた。そんな彼が異世界に着て手に入れたスキルは並列思考と操縦。
シェリネーラ曰わく、どちらのスキルも初耳であり、恐らくどちらもユニークスキルだと思われるとのことだ。
だが、ただ同時に複数のことを考えられるというだけのスキルと、動かす機械のない世界での操縦スキル。それは全くもって戦闘の役に立たなかった。
それどころか、その他の何にも役立ちそうにない。
確かに、他にも戦闘に向かないスキルのクラスメイトもいる。だが、それだって然るべき場所で使えば、バカみたいに儲けれたり、多くの情報をもたらしてくれたりする稀有なモノばかりだ。
それに比べ小田の並列思考は、ちょっと仕事の効率があがる程度のもだ。それだって、同時に考えられるだけで、頭が良くなった訳じゃない。
操縦スキルは言うに及ばずだ。
そんなわけで、皆の足を引っ張ってしまっている小田は今、夜の屋敷の庭を散歩していた。
「何だったんだろう……」
昼間の一件。
自分だけでなく、周りの攻撃スキルを持つ友人たちも全く動けない中で、シェリネーラさんとあの悪魔はまるでアニメのような戦闘をしていた。
悪魔が襲ってきた。それをシェリネーラさんが追い返した。それは分かる。
だがあの時の、あの悪魔に死を宣告された時の感覚だけは分からなかった。
自分が死ぬかもしれない。その感覚は小田にとって初めてのものだった。
小田は、転生から三日目の夜の魔獣の襲撃とは違う、理性的な意志の篭もった殺気というものを初めて感じた。
そして、平和な日本で生きてきた小田には、その感覚は理解しきれるものではなかった。
「ん?」
その時、並列思考の訓練を兼ねて五感にそれぞれ思考を集中させていた小田は、自分の視覚に違和感を覚えた。
なんだろう。目の前の空間が、微妙に歪んで見える気がする。
その時、小田が感じていた違和感は正確には視覚によるものではなかった。
五感全てに同時に集中することで、無意識に鋭敏化されていた第六感によるものだった。
そして、その場所が昼間の戦闘の時、悪魔が狙っていた謎の揺らぎがあった場所だということに、小田は気がつかなかった。
小田がその違和感に手を伸ばす。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり。
そして、指の先がそこに触れ……
直後、視界が歪んだ。
「う、うわ――――――――」
次の瞬間、小田の姿はそこにはなかった。
12話更新は明日の21時。
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