第1話《クラス転移》
連続投稿一日目。
一章分、多分12話を連続投稿します。
感想、指摘等は大歓迎。
「んっ!?……な、なんだここは!?」
その叫び声で俺は意識を戻した。
周りを見渡せば見えるのは青々と繁る木々。そんな森の中の丁度高校の教室くらいの広さに開けた場所に俺達、3年A組の38人は倒れていたようだ。
「なあ誠……ここ、どこだよここ」
「どこって……どこだろうな」
先ほど叫んでいた俺の小学校からの友人、間宮透に問われるがそんなこと俺が知るはずない。勿論、透も答えを求めていたわけではないようだが。
「とりあえず、全員を起こした方がいいだろうな」
「そうだな」
俺たち以外は未だ全員倒れているため、順に起こしていくことにした。
「おい、起きろ」
「……んぅ?」
俺はまず偶然近くにいた女子を揺すり起こす。ボブカットの茶髪ののほほんとした眼鏡少女の名は春風遙子、俺の住むマンションの下の階に住んでいる幼なじみだ。
「おはよー」
遙子は半開きの状態の目蓋をこすりながら体を起こした。
って言うかこいつ、気絶じゃなくて寝てたのかよ……
よく見れば何度か寝返りを打ったらしく、服が土で汚れている。
「なに寝ぼけたこと言ってんだよ。そんなことより、ひとまず起きろ。服が土で大変なことになってるぞ」
「ふぇ? ……って、私何でこんな場所で寝てるの!? まさか、誠に誘拐された!? きゃぁー!」
そう言って、両手で自分の体を抱きしめて俺から距離をとる遙子。
「……なに一人芝居してんだよ。周りにクラスの奴らもいるだろうが」
「ちぇー、ノリの悪いヤツだなぁ。せっかく美少女眼鏡っ子の幼なじみがボケてるっていうのに」
「自分で美少女って言うかよ……」
「客観的事実ですので」
「……まぁ、それは認めよう。不本意だが」
「よろしい。……で? これは何がどうなってるの?」
クラスで1,2を争う美少女はボケ担当だしその上天然ボケでもあるのだが、重要なとこでは空気が読める奴だ。ふざけながらもしっかりと状況を把握している。
「分からない。俺もさっき起きたばっかりだが、気づいたらみんなと一緒にここで気絶してたんだ」
「場所とか分かるような表札とかは……なさそうだね」
「ああ、見てのとおり何にもない森の中だ」
そこに透から声が掛かった。
「おい、お前らイチャついてないでみんなを起こすの手伝えよ」
「すまんすまん」
周りでは、既に五人ほど目を覚ましていた。
そして俺たちは、それから十分程かけてクラスメイト全員を起こした。
「つまり、ここにいる全員のここに来る前の記憶は火曜のあのロングホームルームなわけだ」
クラスを纏めるガリ勉眼鏡委員長、町田鷹俊が言う。彼は成績学年トップで有名な秀才で、社交性も高く、クラスの中心メンバーではないがクラスを纏めるにはうってつけの男だ。
全員を起こしたあと、余りの混乱に暴れ出した者などが一部いないこともなかったが、それもどうにか宥めた俺たちは情報の共有をした。
そして分かったことだが、今全員の中心で話している町田の言う通り全員が一学期の終業式後の教室での記憶が最後となっているようだった。
「現状を把握したいのは山々だけど、これじゃあ余りにも情報が少ない……それよりも先にこれから先どうするかを決めないといけないようだね」
「とりあえずはこの森を出ないといけないでしょ?」
倒れている間に乱れたボブカットの髪を手串で梳かしながらそう言ったのは辰宮香。彼女は町田に劣らぬ頭の良さと帰宅部なのに運動部に劣らぬ運動神経で有名だ。容姿も良く、町田とは違うカリスマ性を持っている。
「ああ。さっき現状を把握するには情報が少ないと言ったばかりだけど、この状況で一番現実的な可能性は集団誘拐。何故こんな場所に放置したのか、何故拘束されていないのかとか不自然なことも多いが、これだけの人数を車や人が通る場所から余り離れた場所まで運ぶのは難しい。恐らくここから一キロ以内くらいで道路か何かは見つかるだろうと僕は思ってる」
「……そうね。それを見つけるのが第一目標で良さそうね。町田君に対して意見がある人は?」
辰宮が全員を見回すが、それに対して何かを言う者はいない。
「じゃあ取りあえずはそういうことで。それで、どうやって探すかだけど……」
方針が決まったところで町田が捜索方法について話し始めたその時。
「何言ってんだよお前」
丁度これから町田が話し始めるタイミングだったこともあり、みんなのざわめきが止んだ為に目立ってしまった一人の男子生徒の声。しかしそれは怒るようなものではなく、むしろ少し苦笑を含んだような声音だった。
「ん? どうした、飯田」
町田がその声の主、飯田俊也に聞く。
「あ、いやごめん。別になんでもない」
「そういわれると、気になるんだが……」
飯田は少し迷うような素振りを見せ、一瞬隣にいる男子を見て言った。
「いや、ホントに何でもないんだ。ただ加藤が異世界転移だったら面白いのになぁなんて言い出すからさ」
「い、いいだろ別に。それくらい妄想させろよ、気が紛れるんだよ。よくあるクラス転移もの風にステータスでも見えないかなぁーなんてさ、って……えっ!?」
飯田の隣で加藤進が言い訳を始めると、突如叫んだ。
加藤の視線は彼から30センチ程離れた虚空に向けられていた。
「どうした、加藤」
突然の加藤の異変に町田が声を掛ける。
「で、出た……」
「出たって……何がだ?」
加藤の呟きに疑問を抱く町田。そんな中、数人の生徒が「まさか……」と呟く。
「ステータス……。出たんだよ、ステータス画面が!」
加藤の興奮した声に続くように、先ほどまさかと声を上げた数人から「マジだ!」「スゲェ」等の叫びが聞こえてきた。
「みんな、開いてみろよ! まるでゲームだ!」
「開くって言ったって、どうやってだ?」
町田の問いに加藤が興奮気味に答える。
「どうやってって……ステータスについて考えるっていうか、念じる。そう、念じるんだよ。開け、ステータス画面って!」
それを聞いていた俺も半信半疑ながらも念じてみる。
============
五大 誠 Lv:1
年齢:17歳
職業:学生
HP:15/15
MP:15/15
体力:9
筋力:8
敏捷:10
器用:14
【スキル】
真眼(Lv6)
空間操作(ユニーク)
【称号】
見定めし者
異世界人
============
「本当に出てきた……」
これには俺も驚いた。
俺の視界に見えているまさにゲームのステータス画面のようなそれは、薄い紫色掛かった半透明のプレートの上に、掛かれている。
周囲のクラスメイトを見ると、みんな先ほどの加藤と同じように目から30センチほどの虚空を見ている。どうやら他の人のステータス画面は見れないようだ。
試しに、触れてみようと手を伸ばすが、何の感触もなくすり抜けてしまった。
「異世界人……」
ふと誰かが呟く。
「これ、異世界人って称号があるんだが……」
ステータスの一番下。【称号】と表記された欄。そこに書かれている言葉は、俺達に残酷な現実を突きつけていた。
悲鳴やざわめきはなかった。
俺達はただその事実を前に呆然としていた。
「ま、まあ。まだ本当に異世界だって決まった訳じゃないし……」
飯田がまくし立てるように言う。
「だが、その可能性が高いのは確かだ」
「ええ……少なくとも、ここが異世界だっていう前提で話を進めた方が良さそうね」
町田と辰宮の言葉に、俺たちは再び沈黙した。
2話更新は一時間後の22時。
3話以降の更新は毎日21時。
追加:勝手にランキングのタグを設定しました。是非クリックして下さい!