第七話 お買いもの
あまり更新できなくて申し訳ない。
今日の夜の想像をしてたせいか足取りが重かった。
ちゃんとエリーが俺は悪くないって話してくれると良いんだがなぁ。
そんなことを思いながら、なんとか冒険者ギルドに到着した。
カラーン、カラーン
鐘の音が聞こえる。するとギルドの中から冒険者達が出てきた。
「今日も仕事だー!」「やったるぜ~。」「うおぉぉ!」「お前らも死ぬんじゃねぇぞ~。」
結構な人数が出てきた。ガチャガチャと鎧は音を立て、口々に何か叫んでいる。
何だろう、この猛々しい感。女の人もいる。アマゾネスって感じ?まあ、モンスターと命のやり取りをする人達だ。ずっと続ければこのようになっていくのかも知れない。
「行ってらっしゃいませ~」
ギルドの扉を見ると昨日の赤い髪のメイドさんが手を振っている。冒険者たちを見送ってくれてるようだ。
「おはようございます。ナオヤさん。」
メイドさんは俺と目が合うと挨拶してくれた。
名前を覚えてくれてるのか。嬉しいものだ。
「おはようございます、メイドさん。俺の名前を覚えててくれたんですね。」
「冒険者ギルドの案内係として当然のことです。」
「プロっすね。」
「ええ、プロです。私はミレイと申します。朝は食堂、夜は酒場の給仕もしてますので、御贔屓にしてください。」
朝は食堂。夜は酒場って働きすぎじゃない?
「ここって朝も食えるんすか?」
「ええ。冒険者の方は大半が、2つ音までに掲示板から依頼を選んで、朝食を済ませて出かけます。」
おっと、2つ音とは何ぞや?さっきのカラーン、カラーンってやつか?
「すいません、うちの村にはあまり時間って感覚が無かったので教えて頂けますか?」
「分かりました。簡単ですよ。1つ音が太陽が昇ったとき。2つ音は1つ音から教会の水量りに水を入れ、秤からから水が落ち切ったときです。」
水時計みたいなもんか?
「3つ音は太陽が昇り切った時で、4つ音は太陽が無くなった時ですね。これで終わりです。」
「ミレイさん朝から夜までじゃ働きすぎじゃないですか。疲れません?」
「シフトは皆で回してますし、3つ音から4つ音は職員専用宿舎で休めますので大丈夫ですよ。」
マジかよ。それで大丈夫とかプロやな。
「体には気を付けてくださいね。」
「ありがとうございます。気をつけますね。」
ミレイさんは凄くいい笑顔で言っている。俺も釣られて笑ってしまった。
「ところで夜って酒場なんですよね。お酌ってありですか?」
「お値段は高いですが出来ますよ。お金がある時は、是非ご指名くださいね。」
「了解です。その時は、よろしくお願いします。」
・・・・ホント、金が出来たらお願いしよう。そういうの憧れてたんだよね。
「では、私もお仕事させて頂きますね。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ユーナさん、いますか?暇が出来たら一緒に装備品を見てもらう約束してまして。」
「そうなんですか。様子を見てきますので少々お待ち下さい。」
ミレイさんは小走りで聞きに行ってくれた。
さてと、ユーナさんが来る前に、掲示板とやらを確認してみようかな。
依頼の紙が掲示板に何枚も貼ってある。
紙には依頼の種類、ギルドが予想する依頼のレベル、依頼主、成功報酬額が書いてる。
城壁周りのスライム討伐、ディーン山のゴブリン討伐。旧ソルトレ村のコボルト偵察と討伐。
・・・見たことあるモンスター名ばかりだな。姿形もゲームとかと一緒かな?・・・あっ、城壁周りの林や森のオーク探索がある。オーク発見次第討伐ってのが何枚もあるなぁ。
センテンスタランチュラの糸の採取。ハイムンド草の採取。
採取系かぁ。これは専門の知識がないと無理だな。
シビル城下町までの護衛、カムスカー村までの護衛。
護衛は参加人数が書いてある。大抵は先着順のようだ。ふむ、討伐の依頼主は大半が街で、採取や、護衛は個人名や店名のような感じだな。
「ナオヤさん、お待たせ致しました。ユーナは少し時間が掛かるそうです。」
「時間が早すぎましたかね?」
「いつもならそんなことは無いのですが、昨日は夕方に危険指定モンスターであるオークの情報が入ったので、今日は依頼書を捌くのに時間が掛かってまして。」
・・・・俺のせいか。じゃあ、しょうがないですね~。・・・ユーナさん、申し訳ない。
心の中で謝った。
「じゃあ、待ってる間に腹が減ってるんで何か食べたいんですが、オススメってあります?」
「この時間ですと~『シェフのおまかせ』はどうでしょうか?5銅貨で、最低でもパンとスープが付き、余ってる食材が多いとオカズが多めになることもありますよ。」
なることも、か。ギャンブル性が高いが、まあいいか。
「では、それでお願いします。」
「ありがとうございます。」
オーダー入りました~、と言いながら言ってしまった。もう少しお話したかった。
「お待たせしました~。」
「早っ!まだ1分くらいしか経ってませんよ。」
「すいません、これ実はシェフ達が考案した携帯食料の参考品でして。シェフ達には今が暇な時間でしたから、裏で試しているのを持ってきました。感想も少し欲しいそうです。」
「・・・つまり俺の舌にシェフの未来が掛かっ」
「別に掛かってませんので大丈夫ですよ。軽く感想をください。」
食い気味で言われてしまったな。せっかく劇画チックな表情も作ったのに・・・・。
にしてもスゲー見たことある料理だよ。おにぎり(特大)とサンドイッチだし・・・・。
「こちら白い球が、にぎり球で、あちらが焼きパン挟み。だそうです。」
「まずは、にぎり球から。いただきま~す。」
・・・・ふむ、食べごたえはあるな。コンビニにあるようなおにぎりの4つ分くらいの大きさだし。
大きい分、米の割合に対して塩気が足りない感じ?中身が入ってる。良かった~。ただの塩おにぎりでこの量はキツいからな。中身は干し肉かな。固い。・・・・あ、でもずっと噛んでると良い塩梅。
「どうでしたか?」
「美味しいんですが、米の割合に対して塩気が足りないですね。中身と一緒に食べてると良いんですが。」
「ふむふむ。美味しいけど塩気がっと・・・」
紙を取り出し、何か書き始めた。メモしてくれてるみたいだ。
「冒険者って、よく動くから少し塩が多くても大丈夫な気がしますよ。あと一個としての量が多いので2個に分割して下さい。」
「1個の方が持って行きやすく無いですか?」
「う~ん、手間にはならないでしょう。それに2個あって中身が違う種類の方が楽しみです。」
「なるほど。携帯食に楽しみを入れ込むですか。新しい発想ですね。」
・・・新しいんだ。異世界なのでよくわかりません。
「次は、焼きパン挟みですね。」
焼いた食パンにこちらも干し肉が入ってる。他には乾燥した野菜?かな。
うん、美味しくない。パンは食パンではないっぽいな。口の中全ての水分が持っていかれる感じ。
「どうでした?」
「えっと、簡単に言うとマズいです。口の中から水分が消えてカラっカラになりますね。でも水分が無い分、保存が効きそうですね。」
「ふむふむ、マズいけど保存できそうっと。」
まあ評価はこんな感じで良いだろ。素直な感想になってしまったが。
「どうですか、こんな評価で。」
「ええ、ありがとうございます。私も焼きパン挟みは食べたことありますけど、ほぼ同意見です。」
「そっすか。俺の味覚だけじゃ不安だったんで安心しました。」
大学生活は適当な食生活だったからな。味覚に自身は無かった。
「ごちそうさまでした。じゃあ5銅貨を。」
「お代はいりませんよ。今のはサンプル品の評価を頂いたのでサービスです。他の方には内緒にして下さいね。」
ウインクしながら口元に人差し指を持っていき、ちょっと前屈みの小悪魔ポーズである。
胸元が若干見えた!やべーっす。俺の顔が熱いです。
トタトタと誰か走ってくる音がする。振り返るとユーナさんが走ってきた。
「お待たせしました~ナオヤさん。」
「いいえ~、おかげで良い思いしました。」
「良い思い?」
「気にしないでください。こちらの話ですので。」
「はあ、分かりました。では3階の装備品を買いに行きましょう。」
「は~い。ではミレイさん、ありがとうございました。」
「またのご利用をお待ちしております。」
さて、良い思いもしたし、気持良く買い物しますか。
階段をユーナさんが先に歩いている。ユーナさんの服装は事務員服。下はぴったり気味のスラックスのようだ。・・・・今朝のリズさんとの話を思い出してしまった。ボン、キュッ、ボンだと。
確かにキュッ、ボンだな。悩ましい。
後ろから見ていると良く確認できる。最初のボンは、やはり確認できなかった。もっと仲良くなったら湖とか川に誘おうと心に誓った。
「到着です。」
いつも間にか3階に着いてしまった。もう少し見ていたかった。どこを、とは言わないけどね。
すごい量の鎧と武器だ。ビンなんかもある。回復薬とかかな?店の奥には店番の人だろうか?ごついおっちゃんが座ってる。
「いっぱいありますね~。」
「各装備品の専門の方々を雇ってますからね。ナオヤさんは初心者冒険者ですので、一応、昨日のうちにオススメを揃えて見ました。」
おお、嬉しい気遣い。どうせ見ても品の良し悪しなんて分からんからね。
「ナオヤさんは、敏捷性と魔力値が高いので、今後は魔法が得意で剣もそれなりに使える、というスタイルが良いと思われます。」
「なるほど。」
「まずは、杖ですね。魔法は杖無しでも使えますが、補助としてあった方が威力も上がりますし消費魔力も少なくなります。」
「おお~。でもこれ、大丈夫ですか?見た目ただの丈夫な枝って感じですよ?」
長さ30センチくらいの幅1センチ。う~ん、形が整ってなければ枝だね。
「魔法使い初心者はそんな感じですよ?熟練の魔法使いなら2メートル台のものを使用する人もいますけど、値段も相応です。」
「なるほど、ちなみにこちらは?」
「これが一番安くて5銀貨です。」
「高っ!木の枝に5銀貨?!」
「枝じゃありませんよ!?杖です。杖!!」
マジかい。一番安くてこれか。
「じゃあ、これで。」
「ありがとうございます。次は剣ですね。」
「剣って必要なんですか?」
「冒険中に魔力が尽きてしまうと大変ですよ?」
そりゃそうか。当たり前だった。
「魔法メインですので、剣は切れ味より丈夫さに拘りました。突いて牽制し、相手の攻撃はいなして防御してください。」
「いなすとか・・・技術の問題ですね。おいくらですか?」
「8銀貨です。」
「さっきの杖の後だと安く感じてしまう。これもお願いします。」
「次は軽鎧上下の鎧セットですね~。こちらを着てみてください。」
基本は布と革で出来ていて、胸と背中に鉄板が入ってるみたいだ。下は・・・・うん。大事な部分と太ももに革があり、その上に金属がまばらに着いている。
「革は熱などが通しにくく鉄板で刃を弾くようになってます。サイズは良いみたいですね。」
「あまり重くなくて良かったです。これは?」
「24銀貨です。」
「おっふ、急に高くなりましたね。命を守るものだからしょうがないか。買います。」
鎧は動きにくいから、今のうちに着て慣らしておこう。
「ありがとうございます。次は冒険者日用品セットですね。この麻袋の中にコップやランプ、火打ち石や毛布、麻袋数種、その他が入っております。ちなみにたったの2銀貨です。」
日用品かぁ。旅には必須ですからね。
「まあ買いますよね。必要ですから。」
「はい。ありがとうございます。こんな感じですかね。あとは私の趣味で選んだ安めの服です。こちらも2銀貨です。」
安いって言うけど高いな~。まあ服なんてどの世界も高いか。
「選ぶの面倒でしたから助かります。全部でいくらになりましたか?」
「全部で41銀貨ですね。」
所持金が半分になった。痛い出費だがしょうがない。これから生きるためだもんな。
革袋から41枚の銀貨を取り出した。
「はい、これでお願いします。」
「ありがとうございます。ちょうどお預かりいたしました。少々お待ち下さいませ。」
ユーナさんが店の奥にお金を持って行った。さて、アイテムでも見てようかな。
店を見回すと、いろんなビンがある。
回復薬ってビンがあるな。
見た目は黄緑色で、サイズは自販のコーヒー缶くらい。説明書きには塗っても飲んでも良いと書いてある。
美味しいだろうか?うわぁ、4銀貨って高いなぁ。こんなの気軽に飲めないよ。
「お待たせ致しました~。こちらが領収書です。あと、初めてのご利用と多額のお買い物でしたのでおまけを預かってきました。」
薄い紙に商品と値段、預かったお金が書いてある。それと一緒に回復薬のビンを渡された。
「こんな高いもの貰っていいんですか!?4銀貨の商品ですよ。」
「はい。ただ『これからもよろしく。』だそうです。」
「こちらこそですよ。よろしくお願いします!」
奥を見てみると、ごついおっちゃんがニカっと笑いながらこっちを見ていた。こちらも二カっとして挨拶しておいた。超良い人だった。
「では、乗り合いの馬車がそろそろ来ていると思うので、下に行きましょうか。」
「はい。」
「今日の魔法の教えは、杖さえあればいいので、剣と日用品セットはお預かり致しましょうか?」
「良いんですか?ありがとうございます。」
「あと軽鎧は3日もあれば革も柔らかくなると思います。」
「じゃあ、なるべく着ておきますね。」
と話をしながら階段を降り、乗り合いの馬車の待つ場へ向かった。
次は闘技場で魔法の話かなぁ