第六話 朝、エントランスにて
短い。今日と明日は忙しいのでしょうがないんや。
コン・コン・コン
んぁ、何な音がする。・・・・寒いなぁ。・・・・・寝よ。
コン・コン・コンコン
・・・知らない天井だ・・・・・あ~此処どこだっけ?・・・そっか、異世界来たんだった・・・
コンコンコンコンコン!
返事しないから乱暴になってるな。何でよ。・・・そっか、エリーに洗濯物をお願いしたんだっけ。
「はーい。開いてますよ~。」
ガチャン!!
・・・また乱暴に入ってきましたね。
「起きてるなら返事しなさいよ!」
「・・・今起きたんだよ~。」
そして寒い。毛布に包まれていたいんです。
「あなた、冒険者なんでしょ?もっとシャキっとしなさい!」
「無理~。」
イラっとしたのだろう。エリーが毛布を引っ張りだした。
んん、やめて欲しい。・・・そして気づいた。困ったよ。だってね、俺の目が正しければバスローブが俺の枕元にあるんだよ。
と、いうことは・・・・ちょっとこれはマズい。
男ですし。朝ですし。朝だから部屋が明るいですし。
「え、エリー毛布剥がそうとしないで。今はダメ、マジで。」
「剥がさないと起きない・・・でしょう・が!」
「ちょ、まって。もう少し待って。じゃないと・・・・」
・・・・無理やりで少しこうふ・・・落ち着け俺。ここで何とかしないと俺の中のナニかが終わってしまう。
「そんな思いっきり引っ張んないで。大変なことになるって。マジだから!」
「なにを言ってるのっよ・・っと!」
「あっ!!?」
布団を剥がされていろいろと出てしまった。・・・・だから言ったのに・・・
エリーは俺のナニかをガッツリと見てしまって、顔が真っ赤に染まっていく。
「キ!!??」
あ、まずい。叫ばれそうだ。・・・だが、こういう場合の対処法は知っている。それは・・・
「キャーーーーーー!」
「キっっっっ!なんであんたが叫ぶのよ!!?」
「だって見られたの俺だよ!?」
「だからって・・え?あれ?私のせい?」
対処法・・・そう、それは先に叫んで、こちらが被害者だとアピールすることだ。まあ、実際に被害者ですし。さらに・・・
「さてと、着替えるから部屋の外に行っててね~」
俺はエリーの肩を掴み、180度反転させ、部屋の外へと誘導した。混乱してるうちに部屋の外に出す。
「え、うん。・・・・あれ?」
ばたん。と、ゆっくり扉を閉めて。・・・・はい、終わり。
いや~、漫画やアニメの知識を組み合わせて対処したが、何とかなったな~。真っ裸で近づいて、肩を掴んでたのに気付いてない感じだったし~。あとで冷静になったエリーが何か言うかも知れないから適当な言い訳を考えておこう。
さて、着替えて下に行きまっすかな~。あ、服が適度に温い。なんか着る前にストーブで温めておいた感じ。気持ちいいなぁ。これはしっかりお礼を言わなければ。
そう思いながら部屋を出て階段を降りた。
エントランスに来るとテーブルでお茶を飲んでいるリズさんを見つけた。
「おはようございます。」
「おはようございます。リズさん。」
可愛い人だ。この人が一児の母とは思えないんだが。
「先ほど悲鳴が聞こえましたのでエリーに話を聞きました。娘が申し訳ありませんでした。」
「いえ、別に男の裸なんて減るもんじゃありませんから。」
「あの子、早くに父を亡くしてるので、身近に男の人がいなくて。男の人にあまり免疫がないんですよ。お客さんとして接するのは大丈夫なんですけど。」
「ははは、頼もしい娘さんじゃないですか。」
今さらっと夫が亡くなってる宣言したね。昨日の話の流れで何とな~く、察してはいたけどね。
旦那ってなんで死んだんだ?エルフって長寿だから病気か事故か、はたまた殺人か?
「聞きにくいこと聞いちゃいますけど、旦那さんってエルフですよね。なんでお亡くなりに?」
「・・・寿命です。」
「寿命って・・・エルフって長寿ですよね。そんなことって。」
「私と結婚した時は夫は300歳でしたから。」
・・・300歳・・・だと!?えっ、リズさん何歳で結婚したんだ?・・・この若さだと・・・旦那はロリコンか?
「あの、リズさん、何歳で結婚したんです?」
「・・・15歳の時でした。」
顔が赤い。可愛いけども・・・・旦那の野郎確実に犯罪やで!?
だがこの異世界は14歳で成人。くそっ、羨ましくなんて無いんだからね!!!
「本当は、森に生きるエルフは500歳近く生きるそうなんですが、人里は森の恩恵がないので長く生きられないんだそうです。それでも一緒になりたいと言ってくれて。」
顔が真っ赤じゃないですか。旦那さんよ、死んでも愛されてるなぁ。
「あの子が生まれて5年後、突然倒れてそのまま。遺体は夫の家族が引き取りに来て、行ってしまいました。」
「え?じゃあ墓参りとかは・・・・」
首を振っている。マジかよ。
「森に人間が入るのは禁忌とかで。」
「そんなのって・・・」
酷いな・・・・それはねぇよ。悲しすぎる。
「ありがとうございます。でも夫は無くなる前にこれを残していてくれたんですよ。お墓に行けなくても毎年祈ってるんです。」
リズさんは棚に飾ってある写真立てを見た。写真には、リズさんとエルフの旦那さんがエリーを抱えている。なんだろう、三人が美形すぎて眩しいです。
「夫が魔法で紙に書いてくれたんです。今の、この時を、形が残るようにしたいって。」
「・・・素敵ですね。」
「はい。とっても。」
いい笑顔だ。・・・うわぁ、もうホントに綺麗な人だよ。リズさんって。
「朝からこんな話をして申し訳ありません。」
「いえ、そんなことありません。今日という日を・・・1日1日を大事にしたいって思いました。」
「そう言って頂けて嬉しいです。・・・そういうわけでエリーちゃんはあまり男性に会ってないんですよ。」
ああ、戻るのね。話がそこに。
「友達だって、同い年で幼馴染のユーナちゃんだけだし。」
ユーナさん?マジか。だからユーナさんは此処をオススメしてくれたのか。
「はは、同じ年には見えませんね。」
「本当に。ユーナちゃんはもう、ボン、キュッ、ボンなのに。」
表現が古いな!えっ、ユーナさん、ボン、キュッ、ボンなの?見えないよそんな風には・・・・着痩せするタイプか!!
「ま、まあそのうち、大きくなりますよ。友達だって増えるでしょ。」
「だと良いんですけど。でも、もう少しプライベートで男の人を学んでくれないと将来が・・・」
「まあ、小さくても。いろんな趣味の男もいますから。」
「それはそれで心配です。」
まあ、そうですよね。そんな男は願い下げですよね。
しばらく談笑していると、外の通りから人の声がしはじめた。そろそろ出かける頃合いかな?
「そろそろ、冒険者ギルドに行きますね。」
「あら、そうですか。今日のどのくらいでお帰りに?」
「たぶん夕方だと思います。ご飯は適当に食べてきますので。」
「あら、そうですか?お安くしますのに。」
「あ~じゃあお願いしていいですか?」
「はい。ありがとうございます。」
さてと、お金も木刀も持ったし。あ、そうだった。
「すいません、エリーに洗濯物ありがとうって言っておいてください。」
革袋から銅貨を6枚だし、リズさんに手渡した。
「あら、いつお洗濯を頼んだんですか?」
「昨日風呂場で頼みました。・・・・あっ・・・」
一瞬、時が止まった気がした。
「そうですか。お風呂場ですか。・・・・昨日の夕方、言ったことを覚えてますか?」
「・・・・はい。覚えております。」
「今言えますか?」
「『あれ以上は私が許可しませんよ。したければ結婚してからにしてください。』でした。」
「あら、一語一句あってます。忘れてないようですね。」
「はい。・・・・その後も、『ふふ、ご想像にお任せします。』でした。」
「あら、素晴らしいですね。」
「べ、弁明させて下さい。」
「・・・・よろしいですよ。」
「事故でした。ひっ!すいませんっ、マジなんですよ。昨日風呂で寝ちゃって気がついたら風呂にエリーが入ってました!!」
「・・・・いいでしょう。エリーちゃんにも話を聞いておきます。」
「あ、ありがとうございます!」
本当に一瞬だが寒気がした。あれは殺気だったと思う。
「ふう。ナオヤさんは本当に・・・・まあ今は時間もないのでいいでしょう。」
「ありがとうございます!」
「では、冒険者ギルドで何をするかは分かりませんが、頑張って来てくださいね。」
「はい!!」
リズさんは、さっきの雰囲気が嘘のように、今はとても温かい感じになってくれた。
「お話の続きは帰って来てから、たっぷり致しましょうね。」
「はぃ。ぃってきますぅ。」
・・・・・気のせいだったようだ・・・・
今日の夕方にたっぷりと絞られることを予測し、俺は憂鬱になりながら宿屋出て冒険者ギルドに向かった。
次回は装備品編と魔法講習編。に出来たらいいなぁ。