第十二話 ダンジョンの中 その2
初心者用ダンジョンでドラゴンって無理だろ。さて、どうしたものか。
まあ、次の変遷時に強制帰還を待つのが一番良いんだろうけど。
グゥ~~~~~
ん?なんの音かって?俺の腹の音だよ。朝から何も食って無かったかんね。
「メルフィナ嬢、とりあえず飯食おう。それから考えよう。」
「ん。」
メルフィナは手を軽く前に出すと何も無い空間から、紙に包まれた物が出てきた。
本当に便利なギフトだなぁ。
「ん。」
「ありがと。」
メルフィナから受け取った包みを開けると中はおにぎりだった。
「にぎり球。」
そっか。こちらでは違う名前だったけね。
「いただきます。」
「ん。」
あ~美味い。ちょっと塩気が強い気はするけど、めちゃ美味い。
「さて、メルフィナ。どうする?」
「?」
メルフィナは口をハムスターのように膨らませながら首を傾げる。
「いや、あのドラゴンさ、たぶん倒せないじゃん。」
「・・・待つ?・・・」
「だよなぁ。」
そうなんだよ。俺だけなら蘇るから何があっても大丈夫だけどメルフィナが居るからなぁ。
安全策を取って変遷時の強制帰還を待つしかないよな。・・・あ~お宝欲しかったなぁ。
腰から水筒用麻袋を取って少しずつ飲む。
蒼子~お前も欲しかったよな、お宝~。・・・ってあれ?なんで・・・だ?
「メル嬢、ちょっと待ってて。」
「?」
俺は確かめるためにさっきのドラゴンの部屋に近づく。
・・・これでも?
今度は部屋への扉を開けてみる。中にはドラゴンがおり、部屋を歩いている。
あの、のっしのっしと歩いている感じが貫禄あって超怖い。でも・・・いけるかも・・・
「メルフィナ~」
俺はメルフィナに振り向いて言った。
「ちょっと行ってくる~。」
「えっ・・待っ・・・」
俺はすぐに部屋に入り、扉を閉め、中にあった小石を扉の下に無理やり挟み込む。扉が閉まる直前、相変わらず無表情だがメルフィナの少し慌てた姿が見れてちょっと嬉しかった。
ドンドンドン、と扉をたたく音がする。
もし不正解なら普通に死ぬから巻き込めないのよ。ごめんねメルフィナ。あとでちゃんと謝ります。
「さて、いってみようか。」
部屋に入った俺はドラゴンの様子を観察する。このドラゴン、やはりおかしい。俺が部屋に入り、扉は今も音を出しているのにこちらを向く気配もない。今もただ歩いている。
俺は忍び足でドラゴンの後ろに行ってみると、ドラゴンの尻尾が目の前だ。鱗が金属のような光沢を放ち、おろし金のように小さな突起がいくつもある。
こりゃ凄い。こんなので殴られたら一気に削がれそうだ。・・・・ん?
いつの間にかドラゴンの歩みは止まっており、俺も歩いていなかった。
俺は、おそるおそる顔を上げると首だけをこちらに向けているドラゴンと目があった。
ドラゴンは口を開けると部屋どころかダンジョン中に響くのではないかという咆哮を上げた。
「うわぉ!」
俺は咆哮の中、耳を塞ぎ地に伏せた。伏せたというより、ドラゴンの咆哮のあまりの爆音っぷりに眩暈を起こし倒れてしまったのだが。
咆哮がやみ、俺はふらふらとしながら立ち上がると目の前に口を開けて、今にも俺を食おうとしているドラゴンがいた。
マジか~不正解だったかぁ。良かったメルフィナ連れてこなくて。死んだのを目の前で見られてたら蘇った時の話が面倒になってたからなぁ。
しっかし、大丈夫だと思ったんだけどなぁ。だって蒼子が点滅してなかったたんだもの。
そう、俺がこの無茶な行動をしたのは、青子は点滅していなかったのだ。蒼子はアンデットとの遭遇前にアンデットの存在を感知し点滅した。しかし、今回は何の変化もないため安全だと思ったんだが。どうやら失敗したらしい。
じゃあ青子は何で反応していたんだ?
などと思っていると、突然
ドゴンっ!!!
という音がし、次に
パァン!!
という音とともにドラゴンの頭が弾けた。
「・・・へ?」
俺は茫然とし、最初に音のした方向をみると、そこには俺がこの部屋に入ってきた扉があったはずなのだが粉々になっていた。
そこには、帽子を目深にして表情は見えないにもかかわらず、明らかに怒ってますという雰囲気を出している女の子が・・・というかメルフィナがいた。
メルフィナは、ゆらりゆらりといった感じに近づいてくる。
「め、メルフィナ~、助かったよ。ありがとう。」
とりあえずお礼の言葉を言ったが反応がない。・・・あらやだ。かなりご機嫌ナナメ。あ~、お仕置き確定ですか~。
メルフィナは遂に俺の目の前まで来た・・・が特に動かなかった。
「あれ?・・・メルフィナ~。」
あまりに動かないので顔を覗きこむとメルフィナの目から大粒の涙がぽろぽろと流れ出ていた。
マジか。マジかマジかマジか!やっちまった!ごめんなさい!本当にごめんなさい!
「め、メルフィ・・」
「パンパカパ~ン!試練通過おめでと-う!!」
・・・空気を読まない声が聞こえてきた。絵画の魔法使いの声である。見まわすと、ドラゴンの身体から聞こえてくる。
「いや~素晴らしかったよ~。よくこれが俺の作った奴だと見破ったねぇ。大抵の奴らは様子見て諦めて扉の向こうで強制帰還を待つというのに、君達は筋が良さそうだ。御褒美にさっき言ってた宝箱だ。受け取ってくれたまえ。」
頭が無くなったドラゴンは消えて、宝箱になった。しかし俺が気にするのは今は宝箱にあらず。
「・・・・あ、あのメっ!?ゴハ!!」
腹に強い衝撃がっ!
どうやらメルフィナに腹を殴られたみたいだ。俺は膝をつき、上を見上げる形になる。
見上げた先のメルフィナは、俺を見下ろす形になるが既に泣いてることはなく、俺を責める目になっていた。
「・・・二度と・・するな・・」
「あっはい。」
責めるどころか完全に命令だった。だが目元は紅く、泣いていた後が残っていた。・・・可愛い。
若干だが、命令されて嬉しく感じたことは俺の中の秘密である。・・・・あれ?俺ってMなのか?
「開ける。」
「了解!」
メルフィナと二人で宝箱を開けると中には、銀色の何の飾り気もない腕輪が二つは言っていた。あと魔法使いのおっさんの絵画。
「この腕輪の効果を説明しよう。まあ鑑定スキル持つ奴なら分かるだろうが、こいつは『アンチスリーパー』つってな。俺自作の道具だ。装備中の効果は催眠魔法の無効化、幻影なんかも見破れる優れものだ。」
おお~それは凄い!・・・凄いのか?凄いよな。たぶん。
「まあ、さっきのドラゴンなんかは幻影の一種なんだが、それも見破れるようになってるぞ。」
えっ。さっきの幻影なの!?リアルすぎるよ!あ~でも合点。蒼子が反応しないわけだ。蒼子はきっと害は無いと分かっていたのだ。俺の予想は当たっていたと言うことか。
「とまあ、そういうわけで次の扉を開けて進みな。一応残りの試練の数を教えてやろう。あと二つあるから。頑張れ。あと帰りたければ、帰れよ~。」
言い終わると同時に後ろから音がした。振り返ると大きな扉、そして部屋の隅に帰還用の黄色い陣があった。
「挑戦するなら扉。帰還するなら黄色の陣か。どうするメルフィナ?」
「・・・愚問。」
「ですよね。じゃあ行きますか。」
俺とメルフィナは二人で扉を開けた。
あとで加筆修正するかも。。。
次回はおいろけ?回。の予定。あくまで予定。




