第二十六.五話 出来たら
またリズさん話。
「ねぇお母さん、あの二人、今日は無茶しないかなぁ?」
「ナオヤさんとメルフィナちゃん?心配なの?」
「別にナオヤはどうでもいいのっ!メルが心配なのっ!」
最初に二人って言ってたのに。素直じゃないのねぇ。誰に似たのかしら?
「そうねぇ、メルフィナちゃんは大丈夫かしらね。ナオヤさんは・・・ちょっと心配だわ。」
「・・・そうなの?」
「ええ、急いで強くなろうとしてる気がするのよ。だから心配なの。」
「そ、そうなんだ。お母さんは凄いね。何でもお見通しだね。」
娘が落ち込んでいく。
「そんなこと無いわよ。あなたも私くらいになれば自然と分かるようになるわよ。」
「私が・・・お母さんくらいに・・・はぁ・・・」
私の全身を見て、次に自分の全身を見て、さっきより落ち込んでいる。
違うのよエリーちゃん。体の成長より心の成長なのよ。
心の成長で思い出した。
この状態のエリーちゃんからするに初恋はまだらしい。昔、夫であるエスタが言っていたのだ。
「エスタさん、エリーちゃんを見て深刻な顔をしてどうしたの?」
エスタは、2歳になるエリーちゃんを見ながら深刻そうに言う。
「ああ、ちょっとね。考え事を・・・」
「私に言えないこと?」
「いや、そんなことは・・・」
「だったら言ってちょうだい。夫婦とは悩みも共有するものよ。一緒に悩みましょう。」
エスタさんは少し恥ずかしそうに語り始める。
「ああっとね、恥ずかしながら娘の将来をね・・・」
「エリーちゃんの将来?何か問題があるの?」
「・・・問題は僕かなあ・・・」
「あなたが・・・何かあるの?」
「いや、うん。これは女性エルフの特性なんだけど・・・」
「女性エルフ?」
「うん。女性エルフはね、恋をすると成長するんだ・・・」
「・・・はい?・・・」
夫が何を言ってるか分からなかった。
「いや、女性エルフって普通ね、恋をするまで5~7歳くらいの体で成長が止まってるんだ・・・」
「はぁ・・」
「男性エルフは普通に大人になっていくんだけどね。女性は恋をしないと体の成長は止まるんだよ。」
「えっと、大変ね・・・」
「まあ、恋なんて子供の時に普通にするから、通常は女性エルフも他の同世代男性エルフと一緒くらいのタイミングで成長するんだよ。」
「そこに何か問題があるの?」
「いや~、極々稀に同世代の子と成長しない子もいてさ。何年かして急に成長する子もいるんだよね。」
「それって女の子にとっては・・・その・・・いろいろと周りにバレてちょっと・・・」
その子だけ急に初恋をしたのがバレてしまうのよね。なんか嫌ね・・・・・
「まあそうなんだよね・・・でさ、エリーを見てたらちょっとね。」
「普通に成長すれば分からないけど、成長が止まっていて急に成長しだしたら相手が気になる?」
「・・・その通りです・・・」
「その時は見守ってあげたら良いじゃない。親の務めの一つよ。」
娘が決めた相手なら私は全力で応援しなくっちゃ。
「そうなんだけどね。今のエリーを見てたら可愛くって、手放したくなくて。」
「何年も先のことを悩んでもしょうがないわよ。」
「・・・うん、そうだね。」
「それに何年も先になって急に成長しても、成長を喜んであげてね。」
「・・・ウン・・・」
あらやだ。今のウンは嘘の頷きだわ。
「今のは嘘ですね。」
「ソンナコトナイサ。」
「・・・今正直に言えば、お仕置き無しですよ。」
「ごめんなさい。嘘をつきました。」
「まったく。ちなみにさっきの場合、どうするつもりだったんです?」
「・・・相手が分かり次第、試練を与えようかと・・・」
「それって失敗したらどうするんです?」
「・・・削いでしまおうかと・・・」
どこを削いでしまう気でしょうか?そして、この親バカ夫は何を言ってるのでしょうか?
こんな会話を昔していた。そして娘の体は5~7歳である。
確かに精神はある程度成長している。
私は思うに、恋とは精神の成長に経験値を与えるの。それもすご~く。だから恋を知れば、この子も人の考えが分かるようになると思っているわ。
バタン
音がした方を向くとメルフィナちゃんが帰って来ていた。
「ただいま。」
「メル?おかえり。早かったね。」
「おかえりなさい、メルフィナちゃん。こんなに早くどうしたの?それに荷物がこんなに。」
大きい麻袋を3つも持って帰ってきた。
「お肉。」
「お肉?わっ、本当だ。しかも高そう。どうしたのよこれ。」
「狩ってきた。」
「買ってきた?・・・ああ、狩ってきたかな。えっ?大猛牛が相手だったの?」
「そう。昨日の森に居たから。依頼もあった。」
「そうなんだ。こんなにどうするの?売るの?」
メルフィナは首を振った。
「皆で食べる。余ったら干し肉にする予定。」
「本当に?やったー!!」
「あらあら、本当に良いの?」
「ん。カレーのお礼。」
「そうなの?じゃあ、遠慮なく頂きますね。これからのお食事にも、いっぱいこのお肉を使わせてもらうわね。」
「ん。楽しみ。」
さて、じゃあ保管庫に持っていかなきゃ。
バタン
「へへ、邪魔するぜ~。」
振り向くと、いかにも荒くれた男達が入ってきた。
この人達は見たことあるわ。確かダストンさんの近くに居たのを覚えている。
「へへへ、リズさんってのはアンタかい?」
「そうですよ。なんのご用でしょうか?」
「へへ、そりゃあんたが何となく気付いてるんじゃないかい?」
そうですね。確かに。この後のことは何となく想像つきます。
「娘たちには手を出さないでください。」
「まぁ、あんたが来てくれるなら・・なっ!」
「うっ・・」
私のお腹に男の拳が突き刺さる。
「お母さんっ!」
「リズさん!」
意識が遠くなる。
誰でもいい・・・誰か・・・この子たちを守ってください。
エスタさん、ごめんなさい。まだ若いこの子を残してアナタの元へ行くかも知れません。
その時は・・・出来たら笑顔で迎えてね。
う~ん今、第一章なんだけど、なんかいつの間にかリズさんがヒロイン化してる気が・・・




