第十九話 報告2
最近、忙し過ぎ
俺は鬼ごっこのせいで若干だが息が上がっている。それに対してメルフィナは平気そうだ。
これがレベル差なのだろうか。
「ふう。さて、ギルドに着いたぞ。どうすりゃいいんだ?」
「受付に行って門番に話したことを話す。」
「全く同じで良いの?」
「ん。あとプレート渡してお金もらう。」
「了解。」
ギルドの扉を開けると、いつも通りミレイさんがいた。今度は突然現れて、メルフィナを抱きかかえて撫でてることはなかった。
「お帰りなさいませ~。ナオヤさん、メルちゃん。」
メルフィナは、ミレイさんを警戒して俺の後ろにすぐに隠れた。
「どうもです、戻りました。」
「ただいっ・・・!?」
後ろで口ごもったメルフィナを見るとそこには・・・・ミレイさんがメルフィナの後ろに立って撫でている。
「ふぁっ!?ふ、双子!?」
先ほどまでミレイさんが立っていたところを見る。誰もいなかった。
・・・ウソだろ!?一瞬で移動したのか!?
「あの、ミレイさん・・・今・・のは?」
「何がですか?」
「いや、何がですかじゃなくて・・・いえ、いいです。」
笑顔で『何がですか』って・・・・考えられるのはあれか?武術系のアニメや漫画の縮地ってやつか?それともテレポート?
「えっと、依頼の達成状況を報告しに来ました。」
「でしたら奥の受付ですね~。そちらへどうぞ~。」
「あの・・・メルフィナを・・・」
ニコニコしてるだけで案内はしてくれないんだね。そしてメルフィナを抱きしめ続ける。離すつもりもないんだね。
「えっと、メルフィナ、行って大丈夫?」
「大じょう・・・・」
「夫ですよね~。」
大丈夫ではない、とは言わせないらしい。
メルフィナの目が見開いて、助けてと訴えている。だが俺には無理だ。メルフィナには見えていないのだ。ミレイさんの笑顔の威圧が。連れていくな、と言っている。
「えっと、長くならないように行ってくるよ。」
ああ、そんな捨てられた猫みたいな目しないで。マジで。
そんな目を振り切って、俺は受付に向かった。
「すいませ~ん。」
「は~い。」
「依頼の報告っす。あ、ユーナさん。」
「お疲れ様です。ナオヤさん。今日はレベル的に無茶をしたようですが、無事に帰って来てくれて良かったです。」
「・・・なんか、すいません。」
労いの言葉の後、ビン底メガネをくいっと上げて書類を用意している。
仕事が出来ますって感じだなぁ。初めて会った時とは違う印象だ。ミレイさんも仕事出来るって言ってたし。慌てなければ本当に出来る人のようだ。
「では、こちらにサインとモンスターを倒した証を入れてください。」
トレーと書類を渡された。書類にはメルフィナの名前と俺の名前で、オークの探索と討伐ってことで依頼を受けている。
「えっと、俺の名前だけで良いんですか?」
「はい、大丈夫ですよ。言いにくい話ですが、同行者が亡くなられる場合もあるので。」
そうだ。死ぬことがあるのだ。俺は今日それを痛感したのに。
肉の焼ける臭いを思い出し、指が震え、吐きそうになる。
「だ、大丈夫ですか?」
「すいません。仕事中のことを思い出して。・・・今日、帰りに門番さんの詰め所に行きました。」
「それは・・・・お気の毒に。・・・被害者の方は。」
門番さんの詰め所。この一言で察してくれたようだ。きっと何度もあることなのだろう。今日あったことを話して、オークから取ったプレートをトレーに置いた。
「・・・ナオヤさん・・・お疲れ様でした。」
「いえ・・・ありがとうございます。」
その一言だけで救われる気持ちだ。
ユーナさんがトレーの上の証を受け取って、70枚の銅貨を数えながら置いている。
「68、69、70。ですね。お受け取りください。」
「はい。確かに。」
35枚の銅貨を俺の麻袋に入れ、もう35枚を別の麻袋に入れた。
「そういえばメルフィナさんは?」
「・・・あそこでミレイさんに捕まってます。」
指を刺した先には、メルフィナを抱きしめて撫でているミレイさんがいる。
「なるほど。いつものこと・・いや、いつも以上ですね。」
いつものことじゃなく、いつも以上なんだ。俺がメルフィナを背負ってた時は、こんな仲のようには見えなかったのに。
「ミレイさんにとってメルフィナさんは、受付時代の最後の新人冒険者なんですよ。だから思い入れが強くって。」
「受付?ミレイさん受付してたんですか?」
「はい。」
受付って・・・・・動きが受付より確実に冒険者なんだが。
「それにレベルが上がると、冒険者は他の街に行くことが多いですから。そういう意味でも最後の人なんです。」
「ああ~可愛い教え子、ならぬ自分が登録した最後の人。そりゃ~可愛いかもですね。」
「そのようで。メルフィナさんの見た目が歳より少し幼いので、1人で頑張ってる妹のようだと言ってました。」
「あはは、分からなくはないです。」
うん、分からなくはない。むしろ、ある程度だが身の上話も聞いたし、俺も妹のように感じてはいる。甘えさせてやりたい。え、朝の仕打ちは何だって?妹とは!兄に遊ばれるものだろ。色々な意味で。
「それに今日は特別だと思います。」
「え?」
「メルフィナさんってパーティに入ったのって初めてなんですよ。」
マジで?普通にパーティでの戦い方とか知ってる風だったけど。
「そうなんですか?慣れてる感じがしたんですが。」
「いえ、これが初めてですよ。単独でいつも行かれてましたし。集団で戦う勉強はしていたようですが。」
勉強か。本とか呼んでたんだろうな。本の代金で食費が無くなるくらいだからな。
「勉強はしていたのですが、気を許せる仲間がいなかったようで。」
「まあ口ベタですからね。」
「あはは・・・まあそういうことですかね。」
「なるほど。ミレイさんも安心してテンション上がってると。」
「そのようで。ナオヤさん、これからもメルフィナさんのこと、よろしくお願いします。」
「うっす。まあメルフィナ嬢がこれからも俺と組んでくれればですが。」
「ふふっ、そうですね。・・・・ところで、あれは・・・」
ユーナさんも気がついたようだ。メルフィナが俺に対して『おい、話が終わったなら早く助けに来いや!』的な視線に。
「何したんですか?」
「ミレイさんに捕まったのを見捨てて、こちらに報告しにきました。」
「そ・・れは・・なんとも。しょうがないような・・・」
ユーナさんも無表情ながら、表情のあるメルフィナが分かるようだ。
2人で苦笑いをしながらメルフィナを見た。『早く!早く、来い!』って視線になってる。
「これって放置しとけば、どうなりますかね?」
「か、かわいそうなことを・・・・・ちょっと気になりますね。」
「ですよね。」
少し雑談しながら2人でメルフィナのことを観察した。するとどうだろうか、今では『た、助けてください。』という視線に変わっている。
かっ、可愛いな!布団に包まれて動けなくされた猫のようだ。
「か、可愛いですよ。ナオヤさん!」
「そうっすね!ユーナさん!」
と言いながら2人で楽しんでいると、遂には『助けないと・・・泣く。』という視線に変わった。
「きゃー!可愛さ最高潮ですよ、ナオヤさん!!」
「そうっすね!ユーナさん!!」
やっぱり可愛かった。そして観察を続けた。
「いや~堪能しましたね、ユーナさん。」
「そうですね。でも、もう本気で泣きそうですので、やめましょうか。」
メルフィナは、プルプル震えているように見える。ミレイさんは相変わらず笑顔で撫でている。
ミレイさん・・・仕事はいいの?
「そっすね。さて明日も頑張りますかね。」
「はい、頑張ってください。くれぐれも無茶しないでくださいね。」
「うっす。ありがとうございます。では。」
笑顔でユーナさんと別れ、メルフィナを迎えに行く。
「ミレイさん、報告が終わりましたので、メルフィナ嬢を離してくださいな。そんなっ!?って顔しないで下さいよ。」
「しょうがないですね。じゃあ、メルちゃんお返ししますね。」
メルフィナが解放された。小走りで俺も元に来た。
「逝く。」
「へ?げゥっ!!」
俺のボディに鈍痛が!!メルフィナの拳が俺の腹に!
「途中から楽しんでた。」
「き、気が付いてらしたのね。」
「おしおき。」
「も、申し訳ありません。」
「これで許してあげる。」
目の前に拳が迫ってる。
ふっ、この漢ナオヤ!甘んじて受けよう!・・・・・避けられないからね。
「ゴゥふっl!!」
メルフィナ嬢の拳で、俺は空を舞った。
エリーの時も思ったが凄いな、この異世界の少女達は。拳の力で人間を飛ばせるとは。
そう思いながら俺の体は回転し、顔から床に落ちた。
今回も短くて申し訳ない。でもキリが良いとこにすると、
どうしても3000~4000になってしまう。たぶん次回もそのくらい。




