第十二話 聞いちゃいました
短い。申し訳ない。
「お~い、起きろ青年。」
ガストさんの声がする。
「はぃ。おざいます。」
「まだ酔ってんのか。」
酔ってる?酔ってるぅ・・・・・・・はっ!
「セクシー姉さんは!」
「もう居ねぇよ。」
マジか!何でって・・・・・・・うっぷ、気持ち悪ぃ・・・・
「お前、シェリーちゃんが隣に座ったら酔いと緊張で気絶したんだよ。」
「・・・め、めんぼくないっす。」
「まったく、どんだけ女に弱いんだよ。」
「弱いのとは違うんす。自分から行くのは出来るんです。責められるとちょっと・・・」
責められると、どうすればいいか分からなくなるだけだ。
「・・・・へたれか。」
「ぐほっ!」
心に言葉が刺さった。ついでに吐きそうだ。あぁ、マジで気持ち悪い。
「おいおい、顔色悪ぃぞ。」
「うっす、吐きそうです。」
「ここで吐くなよ。部屋出て左の突き当たりに便所があるから行ってこい。お前が帰ってきたら帰るぞ。」
「うっす。」
部屋出て左に歩いて行く。
うぇ、気持悪っ。歩けねぇ。まだ酔ってるみたいだ。
壁に寄り掛かってしまった。目の前の部屋から声が聞こえる。盗み聞きみたいになって申し訳ないが歩けないんだ。しょうがないよね。・・・お触り中の話とかだったら、少し興奮しちゃうかも。
「・・・が違・・・危な・橋を渡っ・・・・・!早・・・・・せ!」
「しょ・・・・・ろ!警・・が動い・・って・・来たんだ。慎・・やらな・・・・るだろ!」
部屋の中から聞こえてくるのは二人の男の会話だった。
悪巧みっぽい話かなぁ。うひゃひゃひゃ、現実にあるんだねぇこんな話~。スゲーなぁ。ガストさんが金持ちも来るって言ってたもんなぁ。金のある悪い奴ってのは、こういう店に来るんだねぇ。
聞きやすいように耳を扉に近づけた。こういうのが楽しいって感じるなんて、まだ酔ってるみたいだ。
「全く、これ以上追加の金は出せんぞ!何としてもこれであの宿屋をモノにしろ!」
「無茶言うな。警邏隊が動いたとなれば一旦大人しくしなきゃならねぇ。これ以上だと娘でも人質にして実力行使しかねぇ。」
へぇ、宿屋の買収かな。こういう時代にも有るんだな。実力行使で人質って犯罪ですが。
「あと少しであの親子が俺のモノに出来るんだぞい。それでもかまわん!」
「ちっ、しょうがねぇ。警邏隊が確実に動く前にケリつけるか。」
親子で宿屋かぁ。リズさん達みたいだな・・・・うわぁ、このパターンは・・・
「ぐっふふふう、あの親子はどちらも美味そうだからの。たっぷり遊ばせてもらうぞい。」
「あの金髪親子も大変な奴に目付けられたもんですな。」
「ぐはははは、お前たちには俺が飽きた女と大金が入るんだ。良い話しか無いではないか。」
「まぁ、違ぇねぇ。リズ親子にはダストンさんへの新しい生贄になってもらいますか。」
「ぐふふふ、それに調べたがリズ親子のまわりも美人が多かったぞい。リズ親子を薬で調教し餌にして、そいつらも引きずり込み、わしのモノにしちゃるぞい。」
「ははは、そりゃ楽しいね。人数が多かったら新品のおこぼれくらいくださいや。」
はい、嫌な予感確定でございます。フラグでございました。これってライバル宿屋のダストンの会話かよっ!相手はダストンの子飼いってやつか!?
「ところでダストンさん。少々お耳を。」
「あん?なんだぞい。」
「・・・・鼠が一匹。」
やばっ!
そう思って扉から離れようとした瞬間、俺の心臓に剣が刺さっていた。扉越しに刺して綺麗に心臓狙えるとか、どんだけプロなんだよ!
くそっ!痛っ!痛すぎっる!死なないけど死ぬ時って痛いんだよ!
少しずつ俺の体から剣が抜けていく。
本当に良かった。女神様に何度でも蘇れるルールにしてもらって。2日目にして2回目の死。俺、死にすぎじゃない。他のこの異世界に来た人達って何日くらい生き延びれたんだよ。
力が抜けて意識が遠のいていく。
今日の記憶が色々蘇ってくる。
朝のエリーの慌て顔は可愛かったな。また悪戯したくたっちゃったな。
ミレイさんの笑顔は元気になるなぁ。
ユーナさんの服のセンス良かったよ。選んでくれてありがたかった。
ミュゼールさん、一緒に住んで事が起きてもマジで良かったのかな。
メルフィナ大丈夫かなぁ。また頭を撫でたいな。
リズさんは美人だけど、オシオキ怖いっす。
・・・・・・・あれ?女の子達の記憶しか無くない?
・・・・だけど、この走馬灯のおかげで・・・女の子達を、エリー達をこんなクズ共に渡すわけにはいかないと思えた。たとえ何度死んでも!!
くっそ、このまま剣を抜かれて死にきる前に顔を見られたら、次どこかで会ったら厄介だ。
薄れていく意識の中、近くにあった小石を扉の下に挟み込み、少しでも扉が開かないように細工して、トイレの方に向かって歩きだした。後ろからドカドカと扉を開けようとする音が聞こえてきた。成功したようだ。そう思うと完全に意識を失った。
「ぶはっ!ここは・・・そうか、死んだか。・・・状況は!」
下にはディードボックスの屋上が見える。街の人が止まっている。
「あり?距離がかなり伸びてる?・・・そっかレベルアップしてたもんな。」
今は15メートルくらいか?となるとレベル1で5メートルだったから~1上がるごとに5メートル追加かな?
「って、そんなことより今の状況を確認しなくては。」
さっさと俺の遺体のある所まで行ってみる。
発見。うわぁ、結構血がだばだば出てんな~。あちらの扉は~開けてるのか閉めてるのか半分開いてるな。
よし、相手の顔を確認しておくか。
「扉を透けて失礼しますよっと。うおっ!」
透けて部屋に入ると、すぐ目の前に茶髪のガタイの良い男が剣を持っている。
「こいつが俺を刺した奴で奥が~ダストンね。」
奥には腹のデカイ、タヌキ顔の男が焦っているようだ。
「そんなに焦って、聞かれちゃならん話なら外でするなよ。」
本当に、何で悪い奴って外で話してんだよ。家族や従業員に見られたくないからか?まあ、おかげで対処を考えることが出来るけど。
「とりあえず顔は覚えた。さて蘇りますかね。話が聞こえるように近くに居なくちゃな。」
ダストン達の隣部屋を確認すると
「片方はガストさんがいる、って隣かよ。酔ってて気が付かなかった。全然歩けてなかったのか。」
もう片方を確認すると誰もいない。
「よし、こっちにしますか。」
蘇れ~っと。
外から話し声が聞こえる。蘇り完了っと。廊下に耳を傾けると
「どうしたんだぞい。仕留めたのか!?」
「ええ、手ごたえは確実にありました。ですが死体も血も無いとなると、パペットだったようです。」
「や、やばいのか。」
「いえ、パペットは魔力で作ったものでよく偵察に使いますが、情報はパペット自身に蓄えられます。」
「つまりなんだぞい!」
「パペットが作った本人に戻らず、途中で壊されれば情報は伝わらない、ということです。」
「じゃあ、安心していいんだな。」
「そうです。」
良かった良かった~と言いながら扉の閉まる音がした。
こっちも顔バレしくて良かったよ。パペットなんて魔法あるんか。今度ミュゼールさんに教えてもらおう。
はあ、今日は楽しくお触りしながら、酒を飲むつもりだったのに。この件、何とかしなくちゃならん。さっきのガタイにいい男に勝てるかなぁ。勝つしかないのだが。
少しため息をつき、どうやって勝とうか考えながらガストさんの待つ部屋に向かった。
少しだけ主人公が真面目になる・・・かも?
次回も短いと思います。でも読んで欲しいです。




