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記念すべき1000人目のようですよ。    作者: とろろ~
第一章 『目指すは英雄』
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第六.五話 リズ

短いけども

「では、冒険者ギルドで何をするかは分かりませんが、頑張って来てくださいね。」

「はい!」

「お話の続きは帰って来てからたっぷり致しましょうね。」

「はぃ。ぃってきますぅ。」


ナオヤの丸まった背中を、手を振りながら見送った。




「昨日は、装備を買うって言ってましたし、冒険者になったばかりなのでしょうけど、大丈夫かしら?」


リズは職業柄、何人も冒険者を見てきた。その経験から、ナオヤが旅慣れも、戦い慣れもしていないことが分かっている。かと言って、貴族から感じる独特の雰囲気もしない。それに街に来てから、日が浅いことも分かった。ここの噂も知らないのだから・・・・今まで生きてきての常識には、当て嵌らない人物だ。


「それに・・・」


棚の絵立てを見る。私と夫がエリーを抱えている。これを見ても彼は、


「・・・素敵ですね、か。」


普通、これを見たお客たちは、あまりに絵が上手すぎて過ぎて驚く。絵立ての夫がエルフだと分かると、恐怖する。それほどに異種族と言うのは、嫌われる対象が常識である。



夫が受け入れられたのは、下地があった。



この街には、毎週エルフが行商に来ていた。小さい頃だったが雰囲気の悪かった商人エルフだったことを覚えている。

それでもこの街に来れていたのは、商品の質が良く、珍しい物ばかりだったので受け入れられていたのだ。


ある時、雰囲気の悪いエルフではなく、違うエルフが来るようになったと聞いた。愛想も良く、気前も良いと。ならばと思い、何か欲しい物がないかと見に行った。


行ってみると、人だかりが出来ている。

この時の私は、まだ体が小さかったので、人だかりを縫うようにして中心まで行けた。

中心に居た人物は、お客と話をしながら笑っている。

顔は整っており、耳は長く尖っていて、太陽のように煌く金髪、白く透き通るような肌をしたエルフだった。


私と目が合った。


「やあ、いらっしゃいませ、小さいお姫様。エスタの商店へようこそ。今日は何をお探しだい?」


笑顔が煌いていた。まるで物語の王子様を見たようだった。


「えっと、髪留めを。」

「なら、これなんてどうかな?」


赤い小さい花が付いている髪留めだった。質も良さそうで可愛かったが、20銅貨と値札に書いていた。


「あの、今は10銅貨しかなくて。」

「なら、7銅貨でいいよ。可愛いお姫様にはサービスだ。だけど男の人にはサービスしないからね。ちゃんと定価で買ってくれよ。」


と言うと、周りの男のお客たちは笑いながらヒデー奴だ、などと言っている。


「あの、7銅貨。」

「お買い上げありがとう、お姫様。また来てね。」


これが私と夫の出会い。

その後、毎週通い、何年も通い、私から告白をして・・・・・・付き合うようになり、エルフがどんな存在かも、ある程度教えて貰った。

そこには寿命のことも含んでいた。エルフは街に居ると寿命が短くなると・・・・。

それを聞いた時、私は別れを切り出した。だが、エスタは言ったのだ。


「森に帰って寿命が長くなったところで、君が隣に居ないなんて生きる意味が無いよ。寿命が短くなろうが君と共に歩んで行きたい。結婚しよう。」


言われた瞬間、涙が溢れ何も見えなくなった。そんな私をエスタは優しく、それでいて私を逃がさないとばかりに強く抱きしめてくれた。



その後、多少反対する人もいたが、説得して納得してもらった。ちょっと震えていた人もいたけど何故かしら?

最後は私の父達への説得だったが、説得中を見られるのは嫌だったので、エスタには別室で待っていてもらった。


何故か震えている父達と話が終り、エスタの待つ部屋に行くと、少しドアが開いており話し声が聞こえた。この声は、幼馴染で妹のように可愛がってた子だ。悪戯心から少し覗いて話を聞いてみると、私との結婚でエスタに条件を出していた。


「エスタ!私のお姉ちゃんが欲しければ、替わりにエルフの魔法を全部教えなさい!」


あまりの言いぶりに怒って部屋に入りそうになったが、エスタは


「厳しいけど良いのかい?優秀な人間でも20年はかかるよ。」

「望むところよ。私は天才の中の天才なの!5年以内に覚えてやるわ!」

「ふふっ、そうかい。なら教えよう。」

「・・・・お姉ちゃんを持って行くんだから全力で教えなさいよ!・・・・あとお姉ちゃんを幸せにしなさい。」


最後の方は少し声が小さかったが、ちゃんと聞こえた。あの子の涙声が。


「うん、全力で教えるし、全力で幸せにする。」


エスタは、そう言って返した。

私は涙を流しながら2人の話を聞いていた。




その後、本当にエスタは全力で魔法を教えた。

呑み込みが本当に早いとエスタは嬉しそうに話をしてくれた。少し嫉妬してしまって、私も少し教えて貰った。

20年かかると言われて、5年以内に覚えてやると言っていたが、実際に掛かったのは3年と少し。本当に天才中の天才だったらしい。




色々と思い出してしまった。

棚の絵立てを見る。


「エスタさん、不思議な方が家に来ましたよ。あなたの絵を驚きもせず、恐怖することもなく、ただ素敵ですねって言ってくれました。少し泣きそうになっちゃいました。不思議な方で・・・・良い人みたいです。今この宿屋が危ない時期ですが、エスタさんが連れてきてくれたんでしょうか?」


絵立ての中のエスタは笑顔のままだ。


「全然似てないのに、何となくあなたと同じ様な雰囲気を感じました。何故かしら。」


本当に何故だろうか。色々と思いだして何年も会っていない幼馴染のことも思い出した。


「そっか。今日はミュゼールちゃんの魔法の教え教室がある日だっけ。ナオヤさん、それに出るのかしら?」


魔法とは通常、覚えても威力が戦いに使えるまでに3週間はかかると聞いたことがある。

以前、駆け出し冒険者がカードを見ながらボヤいていた。スキル欄のスキルがまだ掠れているから実践には使えないと。

どういう原理なのだろうか?大変親切な不思議カードである。


「ふふ、ナオヤさんも苦労するのかしら。・・・フレイム。」


小さな火を手から出し、窯に火を入れた。普段の生活ならこの程度で十分である。

だがモンスターが相手なら話は別だ。もし今から私が冒険者になってもスキル欄にはフレイムの文字が掠れているのだろうと思う。

これから魔法の練習で苦労するナオヤを想像しながら料理をするリズであった。


どうでしょうか。少しだけ過去編でした。

エリーもそのうち、書くつもりです。


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