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今回少し長めです。これで修学旅行の話はおしまいです。

 修学旅行3日目の朝、寝不足な私はあくびをかみ殺しながら朝食をとった。

 結局、いろいろ考えすぎて眠れなかったのだ。

 寝不足の原因を作ったヘタレはとても調子が良さそうである。

 くそう……恨んでやる……。


 朝食をとって、バスで少し移動したのち、自由行動となる。

 本日午後8時までにホテルに到着すれば、あとはなにをしても自由。

 みんな羽目を外して大はしゃぎである。

 寝不足な私も、こればかりはテンションが上がる。

 だって、北海道の美食を食べ歩きできるのだから!


 じゃがバター。焼きとうもろこし。

 新鮮な魚介類に、ラーメン。

 ああ、考えただけでよだれが……!


 そんな私を、蓮見が呆れたように見つめ、ため息をついた。

 ため息までつかなくてもいいじゃない。

 だって、すごく楽しみなんだもの……。




 少ししょげながら始まった自由行動。

 自由行動を開始すれば、さっきまでしょげていた気持ちは吹っ飛び、私のテンションもあがる。

 慣れない土地を歩くのは物珍しくて、楽しい。

 4人であーだこーだと話しているうちに、あっと言う間に美咲様たちとの別行動の場所に到着した。

 ここで一時お別れです、美咲様。ヘタレとのデート、楽しんでください!

 私がさりげなく、3人から離れ、3人にバレないように陰から3人の様子を伺う。

 ん?なんか揉めてるぞ……?

 いや、揉めているというか……なんか蓮見が二人に一方的に言い寄られているように見える。

 え?どうしたの?なにがあった?


 しばらく様子を見守っていると、蓮見はなんだか諦めたように二人から離れた。

 うーん……計画通り、であっているのだろうか?

 悩んでいると、携帯がブッブッと鳴る。

 ヘタレからのメールで『計画通り。そのまま奏祐を追いかけて』と指示が来た。

 私は『了解しました』と素早く返信し、蓮見を追いかける。

 ぐんぐんと歩く蓮見に追いつくのは大変だった。

 蓮見は歩くのが早い。

 足が長いんだよね……いつもどれだけゆっくり歩いてくれているんだろう。


「蓮見様!」


 なんとか蓮見に追いつきそうな距離で私は蓮見に声を掛ける。

 蓮見は振り返り、止まってくれた。


「神楽木……」


 なぜだか蓮見は罰の悪そうな顔をした。

 どうして?


「あの……蓮見様?」

「あぁ……なに?」

「なに……ではなく」


 私、はぐれたことになっているはずですよね?

 なのに、なにその反応。


「……美咲と東條様はどうされたのですか?」

「あ、あぁ。あの二人はなんか行きたいところがあるからってどこかに行ったよ……時計台のところで待ち合わせって言っていたけど」

「え?あ……そ、そうなのですか」


 あれえ?なんか話と違わないか?

 計画だとはぐれた私が、私を探している蓮見をたまたま発見して、そのあと二人で行動する、という計画だったはずなのだけど……。


「どうしますか?このまま時計台に向かいます?確か、札幌でしたわね……」

「あ、いや……」


 蓮見が歯切れ悪く言う。

 なんか今日の蓮見はおかしいな。


「……君、まだ小樽で行きたいところがあるんじゃない?なら、先にそこに行こう。昴と美咲も寄り道していくはずだから」

「え?いいのですか……?」


 蓮見はこくりと頷く。

 私は少し考えて、当初の予定通りに動くことにした。

 まだ小樽を周りきっていないし、行きたいところもある。

 ここは蓮見の提案に乗ろうではないか!

 なんか少し話と違うけれど、おおよそ計画通りだし。


「では、チョコレートを買いに行きたいです」

「わかった。行こうか」


 私は蓮見と連れ立って歩き出す。

 あんなに追いつくのが大変だったのに、今は歩くのが大変ではない。

 わかりにくいけれど、やっぱり蓮見は優しい。

 そんなさりげない蓮見の優しさに私の胸がきゅんと疼く。

 ああ、心拍数が上昇してきた。

 私が鼓動よ静まれと心の中で唱えていると、私の右手になにかが触れた。

 躊躇して、そして今度はしっかりと私の手を握ったのは、蓮見の左手だった。

 私が驚いて蓮見を見ると、蓮見は照れくさそうな顔をして言った。


「またはぐれると困るから……」

「え、ええ……そうですわね」


 私の鼓動が静まるどころか、むしろ大きくなって響く。

 蓮見の大きな手。少しごつごつした、男の人の手。

 私は戸惑いながら、握られた手を見つめる。

 どうしよう。すごく照れくさくて、恥ずかしくて、でも、嬉しい。

 蓮見の暖かな手のぬくもりが、とても恥ずかしくて嬉しい。

 私はたっぷり悩んで、そして、蓮見の手を握り返した。

 蓮見が少し驚いたように私を見る。

 私は先ほど蓮見が言った台詞をそのまま蓮見に返した。


「またはぐれるといけないので……」

「そうだね……」


 それきり、私たちは無言で小樽の街を歩いた。

 でも気まずくはなくて、むしろ、沈黙が心地よく感じた。

 繋がれた手のぬくもりが、とても心地よくて、そしてなんだか蓮見に近づけた気がして、とても嬉しい。



 私たちは何軒かチョコレートのお店を回り、試食を楽しみつつ、お土産のチョコレートを選ぶ。

 もちろん、自分用のチョコレートを買うのも忘れない。

 1種類ずつ買いたいくらいだったけれど、さすがにそれは弟と母に怒られそうなので自重する。

 絞りに絞って買ったつもりだったけど、結構な量になった。

 私の買い物を見て蓮見がため息をついた。

 だってしょうがないじゃないか。どれもおいしそうなんだもの。

 私は買ったチョコレートを郵送してもらうように頼み、チョコレートのお店をあとにした。



 私たちはそのまま、小樽の街を散策した。

 途中でオルゴールのお店を発見し、寄ってみた。

 色々な大きさや形のオルゴールたち。

 鳴らしてみれば懐かしいメロディーが流れだす。


 オルゴールかぁ……。可愛いな、これ。

 弟のお土産にオルゴールなんてどうだろう?

 大切に使えば長持ちするし、オルゴールの音色は癒される。

 心配性な弟の心を癒すアイテムとして、オルゴールをプレゼントしよう。

 あ、でも私もほしいな。私のも買っちゃおう。


 私が弟のオルゴールを真剣に選んでいると、蓮見が優しい表情でひとつオルゴールを手に取り、オルゴールの音色を聞いていた。

 曲は誰もが知っているキラキラ星だ。

 私も蓮見と一緒にキラキラ星を聴いていると、蓮見が懐かしそうに言った。


「子供のころ、姫樺とオルゴールの中に宝物を入れたんだ。ちょうどこんな形で、曲もキラキラ星だった。そのオルゴールはもう壊れてしまったけど、懐かしいな……」

「そうなのですか……」


 とても愛おしそうにオルゴールを見つめる蓮見に、私の鼓動が嫌な音を奏でる。

 蓮見にとって橘さんは、とても大切な存在。

 わかっていたことじゃないか。それなのに、嫉妬するなんて見苦しい。

 私は無理やり笑顔を作って蓮見に言った。


「そのオルゴール、橘さんへのお土産にしたら如何ですか」

「……そうだね。そうする」


 ずきり、と胸が痛む。

 自分で言ったことだ。それを蓮見がその通りにしただけ。

 傷つくことなんて、ない。

 ないはずなのに、なんで胸が痛むのだろう。

 ああ、恋って本当に自分ではままならない。

 自分の感情に振り回されてばかりだ。


 私たちはそれぞれオルゴールを選んで買った。

 私は結局自分用のオルゴールは買わなかった。

 なんとなく、買いたくなかった。

 蓮見と橘さんの思い出のあるオルゴールを持ちたくなかったのだ。



 お店から出て、私たちは無言で歩き出す。

 そしてそのまま、待ち合わせの札幌へ向かう。

 待ち合わせの時計台に着く前に、蓮見がちょっと待って、と私に声を掛けた。

 私は横の蓮見を見上げる。


「はい、これ」

「え?」


 蓮見は小さめの箱を私に差し出した。

 なんだろう、これ。


「さっきの店で買った、オルゴール。君が好きそうだと思って」

「まあ……とても嬉しいのですけれど、受け取れませんわ」

「いいから、受け取って」

「でも……いえ。わかりました。受け取ります。ありがとうございます」


 断ろうとしたけれど、蓮見の嘆願するような顔に負けて、私は受け取ってしまう。

 惚れた弱み、というやつだろうか。


「家に着いたら開けてみて」

「え?あ、はい。わかりました」


 なんで家に着いてからなんだろう?

 まあ、ここで開ける気はなかったけど。

 ただ、蓮見がほっとしたような顔をしたのが気になる。

 なにかあるんだろうか、このオルゴールに。



 私たちは時計台についたが、まだ美咲様とヘタレは来ていなかった。

 うーん、ここを離れるわけにもいかないし、どうしよう。

 私がきょろきょろ辺りを見渡していると、写真撮影をしている人たちをちらほら見かけた。

 いいなぁ。私も写真撮りたいな。……できれば蓮見と二人で。

 そう思っているのが伝わったのか、蓮見が私の方をチラリと見た。


「写真、撮る?」

「いいんですか!?」

「……せっかくだし、いいよ」

「ありがとうございます!」


 私たちは時計台の前に立ち、携帯のインカメラで撮影をした。

 ちょっとブレた。うーん、誰かに撮ってもらった方が良かったかな……?

 私は通りかかった人にお願いして、写真を撮ってもらう。

 写真を確認すると、自撮りしたものよりも綺麗に撮れていた。

 やっぱり人にやってもらった方がいいね。

 私は写真を撮ってくれた人にお礼を言って、もう一度写真を確認した。

 蓮見とのツーショット写真。

 やばい。すごくうれしい。


「……そんなに嬉しい?すごくにやにやしているけど」

「え?やだ……顔に出てました?」


 蓮見はこくりと頷く。

 うわあ、恥ずかしい!

 でも嬉しいんだもん、しょうがないじゃないか。


「蓮見様にもこの画像送りましょうか?」

「……頼もうかな」


 私が蓮見に写真を送ったところで、ヘタレと美咲様がやって来た。


「ごめん、遅くなった」

「いいえ。平気ですわ」

「あ、リンちゃんだ。おーい!リンちゃん!」


 一拍おいて、カイトと飛鳥もやってきた。

 こんなところでみんな揃うなんて、なんて偶然なのだろう。

 ここは記念撮影をしないと!

 私がそう言うと、みんないいよ、と言ってくれた。

 やった!


「珍しいね?奏祐が写真撮られるなんて。写真きらいでしょ?」

「……たまにはいいだろ」

「ふーん?そういうことにしておくね?」

「……なんかむかつく……」


 蓮見は、写真きらいだったんだ。

 じゃあ、さっきは無理して撮ってくれたのかなぁ。

 本当に蓮見の優しさはわかりにくい。


 私たちはみんな揃って記念撮影をした。

 ふふ、良い思い出になった。

 全員に写真の行きわたったところで、みんなもうホテルに行くというので、私たちは揃ってホテルにむかった。

 ホテル内のレストランで夕食をとり、それぞれの部屋に行く。

 今回のホテルも一人部屋だ。

 私は制服を脱ぐとベッドに寝転がる。


 明日で北海道とお別れかぁ。

 あっと言う間だったな。

 そんなことを考えていると、寝不足だった私は知らないうちに夢の世界へ旅立った。



 修学旅行4日目は、工場見学をして帰るだけだ。

 空港内で時間があるので、空港内のお土産屋さんを見て時間をつぶす。

 そして時間になると飛行機に乗り込んだ。

 さようなら、北海道!いつかまた行くからね!

 飛行機内では行きと同じく私は寝て過ごす。

 他の生徒もさすがに疲れが出たようで、寝ている生徒が多かったようだ。

 ただし、ヘタレとカイトは行きと同じようにテンションが高いままだったが。



 こうして、楽しかった修学旅行はあっと言う間に過ぎ去った。

 そして我が家に帰宅をすると、弟が真っ先に出迎えてくれた。



「姉さん、お帰りなさい。楽しかった?」

「ただいま、悠斗。ええ、とっても楽しかったわ。約束通り、お土産もいっぱい買ってきたのよ?明日辺りに届くんじゃないかしら」

「そっか……姉さんが元気で帰って来て、本当に良かった……」

「ふふ。大袈裟ね。だから、大丈夫だって言ったでしょう?少しは姉を信用しなさい」

「……そうだね。ちょっとだけなら、信用してあげる」

「偉そうね」


 私と弟はふふ、と笑い合う。

 そして私は実感した。


 ああ、帰って来たんだな、と。




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