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 デレてる蓮見を見てしまった。

 貴重だ。心のカメラに収めておこう、と思いつつ、照れているらしい蓮見に、私は余裕たっぷりの笑みで言う。


「どういたしまして」


 蓮見はしばらく気まずそうな表情をしていたが、わりとすぐに立ち直った。


「俺はちゃんと理由を言った。だから次は君の番だ。君の理由は何?」


 立ち直らなくてもよかったのに。

 と内心舌打ちをしつつ、私は考える。


 どうしようか。ここは正直に私もカミングアウトするべきだろうか。

 蓮見の告白は、きっと蓮見にとってはすごく勇気のいるものだっただろう。

 それを言ってくれたのだ、他人同然な私に。

 だから私も、それ相応の誠意を見せるべきだ。


 だけど、本当に言っても大丈夫なの?

 蓮見は影響力のある人だ。そんな人に、普通は信じて貰えないようなことを言っても大丈夫なのだろうか。

 私1人なら、頭がおかしいと思われてもいい。

 だけど、家族に、神楽木家の名に傷をつけたくない。迷惑をかけたくない。


 私はじっと蓮見を見つめる。

 彼は私の視線をまっすぐに受け止めた。

 蓮見は私の評判を落とすような事を言う人ではないと思う。

 だから、私の“理由”を話して信じて貰えなければそれまでだ。

 私は腹を括った。


「……私の理由は、きっと蓮見様にとって信じられないものですわ。それでも知りたいですか?」

「信じるか信じないかは聞いてから判断する」

「わかりました。実は……―――」


 私は王子を避けている理由を包み隠さず話した。

 私の話を聞いている間、蓮見の表情は変わらなかった。



「……確かに、信じられない話だ」

「そうだと思いますわ」

「ここが少女漫画の世界で君がヒロイン、ね……」


 ヒロイン、と言うあたりで蓮見は残念な子を見るような目をした。

 む。なんだ。私がヒロインなことになんか文句あるのか。喧嘩なら買うぞ。いくらだ!?

 私の頭の中でゴングが鳴る。


「でも、君が昴を避けている理由はわかった」


 頭の中でファインディングポーズを取っていた私は、あっさりと蓮見に降参された気持ちになった。


「……信じてくれますの?」

「君が嘘を言っているようには見えなかった。まあ、君が漫画のヒロインって言うのは信じきれないけど」


 君がねぇ、と残念そうに蓮見は言った。

 どこが信じられないって?私のどこが?


「君がヒロインらしいかどうかはさておき、ここが漫画の世界なら、昴は君に一目惚れするんでしょ。でも君は全力で避けてるからまだ昴は君に惚れてない」


 ヒロインらしいかはさておき!?

 置くな!私は充分ヒロインらしいでしょ!

 私は内心異議を唱えるが、口には出さない。

 私は空気の読める子なのだ。………たぶん。


「ええ、その通りです。私は東條様に一目惚れされるつもりはまったくありませんの。私は、漫画で大好きだった美咲様に幸せになって貰いたいんです」

「……そう。なら、俺たちは同志だ」

「ええ。蓮見様を『美咲様の幸せを願う会』の会長に任命して差し上げますわ」

「なにその会?」


 ちなみに私は名誉会員です。


「とにかく、私は東條様と会うわけにはいきません。なので影からのサポートはしますが、直接動くのは蓮見様にお任せします」

「わかってる」

「では、当面の活動方針を決めましょう」


 私たちは当面の活動方針について話し合う。

 とりあえずは、二人が参加するイベントでは出来るだけ二人きりになれるようにすることに決めた。

 まあ、それくらいしかないよね。

 あとは美咲様にもっと積極的にアプローチしてもらわないと。


「美咲からのアプローチ、か……美咲はどうも俺にそういう話をし辛いみたいなんだ」

「そうですか……蓮見様は幼なじみとはいえ、異性ですものね。美咲様も言いづらいのでしょう」


 男と女じゃ話しやすさが違うもんね。

 やっぱり恋の話は女子の方がいいよね。


「そういうものなのか……じゃあ、君が美咲の相談相手になってくれればいい」

「……あら?私、耳がおかしくなってしまったのかしら……よく聞こえなかったのでもう一度お願いします」

「だから、君が美咲の相談相手になってあげたらいい」

「…………私が、美咲様の相談相手に……?」

「そう。美咲に昴には君のことを内緒にしてほしいと頼もう。念のためにね」

「………………」

「ねえ、聞いてる?」


 私はぶるぶると震えていた。

 おお、神よ。私は初めてあなたに感謝します。

 まさか、こんなにも早く美咲様とお話することが叶うだなんて……!

 ああ、なんてこと……!

 嬉しすぎて私、舞い上がりそう……!!

 あ、涙が……。


「……何で泣いてるわけ?」

「嬉しすぎて……憧れの美咲様とお話できるなんて、天にも昇る気持ちですわ……!」

「泣くほど嬉しいの……?」


 蓮見が引いているのも目には入らないほど、私は興奮していた。


「私、がんばりますわ!頑張って美咲様にアドバイスをして、東條様を骨抜きにしてやります!」

「…………俺、人選間違えたかも……」


 蓮見の後悔した声なんて聞こえてません。

 ああ、美咲様とお話できる日が楽しみ。

 今日学校サボらなくて良かった。真面目で良かった。


 美咲様とお話する日は、蓮見が美咲様の予定を聞いてくれるそうだ。

 さすが、美咲様の幸せを願う会の会長だ。



 ふと蓮見が思い出したように言った。


「ちょっと気になったんだけど」

「なんでしょう?」

「前世で君は俺のことどう思ってた?」

「かなり好きなキャラでしたわ」

「今は?」

「今は……」


 なんて答えようか。

 はっきり言って私の蓮見に対する気持ちは複雑だ。

 一言で言えないくらい、複雑だ。

 ああ、いや、この気持ちを一言で簡単にまとめるとこれがぴったりだ。

 私はにっこり笑って言った。


「今は『大キライ』ですわ」


 きっぱりと言い切った私に蓮見は一瞬驚いて、すぐにおかしそうに笑い出した。


「ははっ……!女に『大キライ』って初めて言われた……。やっぱ、君、おもしろいよ」

「それは、どうもありがとうございます」

「改めて、これからよろしく、神楽木」

「あまりよろしくしたくありませんが、こちらこそ、よろしくお願い致しますわ、蓮見様」


 私と蓮見は握手を交わした。

 こうして『美咲様の幸せを願う会』が発足したのであった。




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