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 蓮見に惹かれている。

 私はそう自覚した。

 だけど、これが恋だとは断言できない。


 そして、蓮見も私が蓮見を意識していることを知った。

 それまでは私が避けているのを察して気を遣ってくれていたのだろう。

 だけど、私が意識していることを知ったその次の日から、蓮見は遠慮をしなくなった。



「おはよう」

「……ごきげんよう、蓮見様」


 私は引きつった笑みを浮かべた。

 ここは靴箱。今は多くの生徒で賑わう時間です。

 目立ちますね。ええ、ものすごく目立ってますね。

 なんか既視感。前にもこんなことあったような……。


「見て。あそこにいばら姫の主役をされたお二人がいらっしゃるわ」

「何度見ても絵になるお二人だわ……」

「蓮見様、今日も素敵」

「神楽木さん、今日も可愛いなー」



 ……居たたまれない。逃げたい。

 今すぐ回れ右をしておうちに帰りたい。

 誰か助けて。



「あら。凛花と奏祐。ごきげんよう」

「美咲、おはよう」

「ごきげんよう、美咲」


 私の願いが天に届いたのか、美咲様が声を掛けてくれた。

 今日も美咲様は美しい。


 ん?あれ?

 美咲様がいらっしゃると余計に目立つんじゃ……?

 私が恐る恐る周りを見ると、案の定、さらに注目を浴びてました。

 やめて。私、注目されることに慣れてないんだってば。

 そんなに見ないでぇ!


 私が内心冷や汗たらたらで微笑んでいると、更に声が掛かる。


「おはよう。みんな揃って楽しそうだね?僕も仲間にいれてほしいな」


 ああ……さらに目立つ人が。

 なんでそんなに普通な顔していられるんですか、美咲様と蓮見は。

 私は朝から倒れそうになった。




「……ということがありましたの。私、とてもあんなに注目を浴びる中、平気な顔をして会話なんてできませんわ……」

「くっ……!そ、そうか……フッ…さ、災難だったな……くくっ」

「……飛鳥くん?笑いたければ笑ってくださって結構ですのよ?」

「ああ、いや……すまない。神楽木は注目浴びるのは平気だと思っていたから……劇でも堂々と演じていたしな」

「あれは、演技ですので。本当は震えていましたのよ?」

「そうだったのか」


 私は朝あったことを飛鳥に愚痴った。

 誰かに話すと気持ちが楽になる。飛鳥は私の恰好の愚痴り相手である。


「まあ、蓮見とも仲直りできたみたいで、良かったな?」

「仲直り……と言えるのかどうかはわかりませんけれど。前みたいに気を遣って頂かなくても大丈夫ですわ」


 その節はご迷惑をお掛けしました、と私は頭を下げた。

 飛鳥は柔らかく笑いながら首を振る。そしてただ「気にするな」と言った。

 私と飛鳥が和やかに会話をしていると、ガラガラとドアが開いた。

 そして入ってきたのは、蒼白な顔をしたヘタレ王子だった。


「き、聞いてよ……神楽木さん、飛鳥くん……」

「まあ、どうなさいましたの?」

「とりあえず座ってくれ」


 ヘタレはありがとう、と言いながら、私と飛鳥の前の席に座る。

 なにがあったんだろうか。

 たぶん、美咲様関連だとは思うけれど。


「それで、なにがありましたの?」

「あ、ああ……み、美咲が……誘われたんだ、クリスマスパーティーに」

「まあ」

「ほう」


 大方予想通りだ。

 だから早くしろって言ったのに。


「いや、誘われただけならいいんだけど……美咲はね、その返事を、保留にしたみたいなんだ……」

「まあ、保留ですか?断ったのではなく?」

「ああ。しかもその相手が……」


 ヘタレは言い淀んで私をチラリと見た。

 ん?なんだ?


「悠斗君なんだよ……」

「なっ……!?」

「ほう……神楽木の弟か」


 飛鳥が興味深そうに言う。

 一方の私は、ヘタレ王子と同じくらい動揺していた。


 え!?嘘でしょ!?

 悠斗が美咲様を誘うなんて、そんなことが……!

 ああいや、でも悠斗は顔も性格もいいし、将来有望だ。

 まだ身長がちょっと足りないけれど、これからぐんぐん伸びるだろう。

 あれ?そう考えると美咲様のお相手は弟でもいいかもしれない。

 だってもし、弟と美咲様が結婚したら、私は美咲様と義理の姉妹になれるってことでしょ?

 あ、いいかもそれ。

 ちょっと私、弟を応援しようかな……?


 あっ。だめだ!

 私、クリスマスパーティーは弟と参加するつもりだったのだ。

 だから美咲様と弟が一緒に参加したら私のパートナーがいなくなってしまう。

 それは困る。

 だって今年のクリスマスパーティーのデザートは豪勢だって聞いていたから、楽しみにしているのに!



「もしもーし?神楽木さん?聞いてる?」

「あ……申し訳ありません。弟のことを聞いて、つい、動揺してしまいましたわ」

「……そうだろうね。神楽木さん、悠斗君のこと大好きだものね?」

「ええ。愛してると言っても過言ではありませんわ」

「……あ、ああそうなんだ……」


 キッパリと言い切った私にヘタレが笑顔を引きつらせた。

 なにか問題でも?

 姉が弟大好きで、なにが悪い。



「とりあえず、弟に聞いてみますわ。また明日ご報告致します」

「ああ……よろしく頼むよ」


 私は任せろ、と言わんばかりにしっかりと頷いた。




 帰宅して夕飯をきっちり食べて、宿題をしたあと、私は隣の弟の部屋に向かう。

 決して、弟に聞くのが怖かった、とか、そんなことはない。

 そうですとも。あんなドヤ顔で頷いておいてビビッて質問を先延ばしにしたとか、そんなわけがない。ないったらないのだ。

 私は深呼吸して、弟の部屋をノックする。


「はい」

「悠斗?今、ちょっといいかしら?」

「……姉さん?」


 弟はドアを開けて私を出迎え、珍しそうに見つめる。


「珍しいね?姉さんがオレの部屋に来るなんて。入って」


 そう言って弟は私を部屋に招き入れた。

 さあ、ここからが本番だ。

 がんばれ私!負けるな私!


「で、何の用?」

「ええ……その……生徒会の仕事で困っていることはない?」


 私のヘタレ!意気地なし!

 いや、ちがうの。これはさりげなく聞くための前運動なの。そうなの。そういうことにしておいて。


「うーん、特にはないな」

「そう……もうすぐクリスマスパーティーがあるでしょう?それに生徒会も少しだけ携わることになっているから、これから忙しくなるわ。わからないことや困っていることがあるなら、早めに教えてね?」

「わかった」


 弟がしっかり頷いたのを見て、私は微笑む。

 なんかいい感じだぞ、私。

 上手い具合にクリスマスパーティーの話を持ち出せた。

 そう、ここからさり気なく聞くのだ。

 さりげなく…さり気なく……。


「そ、そういえば、悠斗は誰とクリスマスパーティーに参加するのかしら?」


 やばい。声裏返った……!

 いや、素知らぬ顔をして誤魔化せ!!


「……姉さん。挙動不審だよ?」

「そ、そう?気のせいじゃない?」

「……ああ。なるほどね。これが聞きたかったんだね?」


 ぎっくぅ。

 まあ、なんのことかしら?私には全然全くサッパリとよくわからないワ。

 ホホホホホと笑ってみるが、これでは弟は誤魔化されてくれなかった。

 我が弟ながら手ごわい。


 ……うん。素直に認めよう。そうしよう。


「ごめんなさい。これが聞きたかったんです」

「……回りくどいことしなくてもすぐに聞いてくれればよかったのに」


 それが出来ないから回りくどく聞いたんですぅ。


「オレは姉さんと参加する気だったけど……もしかして、姉さん誰か、相手が?」

「え?ううん、誰もいないけれど。あれ?悠斗は美咲を誘ったんじゃなかったの?」

「水無瀬さんを?まさか。あ……でも、東條さんに誘われなかったらオレと参加しませんかって冗談は言ったかな。そしたら水無瀬さんも考えておくって冗談を返してくれたけど……これのこと?」

「……たぶん、それのことね。そう……ヘタレの勘違いだったのね」

「へたれ?」


 なんだぁ、もう。変に緊張して損したじゃないか。

 私はほっと胸を撫で下ろし、弟の部屋から出る。

 弟の部屋のドアを閉める前に、私は弟の方を振り向いて言った。


「悠斗、美咲を狙うなら、応援するわ。ヘタレよりも私は悠斗を応援するからね?」

「はあ?」


 お姉ちゃんは君が美咲様とくっつくのを邪魔しないよ!

 むしろガンガン攻めちゃえ。そして私は美咲様と義理の姉妹になるの……!

 私が頑張ってね、と言うと、弟は変なものを見る目で私を見てきた。

 ちょっと、いや、結構、傷ついた。




 翌日、私はさっそくヘタレに報告をした。

 そうしたらヘタレは顔を輝かせて満面の笑みを浮かべてよかった、と言った。

 ……取られたくないなら、さっさっと誘えばいいのに。

 そう言うとヘタレはがっくりと肩を落として、「それができてたらこんなに一喜一憂してないよ……」と言った。

 確かに、その通りだ。

 私はヘタレを慰めるように、肩をポンポンと叩き、協力してあげることを約束した。

 そうしたらヘタレは満面の笑みを浮かべてお礼を言ってきた。


 ……なんか犬みたい。

 あれ?この人って、こういうキャラだっけ?

 私は首を傾げた。




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