表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/152

47

 観覧車に乗ったあと、私たちはメイン施設である水族館にやってきた。

 水族館はなかなか広く、いくつかのエリアにわかれているみたいだ。

 まず最初に足を踏み入れた先にいたのはイルカたちだった。

 大きな水槽をすいすい泳ぐイルカを私は目で追う。

 可愛いなぁ……。

 ちょっと進んだ先ではベルーガが出迎えてくれた。

 ちょうど私たちの正面にいて、くるりと水槽の中を回ってくれた。

 すごい癒される。イルカ可愛い。

 そうだ。ベルーガのぬいぐるみを買って帰ろう。

 私の部屋にベルーガを飾るのだ。毎日癒されるはずだ。


 イルカに癒された私たちはゆっくりと水族館を回る。

 不細工な深海魚にきれいな熱帯魚。

 私たちがよく食べる魚に、ヘンテコな姿をした海の生き物。

 いろんな種類の海の生物たちに気をとられていると、いつの間にか美咲様と王子と蓮見の姿が消えている。

 あれ?もしかして……迷子になっちゃった?

 まさか。高校生にもなって迷子だなんてそんなバカな……!

 私はふらふらと辺りを探して見るが、3人の姿は見つからない。

 どこ行っちゃったんだろう……携帯で連絡を……あれ。電源切れてる。


 これはまずいと思いながらも、携帯という連絡手段がない私はどうすることもできない。

 とにかく進んでみよう。出口で待ってくれてるかもしれないし。

 そう考えた私は海の生物を観賞しつつ、奥に進む。

 奥に進んでいくと、クラゲ専用の展示ルームを発見した。

 私はその部屋を覗いてみることにした。

 クラゲって見ている分には綺麗だし。


 部屋に入ってみたが、中には人が1人もいない。

 クラゲ綺麗なのに、人気ないのかなぁ。

 私は気にせずクラゲを観賞する。

 ふわふわと水槽を漂うクラゲはきれいだ。

 レースみたいにひらひらを触手を漂わせている様は幻想的だ。

 私はうっとりとクラゲに魅入っていると、突然腕を掴まれた。


「やっと見つけた……!」

「蓮見様……?」

「君を探してたんだ。携帯に連絡をしても繋がらないし、どこに行ってたの?」

「あ……ごめんなさい。携帯、電源が切れていたみたいで……」

「……そんなことだろうとは思っていたけど」


 蓮見は呆れたような、ほっとしたような表情を浮かべて、私の腕から手を離した。

 そして水槽を見る。


「綺麗だね……クラゲってこんなに綺麗だったんだ」

「ええ」


 私たちは黙って水槽の中のクラゲを見つめる。

 ふわりと傘を広げて泳ぐクラゲは優雅だ。

 見ていて飽きない。


「……ねえ、観覧車で、昴となにかあったの?」


 ふいに蓮見が声を掛けてきた。

 私はクラゲに向けていた顔を蓮見に向ける。


「少し、お話をしただけですわ」

「それにしては、昴の様子が……」


 蓮見はそう言って考え込むように黙った。

 確かにゴンドラから降りてからの王子の様子はおかしかった。

 心ここにあらずといった様子なのだ。


「美咲様と話すことで悩んでいるのかしら……」

「美咲と話すことって?」


 私は蓮見に観覧車での王子との会話を話した。

 蓮見は私の話を聞くと驚いたように目を見開いた。


「美咲を幸せにできないって……昴がそんなことを?」

「ええ。だから、美咲様の幸せを決めつけないで、と言いましたの。ちゃんと美咲様と話し合うように、と」

「……そう、なの」

「でも……少し言い過ぎたかもしれません。私への気持ちを逃げだなんて言ってしまって……」

「……………」

「私も逃げてばかりなのに、そんなこと言う資格、ありませんよね……」

「……でも、君は今日ちゃんと昴と向き合った」

「向き合えたのでしょうか……」

「避け続けてた時よりは向き合えてると思うけど」

「……そう、ですね。そうですよね……」


 私は蓮見の言葉を噛み締める。

 私は、少しは前に進んだのだろうか。


「なんとかイベントも回避できたし……」

「イベント?」


 蓮見は耳聡く私がぼそりと呟いた言葉を拾った。

 私は漫画のイベントのことを教えた。

 そしたら、蓮見は真剣な表情で私の両腕を掴み、聞いてきた。


「昴とキス、したの?」

「まさか。なんとか回避できましたわ」

「そう。………良かった、先越されたかと……」

「蓮見様?」


 蓮見ははっとしたように私の腕を離し、なんでもないと言った。

 心配してくれたのかな?


「恋って、難しいですね。パズルみたいにうまくピースが合わないことも、あるんですね」

「……そうだね」

「私もいつか、恋をするのかな……」


 私はぼそりと呟く。

 私が恋する人は、きちんとピースがうまくはまる人だろうか?それとも合わない人?

 私は、ふと、王子は蓮見が私のことを好きだと勘違いしている、ということを思い出した。


「蓮見様」

「なに?」

「あの……東條様の誤解を解かなくてよろしいのですか?」

「誤解?」

「東條様は、蓮見様が私を好きだと誤解してます。その誤解を解かなくてもいいのですか?」

「ああ……あれね。……いいよ、解かなくても」

「え?いいんですか?」


 私は目を見開く。

 誤解を解くのが面倒くさいんだろうか?いや解かない方が面倒くさいと思うけど。


「俺は逃げてるって、いつか君に言ったよね?」


 蓮見は唐突に話を変えた。

 私は突然話題が変わったことに戸惑いながらも頷く。


「君を見てて思ったんだ。逃げるのをやめようって」


 蓮見は真剣な顔を私に向けた。


「だから、もうやめた。俺はもう逃げない。―――昴からも、君からも」


 とくん、と大きく胸が高鳴る。


「誤解なんかじゃない。俺が君を好きだと昴が思っていることは」

「蓮見様……」


 いけない。これ以上聞いちゃだめだ。

 私の本能がそう告げる。

 だけど私はその場から動けなかった。

 蓮見の眼差しから、目がそらせない。


「誤解じゃない。俺は、君が好きなんだ」

「………え?」


 今、蓮見はなんて言った?

 私は蓮見の言ったことが信じられずに、蓮見をまじまじと見たが、蓮見が冗談を言っている気配はない。


 嘘でしょう。お願い、「嘘だよ」って言って。

 前みたいに「本気にした?」って意地悪く笑って。


 そんな私の願いは通じず、ただ、蓮見は真剣な顔をして、私に囁いた。


「ちゃんと俺を見て。漫画の登場人物じゃない、君の目の前にいる俺を見て」

「蓮見様……あの、私は」

「今は、返事はいい」


 咄嗟に何かを言おうとした私に、蓮見が柔らかく微笑む。


「君がなんとも思ってないのは知ってる。だから、今は返事は要らない。でも、覚えていて。

 ―――――俺が君を振り向かせてみせるから」


 掠れた声で私に囁く蓮見を、私はただ呆然と見つめることしかできなった。

 そんな私を見て、蓮見は挑戦的に笑い、私の手を取って歩き出す。


「そろそろ、行こう。美咲も昴も心配してる」

「は、はい……」


 どくんどくんと心臓の音が響く。

 私は蓮見に手を引かれるまま、歩いた。




 そのあとのことは、よく覚えていない。

 気づいたら私は自分の部屋にいて、制服のままベットに寝転がっていた。

 制服がシワになってしまう。早く脱がなくちゃ。

 そう思うのに体は動かない。


 私は両手で顔を覆った。

 現実感がない。ふわふわした感覚がする。

 これは夢なのだろうか?


 でも、夢ならどうして、蓮見と繋いだ手の温もりが残っているの。


 ―――私、これからどうすればいいの。


 もう、頭がおかしくなりそう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ