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よく晴れた青空に、満開の桜。
まるで天が私の入学を祝ってくれているかのよう―――
なんて、少女漫画のヒロインっぽく思って現実逃避してました。
いよいよ、私はヒーローとライバルキャラと対面するのだ。対面する気なんてないけどね!遠くから確認するだけだけどね!
私は母に連れられて、澄んだ青空とは正反対のどんよりとした気持ちで今日から通う桜丘学園の門をくぐった。
真新しい制服も今の私にとっては気分のあがるものではない。むしろこれが現実なのかと、絶望感を誘うものでしかない。
まあ、もちろん、少女漫画のヒロインが着る制服なので、デザインはとても可愛い。
白いブレザーに、水色のリボン。スカートは白地に水色のチェックが入っている。全体的に白でまとめられたデザインだ。
男子の制服もデザインは女子と大して変わらない。
一度は制服デートをしてみたいな、と密かに思っていたりする。
いや、しませんけどね?凛花みたいになる予定ないし。
これから待ち構えるヒーローとのフラグをどう折ろうか悩んでいるのを緊張していると勘違いした母が、「大丈夫よ、だって貴女は私の娘だもの」と言うのを聞き流しつつ、私は頭の中で『世界は恋で溢れている』の設定を振り返った。
『世界は恋で溢れている』、通称セカコイはお金持ち学校に高等部から入学したヒロインとヒーローのラブストーリーだ。
まず、ヒロインとヒーローが出逢うのは入学式。
つまり、今日だ。今日、私はヒーローと顔を合わせることになる。
確か、私の記憶が正しければ、ヒーローは入学式で新入生代表の言葉を言うはずだ。
まず、そこで1つ目のフラグが待ち構えている。
それを全力回避しなければ。
などと必死に考えている間にいつの間にか入学式が始まっていた。
アレー?私どうやってここまで来たんだろう……記憶にない。
ハッ。もしや、これはセカコイワールドの設定の力なのか!?
そんな力なんかに負けてたまるかあぁ!
と、気合いを入れたところでタイミングよくヒーローの名前が呼ばれた。
「新入生代表、東條昴」
「はい」
穏やかな、しかしよく響く声が講堂に響いた。
壇上に向かって歩く彼に、息をのむ音があちこちから聞こえた。
それはそうだろう。彼はとてつもないイケメンなのだから。少女漫画のヒーローだしね。
さらさらとした髪に、涼やかな目。口元はつねに笑みを浮かべ、まさに王子さまのような容姿。
セカコイ読者は彼を王子と呼ぶ。私も心の中では王子と読んでいる。
彼が壇上に上がるまでをぼんやりと、ああこんなシーンあったなぁと見ていた。
次はどんなシーンだっけ、と脳内で漫画を開いて、顔から血の気がすっと失せていった。
そうだ。ここで王子と凛花の目が合ってしまうのだ。それが次の王子とのイベントに生きてくる。
奴と目を合わせないようにしないと!
よし、下でも向いてるか。
私はそっと王子から顔を反らし、下を向く。
すると段々と眠くなってきた。
昨日は入学式の対策を考えてあまり寝てなかったからなあ。
なんて思っているうちに私は眠ってしまい、気付いたら閉式の言葉になっていた。
やば。よだれたらして寝てた。誰かに見られて……ないようだ。良かった。
こっそりよだれを拭いつつ、入学式のフラグを1つ折ることができたので小さくガッツポーズをする。
よし、この調子で次もがんばろう。
次は王子との直接対決だ。負けない。