TARGET 7 出会い
【18】
「君には、もう一度だけ坂崎 代智くんと戦ってもらいたいんだよね」
病室内に響きわたる一言。
それを放ったのは、シャルデアーク=ベネディクト。
傍らにいる高身長の男、ラルク=アルフォート。
少し後ろにいる看護婦は、暁 茉白。
「俺には、戦う理由がない……第一、アイツならどんな手を使っても勝てる気がしねェ……用がそれだけなら出ていけ!!」
実際、宮島には戦う理由が無くなっていた。
亡くなった父親の借金を母親が血眼になって稼いで返したのにも関わらず、つきまとって、挙句には母親を自殺まで追い込んだ借金取りの土田和真とは、Sランクの力を使って瀕死まで追い込んだ。
宮島にとってはそれだけで十分だった。
殺してしまえば、苦しまないで済む。
そんな事は自分自身が許せない。
だから、土田には生かしておくことにした。
そうすることによって、宮島は戦う理由が無くなったのだ。
それだから、シャルデアークの誘いに応じなかった。
「ふむ、断られた、か…………なら、土田くんに頼むよ…じゃあね」
「おい……ちょっと待てよ…………なんで、ここで土田が出てくる」
「それは、君より強いし、Sランクの力を使いこなせると思うからね」
俺が勝てたのはSランクの力があったからだ。
土田がSランクを手に入れれば、当然のように俺より強い。
だが、アイツにやらせてはいけない気がした。
「条件がある。俺が、お前に勝ったら坂崎代智、土田和真と俺に近づくな」
「それじゃ、私が勝ったら…………土田くんと宮島くんの二人で代智と戦いに行ってねー」
「シャルデアーク様、スイッチバトルするのなら屋上をお使いください。今は洗濯もなく、何より広いですし」
シャルデアークは笑みを、宮島は怒りを顕にした。
ラルクと暁は無表情で、どこか状況を楽しんでいるようだった。
【19】
「オッス、代智。退院早いな?」
「あぁ、自分でも驚いてるわ」
病院を出たすぐ近くにあるショッピングセンター『カナザネ』の入口前で、友人の嶋田 恭介と待ち合わせし、最初の会話がこれだ。
恭介には、スイッチバトルして、事故ったってことにしておいた。
真実を言っても信じないだろうし。
「ってか、《黒鉄球》何個か買いに行きたいんだけど」
「別に良いけど、アレってお前何個も持ってるよな?」
「あぁ、あれ全部ぶっ壊れたわ…………」
1個200円のスイッチ10個を一気にぶっ壊したのって俺ぐらいじゃない?
おのれ、俺の2000円どうしてくれるんだ!!
「はぁ!?本当に、お前どうしたんだよ……?」
「いやいや、そんだけの犠牲が出るほどの激戦を繰り広げたんだよ」
スイッチというのは、C~Eランクのいわゆる下段ランクのシヴィックスイッチは、一般市民でも購入することができるが、売られている場所が少ないのが欠点である。
そもそも、スイッチが売られている店はスイッチを専門に取り扱っているわけではないところが多々ある。
簡単に言えば裏メニュー的な感じと思ってくれれば良い。
俺と恭介が行く所は、ショッピングセンターにある許可をもらってやっている占いの館❮皐月❯というところでスイッチを購入している。
正直、あそこのオバチャン占い師苦手なんだよね。
「相変わらず、不気味だよな」
「そのおかげで、客少なくてスイッチ買いやすいんだけどな」
そもそも、ここがスイッチ売ってるなんて知ってる奴なんて俺らぐらいなんじゃないかと思うぐらいに客が入っているところを見たことがない。
中に入るが、毎度のことながら、薄暗い。
「あれ?オバチャン?おーい」
いつもなら入った瞬間、何かしら言われるのに今日は、それがなかった。
店はやっているのだから、いるのは間違いないのだが……。
「…………ぁ」
「誰もいないか……どうする?出直すか?」
「いや、待ってようぜ。どうせ、トイレかなんかだろ」
時間がないわけじゃないし、まったりしていこう。
どこからか視線を感じるが、誰もいないし、気にするほどのことでもないかな。
「……あ、の…………いらっしゃい、ませ……」
「ん……?うぉぉあ……な、なんだ、人いたのかよ……」
背後に立っていた人を見て、俺はビビってしまった。恥ずかしい。
でも、なんでこんな店に子供がいるんだろうか。
しかも、今、いらっしゃいませって言ってたよな。
「あ、そうだ。オバチャンっているの?」
「……お婆ちゃんなら、先週……なくなりました…………」
「えっ、あぁ、そうなんだ。なんか、悪いこと聞いちゃったね」
まさか、あのオバチャンが亡くなっているなんて予想外だった。
あの胡散臭い格好して、気さくに話しかけてきたオバチャンは、もう、いない。
そう考えると、もう少し話しておきたかったという想いがある。
そして、この子供だ。
お婆ちゃんといってるあたり、孫とかの認識で良いだろう。
でも、なぜ、ここにいるのだろうか?
「君、見たところ、中学生だよね?なんで、こんなところにいるんだ?」
「私……これでも高校生…………今年、18歳だもん……後、私…ここの店長になった」
こんなに小さいのに高校生……にわかに信じがたい。
見た感じ、身長は152cmぐらいかな。
そして、ここの店長ときたか。
なかなか、キャラがたってるな。
「おい、代智…………」
「なんだ?恭介」
「何、誘拐なんてしてんだよ……早く親御さんのところに返してこいよ……今なら罪にならねぇからよ!!」
言葉が出ない。
俺が、小さい子供を誘拐してきたような言い方じゃねぇか。
「違うからな?断じて違うからな?」
必死になって恭介に事情を話し、オバチャンの事なども話した。
「まじかよ……それじゃ、ここも近じかなくなるかもしれないのか」
「違う。私が店長……だから、潰れない」
「そうだとしても、収入面で立ち退くことになり兼ねないぞ」
少女は俯き、黙ってしまった。
恭介は困ったかのように俺に助け船を出すように目で訴えてきた。
俺もこういう空気は苦手だし、本来の目的を達成した方が店のためになるか。
「とりあえず、店長ちゃん。この《黒鉄球》を10個と……Bランクの《天空による侵略》を買わせてもらおう」
「えっ、Bランクまで……?その、合計で19000円で、す」
「おいおい、代智マジで言ってんのか?」
マジ、大マジ。
次にSランクと遭遇した時のためにもちょうどいいだろうし。
「あっ、サイズは……どうする?」
スイッチにはサイズというものがある。
勿論、スイッチの持ち手のサイズのことである。
手のサイズによって、持ちやすくなったりするだけなのだが。
スイッチは片手の5本指全てを使ってスイッチを押しているのだが、手の大きさが合わなければ5っのボタンを押すというのが難しくなる。
その為にサイズがS・M・Lと3種類存在するのだ。
ちなみに俺はMだが、Lは成人男性から手のデカい人までということになっているから曖昧な感じだが、わりと大きめだ。Sは中高生の学生の標準ぐらいの大きさで、少し前までは俺もSだったことがある。
スイッチ自体の大きさは、縦12cm 横6cmとなっており、片手で収まる大きさのため、隠し持ったりすることができてしまう。
ついでにだが、スイッチホルダーというものがあり、腰周りにスイッチを8個付けることのできるホルダーがついたベルトみたいなものがある。
俺が使っているものは、軽量型の為、6個ホルダーがあるものを使用している。
「サイズは、全部Mでお願い」
「マジで買うんだ……代智」
当たり前だろ?男だもん。
会計を済まし、帰ろうとした時、少女が駆け寄ってきた。
「あの、私……望月 紡……貴方は?」
少女、望月紡は、少し抜けていそうな感じはするが、実は裏では何か抱えて生きている。
そんな目をしていた。
だからこそ、俺はこう言った。
「俺は、坂崎代智。紡……その、また来るよ」
いきなり、名前で呼ぶのは不味かったかな?
いや、そうでもないか。
なぜなら、彼女は満面の笑みを浮かべているのだから―――――